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エデルガルドからのヒント

「あら、ベルではないですか?」

 金髪の美しい髪に映える青いドレス。ベルには聞きなれた声がした。ペネロペは近づいてくる少女が少し怒ったような表情なので体をこわばらせた。

「エ、エデルガルド……様」

 ベルも驚いている。先日、お見合いしたエデルガルド・ヴィッツレーベン伯爵令嬢である。

「様はやめなさいと言ったはずですわ」

「はい、エデル」

「うん。よろしくてよ」

 そういってエデルガルドは両手を腰に当ててペネロペの足のつま先から頭のてっぺんまで見る。

 ベルにはエデルの本音がタレント能力で先ほどから聞こえてきている。

『わあ~。ベル様だあああっ!』

『なぜ、ここにベル様が……やはりわらわとベル様は運命の糸で結ばれておるのじゃ』

 そしてペネロペを見たエデルガルドの言葉。

「なんじゃ、この平民女子は?」

 見た目や服装では全く区別がつかないはずなのに、一発でペネロペの素性を見抜いたのだ。これにはベルもペネロペも驚いた。

 エデルはペネロペと会うのは初めてだし、ペネロペのことを聞いたこともないだろう。

「なぜ、この子が平民だと分かるの?」

「そんなの決まっておろう。わらわのタレントは人を観察する系のものであるからじゃ」

 面白いことを言う。かつて推理小説で有名な探偵は、訪ねて来た依頼人を瞬時に観察し、そこから推測したことを話して依頼人を驚かすことをしていたが、エデルはそれに近いことができるのだというのだ。

「ちょっといいか?」

 ベルはエデルガルドの両手を握る。

「な、なにをするのじゃ、この無礼者!」

『な、な、な、なんと~。ベル様がわらわの手をお握りに~っ』


 エデルガルド・ヴィッツレーベンのタレント

『観察眼』……人間をつぶさに観察し、その状況を類推する能力。どんな職業か、どんな生まれか、何に困っているか等が分かる。

『一途な愛』……好きな相手にとことん尽くす。今はベルンハルトがとにかく好き。好きすぎて困るくらい好き。ベルのためなら何でもするつもり。結婚したら子供は10人欲しい。


「おいおい!」

 思わず突っ込みが声に出た。

 とんでもないタレントだ。『観察眼』はともかく、『一途な愛』というのは、タレントととは思えないが、ベルのタレント『能力看破』で分かった能力なのだから、タレントには違いない。

「エデルの観察能力はすごいね」

 ベルはそう褒めた。タレントが分かるとか話すとさすがに気持ち悪いと言われそうだ。

「この女子の手を見たのじゃ。貴族の女子ならばそのように荒れた手ではない。たぶん、小さい時から労働をしていた手じゃろう」

 指摘されてペネロペは思わず手を隠した。確かに孤児院にいた時は食器洗いや掃除などで水仕事をしていた。寮生活になった今でも専属の小間使いがいないペネロペは、洗濯を自分でやっている。

 それを会った瞬間に見抜いたわけだ。エデルガルドのタレント能力はすごいということになるが、それは嫉妬によるものが大きかった。

「このような平民臭いものと一緒におるとは、やはりお主も平民じゃのう」

『こ、この子、まさか、ベル様の彼女じゃないですわね?』

『年下に見えるから、年は10歳、11歳くらいでしょうか。こういうのがベル様の好みとなると困りますわ。先日の猫耳メイドなら真似できますが』

 エデルガルドはそうベルとペネロペを卑下する言葉を吐くが、本音はベルに丸聞こえだし、本音が聞こえないペネロペにすらエデルガルドがベルのことを好きと言うことが一発で分かってしまった。

「お姫様、ご心配なく。この男はこの園遊会に参加するために利用しただけ。この場に入り込めたからには、本当はこんな奴と一緒にいたくはないのです。わたしは今度のオーディションに合格するために、上流階級の方々の様子を観察しにきただけです」

 そうペネロペはいっきに説明した。自分がセントフォース音楽院の学生であること。今度オーディションでお姫様役の演技をしなくてはならないこと等をだ。

 それを聞いてエデルはだんだん笑顔になっていく。ペネロペがベルの友達でもなんでもないことを知って安心したようだ。

「うむ。そう言うことなら納得がいった。このような平民男子がわらわとの約束を後回しにしてこのようなところへ顔を出し、しかもお主のような見目麗しい女子をエスコートしておるので不愉快になったが安心したのじゃ」

(あれれ?)

 ペネロペはエデルガルドのことが分からなくなった。なんとなく意地の悪い顔で気位の高い貴族のお姫様だと警戒したが、話すとそうでもなさそうだ。

 むしろ、平民を卑下している言葉の割に自分やベルを毛嫌いするどころか、親し気に話したい気持ちがあふれている。

 それに信じられないことに、ベルに対して酷い言葉を投げつけている割には、内心は全く真逆のように思われるのだ。

(こ、この人……面白い。それに信じられないけれど……)

 ペネロペでもはっきりと分かる。

 このお姫様。口では厳しいことを言っているが、ベルにぞっこんのようなのである。どう見ても「好きでしょ」のレベルが違う。

「エデル、次の約束ができないのは僕も忙しいのです。毎日学校へ行っていますから。そして今日のように休みの日は父の名代でこのように園遊会にも出ないといけないですから……」

「それはわらわも同じじゃ。わらわも毎日忙しいのに、そのスケジュールを調整してお主と会ってやると言っておるのじゃ」

『うそうそ、本当はめっちゃくちゃ暇なの。ベル様の暇な時に合わせるので、エデルとデートして~』

 ベルには相も変わらず本音が後から聞こえてくる。

「はい、忙しいエデルの迷惑にならないように考えているので、なかなか日が決まらないのです」

 ベルはそうエデルの建前を利用して、次に会う日を決めないことを正当化した。できればエデルとは会いたくない。このまま、既成事実を積み重ねられて婚約にまでいったら困る。ベルはシルヴィとは婚約したいと思うが、エデルとはそうは思わないのだ。彼女の一途な気持ちは嬉しいのではあるが。

「ご、ごほん。それではその者がオーディションに合格して、発表会の歌劇に出るときに一緒に見るのはどうじゃ?」

 エデルガルドはとんでもない提案をしてきた。これには傍らでベルとのやりとりを聞いていたペネロペも驚いた。無視されるどころか、一挙に関係者に抜擢された。しかも期待される役回りである。

「ペネロペがオーディションに通ったら?」

「そうじゃ」

 ベルは考えた。今日はペネロペに協力してここに来ている。ペネロペの力になるためであるが、正直、ペネロペがオーディションを通るとは思っていない。

 セントフォース音楽院のオーディションは、真に実力で選ばれるわけではないのだ。ペネロペは知らないが、裏ではそういうことだ。よほどの実力差がなければ、親の地位や寄付額が最後はものをいうのだ。

 この世界の腐った部分がこういうところにも出る。無論、プロの世界では実力がものを言うのだが。

「いいでしょう、エデル。そうしましょう」

「それではこの者……」

「ペネロペと言います」

「うむ。ペネロペ、お主の連絡先を教えるがよい」

 エデルはペネロペと連絡先を交換した。やはり伯爵令嬢で見た目はものすごく気位が高そうにみえるのに腰が低い。

 ペネロペから学生寮の部屋番号を聞くと、手を振って離れていった。もう友達になったような雰囲気である。そしてベルと次の約束ができて満足したようだ。

「あなたもやるわね。あんな素敵なお姫様を婚約者にするなんて」

 エデルが離れるとペネロペはそう嫌味なのかほめているのか分からない感想を述べた。

「正確にはお見合いしただけだよ」

 ベルはそう言った。嘘でもなんでもない。

「でも、あの人って、あなたのこと大好きだよね?」

 ペネロペは先ほどからエデルガルドの言動から確信したことをずばりと聞いてきた。

 本音を知っているベルはもちろん気付いているが、ペネロペの前では知らないふりをした。

「どうしたらそう見えるの。エデルは僕を平民として卑下しているような言葉だし、誘いも話のネタにするためだよ」

「はあ~。あなたは本当に女の子の気持ちが分からないゲス野郎だわ」

 ペネロペはベルの言葉にやっぱりかという表情でそう答えた。そして重要なヒントをエデルからもらった。

(そうよ。今度のオーディション……エデルガルド様を参考にしたらどうかしら。好きなのに反対の態度を取ってしまうお姫様……これは面白いわ)

 オーディションで自由に台詞を考えろということは、完成度と言うよりも演者の発想力を試しているのだとペネロペは考えた。

 そしてエデルガルドのような態度……ベルに言わせれば『ツンデレ』であるが、そのような演技は貴族のお嬢様たちには考えもつかないだろう。

 ペネロペはベルに誘われてこの園遊会に来たことは良かったと思った。ここにこなければ、どうやって演技するか分からなかったであろう。


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