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コンスタンツア家の秘密

「ベルンハルト、お見合いもして将来の伴侶を決めている最中だが、お前に我がコンスタンツア家の仕事について教えよう」

 エデルガルド伯爵令嬢とのお見合いを終えて1週間。ベルは父のアーレフに呼ばれた。傍には家令のベンジャミンが控えている。

「本当はお前が18歳になった時に話そうと思っていたが、お前は私が見ても優秀だ。お前ならコンスタンツア家の仕事について聞いても、ちゃんと理解してくれるだろうという判断だ」

「はい、父様」

 ベルはいよいよ、この時が来たと思った。コンスタンツア家は父のアーレフが1代で築いた家である。小さな小麦の行商人から始めたアーレフは、やがて小さな店をもち、そこから発展して大きな商店にした。

 今はありとあらゆる穀物を取り扱い、その輸出入で莫大な利益を上げている。そしてどうやら商材はそれだけではないようだ。

 穀物取引のことを一通り説明されたベルは、今度はアーレフに外に連れ出された。向かう先はアウステリッツ王国で一番大きな港の倉庫である。そこは外国からの輸出入で溢れかえる倉庫群からは少し離れたさみしい場所であった。

そこはレンガ造りの巨大な倉庫には、コンスタンツア商会の看板がある。そして何人かのがたいのよい男たちがたむろしている。どうやらこの倉庫を警備しているようだ。一目見て武装しているようではないのが、返って倉庫の中の品物が普通ではないと思わせた。

 ベルは自分の家が穀物商だとは知っていた。それもかなり儲かっている。穀物は人々に欠かせない食料であるから、それで莫大な富を得ることは想像できた。しかし、他にも穀物を取り扱う商人はいるわけで、裸一貫で成功したアーレフに何か秘密があるのではないかと疑問に思っていたのだ。

 そしてその疑問が倉庫の中を見て判明した。中には思いがけないものがずらりと置いてあったのだ。

「こ、これは……」

 そこにあったもの……武器である。

 ロングソード、ショートソードなどの刀剣類。金具で作られたフルプレートアーマー。槍や斧などの大型武器。各種盾に弓。倉庫にはありとあらゆる武器が収められていた。

 元武器オタクだったベルはまるで夢のような光景だ。すべての武器についてその名前を言うことができ、その謂れも性能も話せる。

(おや……タレント能力である武器の創造主じゃなくても、転生前の記憶で十分じゃないか?)

 ベルは神より与えられた能力が無駄のような気もしたが、それでも自分の好きな趣味に関わる能力はありがたい。

「見てのとおり、武器だ」

「父様は武器商人の顔があったのですね」

 ベルは納得した。アーレフが競争の激しい穀物の商いで抜きんでて成功した理由がこれである。そして紛争地帯によく出張していた理由もこれだ。

「我がコンスタンツア家は戦争時の食糧輸送で財をなした。この武器は穀物の流通経路に乗せて売ることで利益を上げている」

 そういってアーレフは自分が成り上がった歴史を話し始めた。最初は激戦地への食糧輸送を引き受け、それを成功させることで軍に伝手を作った。それをきっかけに穀物で利益を上げたのだ。

 軍とつながりがあれば、その作戦行動も知ることができる。紛争地帯になりそうな土地は食料が不足する。そういった場所に高値で売りつけるのだ。

 そうやって利益を上げて商会を大きくしていたが、やはり武器を取り扱うのは穀物よりも数百倍の利益を得られる。コンスタンツア家がとんでもない富を得ることができたのも、武器の売買のおかげである。

「父様、商会の収益は穀物と武器でどのくらいの割合ですか?」

 ベルはそう聞いてみた。両方の商売をしているのなら、どちらの収益が多いか興味があったのだ。

「戦争時は武器が9割。戦争が終わった今も地方では紛争が続いている。今は8割が武器で2割が穀物だな」

(圧倒的じゃないか……)

 穀物の取引は競争相手が多い。そして天候に左右されて、収益の波が大きい。凶作や豊作で左右される。そして失敗した時の損害も大きくなる。

 例えばある土地の小麦を仕入れる約束をする。あらかじめ全て買い取る契約をするのだ。しかし、その年に豊作になると小麦の値段は暴落して損害を被る。

 凶作でも金は払ったが穀物が手に入らず、売ることができない事態に陥る。むろん、凶作時に穀物を確保すれば莫大な利益がある。

 穀物を取り扱う商人は多いが、全員が利益を恒常的に上げられるわけではない。むしろ、損失を多大に被らないという点においては、小売業の方が安全である。消費者は穀物を食べないわけにはいかないからだ。

 コンスタンツア商会は武器を取り扱うことで、穀物で失敗した時の利益補填。そして失敗した他の穀物商をその財力で吸収合併することで、雪だるま式に大きくなったのだ。

 いくら商才のあるアーレフでもわずか30年ほどで、アウステリッツ王国有数の穀物商になるのは不可能だ。武器を扱うことで、莫大な利益を上げることができたのだ。

 ベルは父の話に心が躍ると同時に、現実を考えるとこれは自分の将来にとって、いろいろと困ることもあると思い始めた。

 武器商人はあまり聞こえの良い職業ではない。死の商人と蔑まれ忌み嫌われるのだ。武器は好きだがそれによる戦争で多く人が死ぬのはベルの本意ではない。そして家が武器商人であることがわかったら、今のお見合い相手はどうなる。ベルにぞっこんなエデルガルドはともかく、シルヴィは嫌悪するかもしれない。

(あの子は平和を愛する優しい子みたいだからなあ……)

 父親のダヤン子爵はベルの家が武器商人の顔をもっていることを知らないだろう。子爵も領民を愛し、戦争を憎む平和主義者だからだ。

「どうだ。我がコンスタンツア家の真実を知った感想は?」

 そうアーレフはベルに尋ねた。ベルはすぐに答えることができない。まだ複雑な心境を整理できていないのだ。

 趣味としてはありだが、実際に死の商人となると怖い。自分が売った武器で人が死ぬのだ。そう考えると割り切れないものがある。

 それでとりあえずこう答えた。

「はい、父様。僕はコンスタンツア家の強大な財力が短期間でどうやって作られたか疑問に思っていました。今日、その理由が分かって嬉しいです」

 ベルはそう答えた。そして必死に考えを巡らせた。

「うむ……。武器商人は死の商人と言われ、忌み嫌われる。お前はその点についてどう考える?」

 難しい質問だ。ベルは先ほどから考えていたことを聞かれたのだ。ベルはそっと倉庫に置かれた武器の山を見る。

(大量の武器……アウステルリッツ王国正規軍の装備……だけじゃない)

 ベルは倉庫にある大ぶりなロングソードやパイクなどの槍のほかに、サクスと呼ばれるナイフがあるのを見つけた。

 片刃で真っすぐな峰と鋭い切っ先。長さが85cmほどあるので、これはサクスの中でも『スクラマサクス』と呼ばれる。王国重装歩兵の補助武器として持つこともあるが、これは違う。柄はあまり上等でない木でできており、コストダウンが図られていると見えるからだ。



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