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本音の声

(どういうことだ?)

 ベルは不思議に思い、思わず首を傾げた。

『くうう~。その首を傾げた姿がかわいいい~』

 またも聞こえたエデルガルドの声。

(また聞こえる……どいういうことだ?)

 ベルはこの不思議な状況に動揺するが、会話は続ける。

「あの……ではエデルガルド伯爵令嬢と呼びます」

「……だめじゃ。エデルガルドと呼ぶのじゃ」

「呼び捨てだと僕の父に叱られます」

 ベルはそう拒否した。やはり周りから不遜だと思われる。シルヴィの時はそうは思わず、自分から愛称呼びを提案したのに、エデルガルドにはよそよそしい。

『エデルと呼んで欲しいのじゃ~』

 また声がする。エデルガルドの声だ。

「エデル?」

 思わずベルがそう呟いた。エデルガルドが固まった。徐々に顔が真っ赤になっていく。これはベルにそう呼ばれて屈辱の怒りでそうなったに違いない。

「ベ、ベ、ベルンハルト、いくら何でもわらわとお主は今日会ったばかり……いや、正確にはそうではないのじゃが、まだ深い関係ではないのじゃから、そのように呼ばれる筋合いはない」

『う、嬉しい。もっと呼ぶのじゃ。エデルって呼んで欲しいのじゃ!』

「はあ?」

 エデルガルドが話すたびに、エデルガルドの声で通訳のように言い直しの言葉が頭に入って来るのだ。

「申し訳ありません。以後、気を付けます。エデルガルド様」

「いや違う。そうではない。わらわが間違っていた。お主がそう呼びたければ、心が広いわらわのこと。特別に許可してあげてもよい」

『あ~ん……ベル様、わらわのことをエデルと呼ぶのじゃ。できれば、エ・デ・ルちゃんと呼んで欲しいのじゃ』

「は?」

「だから、エデルちゃ……ごほん……エデルと呼べと言っておる」

「そんな親しくは呼べません。エデルガルド様も、最初に筋合いはないと言っていたではありませんか。」

「それは撤回する」

『だから、恥ずかしくて思わず拒否しただけじゃ。本心は親しく呼んで欲しいのじゃ』

 もうエデルガルドの言葉がごちゃごちゃ聞こえる。

(これは……もしや)

 ベルは気が付いた。これは間違いなくベルの隠されたタレントの顕現である。

 あの女神の声が聞こえてきた。

 ベルは慌ててお手洗いに行くと言って、急いでエデルガルドから離れた。

 その間も女神の声は続く。


 新しいタレントを開放します。

『本音の声』のタレントが顕現しました。

 このタレントは特定の相手の本音を聞くことができます。

 聞く相手の好感度が最高点に達している場合。もしくは、憎悪の度合いが殺したいくらいに高い場合に聞けます。

『本音の声』で話している内容は、その本人の本心です。あまりにも本心が強すぎて溢れてしまった言葉を拾うのです。実際に言っている言葉と違う時に少し遅れて発動します。


(ベル様、タレントが顕現したということは、このお姫様とベル様は縁があるということですわね)

(マジかよ。それは勘弁してくれ)

(きっとベル様のお嫁さんですわ)

(ない、絶対ない。僕の嫁はシルヴィだけだ)

(じゃあ、2号さんですわ)

(ない、絶対にない。彼女こそ、お見合いして振った相手という縁だ)

 ベルはクロコとそんなことを話す。もちろん小声でだ。誰かの耳に入ったら面倒なことになる。

(あのお姫様、真逆のことを言っているですわね)

(俺も驚いている……。これはいわゆる……)

(ベル様が前に言っていた(ツンデレ)という奴ですわ)

 ベルに顕現した『本音の声』というタレントのおかげでエデルガルドの本音が聞こえる。それも女神によると好感度でよって聞こえるらしい。聞こえるということは、好感度は最高ということだろう。

 クロコによれば、最初はハート2つ。ベルと会話していると3つになった。3つになったところで、タレントが解放されたのだ。

 ベルはのそのそとエデルガルドが待っている大木の根元にやって来た。

「どうしたのじゃ。このわらわが平民のお主のために時間をとってやっているのじゃ。お手洗いの時間でわらわを待たせるとは無礼じゃぞ」

『あ~ん、ベル、もっとあなたと話したいですわ。だから、もっとわらわの側に来てよ~』

 後から聞こえるエデルガルドの声は本当に真逆である。言っている言葉と表情は辛辣だ。(無礼じゃぞ!)と言っている時の顔は目が吊り上がってぴくぴくさせている。

 だが、本音が全然違うと分かるとその表情が必死さの表れであるということも分かる。

 ベルは面白いことになったと思った。このお姫様を少しからかってやろうといたずら心が湧いてきたのだ。

「エデル……」

「な、なんじゃ……」

 ベルはエデルガルドの細い手首を掴んで、ぐいぐいと前に出た。後ろで控えていたエデルの侍女たちが真っ青な顔になる。この侍女たちは恐らく、いつも高圧な態度を取っているエデルのことを怖がっているのだろう。

 そんな恐ろしい令嬢に平民の身分でこんなことをする男子に驚くしかない。

ドン……。後ろへ下がったエデルの後ろは大きな木だ。後ろへは下がれない。

「な、何をするのじゃ。わらわに乱暴は許さぬぞ」

『え、え、え、え~っ。これって壁ドンよね。ああ~、ベル様が壁ドンしてくれましたわ~っ。エデル、感激!』

 もう本音と建前が交差してさすがのベルも混乱する。

「エデル、お前、なんで平民の僕とお見合いしようと思ったのだ?」

 ベルにしては結構強めに聞いた、右手でエデルの左手首を握って木に押し付けている。左手は大木に。エデルの本音が叫んでいるように壁ドンである。

「き、決まっていますわ。平民の男がどんなものか話のネタにするためよ。オーホホホ!」

『ベル様を神殿で見て、あのいけ好かない男子に天罰を下した姿を見て一目ぼれしたのですわ。そして実物も可愛い容姿なのに、俺様男子なんて……もうわらわは死んじゃいそうに幸せ。もうわらわの夫はこの方しか考えられません。ベル様、大好き!』

 エデルガルドは上目遣いでそうベルに話す。本音はもう告白だ。

(おいおい……というか、神殿?)

 ベルは思い出した。あのウィリアムに絡まれた時に助けに入った貴族令嬢がいた。あれがエデルガルドだったのだ。全く女子に興味がなかったベルには、心の声が聞こえなければ分からなかっただろう。

 それにしても、エデルガルドが口にした言葉は辛辣。本音はめちゃくちゃピュア。さすがのベルも固まった。だが、固まっていては状況が打開しない。

「お前、平民の男をなめるなよ!」

 慌てて強気の態度を取る。ベルはエデルの顎を右手で上げて、顔を近づける。

「な、な、な……何をするのじゃ。ぶ、無礼じゃ」

『きゃああああっ~。心臓が張り裂けそう。ベル様~』

「このままキスしてやろうか!」

 思い切ってキス寸前の距離まで顔を近づける。

「き、き、き、き、キスじゃと~」

『して!』

「くううう~」

 ベルはここでエデルから離れた。エデルがきょとんとした顔になる。

ベルとしてはもう何が何だか分からないが、これ以上、彼女と関わるのはまずいと感じたのだ。

どうやらエデルガルドはベルに一目ぼれしているようだ。それが素直な性格じゃないので、心にないことを口走っているということになる。


 

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