2人目のお見合い相手
エデルガルド・ヴィッツレーベン。
2人目のお見合い相手の名前である。
ヴィッツレーベン家は伯爵の身分で、アウステリッツ王国の北に領地をもつ。そこからの税収で経済的には困っていないが貴族としての体面を守るための出費も多く、無役の貴族と同様、懐具合は余裕があるわけではない。
エデルガルドは伯爵令嬢。そうでなければ平民のコンスタンツア家の息子とお見合いなんかしないだろうと思っていた。
実のところ、ベルは最初からこのお見合いには乗り気でない。そして先日会ったシルヴィに心を奪われているから、余計に疎ましく思えた。
写真で見たエデルガルドは典型的な貴族のお姫様。美しい金髪の長い髪。そして巻き毛。豪華なドレスに身を包み、豪華絢爛の美しさ。
ベルと同じ15歳であるから、化粧はあまりしていないが、それでも先日のシルヴィの地味さとはかけ離れた派手顔である。
目が少し吊り上がっていて、初めて見た者には意地悪そうな印象を与えそうな感じがする。
(こいつは典型的な悪役令嬢だな)
そうベルは考えている。容姿からそう決めつけるのは失礼だろうが、エデルガルドの顔つきはそう思っても仕方がないところが多分にあった。
もちろん、一般的には美人といってよい。これだけ恵まれた容姿なら他の貴族の嫁に引っ張りだこであろう。
シルヴィとの仲を進めたいベルにとっては、エデルガルドとの見合いは邪魔でしかない。
向こうだって、いくら大金持ちでも平民とは結婚したいわけではないだろう。伯爵令嬢なら位が上の侯爵や公爵家に嫁ぐのが一般的なのだ。
不思議なのは、ヴィッツレーベン家は裕福でもないが貧しくもなく、お金に困っているわけでもないということだ。それなのにベルとのお見合いを強く望んでいるというのだ。
断ると父親のアーレフに申し出たベルであったが、アーレフからヴィッツレーベン伯爵の強い希望で断れないという。
話によれば、ベルとのお見合いを強く希望しているのは、エデルガルド自身であるという。
(どうせ、平民の男子を見て嘲笑したいだけだろう……)
ベルは物珍しさと話のネタにエデルガルドがベルとお見合いをしたいのだと思っていた。
お見合いの場はヴィッツレーベン伯爵邸。王都に構えている屋敷である。
そこでお見合い相手のエデルガルドはこれみよがしに着飾って待っていた。
形式的な挨拶の後、エデルガルドとベルは伯爵邸の広い庭で2人きりになる。正確にはエデルガルド付きの侍女が2人、少し距離を空けて付いているし、ベルの方はシャーリーズが例の護衛侍女の格好で同じく離れて護衛している。
エデルガルドにはどう思われてもよいので、ベルはシャーリーズにいつもよりきわどい格好をさせて連れて来ていた。
胸元は広く開いているし、猫耳カチューシャと首輪もそのまま。こんな侍女を連れて歩いている男子とはお近づきになりたくはないだろうという格好である。
そしていつものごとく、クロコはベルの肩に座っている。もちろん、エデルガルドにクロコは見えない。
「やっと2人きりになれたようじゃの……」
ここまでお互いに黙っていたが、エデルガルドから話してきた。ベルがいつまで経っても話してこないので痺れを切らしたのであろう。
「はい。エデルガルド様、これからどうしましょう?」
ベルはそうとぼけた。正直、お姫様の暇つぶしになりたくはない。早く切り上げて、シルヴィとのデートの計画を練るか、夢中になっているハンドガンの制作に没頭したい。
「まずは自己紹介じゃろう」
「そ、そうですね」
先ほど父親同士の挨拶の中で、お互いの名前を告げ合っている。もう名前は知っているから、必要ないだろうとベルは思ったが、やはり形式を重んじるのであろう。ベルは1つ小さくため息をついた。そしてエデルガルドに向かって自己紹介する。
「ベルンハルト・コンスタンツアです。今年15歳になりました」
「うむ。わらわはエデルガルド・ヴィッツレーベンじゃ。お主と同じく15歳じゃ」
「……同じ歳ですか」
同じ歳であることは最初から知っている。しかし同じ歳とは思えないのは、エデルガルドが大人ぶっているからであろう。
今もどこか上から目線な感じである。ベルのことを「お主」と呼んでいる。
(やっぱり、話のネタか?)
そう思い、ベルはエデルガルドに聞いてみた。
「エデルガルド様はどうして平民の僕とお見合いをすることにしたのですか。伯爵様の命令でしょうか?」
かなり切り込んでみた。エデルガルドはベルにそう聞かれて、ぎょっとしたようだ。まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったようだ。
「そ、それは……」
手にした扇を開いて口元を隠した。答えに困っているようだ。
(やっぱり、話のネタだ。はい、確定!)
ベルはそう断定した。
「ま、まずは……エデルガルド様の様はつけなくてよい」
答えに困ったのかエデルガルドは変なことを言い出した。
「エデルガルド様は伯爵令嬢でいらっしゃいます。僕は平民。様を付けるのは礼儀だと思うのですが」
「礼儀はよい。(様)を付けられるのは不愉快じゃ」
「はあ……」
(あれ?)
ベルはここでエデルガルドのしゃべった後になぜか、同じエデルガルドの声で話がされているのに気付いた。まるでエデルガルドの話したことを通訳したみたいだ。
『未来の夫に(様)付けで呼ばれとうないわ』
確かにそう聞こえる。




