能力看破
新しいタレントを開放します。
『能力看破』のタレントが顕現しました。
このタレントは触れた相手のタレントを見破ることができます。
まだ解放されていないタレントも見ることができます。
但し、自分の能力は看破できません。
シルヴィア・ダヤンのタレントを看破します。
『天使の加護』これは触れた者のケガや病の痛みを緩和します。少しの傷なら修復することができます。
まだ顕現していないタレントがあります。
『原石発掘』及び『加工』の能力があります。
6個目のタレント能力がベルに解放された。シルヴィの手を握ったことで、まだ彼女自身も知らないタレント能力を見る力を授かった。
『能力看破』というタレントは相手の切り札である能力を見破ることができる。これはかなり有用な能力である。何しろ、タレントの能力を鑑定できるのは、宮廷魔術師レベルの魔力をもった人間にしかできないのだ。
このアウステルリッツ王国に数人いるかどうか。だから、ほとんどの人間は自分のタレントの名前を知ることはない。
デートを終えてダヤン子爵の屋敷に帰ったベルは、お見合いを受けてくれたことへの礼を述べてアーレフと共に王都へ帰った。
アーレフによると子爵の心証はよく、コンスタンツア家には恩もあるので前向きに考えたいとのことであった。ただ受けるかどうかの最終判断は、娘の気持ちに添いたいということで留保となった。
シルヴィには他の貴族からも嫁に欲しいという話が来ており、どうしてもお見合いの話を断れないところもあるようだ。それを聞くとベルとしては、気が気ではない。
「まあ、あれだけの美少女だからそういうことになるですわね」
「ふん。シルヴィは僕の嫁だ。誰にも渡さん」
「ベル様は強気ですわね」
「僕はシルヴィと出会ってタレントが解放されたんだ。これは彼女と絆があるってことだよね」
ベルはシルヴィの手を握った時に突如として未解明だったタレントの1つが解放された。未解明のタレントはベルの人生に深く関わる出来事に直面した時に解放されてきた。
15歳のタレント・ジャッジの時に「武器の創造主」「銃神の力」。憎らしい敵のウィリアムの横暴によって「解離奈有」。使い魔となったクロコとの出会いによって「緊急回避」。そしてボディガードのシャーリーズによって「超回復」が解放された。
婚約者になるシルヴィとの出会いで「能力看破」が解放されたということだ。もうシルヴィはベルの嫁決定であるとベルは思い込んでいる。
「原石発掘は自然の石から宝石を見つけ出す能力ですわね。それと職人技術の(加工)を使えば、立派な宝石加工職人になれますわね」
そうクロコがシルヴィのタレントを解説した。2つとも職人系のタレントであるが、珍しいものでもあった。しかし、天使の加護ならともかく、貴族令嬢のシルヴィにはあまり役立たない能力であるとも言えた。
「僕はシルヴィと結婚できたら彼女を働かせたくないね。誰にも見せたくない。ずっと屋敷で大事にする」
「ベル様、キモいですわ」
ベルの発言にクロコは正直な感想を言う。ベルはむっとなった。
「なぜだ。シルヴィのような可愛い子を他の男に見せるわけにはいかないだろう」
これは冗談ではない。ベルは本気でそう思っている。
「ベル様はかなり嫉妬深いようですわね」
「……シルヴィに関してだけだ」
「それでも屋敷に閉じ込めて他の男の目に触れさせないなんて、気持ち悪いですわ」
ベルは転生前の記憶を思い出した。好きな戦国時代に異様な嫉妬心で妻を人目にださなかった武将の名前である。
その武将の名前は『細川忠興』という。
彼は妻の玉子をこよなく愛していた。彼女は明智光秀の娘で類まれな美貌の持ち主であった。嫉妬深い忠興は、美しい妻を他の男には見せず、屋敷の奥深くで暮らさせたという。男の家来に姿を見せさせなかったという。
ある時、庭師の年寄りが作業しているのを玉子が見つけ、「今日は寒いよのう」と声をかけた。庭師の男は恐縮し、うずくまって「さむうございます」と返答をした。
その光景を見た忠興は激怒して、この庭師を斬り捨てたという逸話もあるくらいだ。妻を他の男の目に触れさせることを極端に嫌ったのだ。
結局は関ケ原の戦いが起こる前。大阪に住む妻子を人質に取るという石田三成の作戦が実行されそうになり、東軍の主力であった細川忠興の妻である玉子は大阪城に来るように命令される。
忠興はそれを予想していた。嫉妬深い彼は、そうなったときは妻を殺すように命じたという。人質になり、他の男に玉子の美しい姿を触れさすくらいなら殺してしまえというのだ。嫉妬深さもここまで来ると「狂気」である。
玉子はそれを聞いて死ぬことを選んだ。キリスト教徒の彼女は自害ができないので、襖越しに家来に胸を槍で刺してもらいこの世を去った。
『細川ガラシャ』というのが、彼女の洗礼名。その名は細川忠興の嫉妬深さというエピソードと共に現代にまで伝わっている。
正直、今のベルはそれくらいシルヴィに執着していた。
「ベル様は子供なのに古い人間ですわね。今の時代、貴族令嬢でも働く時代ですわね。そんなことを強要したら、あの娘はベルのお嫁さんにはならないですわ」
「そうか……。しかし宝石職人はないだろう。あ、そうだ。お金はたくさんあるから、宝飾店を経営してもらうという手もあるかな。それに僕は嬉しいのだ」
クロコは人差し指で頭を指して首を傾げている。何が嬉しいのか分からないようだ。
「シルヴィと触れ合って僕のタレントが解放されたということは、シルヴィが僕の人生に深く関わるってことだろう。もう嫁決定じゃないか」
「振られた相手としての絆かもしれないですわ。そもそもシルヴィの頭にはハートマークは1つも回っていないですわ」
「……嫌な事を言うなよ」
シルヴィアの頭の周りにハートマークが回っていないということは、ベルに対して好感をもっていないということになる。嫌悪感を示す黒い星がないだけましであるが、ハートがないということは、ベルのことを「なんとも思っていない」ということになる。
クロコにあらためてそれを言われるとベルは落ち込む。今日会っただけならばハートがなくて当然である。しかし、シルヴィアは幼馴染である。最初から少しは好感度があってもよいはずだ。もし、ベルの状態が見えれば間違いなくハート3つが回っている。それに比べれば2人の温度差は激しい。
(たぶん、シルヴィは成長したベル様に戸惑っているのですわ。小さい頃遊んだということは、ベル様は弟みたいなものですわ)
(なるほど……)
確かに小さい頃の記憶しかないシルヴィアからすると、よく遊んであげた男の子が自分の夫になるという事実を受け止められないのであろう。弟認定されているうちは恋愛には発展しない。
(だけど、時間がないぞ)
ベルはこの状況に焦りを覚える。ベルにも複数のお見合い話はあるが、シルヴィアにも他にもお見合いをする相手がいるとベルは聞いている。中には高位の貴族もいるようだ。
だから貴族でないベルと婚約してくれるかは分からない。
「でも僕は次の約束をしたのだ。今度は都でデートする。そこで婚約を決める」
「……次の約束ですわね」
次の約束をしたということは、もう一度会ってもよいとシルヴィアが感じたということだ。少なくともそれは確実である。
ベルはシルヴィアとのデート計画を考えることにした。
だが、その前に1つやらねばならないことがある。もう1人の嫁候補とのお見合いである。




