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2人目のお見合い相手

(もう一人の方は……)

 アーレフが見合い話をまとめてきたもう一人も貴族のお姫様。こちらは驚いたことに伯爵家の令嬢だ。男爵家や子爵家は貴族でも中流以下であるから、平民との結婚もないわけではない。しかし、伯爵となると違ってくる。

 伯爵は貴族でも上流階級に属する爵位なのだ。身分制度が厳しいこのアウステリッツ王国では、平民と結婚するということはかなり珍しい。

 現にベルの母親のアイリーンも子爵家の出だ。いくら金を積んだところで、伯爵以上家の身分の女性が平民に嫁ぐことは普通ありえないのだ。

 ベルのお見合いの相手。名前を『エデルガルド・ヴィッツレーベン』という。こちらは豪奢なドレスに身を包んだ典型的な貴族のお姫様である。

 写真で見た限り、金髪巻き毛の美しい顔立ち。但し、高慢ちきな性格が顔に出ている感じで、目が少々きつめに思える。

(これは平民を見下す高ビーなお姫様だろうな……)

 見た目で偏見をもってしまう容姿だ。もちろん、容姿の良さはある。普通に考えて美人である。

(いわゆる悪役令嬢だよな。典型的な……ただ、何となく見た顔のような……)

 ベルにはどこかで会ったような記憶があった。どこでと言われても思い出せないが。

(ベル様、こっちのお姫様は意地が悪そうですわね)

 クロコが失礼なことを言う。邪妖精に意地が悪いと言われるのだから、このお姫様も少々気の毒だ。容姿はさておき、全体から感じさせる雰囲気と貴族令嬢という肩書から来る先入観だろう。

「こちらの子はいいです」

 そうベルは答えた。クロコもそう思うくらいだから、会っても無駄だろうと思ったのだ。不愉快になるだけだ。

 しかしアーレフは会ってみなさいとベルの言葉に取り合わない。それはそうだろう。伯爵家とのお見合いを平民からは断れない。

 ヴィッツレーベン家はアーレフにとっても縁を結びたい家のようで、こちらは政略結婚の臭いがプンプンする。

「エデルガルド姫はお前と同じ歳だ。引く手あまたの縁談があるというが、お前の写真を見て是非会いたいと言うのだ。これはお姫様自身の強い希望なのだ」

 そうアーレフはうれしそうに言った。向こうが乗り気なのは不思議であるが、平民のコンスタンツア家に求めるのは財力が目当てとしか思えない。

 ヴィッツレーベン家も多くの貴族と同じように、財政的には苦しいのだろう。そうでなければいくら金持ちでも平民の家の嫁にはならないだろう。

 伯爵家という地位の高さからいけば、嫁入り先は侯爵や公爵の家柄か王族というところが妥当だ。それなのに平民の家の息子とお見合いをするのなら理由があるに違いない。

(もしかしたら、平民の男と会ってみたいだけとか……。貴族のお姫様の考えていることなんか気まぐれ以外ないだろうなあ)

 ベルはそう思った。貴族のお姫様といえば、タレント・ジャッジの時にベルがいじめられていたのは遠くで眺めていた姿しか思い浮かばない。

「父様、お姫様の気まぐれに付き合う暇はないですよ」

「そういうな。ヴィッツレーベン伯爵も乗り気なのだ」

「本当ですか。貴族が平民にそのようなことを思うはずがないです」

 ベルはそう答えた。もしかしたら、家柄を非常に気にするアーレフが、騙されているのではないかと思ったのだ。

「そんなことはない。それに婚約はそれほど厳格ではない。それにも男の方に経済的な余裕があれば、妻を複数持つこともできる。気に入ったダヤン家のご息女を正妻にして、ヴィッツレーベン家のご息女を第2夫人ということもできる」

 アーレフは事も無げにそう言った。父親の言葉とは到底思えないゲス発言のようであるが、この異世界では問題発言ではない。

この世界では妻を一人というきまりはない。多くの男は妻一人を養うのが精いっぱいだから、一人なだけだ。

 大金持ちや貴族は複数もってもよい。但し、ほとんどは1人である。あとは愛妾や側室という状態で囲っている。

 それは妻を複数持つ条件に、第1夫人の了承がいるからだ。了承は教会が出す証明書に第1夫人の自筆のサインが必要なのである。

 ほとんどの正妻が第2夫人をもつことにいい顔をしないのは世の常である。だから正式に夫人を2人以上もっている者はそう多くない。だが、中には2人どころか第3夫人に第4夫人までもっている者もいないことはない。

 ちなみに第3夫人は第1夫人だけでなく、第2夫人の了承がいるのだ。それはさらにハードルが上がる。

 ベルだってそのようなことはしたくはない。仮にシルヴィア姫とうまくいって将来結婚したとしても、彼女に第2夫人をもちたいのですけど……なんていう申し出はできない。

 現にアーレフも正妻はアイリーンだけである。密かに町に囲っている愛人がいるらしいことはベルも知っているが、そのことについて父に聞いたこともない。それは男同士の暗黙の了解みたいなものだ。

 妻の血統を重視するアーレフは、息子のベルが貴族のお姫様を二人も妻にすることをまるで自分のことかのように喜んでいる。しかも伯爵家の令嬢を第2夫人にするという誘惑は大きい。

 家柄を気にするアーレフにとって、自分では成し遂げられなかったことを息子が叶えてくれるということに達成感があるのであろう。

 ベルが子爵家出身の母をもつということで、単純に平民の血筋ではないというのも、今回のお見合いが成立しているともいえる。

 完全な平民の出で、成り上がりの自分にはできなかった偉業を息子にかなえてもらいたいということだろうか。

(ベル様のお父様もベル様に負けず劣らずの鬼畜野郎みたいですわね)

(クロコ、父様を侮辱するなよ)

 ベルはそうクロコをたしなめる。父のアーレフはベルと同じ頃から働き、苦労をして今の地位を手に入れたのだ。若い頃は結婚できるほど余裕がなく、億万長者になってから妻を娶った。

 ベルの母親のアイリーン姫である。没落貴族のお姫様を金で買ったわけであるが、その夫婦生活は幸せではないことはベルも知っている。

(そういえば、あの母親はどうなったのであろう)

 前に聞いたときは、アーレフはひどく冷淡に(旅行に行っている)と答えたが、あれから半年以上経っているが、一向に帰って来ない。

 これはますます母親の身に何か起こったのではないかとベルも思っていた。しかし、赤ちゃんの頃に何度も殺されかけ、幼児になってもほとんど顔を合わさず、優しく接してもらったことなど1度もなかった母である。

 ベルがどうなったかと心配する気持ちはほぼない。あくまでも興味本位なだけである。ただ、そんな女の血を引いているのは確実で、むしろ、目の前の父親とは血縁関係はないのだ。

 そう考えるとベルの気持ちは複雑である。アーレフはベルを自分の子供だと疑ってはいないが、ベルは知っている。

(本当の父親はあの軽薄そうな伯爵家の三男坊の青年だ……。あの人も姿を見せないのは前から気になるけど……)

 母親のことも聞けないから、あの青年のことはますます聞けない。

「分かりました。父様の立場もあるでしょうから、この2人とはお見合いをします」

「うむ。近いうちに執り行おう。そうとベル。お前が援助しているという孤児の女の子。そちらの子ももちろん妻にする手もある。その場合は第3夫人だが」

 またまた鬼畜なことをいう父親である。無論、ベルはそんな気はない。ペネロペはあくまでも気まぐれで援助してやっているのに過ぎない。

 しかし、アーレフはどうやら勘違いしているようだ。自分もそうやって援助した女性をどこかに囲っているからだろう。

「父様、その子は全く違いますからね」

 ベルは否定した。あの小生意気な2つ下の少女はそういう対象ではない。あくまでも埋もれさせるのがもったいない才能に対しての投資である。

「そうか……」

 アーレフの目は笑っている。これは疑うというより、分かっているという目である。そういう目をされてもベルとしては困る。

(ベル様の場合、自分の護衛にも手を出していますから、疑われても仕方ないですわ)

 傍らのクロコがそう突っ込んだ。これも心外である。シャーリーズについては、あくまでもからかっているだけだ。それも最初は殺意があったから、それを止めさせるためにやむなくだ。

 ちなみにシャーリーズが、なぜベルを殺そうとしているのかは不明である。彼女の年から考えるとよからぬ大人に騙されてという可能性が高い。

 これについてはクロコに調べさせている。シャーリーズが密かにそういう者と接触するのを待っているが、そういう気配がないのだ。

 しかし油断はできない。今は洗脳を解いたのだが、再び洗脳される可能性もある。


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