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お見合いの相手は幼馴染

「ベル、お前の花嫁候補が決まった」

 工学院に入学してから半年が経った時に、父のアーレフがお見合い写真をもってきた。ベルもこの間に誕生日を迎え、13歳になっている。

 前からベルの花嫁候補を捜すといって、各方面に働きかけていた。その成果がベルの前に突きつけられた2つの写真である。

 貴族の子供や大金持ちの家の子供は、15歳のタレント・ジャッジを終えると許嫁を決めるのがこの国の風習である。タレント・ジャッジを終えると婚約相手を捜し、遅くとも18歳までにはおおよそ婚約する。

 婚約して成人を迎える18歳で、そのまま結婚することもあるが、成人になるまでに破談になることも多くある。家同士の都合でころころと結婚相手を変えられてしまうのは、どこの世界でも同じだ。

 お見合いをしてそのまま結婚するわけでもないが、たった15や17歳で生涯一緒に暮らす相手を決められるのは、お互いに嫌だろうとベルは思う。

 だから正直な話、ベルには迷惑な話であった。転生前の日本でも中学校1年生や高校2年生で結婚相手が決まっているなんてことはなかった。

 どう考えても早過ぎる。ただ、ベルの精神は36歳のおっさんの部分もある。36歳のおっさんなら結婚は遅いくらいではある。おっさん時代のベルは女性との関係をこじらせ、結婚したいとは微塵も思っていなかった。

 だから何とかしてはぐらかそうとベルは考えていた。

「まずはこのお姫様だ」

 アーレフは自分が結婚するかのように満面の笑みで写真を開いて見せた。そこには少々地味目なドレスを着た美しいお姫様が映っていた。

 ベルはこの姿を見て驚いた。見たことのある顔だったからだ。

「父様、この子は……シルヴィでは?」

「ああ、そうだよ。ダヤン子爵家の長女、シルヴィア・ダヤン嬢。年齢は16歳」

 そうアーレフは紹介した。髪は赤毛の長髪。清楚な感じの美少女である。

 ベルがシルヴィと呼んだ少女は幼馴染である。ベルが5歳の時に彼女の屋敷で出会った。父のアーレフとシルヴィの父親が友人であったので、月に1度程度互いの屋敷を行き来していたことがあったのだ。そこで親しく遊んだ仲なのだ。

 シルヴィの方が1つ上だったので、ベルは弟のように扱われていた記憶がある。幼馴染の関係は4年ほど続いたが、ベルが9歳になってからはシルヴィが令嬢としての教育を受けるために男子禁制の修道院に入ってしまい、会えなくなってしまった。

(か、かわいい~)

 ベルは成長したシルヴィの写真に釘付けになった。着ているドレスや雰囲気は地味な感じを受けるが、それが慎ましさを強調している。主張過ぎない性格だと思わせる雰囲気にベルは心が惹かれた。

(ベル様、なかなか可愛いお姫様ですわね。この姫様は磨けばものすごい美人になると思うのですわ)

 クロコもベルの肩越しにそう評価する。

「昔から知った仲ではあるが、ここしばらくは会ってないだろう。シルヴィア姫ととお見合いしないか?」

 アーレフはベルの様子を見てにんまりと笑った。どうやら見合いに乗り気でなかった息子の目が釘付けである様子をみて成功したと思ったようだ。

 ベルの中で変化が起こった。結婚なんてとんでもないと頑なに思っていたのに、その決心はこの写真に映った美少女に簡単に崩された。それくらいベルの心を動かした。

 それにシルヴィアは幼馴染。未だ女は信用おけないとベルは思っているが、シルヴィアだけは違う。彼女とは特別な思い出があるのだ。

「父様、シルヴィと会いたいです」

 ベルはそう言った。心臓がドキドキしている。これは初めての経験だ。15年のベルンハルトとしての経験と36年間の鉄馬としての経験でも初めてである。

「そうだろう。この娘は小さい頃から知っているが、性格もよくいい子だとわしも思う」

 そうアーレフは言った。アーレフのことだから、成長したシルヴィのありとあらゆることを調べ上げているのであろう。

 もちろん、気になる点はないでもない。1つはベルより1つ年上である点。もう一つは、これだけの素材なのに未だに婚約していないということだ。さらにダヤン家は貴族である。子爵とはいえ、平民のコンスタンツア家との婚姻はすんなりといかないはずだ。例え、父親同士が友人であったとしてもだ。

 そして子爵令嬢ならばこれまでお見合いの話は、引く手あまたであったはずだ。そのことをベルは聞いた。

「ダヤン子爵領は昨年、飢饉が起きて、娘のお見合いどころではなかったのだ。そして1年経ち、飢饉からも立ち直り、落ち着いたので今回のお見合いとなった」

 そうアーレフは説明した。それでベルもおおよそ納得した。そもそも子爵とはいっても貴族である。平民のベルとお見合いするということは、何か理由があると見るべきだ。

(なるほどですわね。きっとその飢饉を救ったのがベル様のお父様というわけですわね)

 クロコがそう代弁した。コンスタンツア家は億万長者である。金に物を言わせてダヤン子爵家の窮状を救ったのであろう。融資の条件に息子との婚約を入れたと考えれば、いろんなことが解決する。

 正直ベルはそういうのはあまり好まない。写真の美少女がベルの思ったような子なら、余計にそういう汚い方法で関係を迫るのはしたくない。

 もしかしたら、シルヴィは嫌々お見合いを承知したのかもしれないと思うと、ベルの心は曇る。

 いずれにしてもしばらく会ってないから、今のシルヴィの気持ちは分からない。会うことでいろんなことが分かるはずだ。


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