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猫耳メイドは何でも言うとおり

 ベルは学校の門を出る。そこには迎えの馬車が待っていたが、そこにもベルのゲス行為の被害を受けている人物がいる。

「ベル様、お待ちしていました……ニャン」

 ベルの専属ボディガードになったシャーリーズである。ボディガードなのに武具は身に着けていない。

 格好はメイド服だ。それもベルが命じてスカートの丈が短い。膝上15センチだからかなり短い。それに白いロングソックスを履かせている。スカートの裾と靴下の間の絶対ラインが5センチ。それにハイヒール。そんなものを履きなれていないシャーリーズは、護衛に支障をきたすと難色を示したが、ベルの命令は変わることがなかった。

 さらにシャーリーズの頭には猫耳が付いたカチューシャがある。昨晩、ベルがこれを四六時中つけるように命じたのだ。

 それでもボディガードであるから、背中に革ベルトで固定されたハンティングナイフ。太ももにスティレットと呼ばれる20センチほどの小さな短剣を装備している。それはスカートで辛うじて隠されているから外からは見えない。

 門から出て来る生徒たちが、メイドなのに武装している可愛い猫耳を付けているシャーリーズを奇異の目で見ている。それを感じているのか、シャーリーズは恥ずかしさで顔が赤い。

 それだけではない。シャーリーズの首には首輪がある。革と金属でできた洒落たもので、見ようによってはアクセサリーのように見える。しかし、これはれっきとした動物用の首輪である。

 この首輪には鍵穴が付いていて、ベルの持つ鍵でないと取り外せないのだ。以前、シャーリーズに勝負を挑み、ペットになると約束させた結果だ。

 話す言葉の語尾に(ニャン)を付けるように命じたのもベルだ。シャーリーズは語尾に(ネ)を付ける癖があったが、今は(ニャン)に矯正されてしまっているのだ。

(ベル様、ボディガードとはいえ、これはさすがに酷いですわね)

 さすがの邪妖精のクロコもシャーリーズに同情を禁じ得ない。

「そうだ、シャーリー。あそこの角を曲がったところにアイスクリーム屋の屋台がある。少し甘いものが食べたい。2つ買ってこい」

 そう言ってベルは銀貨1枚をポケットから取り出し、指で弾いた。シャーリーズはそれを掴む。

「わ、わかりました……ネ……じゃなかった、わかりましたニャン」

「よし」

 シャーリーズは銀貨を握りしめて駆けだした。慣れないハイヒールのせいで角を曲がったところで転んだ。スカートがめくりあがって、パンツが御開帳。いくらなれていないとはいえ、敏腕の剣士なのにポンコツである。

(ベル様、クロコはシャーリーのことが可哀そうに思うですわね)

 シャーリーズが慌ててスカートを元に戻し、よろよろと立ち上がった様子を見て、クロコがそう言った。

(専属ボディガードを僕がどう扱おうが自由だ)

(……ゲス発言ですわね)

(クロコ、あいつの黒星はどうなっている?)

(それが昨晩の一件から黒星が消えたですわ)

 クロコはそう答えた。

 

 実は昨晩、シャーリーズを呼びつけたベルは彼女にこう命じたのだ。

「今日からシャーリーは僕と同じ部屋で寝るように」

「は……何を言っている……ニャン」

 シャーリーズはベルの専用ボディガードである。外出中はもとより、屋敷内でもぴったりとベルの後ろに控えている。但し、ベルが私室にいるときは別で、部屋の前で待機している。

「シャーリーも部屋の外で待機は疲れるだろう」

「疲れはしない……にゃ。体は鍛えているにゃ」

 シャーリーズは屋敷内に控室をあてがわれているが、主に着替えをするときに使うだけであった。ベルが寝てしまった後に風呂や食事を済まして、部屋の外で座ったまま眠るのが日課であったからだ。

「僕の部屋で寝れば、より護衛の任務を果たせると思うけどね」

 ニヤニヤしてベルはそうシャーリーズに問いかけた。シャーリーズはもじもじする。一緒の部屋で寝るという意味を考えているのである。

「いくらボディガードでも主人と部屋を同じにするのはおかしいにゃ」

「そんなことはないよ」

 ベルはシャーリーズに反応を楽しむ。シャーリーズはベルよりも2歳年上であるが、ベルの前ではお姉さんぶることができない。

「し、しかし……わたしは女子でベル様は男子……同室はちょっと……」

「ちょっととはなんだ?」

「まずいにゃん!」

 くすくすとベルは笑う。そもそも、こういう提案をしているのはいやらしい理由ではない。ベルは15歳の少年だ。中身は36歳のおっさんであるが、ロリコンではない。しかも女子は苦手である。

 それでもこうやってシャーリーズに意地悪をして反応を楽しむのは、好きな女子に意地悪をする小学生男子の本能みたいなものなのであろう。

 シャーリーズが好きなわけではないが、何でも言うことを聞く存在は、嗜虐心がそそってしまうのだ。

「まずいって、なんだ、シャーリー。僕が君にエロいことをすると思っているのか?」

「そ、それは……」

「僕にはそんな気は全くないのだが。これはあくまでも僕のボディガードをきっちりやってもらうためだよ。シャーリー、君の方がエロいことを考えているのではないか?」

 かあ~っとシャーリーズの顔が真っ赤になる。自分の勘違いに恥ずかしくなったのだ。

「君のベッドはあれね」

 ベルは自分の部屋の隅を指さした。そこには猫用のベッドのようなものがある。猫用よりも大きく作られているが、ふわふわの毛布とふわふわのクッションが敷き詰められている。

「あ、あそこで寝ろというのか……にゃん」

 シャーリーズは呆れかえった。ベルは自分をペットにすると言ったが、ベッドまでペット用とは。

(ベル様はえげついですわね)

 いつの間にかベルの肩にクロコが座っている。女の子に自分の部屋で寝るように命令して、そのベッドが人間用に作られているとはいえ、猫のベッドと同じ作りとはシュール過ぎる。

「部屋の外の壁にもたれかかって寝るよりゆっくりと休めるだろう?」

 ベルはくすくすと笑う。確かに壁に寄り掛かって寝るよりは、こっちの方が寝心地はよい。しかし、猫用ベッドというのがどうにも納得がいかない。

「ああ、それと今日からこれを装備すること」

 ベルは侍女に命じて用意させていたものを指さした。それはシャーリーズ用に作らせたメイド服である。

「僕と一緒に行動するなら、そのような無粋な革鎧姿はダメだ。これを着て護衛するように……」

 メイドの格好をして主人を護衛するのは例がないわけではない。戦闘侍女として侍らせている貴族もいないわけではない。

「こ、これは……スカートが短い……にゃん」

 ジャーリーズはワンピースを広げてそう恥ずかしそうに言った。ご丁寧にも下に付ける下着も両足に履くストッキングも用意されている。

「武装も腰の後ろに短剣。太ももにダガーを装備する。それだけあれば、町では十分に僕を護衛できるだろう」

「それはそうですが……にゃん」

 律儀に(にゃん)を語尾に付けるシャーリーズであるが、さすがに生まれてからいままで、こんなきわどい服は着たことがない。スカートも初めてである。

 シャーリーズの服は下着の上にチェインメイル。その上に革鎧。下半身は動きやすさ重視で革製のショートパンツ。それに革のブーツである。

 そこからキャピキャピのメイドファッションだから違和感がある。

「ベル様の趣味はときどき15歳の少年とは思えないですわ」

 邪妖精のクロコでもシャーリーズが気の毒に思ったようだ。だが、ベルの意地悪はそれだけではない。

「シャーリー、着替えてよ」

「こ、ここでですか……にゃん?」

 驚いたようにそう聞き返すシャーリーズ。ベルは頷く。顔はいたって真面目だから、シャーリーズはどう返してよいかもごもごする。

「おや……まさかと思うけど、僕に見られるのは恥ずかしいのかな?」

「……ベ、ベル様は見たいのですか……にゃん?」

「君は僕のペットだろう。ペットの着替えを見たところでどうってことないよ。まさか、ボディガードのプロのシャーリーが主人に裸体を見せたところで恥ずかしがるようなやわな心をもっているわけないようなあ」

 わざとそんな言い方をするベル。意地が悪い。

「も、もちろんですとも……にゃん」

 ベルにそう言われ、少々頭に血が上ったシャーリーズは思い切って革の胸当てを外す。ショートパンツも少しためらいがちに脱ぐ。そして後ろを向いて胸を覆う下着を脱ぎ、さらにパンツも脱いだ。

 それをわざとジロジロと見るベル。視線を感じてかシャーリーズの体が赤く染まる。

「うん。さすがは剣士。いい筋肉だね」

 ベルはシャーリーズの裸体を見てそう誉めた。こんな状態でそんなことを褒められても、シャーリーズは恥ずかしい以外の気持ちはない。

 それでもなんとか上下の下着を付け、ベルが用意したメイド服を着た。ダガーと短剣も装備する。

「あ、あの……これも付けるのですか……にゃん?」

 かごに残ったカチューシャに視線を送りながら、シャーリーズはベルに確認する。

「ああ、そうだよ。メイドは頭に髪飾りを付けるものだからね」

「……ふつうはプリムを付けるものですが……にゃん」

 クロコはパタパタとかごの上空で旋回する。シャーリーズにはクロコの姿は見えない。

(ベル様、ベル様は本当に15歳ですか……中身は中年のおっさんとしか思えないですわ)

 さすがのクロコも呆れている。ベルが用意したのは猫耳のカチューシャ。これを付ければ猫耳メイドの完成である。

「君は猫だろう。だからそれを用意したのだよ」

「し、しかし……こんな格好でこんなの付けて外に出るのは恥ずかしい……にゃん」

「おや、君はプロのボディガードでしょ。恰好なんかは、問題はない。プロのボディガードは鉄の心で主人を守る。それともなにかい。君はこんな姿では恥ずかしくて僕の護衛ができないというのかな?」

 さすがにシャーリーズは自分のことを馬鹿にしたような言い方に少し怒った。

「そんなことはない……にゃん。わたしは忠実なボディガードだ、にゃん」

「ならば、その格好で護衛をしなよ。これは主人の命令だ」

 シャーリーズは頷くしかなかった。

(黒星が消えたどころか、あのボディガード。ハートが1つ現れたですわ。ベル様に辱められて殺意が消えたばかりか、好意をもつなんて意外と変態女ですわね)

 クロコは黒星が消えたまでしかベルに伝えていない。昨晩は不満な様子でベルの部屋の猫用ベッドで眠ったシャーリーズであった。普通ならこれで好感度は、だだ下がりのはずであった。しかし、クロコは見た。シャーリーズが朝起きた時にその頭上にハートくるくる回っていたのだ。


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