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明日からはニャンと言え!

 ベルは心の中でそうほくそ笑んだ。すべて計画したとおりだ。

「シャーリー、僕が勝ったらお前は僕のペットになること」

「はあ……?」

 シャーリーズはあまりに突飛なベルの要求に思わず聞き返した。

「だから僕のペットになれ」

 ベルは繰り返した。シャーリーズの表情が嫌な顔になる。ゴミを見ているかのような目だ。

「ベル様は何を言っているネ、変態ですか?」

 金持ち坊ちゃんの世迷言とシャーリーズは軽蔑した。そしてそんな要求に従うつもりは全くない。そして100%負けることもない。

「僕の護衛をするなら絶対服従が条件だ。そうでなければ信用できない」

「いいでしょう……ネ。ベル様、そういう馬鹿な要求を二度と言えないようにするネ」

「約束だよ、シャーリー。クトルフ族の戦士の名誉にかけて誓うこと!」

「承知!」

 シャーリーはアサシンナイフを右手に構え、腰を落とした。一瞬でベルの首のナイフを突きつけるつもりだ。ベルを見るとどう見ても素人同然の構え。防御にも攻撃にも移行できない中途半端な構えである。

(ベル様、残念……ネ。その傲慢な鼻を完全に折ってあげるネ)

 シャーリーズは左足を一歩前に進めた。そしてぬるりとした足さばきで一気にベルの懐へ潜り込む。

「これで終わり……ネ」

 ナイフを突きつけた瞬間、ベルの体が下へ崩れるように落ちる。

(なに……どういうこと……ネ)

 空を切ったアサシンナイフにシャーリーは驚いた。ベルはナイフを突きつけられる瞬間にダッキングで逃れたのだ。シャーリーの右側面をするりと抜けて後方へと抜けたのだ。そのついでにシャーリーのお尻を触る。

「この……ネ」

 お尻に感触を感じたシャーリーは怒りに任せ、振り返りざまにアサシンナイフを振る。皮膚を傷つけるのを厭わない攻撃だ。しかし、ベルはのけ反ってまたもや空をきらせた。お尻を触って冷静さを失わせたのはベルの作戦だ。

「うそ……ありえない……こんなことがあるわけが……」

 次々と繰り出すシャーリーのアサシンナイフによる攻撃をベルはすんでのところでかわす。ありえない動きでアサシンナイフの攻撃を体に受けない。

(バカな……。この回避能力は親父様並み……いや、親父様以上だ)

 シャーリーズはオージンとよく手合わせをする。ナイフ戦もよくする。ナイフの扱いが特にうまいオージンに歯が立たないが、それでも多少は体をかすめるほどシャーリーズのナイフ技術はある。

 しかし、ベルの変なかわし方には全く通用しない。完全に当てたと思った瞬間に体がふと消えるのだ。

「おかしい……ネ。先ほどの剣術の時とは動きがおかしいネ……」

「先ほどは手を抜いていたのだよ」

 ベルはそう言ったが正確ではない。タレント能力を使わなかっただけである。最初は12あるベルのタレントのうち3つしか解放されていなかった。

最近、カツアゲにあいそうになった時に4つ目のタレントが解放された。

 それは『緊急回避』という能力。接近戦において、相手の攻撃を100%かわすというとんでもないスキルである。

 この能力があればベルを殺そうという企みは全て無にできる。但し、複数からの同時攻撃を受ければさすがに緊急回避できない。

 緊急回避の能力はあくまでもその攻撃を唯一避ける行動を自動で取るだけで、逃げ道が皆無の場合は攻撃を受けてしまうのだ。

 そして致命的なのは攻撃できないこと。緊急回避してもその後の攻撃はベルの能力であるから、手練れのシャーリーズには通用しない。

 いくらベルが攻撃したところで、よく訓練された戦士のシャーリーズをとらえることはできない。

「ふうふう……これでは埒があかない……ネ。しかしいくら逃げてもあたしに攻撃できなければ勝てない……ネ」

「そうだね。けれど、僕にはこの力があるからね」

 シャーリーズはベルが不気味な笑顔になったのを見て背中に冷たいものが走った。

「魔法……かネ?」

解離奈有ゲリナール

 ベルは抑揚のない声でシャーリーズを指さした。

「なに……うっ!」

 シャーリーズは下腹部に異様な痛みを感じた。それは体の中で膨らみ、そしてお尻の穴へと向かって来る。

「うそ……こんなこと……ネ」

 シャーリーズは体をかがめてこらえる。そしてアサシンナイフはなんとか構える。

「おや、その状態でまだ戦う気なんだ。さすがクトルフ族の戦士だね」

 ベルはナイフで攻撃する。それをなんとかかわすシャーリーズ。しかし、ナイフをもつ手はぷるぷると震え、そして顔からは脂汗がだらだらと流れる。

「こ、こんな……戦いの最中に……こんな恥ずかしいこと……ネ」

「がまんはよくないよ、シャーリー。もう諦めて負けを認めよう。さあ、ここにこれを用意しよう」

 ベルは最初に地面に置いたバケツを運んでシャーリーズの目の前に置いた。それを見てシャーリーは恥ずかしさで顔が青色から火照って赤くなる。そんなところにいたすことなんてできない。

「そんなところに……ネ」

「約束だよ。君は僕に負けてペットになる。さあ、自分を解放しよう」

「そんな変態行為に……うっ!」

 ベルが指を差した。『解離奈有』の2重がけである。これであのプライドの塊のような伯爵の息子も耐えきれず解放した。悶絶するシャーリーズ。もはやナイフ戦どころではない。

「ぐっ……いや……ネ……絶対……ネ」

 シャーリーズは耐える。もはやナイフを構えるどころではない。ベルはナイフを突きつけて勝利宣言してもよかったが、もっと残酷な方法を取った。

「さすがは鍛えられた戦士。口先だけの貴族のお坊ちゃんとは根性が違う。だけど、ごめんね。君には屈服してもらわないと……ネ」

 ベルはゆっくりと指を差す。シャーリーズはいやいやと首を振った。

「解離奈有×2」

「いやあああああああああっ~」

 シャーリーズはたまらずバケツのまたがり、そして履いていたショートパンツをずらす。幸い、下は脱ぎやすい服だった。

しゃああああああああっ~。

 水のようにバケツに放出する。シャーリーズはあまりの屈辱に精神が折れた。

「うっ……うううう……ひどい……ベル様……」

「シャーリー、約束は守るよね……クトルフ族の戦士の名誉に誓って」

 ベルはそう言ってシャーリーズの頬にナイフをぺちぺちとあてた。

「いくら屈服させるとはいえ、これはさすがにゲスいですわね」

 クロコが鼻をつまんでそう感想をもらす。シャーリーズは屈辱に涙を流す。さすがのクロコも気の毒に思ったようだ。

「これじゃあ、黒い星3つはそのままで……ありゃりゃ!」

 クロコは叫んだ。指を差してベルに異変を知らせる。

「星が1つになったですわ!」

 殺意を示す星3つから2つも減ってしまった。これはよい傾向である。何しろ、黒星1つなら「嫌い」程度であるからだ。

「この女、Mですわね。こんな酷い仕打ちをしたベル様に嫌悪どころか、嬉しがっているですわ」

 嬉しがってはいないだろうが、殺意はなくなった。恐らく自分には殺せないと身に染みて思ったのであろう。

 驚きの結果だが、ベルは狙っていた。こういう武力自慢の女はそのプライドを徹底的に折ってやれば、急にひ弱な女になってしまうことがある。

「ううううっ……」

 泣きながら用をたすシャーリーズにベルは念を押した。

「戦いの最中に漏らしてしまったことをばらして欲しくなかったら、僕の命令を忠実に聞くこと。今日から君は僕のペットだ。語尾は(ネ)じゃなくて、ワンということ」

「ベル様、ひ、酷い……ネ」

「ワンだ」

「……酷いワン」

「う~ん。犬より君は猫の方がいいな。語尾はニャンだ」

「ううう……ひ、ひ、酷いニャン」

「よし。合格だ」

 クロコは思った。

(ゲ、ゲス過ぎますわ……。ベル様には逆らわないようにしないといけないですわ。でないとクロコも……)

 クロコもいつかベルに(ですわ)の口癖を(ニャン)に変えろと言われるのではないかとビビってしまったのであった。


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