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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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52/75

前科52:負け続けてきた者達




「ここが正念場よ。──最後のミーティングを始めましょうか」


 ビルの屋上に集まって魔術科の面々は桜子を中心とし、最後のプランの最終打ち合わせを行っていた。バラバラになった血継魔術科の所在地は既に探知魔術によって把握済みである。清麻呂、真央、清春の三人組。美鈴と八代のペア。そしてその二組の間に梢子が一人で居るという構図になっている。


「まず攻めるのは、伊庭君と西園寺さんの二人組ね。ここを颯太。ノエル。鈴木さん。山崎君の四人で一気に叩きます。伊庭君はポテンシャルだけなら血継魔術科最強。西園寺さんは未知数な天才。この二人を最後まで残しておくのは非常に厄介だからよ」


「──伊庭君は引き続き私と山崎君で攻めますよ。颯太先輩と如月ちゃんは西園寺さんをお願いしたいッス」


 弁慶の言葉に「おう」と颯太とノエルが親指を上げた。

 まるで本当の兄妹のように仲の良い二人なので意思疎通も問題ない。桜子もそれを頼もしく思いながら、不死川に顔を向けた。


「先輩。織田先輩達の足止めお願いできますか?」


「構わないが、ここで私を使うという事は、最後を決めるのは颯太君って事で良いのかな?」


「そうなりますね。私は、一人で梢子さんを止めるので」


 梢子が単独で行動している以上、誰かが止めに行かなくてはならない。

 弁慶たちの班を一人削る事も考えたが、それで倒せる程甘くないのだ。颯太の魔力や体力もとっておきたい。戦闘が始まったとなれば梢子は必ずどちらかへと動き出す。どちらに来るにせよあの火力は放置してはおけないのだ。


「──戦闘開始から十五分耐えます。それまでに伊庭君と西園寺さんを撃破して私と合流。梢子さんを倒して最後に不死川先輩と協力して残りを片付ける。何度もシュミレーションしてみたけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。最後はもう流れだけど、それだけは忘れないで」


 誰も異論はなかった。いまだに厳しい状況にあるが、それでも全員が桜子の練ったプランを信じた。

 血継魔術科の中で誰を最後に狙うかまでも事前に決めてある。そして、颯太か不死川がそれと対峙して戦う事も決まっている。それだけのデータを魔術科の仲間内で集めて来たのだ。


「あの三人を相手にするのは厳しいが、私も出来る限り頑張ってみよう。少し、疲れてしまったがね」


 そういうとチラチラと不死川はノエルの方を見た。

 桜子はため息をついて、ノエルに視線を送るとノエルもその意味を察したようだ。てこてこと近づいて灯の手を握る。そして、天使のような笑顔を浮かべ、


「灯君。がんばっテね」


 その言葉を聞いた瞬間、不死川灯の心は満たされた。

 カラッカラの砂漠に大量の水が浸透していくような感覚。不死川の背中に白い炎の翼が顕現し、轟々と燃え盛っている。偽物の15歳以下の台詞とは違い、本物の浸透率は不死川の予想を遥かに上回った。如月ノエルはまだほんの子供だ。基より学習能力が高く、数十年ぶりに東魔大も認めた飛び級の学生である。年齢は数えて十四。ギリギリ不死川の対象に引っかかる。


「おおおおおおおおおおおッ!!!!」


 普段は優雅な不死川が吼えてぴょんぴょん飛び回る。

 このおかしな性癖のお陰で血継魔術科は不死川の魔力量を見誤っている。不死川さえ倒せば終わり、と向こうに誤認させる事で大量の魔力を消費させたのだ。元々の魔力量の差があり過ぎる以上、こういう罠で削っていかなければ何時かはこちらがジリ貧になってしまうからだ。

 

「魔導力科も、他の魔術学科も皆この戦いを見ているわ。ここでみっともない戦いを見せちゃダメ。私達の真価が問われるのはこういう時よ」


 桜子が皆を見ながら強い口調でそう言った。

 目の輝きが違う。心の底からそう思っているような力湧いてくる言葉だ。弁慶も部外者のようなものだが、良いリーダーだなと思ってしまう程に。


「だから、最後まで悪あがきしましょう。才能では勝てないけれど、最後は努力と根性が勝つと私は信じているわ」


「最後は根性論かよ。──でもまぁ、そういうの嫌いじゃねぇけどさ」


「颯太先輩何言ってるんすか!? 俺は、俺はッ! 桜子先輩に真の"漢"を見ました!」


「桜子、男だっタの?」


「違うッスよー。如月ちゃん。山崎君も紛らわしい事言うなだし、ここで泣くのちょっとキモいよ」


「ははっ。流星寮の住人は少しおかしいんだ。勘弁してやってくれると嬉しい」


 その寮の寮長が何言ってんだというツッコミをノエル以外の誰もが思ったが、そんな時間もなくなってきていた。颯太が「行くぞ」と爽やかに先導して3人がそれに続く。後に残ったの不死川と桜子のみだ。


「……不死川先輩。すいませんね。捨て石のような扱いで」


「気にしなくていい。如月君の応援という最高の報酬を貰えたのだ。仕事はきちんとやるさ。意外と難しいものなのだよ。"合法"というものは」


 カッコ良さそうでどうしようもない言葉を終えると、不死川の炎の翼がひと際燃え上がり、勢いよく跳躍するとそのまま飛び去って行った。

 

















 真央の風によって、オフィス街方面へと落下した八代と美鈴は八代が美鈴を担ぐような形で着地していた。上空から吹き飛ばされたのにも関わらず、真央が最後に八代を美鈴目掛けて飛ばしたお陰で脱落せずに済んでいる。本当ならばあのまま地面に叩きつけられて脱落していたとこだった。


「危なかったなぁ。ちょっと一服つけるから待ってて」


 地面にころんと転がされて煙草を吸い始めた八代を美鈴は虚ろな目で見ていた。

 レベルが違い過ぎる。先程の戦いでも何もできなかった。いっそあのまま脱落していた方が良かったのではないか。美鈴の心がネガティブに染まっていく。


「ちょっと我慢な」


 八代が支配の魔剣を振って、美鈴の体を拘束しているワイヤーを斬り裂いた。

 美鈴の体に傷一つどころか、服にすら傷がない。煙草片手に吸いながら呆けた顔をしていてもこの実力だ。拘束を解かれて一息つくも心は晴れない。


「これからどうします?」


「どうすっかね。僕は探知魔術使えないし。美鈴は探知魔術使える?」


「……いえ。必要が無かったので」


「だよなぁー」


 血継魔術を使えてしまう弊害である。

 今までの人生が基本的に相手が向かって来たら迎撃して終わっていたので、わざわざ追いかける事がないのだ。八代も使える魔術が逃げる事に特化しており、探知魔術を覚えていなかった。


「とりあえずどこかでドンパチ始まったら──」


 とまで言いかけた所で八代の煙草の先が吹き飛んだ。

 瞬時に攻撃だと判断した八代と美鈴は、迎撃態勢をとり防御魔術を発動する。が、歌が聞こえた。何処までも澄み切っていて美しく、そして歌詞の内容が聞き取れない。独自の言語、或いは特殊な魔術の為の詩だろうか。防御魔術にノイズが走り展開ができない。


「来るぞッ!!!」


 上空。背後。そして前面に敵の姿を確認。弁慶山崎颯太の近接戦闘得意組だ。確実に自分と美鈴を倒しに来たと判断した八代は、虹の魔剣を上空から来た弁慶に投げつけた。三対一では分が悪い。虹の魔剣に殺せと命令付け、残る支配の魔剣で背後から来た山崎を迎え撃つ。


「美鈴、そっち任せるぜ!」


「は、はい!」


 颯太の実力は知っている。不死川とほぼ互角にやり合った存在。──そして、防御魔術の精度は清麻呂並みだ。一年戦争の時の敗北を思い出す。あれで完封されてしまった。美鈴もステップして颯太と対峙すると、ぐんと颯太の身が眼前にあった。腕を構えて弾いて行く。敵は距離を測っていると思いきや腹部に衝撃。痛みと共に圧迫感が襲い、呼吸が止まった。膝蹴りが腹に直撃しているのだ。


「──っか! ッは!」


 声が出ないが、追撃されては負けだと魔力の爪を振り回す。一発当たれば勝てるのに。

 しかし、その願いは叶わず颯太はもう射程外にいる。一撃離脱の構えだ。呼吸を整える間もなく再度颯太が美鈴へと迫った。美鈴が爪を振った隙に一撃。コンパクトに何発も入れてくる。そして、また出来た隙を狙って溜め入りのボディブロー。またも息が止まった。


「終わりっ!」


 側頭部に衝撃を感じると世界がぐるりと回って己の体が吹き飛んで壁に叩きつけられたのがわかった。痛みと緊張で心がついていかない。ぼんやりと眼前の出来事を見ていると、颯太が迫ってくるのが見えた。もうこのまま──と一瞬心によぎった。だが、その気持ちとは裏腹に美鈴の体は立ち上がっていた。


(そうか、私は──)


 敵は強い。不死川になんて一生勝てる気がしない。あんな変態なのに。バカなのに。もっと真面目に生きればいいのに。この大学に入ってからずっと負けっぱなしだ。ついに血継魔術師以外にも負けそうだ。──ああ、これが気に入らないのだ、と美鈴は気づく。颯太は爽やかで優しい。カッコいい。全裸にならない。野球拳もしない。大学で酒を飲まない。理想の先輩だ。だから特に恨みはない。だが、颯太に負けた時の西園寺家の反応を想像するだけで怒りが湧いてくる。


(面汚し。無能。一族の汚点って所ですかね……)


 あいつらに笑われてたまるか。大好きだった母と祖父から継いだ血継魔術を笑わせてなるのものか。その一心で立ち上がった美鈴は腕を大きく振りかぶる。そして、ビビっていた自身への怒りと情けなさを発散するのかのように、魔力を集めた自身の爪を颯太目掛けて射出した。










「西園寺さん。自力で立ち直りましたね」


 モニターを顰め面で睨みながらずっと無言だった嘉納に少し悔しげな声で樋田はそう言った。

 現状はずっと魔術科ペースだ。まさかここまで血継魔術科が押され気味になるとは嘉納も予想だにしなかった事である。その言葉に嘉納は表情を緩めると、降参とでも言いたげな態度で両手を上げた。


「美鈴君も負けん気が強いからね。それにしたって、今年の魔術科は素晴らしいよ。あの子達の弱点を見事についてきている」


「ありがとうございます。ですが、こちらにもまだ隠し玉はありますので、油断なさらぬよう」


「それでもいいさ。あの子達もまだ本気になっていない。勝負はこれからだよ」


 血継魔術科の動きが段々と良くなってきているのも事実だった。

 相手をナメきっていた上級生組は本気を出すようになったし、一番精彩を欠いていた美鈴も立ち直ったように見える。八代達以外の場所で戦闘は既に始まっており、流石の不死川も三対一では押され気味である。梢子対桜子も現状では梢子が圧倒している。このまま八代達が耐え抜けば、いずれ血継魔術科が押し切れるのだ。逆に言えばこの八代達の勝敗がどうなるかで戦況が決定する。


「美鈴君の狂化は彼女のお母様とそっくりだね。恭一郎さんとは全然違うが」


「"狂戦士(バーサーカー)美汐(みしお)"でしたね。その世代では有名でしたね」


 画面に映る美鈴の投げた爪に颯太は軌道を変える事が出来ずに、防御魔術を展開し更にガードも固めた。最小限の防御魔術を複数枚。だが、美鈴の爪の一撃は紙のように防御魔術を引き裂いて颯太へと直撃した。ガードを固めていなければ決着がついていたであろう。


「この一撃。やはり、彼女も侮れませんね」


「上級生組の完成度が高すぎるのもある。だが、それに押しつぶされずに入学して1か月でこの領域だ。彼女もまた、この大学の歴史に残る逸材だよ」


 落ち着きを取り戻した美鈴は、颯太の攻撃を一つ一つ丁寧に捌いては距離を取っている。

 格闘術なら向こうの方が上だと判断したのだ。その代わり、美鈴には必殺の一撃がある。相手の隙を伺う作戦に出たのだ。それをされては困るのが魔術科である。早期決着しなければ桜子と不死川が押し負けてしまうからだ。


「ノエル! 決着つけるぞ!」


 近くの建物からノエルが飛び出してきた。数の有利で一気に決めきる為だ。

 ノエルの歌が魔術印に干渉してくるのはこれまででわかっている。颯太の動きも止めなければならない。美鈴は一瞬考えるようなそぶりを見せて動きを止めた。


「何かを考えていますね」


「彼女はこの1か月ずっと負け続けて来たからね。──だが、そろそろ次のステップに行っても良い頃合いだ。彼女がどうするのか見物だよ」


 学習能力の高い子だ。転んでもただでは起きないし、負けん気も強い。嘉納が期待を込めてモニター越しで魔術印を展開し始めた美鈴を見つめる。簡素な魔術印だ。ノエルの歌すら追いつかない。

 

「あの魔術は……!」


 樋田が目を見開いて驚きの声を上げた。嘉納も驚きのあまり声が出ない。そう、美鈴が展開した魔術は──


水を粘液に(決着つけましょう、)変える魔術(ノエルさん!)


 主に流星寮の面々が毎日のように使っている、恐ろしくしょうもない魔術だった。  


 



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よければどうぞ。ここ最近だと弁慶の本名がわかる話を書きました。

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[良い点] 美鈴が染められちゃった・・・ もっと染められてけ!
[良い点] ついに美鈴までそっちに…
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