前科43:これまでサービスシーンがなかった事をここにお詫び申し上げます。
「織田先輩! 大変です! 森林区画でまた流星寮が暴れています!」
学生自治会に悲鳴のような報告が流れたが、織田清麻呂は窓際に立って怒りもため息もなく淡々とその事実を受け止めた。手練れの風紀委員達も窓の外で行われようとしている戦いの観測を淡々と行っていた。五月祭が始まってから起きたトラブルに翻弄されていた何時もの空気との違いに新人の風紀委員達は戸惑いを隠せない。
「ご苦労さん。現地の子達に、後は桜子君の指示に従ってくれと伝えてほしい」
「え、止めに行かないんですか? 支配の魔剣と氷結魔術がやり合ってるみたいなんですけど……」
「好きにやらせておけ。どうせ、止めようとするだけ労力の無駄だ」
それっきり清麻呂が黙ってしまったので報告をした生徒は居心地が悪そうに椅子に座った。
清麻呂も探知用魔術印を展開して情報収集に入る。八代も清春も魔力を全力で解放しているのがすぐにわかった。何時もの軽い小競り合いとは違う。清麻呂が制圧に入ったとしても全力で殺す気で行かなければあの2人を止められないのがわかった。
「在原も久しぶりに学校に来たのにこの魔力量だからね。真面目に訓練するの馬鹿らしくなるね」
「そーそー。1年生達も気を付けた方がいいよ。血継魔術科と張り合って、絶望して学校辞めちゃう人って結構多いからさ」
「自分がどんな魔術師になりたいかって軸は作っておいた方がいいよねー」
「流星寮みたいに"俺は俺。お前はお前"ってぐらい我が強いと生きやすいんだけどね。あの輪には加わりたくないけどさ」
手練れの魔術師達は血継魔術科と正面から張り合う事の愚かさをわかっている。きちんと受験戦争に打ち勝ってきた魔術師達は賢い。効率よく自身の理想の姿を追い求める。何も魔術だけがこの世の全てでないとわかっているのだ。
「だから、桜子ちゃん達って凄いよね」
「うんうん。魔術科で真面目に血継魔術科と戦おうって研究室はあそこぐらいだもんね」
「織田先輩。あんまりいじめちゃダメですよー」
軽口の矛先が清麻呂にまで飛んできた。桜子は清春と八代のデータをとる為に率先して現地に向かっていったのだ。明後日の一番大きなイベントで戦うのだが、桜子の態度は何時もと変わっていない。清麻呂自身もそこまで興味がないのだ。今の血継魔術科は歴代最強とも言われている。そのブランドを維持し守る事が清麻呂は自身の使命だと考えている。
「俺は負けないように最善を尽くすだけだ。──こっちは面接がダメなんだ。本命に就職するには結果で黙らせるしかない」
「織田先輩……。本当に凄い魔術師なのに大学生としては超雑魚ですもんね」
「バイトの面接50社落ちたのはもはや伝説だと思う」
「5歳児ぐらいめんどくさい時ありますもんね」
「ぐぬぬ……」
何も言い返せなかった。己が魔術以外全然ダメなのは清麻呂にも自覚があった。
プレッシャーに弱い。面接だと緊張して汗が止まらなくなる。すぐにお腹をこわす。一度落ち込むと立ち直りが遅い。煙草がないと不安になる。枕が変わると眠れない。野菜が嫌いで食べれないものが多いと数多くの欠点があった。
「それにしてもこれだけガチでやりあうって珍しいね。伊庭と在原って仲良かった気がするけど」
「あれじゃない? 千ヶ崎さんの取り合いとかじゃないかな。よく3人で一緒に居たじゃん」
「千ヶ崎さんめっちゃモテるもんねー。インスタのフォロワーエグい数字じゃん。何か最近めっちゃ家庭的になったけど」
「前はファッション系PRばっかだったのに。最近手料理ばっかじゃん。やっぱ男だよ」
散々な言われようだなと清麻呂はため息をついた。少しだけ助け船を出そうかと思いつき、言葉を繰り出す。
「いや──そんな事はない。考えすぎだ」
「織田先輩何か知ってるんですか?」
「教えてくださいよー」
先輩として近くでずっとあの3人を見てきた。今でこそ丸くなったが去年はあの3人は今よりずっと問題児だった、数多くの問題行動に翻弄され、ずっと頭を下げ続けてきた清麻呂だからこそ間違いないと断言できる。
「あいつらが戦う理由なんて考えるだけ無駄だ。──どうせ、死ぬ程くだらん理由に決まっている」
●
「おっぱぁぁぁいいいいいいっ!!!!!」
八代が咆哮と共に虹色の光が周囲を満たす。
支配の魔剣が虹の魔剣の形へと変化を遂げて双剣と変わると、荒れ狂う虹の光が清春の氷を跡形もなく破壊していく。魔剣は魔術師を殺す為に生まれた魔術だ。純粋に魔術だけを使う清春の方が不利ではあるが、本人の表情は緩い。
「揉みたいっ!」
八代が魔剣を振るう。虹色の光が清春目掛けて襲い掛かるが氷の壁が地面から突き出てきて阻まれた。壁だけではない。次の瞬間には無数の氷柱が八代目掛けて地面から突き出して襲い掛かる。
「吸いたいっ!」
またも虹の魔剣を振って吹き飛ばす。だが、破壊された氷はすぐに空気中の水分と結びつき再び八代へと襲い掛かる。埒があかない、と八代は虹の魔剣に流し込む魔術を炎へと変えた。流し込んだ魔術の光を一つへと絞り、収束させていく。
「挟まれたぁぁいっ!」
増幅、そして凝縮された炎が氷を全て焼き尽くし炎の熱線が清春の横を掠めていく。
そこでようやく清春の顔色が変わった。八代が新しい魔剣を持っているのは聞いていたが、ここまでのモノだとは思っていなかった。昨年までは学内だと呼べる魔剣に限度があり、本気を出せば勝てるとたかをくくっていたのがこのザマである。このレベルの魔剣が相手だと流石に圧し負けると判断した清春は戦術を変えた。
「ちょっとは強くなったみたいじゃん。どったのその魔剣?」
「オヤジ狩りして手に入れた。うちの爺ちゃんの使ってた魔剣さ」
相変わらず意味わからんバカだな、と心の中で笑って走り出す。
同時に氷の壁を何枚も展開し、氷の上を滑りながら八代へと肉薄した。接近戦に持ち込んだのだ。
魔剣が振るわれる軌道に手をかざして氷の剣を顕現し、受け止める。
「甘いぞ」
だが八代の魔剣は一流のものだ。拮抗したのは2秒程で清春の氷の剣は砕け散った。
──それでも良い。狙い通りだと清春は笑うと、地面から突き出た氷柱が八代を襲う。咄嗟に八代が後ろへと跳んだ。身体強化魔術で後ろへ大きく跳んだ。魔剣には炎の魔術がセットされている。これで条件が揃ったのだ。
「生おっぱいは、童貞にはまだ早ぇぞ」
威力は支配の魔剣の方が上。清春が八代に勝っている部分は展開能力だった。八代が跳んだ先には既に氷が地面を侵食し、八代が着地した瞬間に片手を上げて魔力を注ぎ込む。地面から巨大な氷の手が飛び出し、八代の体を握るようにして拘束する。
「──来いっ゛」
ぞっとするような冷たい声が響き、清春は背後に気配を感じた。
振り向いた瞬間には巨大な剣が眼前に迫っており、清春は体を捻って回避した。
(勝った──!)
魔剣の一撃を回避した清春は上空に無数の氷柱を展開した。後はこれを叩きつけるだけで勝ちである。防御魔術を張った所で物量で押し切ればいい。清春の意志で一斉掃射された氷が八代を襲った。──が、
「嘘だろっ!?」
何時の間にか八代の体に鎧が纏わりついており、氷柱が全てあらぬ方向へと弾き飛ばされた。
またも清春の見た事のない魔剣であった。この短期間で何があったのだろうと、清春は歯噛みする。魔剣が強ければ強い程八代の手強さは増していくのだ。清春の動揺を隙と捉えた八代は大地を蹴って清春へと迫った。接近戦に分が悪い清春は防御に入るしかない。振り下ろされた巨大な魔剣を氷の壁で受け止め、距離をとろうとするが支配の魔剣と虹の魔剣が迫っていた。これも氷の壁で受け止めるしかできない。
「なぁ、清春。お前、春休みなんかあったんか?」
「──は? 別になんもねぇよッ!」
言葉と共に、氷の壁が破られたタイミングで巨大な氷柱を叩き落した。
「何もなかったらなら、なんでこんなつまらねぇ絡み方するんだよ。お前、そんな奴じゃなかったじゃん」
八代が氷柱を虹の魔剣で吹き飛ばし、再び距離を詰めた。清春はうるさいとばかり苛立ち氷を嵐を起こす。
「それは、お前らが──」
「お母さんと何かあったんだろ?」
「何でお前がそれを──っ!」
「千ヶ崎が期末試験通った祝いで3人で飲み行ったじゃん。その時、会いに行くってぽろっと零してたぞ」
八代の言葉に清春は動揺を隠せなかった。泥酔してたとはいえ、そんな言葉を吐いた自覚がなかった。自身の根幹に関わる話だ。誰にも話す気はなかったし、八代が覚えていた事も腹立たしい。見られたくない部分を見透かされたようで気分が悪かった。
「うるせぇうるせぇうるせぇんだよッ!!!! お前に何の関係があるってンだよぉぉッ!」
怒りと共にありったけの魔力を注ぎ込んで氷結魔術を展開した。
地面から突き出した氷が巨大な人型を作り、清春の背後に展開した。正に人智を超えた魔術である。
30メートルはある両拳が勢いをつけて八代へと迫る。
「ダチがクソ野郎になってたら、ぶん殴って酒飲んで話を聞く。それが僕なりの友情なんだぜ」
八代も負けじと魔力を魔剣に注ぎ込み威力を上げていく。
夜の森に美しい虹が一閃。巨大な氷塊も周囲を満たしていた氷も全て虹色の炎によって焼き尽くされた。これが血継魔術同士の戦いである。魔術印も詠唱も無しにこれだけの威力を瞬間的に出せてしまうのだ。八代も清春も全力で魔術を放ったので、ふらりとそのまま力なく座り込んでしまう。
「あーあ。バカくせぇ。これから女とヤるってのに、体力使い果たしちまった」
「つまんねぇ絡み方するからだろうが。いつものお前なら一緒に姫先輩のおっぱい眺めようぜってなってたじゃんかよ」
「……だってお前ら、一緒に何かしようって言ったら拒否ったじゃん」
「そらお前、女5人引き連れて話しかけられたら嫉妬ぐらいするだろ。僕達は繊細なんだぞ?」
「どこが繊細なんだくだらねぇ。ほんとにバカだな」
清春はのそのそと立ち上がるとかけていた眼鏡を外して八代へと放り投げた。
「バカ共からかうのも飽きたからくれてやるよ」
「おっ。サンキュー。明日は昼っから寮で最後のBBQやるからお前も来いよ。一緒に姫先輩のおっぱい見ようぜ」
「……気が向いたらな。オレはこれから女のとこに行く。精力剤があって助かったぜ」
そう言うと清春はポケットから精力剤を取り出して一気に飲み干した。
これで2回戦はいける筈と祈りを込めるが、甘くどろりとしたのど越しが気持ち悪かった。
直後、急に体が熱くなった。下腹部が特に熱い。これは2回戦どころか7回戦ぐらいまでいけるのではと期待が増す。
「ぐっ…………っああああ…………」
だが体が溶けるような感覚と共に立っている事ができなくなった。
全身が熱い。特に下腹部と胸が熱い。まさか失敗作だったのかもしれない。八代も流石に不安になって医療魔術科の斎藤を呼んだ。
「おい! 清春大丈夫かよ!?」
体から蒸気まで出ては流石に命に関わるかもしれない。状況を察した流星寮の面々も走って二人の方へと向かって来た。
「ああああアアアアアアアアっ!」
清春が甲高い悲鳴を上げると同時、全身から蒸気が噴き出た。
異様な光景に八代もたじろいでしまったが、違和感に気づいた。清春は肩で息をしていたが急に全ての熱が引いて行って体調も正常に戻っていく。
「清春……お前。それぇぇぇぇ!!!!!!」
「あ? ──ンだよ人の胸元見てってええええええええええええええ!?」
だらりと少しはだけた清春の胸元にそれは見事なおっきなおっぱいが存在していた。
面白かったらブクマ評価等お願いします。
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