第9話 名付け
「ふう」
「・・・」
液体をスライム5体分回収した慎也は、一緒に戦ったスライムと草原に座り休んでいた。
(数が多くてもスライムはスライムか。念のため覚えた魔法も使えなかったし)
実は慎也はギルドを出たあと、相手はスライムだけど念には念を入れておこうと昨日ギルドでもらった本を読み、言語が慎也のいた世界と同じだったため、すぐにレベル1の火属性魔法の『ファイアボール』と同じくレベル1の無属性魔法の『ヒール』を使えるようなったのだが、スライムがあまりにも弱すぎて使う場面がなく、慎也は少し物足りないと思った。それと、魔法習得の方法だが。なんと条件を満たした状態で、習得したい魔法が載っている本のページに書かれている魔法陣に手で触れるだけである。あまりの簡単さに慎也も当初はすごく驚いた。
「まぁ仕方ねえ、帰るか。明日もここら辺に来るから会いたかったらまたこいよ、スラ・・・」
「?」
急に黙り込み、じーっとスライムを見ている慎也をスライムは不思議そうに見ている。
(なんかこいつをスライムって呼ぶたびに距離を感じんな。いやまぁこいつと俺って本来は敵同士なんだけどね)
「?」
「でも名前がないと色々と面倒だしこの機会に名前ぐらいつけてやるか!うーん・・・よし!これからお前の名前はイムだ!」
「!」
慎也のつけた名前が良かったのかイムはその場で飛び跳ね始めた。
「そんなに良かったか?まぁいいや、俺は帰るから。またな!」
そう言い、慎也はギルドへ向かった。
「スライム5体の体液、たしかに受け取りました。ではあなたの冒険者カードをお貸しください」
「わかりました」
街に戻った慎也はクエスト達成の報告をするためにギルドへ行き、今は受付で今回の標的であるスライムを討伐をしたという証明になる、体液を職員の女性に渡していた。慎也は言われた通りにカードを渡す。女性はカードを受け取ると、机の下からスタンプを取り出し、慎也のカードに押した。押した場所には赤い字でEとあった。
(なるほど、あのスタンプを10個集めれば俺はEランクからDランクに昇格ってわけか)
「カードをお返ししますね」
「ありがとうございます」
「最後にこちらが報酬の銅貨4枚になります」
慎也は報酬を受け取り一礼して受付をはなれ、掲示板の方へ向かう。
(空を見る限りまだ時間あるし、もう一つくらいクエスト受けとくか)
慎也が掲示板のクエストを見に行こうとすると、大柄の男性にぶつかってしまう。
「どこ向いて歩いてんだ!」
「すみません、それじゃあ」
慎也がその場を去ろうとすると男性が慎也の肩を掴む。
「おい、それがぶつかった人への態度か!」
「えっ、俺ちゃんと誠心誠意謝ったんだけどですけど」
「お前生意気だな、俺を誰だかわかってやってんのか?」
「いや僕は昨日この国に来たばっかりなんで知りませんよ」
「そうか、なら教えてやるよ。俺の名はディード、ランクは冒険者の中でも上位、Aランクだ。Aランクの肩書をもっているおかげで、今ではギルドで俺を知らない奴なんていないぜ」
「あっそうですか、それじゃあ」
「おいてめぇ!俺に対してその態度、いい度胸してんじねえか!どうやら自分の立場っていうもんを教えなきゃいけねえみたいだな!」
そう言うと、ディードという男は拳を振り上げる。すると、その様子を見ていた女性が受付から慌てて慎也たちのところへ走ってきた。
「ちょっと何してるんですかディードさん!」
「エ、エテラさん!?いやぁ、これはそのぉ・・」
「あなたのような実力者が暴力沙汰を起こして、ギルドへの信頼を薄めるようなことになったらどう責任をとるんですか?たしかにあなたはすごいです。しかし、それとは逆に心が狭すぎます!このくらいのことでキレたら嫌われますよ!」
「うぅ・・わかった。すまんかった少年」
「い、いえ、お気になさらず。こちらこそあなたにあのような態度をとってすみません」
その言葉を聞くと、ディードはギルドを出て行った。
(なんだあの変わりよう?あのディードっていう人、もしかしなくてもこの人のこと好きでしょ。まぁ美人ではあるけど)
慎也はエテラという女性の容姿を見る。顔はとても整っており、目はとても綺麗な水色の瞳しており、それに合わせるように髪色も水色で染まっていてその髪をゴムのような物で結びポニーテールをつくっている。
「本当にすみません。ディードさん最近クエストが中々達成出来なくて機嫌が悪いようなんです」
(なにそれただの八つ当たりじゃん。俺そんなのに巻き込まれたの?)
「そうだったんですか。助けていただきありがとうございます。えーっと、エテラさん?でいいですか?」
「はい。それであなたは?」
「昨日冒険者になったばっかの慎也と申します」
「慎也さんですね。あなたもあまり問題を起こさないでくださいね」
「わかりました」
その返事に満足したのかエテラは受付へ戻っていった。
(エテラさんか、やっぱりあーいう人って人気あるのかな。まあ俺には関係ないか)
そう思い、再び掲示板の方へ向かった。
「あー疲れた」
あのあと、薬草採取とスライム討伐のクエストを達成して街へ戻った慎也は外が暗かったこともあり、宿で
部屋を借りてベットに寝っ転がっていた。
(そういえば金ってどのくらい残ってのかな)
慎也は立ち上がり机の上に置いてあるリュックから小さな袋を取り出し、中身を出す。中からは金貨4枚と銀貨15枚、銅貨9枚が出てきた。
(こんだけあれば一ヶ月くらいは大丈夫だろ。さて、明日はどうしようかな?流石にずーっとスライム討伐や薬草採取をやるわけにはいかねえし。アティス様が言っていたこの世界に入ろうとしている奴と戦うかもしんねえし・・・よし!血とかに慣れるためにも明日はゴブリン討伐だ!てことで寝よ)
慎也はそう思いベットに横になり、眠りについた。
(ああやべ、緊張してきた)
翌日慎也は今、昨日スライムのイムと戦った草原の近くにある森の前に立っていた。この森は街の門を出て北東に進むとあり、山を囲んでいて慎也の討伐目標であるゴブリンたちがその山を掘ってそこを巣にして繁殖しているため、冒険者は皆この森のことをゴブリンの森と呼んでいる。
(いや、ここで立ち止まっても仕方ないし行くか!)
慎也は自分の頬を叩き気合いを入れて、森の中へ歩き出した。
(全然見つかんねんだけど?どゆこと?)
慎也がゴブリンを探し始めてかれこれ10分は森の中をさまよっているが、一向に見つかる気配がない。
(もう帰っていいかな?流石に探すのめんどくさくなってきたし、別にゴブリン討伐なんて明日でも出来るんだし今日はキャンセルしてスライム討伐とかしよっと・・・いやちょっと待てよ。もしこれクエストキャンセルとかしたら課題を最初からやり直しとかってあるのかな?あるんだとしたら今日ゴブリン討伐終わるまで帰れないじゃん!)
慎也がそんなことを考えていると一つの声が森に響き渡る。
「こっちに来ないでください!!」
「え、ちょ何?なんだよ一体?」
慎也が声のした方へ目を向けると、数メートル先で見覚えのある女性が、緑色の肌をした身長70cmぐらいで、二足歩行の腰に布を巻いた6体の生き物に囲まれていた。
(あれ?ちょっとやばくね!?)
慎也は全速力でその場へ向かった。