ハーツの過去
魔物との戦闘を終えて約1時間後。森を抜けた3人は平原を歩いて着々と目的地の山へと近づいていた。
「レイルさーん!あとどれくらい歩くんですかー?」
「このペースで行くなら到着は明日になるだろうね」
「マジですか」
「マジだよ」
「えぇ・・」
「まあ頑張れ慎也。これが終わったらお前は自由の身だ」
「逆に言えばこれが終わるまで俺に人権無し?」
「ないね」
「ないな」
(訴えようかな)
「お!前方にスライムと戦ってる冒険者たちを発見!」
「見た感じ新米だな。動きが鈍い」
「俺も最初はあんな感じでしたねぇ・・」
「よし!ここは先輩としてサポートしよう!てことで行ってくる!」
そう言うとレイルは冒険者たちのところへとダッシュで向かって行った。
「俺たちも行きます?」
「いや、レイルに任せておいていいだろう」
「そうですか」
(まあ今あの人冒険者たちにアドバイスとかしながらスライム剣で弾いてるしな、大丈夫か)
「あ、そういえば」
「ん?どうかしたか?」
「聞くの忘れてたんですが、なんでエリシアさんも連れてこなかったんですか?エリシアさんとレイルさんがいればどんな敵も一瞬だと思うんですが」
聖女であるエリシア。その実力はあの戦争で慎也も把握している。だからこその疑問なのだ。
「あれ、本人から聞いてないのか?」
「何も聞いてませんよ」
「あいつあの箱に閉じ込められてから魔力管の調子が悪いらしくてな、魔法が発動しない時や暴走する時があるみたいなんだ」
「あの箱というと・・・呪いの檻ですか」
グラドスが油断したエリシアを閉じ込めるのに使った呪いの檻という魔道具。それから出てからエリシアは魔力管の調子が悪いようだ。
「俺たちに迷惑かけまいと今回のこれを断ったんだ」
「そうだったんですか」
(エリシアもいれば楽だと思ったのに。まあ魔物が来たらレイルに丸投げでいいか)
それから数分すると満足気な笑みを浮かべたレイルが2人の元へ帰ってきた。
「いやぁ待たせたね」
「終わったんなら先に進もう」
「ああ!」
「へーい」
3人は山に向けて再び歩き出すのであった。
時は進み、辺りがすっかり暗くなった頃。未だに平原を歩いていた3人は近くの森で焚き火を囲んでいた。
「ふぅ、歩いた歩いた!」
「もうクタクタですよ」
「ここまでの長距離を歩いたのは久しぶりだな」
「お、そうだ!」
何かを思い出したかのようにレイルは持参してきた鞄から水筒のような物を取り出す。
「なんですかそれ?」
「この日のために私が作ったスープだ。2人ともそろそろ腹も空いてきただろ?」
「え・・」
「ん?どうしたハーツ君?」
「いや、てっきりレイルはそこら辺の魔物をやって食うと思ったから、変な部分食わないように解体用のナイフを持ってきたんだが・・」
「君は私を肉食動物とでも思ってるのかね?」
「とりあえず腹も空きましたし、レイルさんのスープ飲みましょ」
「それもそうだね」
レイルはさらに鞄から3つのコップを取り出し、そこに2人の分と自分の分のスープを入れていく。
「ほい、これはハーツ君の」
「あんがとな」
「これは慎也君のね」
「ありがとうございます」
「それじゃあさっそく・・・ん、さすが私だな」
「・・・うまい、だと!?」
「ハーツ君いい加減にしないと君のその弓叩き斬るよ」
「たしかに美味しいですね」
「どれくらいだい?」
「そうですね・・・毎日俺のご飯を作ってほしいくらい」
「それはもうプロポーズとして受け取っていいのかな?」
「いや例えなんですから間に受けないでください」
「レイルが結婚したら世界中が大騒ぎだな」
「まあ私ほどの有名人が結婚となると騒ぎなるだろうな」
(ハーツさんがそういう意味で言ったわけじゃない気がするのは俺だけだろうか)
それからも他愛もない話をする3人。気づけば話はハーツとレイルの出会いの話になっていた。
「そういえば私が君たちと出会ったのがちょうど4年前か。時間が過ぎるのも早いねぇ」
「4年前というと・・・まだ俺が冒険者だった頃だな」
「あーたしかハーツさん、矢操の狩人って言われてたんですよね」
「・・・ふ」
「おい今お前笑っただろ。あれは周りの奴が勝手に名付けただけだ」
「と言いながら、当初は異名を持てたことを自慢していたがな」
「昔の話だ。今思えばくっそ恥ずかしいわ」
「あ、そうだ。まだハーツさんがなんで冒険者をやめたのか聞いてませんでした」
「あー・・・そういえば前に話すって言ったな」
「話しても大丈夫なのかい?」
「聞かれて困ることでもないしな。そんじゃ話すぞ・・」
こうしてハーツは自分が冒険者をやめた理由を語り始めた。
これは3年前のことだ。俺とディードは所謂幼馴染でな、昔から仲が良くて冒険者になってからもパーティーを組んで一緒にクエストに挑んでたんだ。
『おいハーツ。ほんとにこっちに標的がいんのか?』
『情報によればこっちなんだが・・』
その日も俺たちはSランク昇格のためにクエストのターゲットである魔物を探してたんだ。そんな時だ、あいつが現れたのは・・
『・・ん?誰かそこにいんのか?』
俺たちの目の前に突如現れた魔物。冒険者なら誰もが知っている。
『お前は!』
『なんでここに四天王が!』
魔王軍四天王最強の魔物、イルディスだ。その時の俺たちは奴から感じ取れた魔力の大きさに怯えていた。
『なんだ人間か。今まで戦ってきた奴らに比べたら中々じゃねえか』
(なんて魔力だよ!これが四天王最強の魔物なのか!)
『て、てめえ!やるならやるぞ!』
『ほう・・』
『お、おいディード!』
『勝てないことくらい分かってるわ!だかこっから尻尾巻いて逃げてもどうせ追いつかれて殺されるだろ!』
『良い判断だ。この俺相手に冷静に対応できたことは褒めてやる。そんな貴様らには死をプレゼントしてやろう』
『っ!来るぞ!』
こうして俺たちとイルディスとの戦いが始まった。しかしはっきり言って勝負にはならなかった。俺たちの攻撃はほぼ躱されたり、弾かれ、当たったとしても奴の体に傷をつけれることはなかったな。逆に奴の攻撃はその時の俺たちにとって全てが即死級の威力で俺たちは奴の体に傷1つつけれずに倒れた。
『これで終わりだ人間ども』
『くそぉ・・』
『ハーツさん!ディードさん!』
『2人とも大丈夫かい!?』
正直もう終わりだ!って思った時に俺たちの戦闘の音を聞いて駆けつけてきたエリシアとレイルが来て、2人でイルディスと戦ってなんとか奴に致命傷を与えることができてな、奴を退かせることができた。だが2人もかなりの重傷で、エリシアがテレポートを使えなかったら魔物の餌になってたな。
「そんなことがあったんですか」
「いやぁあの時の戦闘は今でも忘れないね」
「忘れたくても忘れらんねえよ」
「しかもイルディスの恐ろしいところは、3年経った今でも四天王最強の座にいるってところだね」
「そうなんですか」
(イルディスやば。絶対戦いたくねえな)
「そろそろ続き話すぞ」
「あ、お願いしまーす」
エリシアのテレポートでギルドに戻った俺たちは数日ギルドで安静にすることを命じられた。そして数日後・・
『よし!体も治ったしクエストに行くぞハーツ!』
『・・・』
『ん?どうしたハーツ?』
『なあディード。俺さ、ここのギルドマスターをすることにしたわ』
当時のギルドマスターはかなり歳がいっててな、俺のことを見込んで新しいギルドマスターなってくれって頼まれたんだよ。
『は?』
『だからこれからお前1人頼む。もちろんお前やエリシアたちには世話になったからな、出来る限りの支援をさせてもらうつも・・』
『ざけんなよ!!!』
だがディードにとって俺がギルドマスターになることが気に食わなかったらしい。あそこまでキレたディードを見たのは初めてだったな。
『俺たち2人で世界を救おうって約束はどうすんだよ!もしかしてイルディスにやられたってだけで怖気ついたのか!』
『・・・』
『なんとか言えよ!』
『・・だよ』
『あ!?聞こえねえよ!』
『そうだよ!!俺は怖気ついたんだよ!』
『っ!』
その時の俺はかなり精神的にきててな、反射的にディードにキレちまった。
『あんな実力差を見せられたら怖気つくに決まってんだろ!それにあいつはあくまで四天王、魔王はあれよりさらに上なんだぞ!!』
『だから魔物を倒してレベルを上げて・・』
『そんなので世界が救えたら今頃この世界に魔物なんていねえよ!』
『っ!だからって諦めんのか!ギルドマスターっていう安全な立場に逃げんのか!』
『ああそうだよ!俺はもう魔物と戦う気はない!』
『!・・・ああそうかよ。なら今日で俺たちは終わりだ!てめえがギルドマスターになって何をしようが知らねえぞ!』
『俺こそ!てめえが魔物に殺されても知らねえよ!』
『それじゃあ俺はクエストに行くから。じゃあな、"ギルドマスター"』
『ああ、さっさと行きやがれ』
その日を境に俺とディードの仲は最悪になった。エリシアとレイルがなんとか仲裁しようとしたきたが、全て無駄に終わった。そして俺はギルドマスター、ディードは冒険者っていう、別々の道を進み出したんだ。
(なんかどっちも悪いとは言えねえな)
「あの時は私もエリシアも頑張ったんだけどねぇ」
「でもそう考えると不思議ですね」
「何がだ?」
「2人は今も仲が悪いのに、今ハーツさんはディードさんのために今こうして旅に出てることですよ」
「・・たしかにな。きっと心のどこかで申し訳なく思ってんだろ」
「お、これは仲直り出来そうかな」
「知らねえよ。てか明日も歩くんだからさっさと寝ようぜ」
そう言うとハーツはその場に寝っ転がり、目を閉じた。
「それじゃあ私たちも寝ようか」
「そうですね」
ハーツに続いて2人も寝っ転がり、眠りにつくのであった。




