本当の始まり
「『トラストレイン』!」
『そんなもの!』
ハーツの放った1本の矢が数十本に増えて矢の雨となってグラドスに降る。しかしグラドスは手に持つ両手の剣と背中の2本の剣で全ての矢を弾き落とす。
「『グランドスラッシュ』!」
『弱い!』
ディードの放った斬撃もグラドスの剣に貫かれ、消滅してしまう。
(2人同時に戦ってんのにあいつめっちゃ余裕そうじゃん。これ大丈夫なのか?)
『チャントスキルを使った途端この様か。やはり我ら四天王を相手に出来るのは聖女と剣姫だけのようだな』
「はぁ・・はぁ・・」
「くそ!これだから格上は嫌いなんだよ!」
『さて、そろそろお前らの相手も飽きてきたし、さっさと四肢切断して終わらせるか』
「!ディード来るぞ!」
「んなことわか・・」
ディードの言葉を遮るようにその場の誰にも追えないほどのスピードで2人に急接近したグラドスは、背中の剣を2人に飛ばす。それになんとか反応出来たハーツは躱し、ディードは斧でガードする。
(やべえ全然動きが見えなかった!)
「なんてパワーだよ!」
「『ホーミングアロー』!」
ハーツは反撃しようと3本の矢を放つが、1本目2本目とグラドスは頭を傾けて3本目をしゃがんで躱し、ハーツに急接近する。
「なに!?」
『おらよっと!』
グラドスは拳を放ち、その拳がハーツの腹部目掛けて飛んでいく。速すぎて反応が遅れてしまいガードできなかったハーツは拳をもろに喰らい、後方にぶっ飛ぶと同時に腹部を激痛が襲う。
「ぐはっ!」
「ハーツ!この野郎!」
『威勢はいいが、それだけじゃどうにもならんぞ』
ディードは斧を何度も振り、グラドスに連続で攻撃するが全て軽く防がれてしまう。
「くそがああ!『岩壊斬』!」
武技発動によって強化された斧を勢いよく横に振るが、グラドスは左手の剣を逆手に持って攻撃を余裕な表情で防ぐ。
「なに!?」
『結局所詮この程度か。『デビルトラスト』』
グラドスの背中から鎖で繋がれた剣が紫色の光を纏い、そのままディードへと1本の光線となって放たれる。至近距離だった上にスピードが速かったためガードも出来なかったディードは胴体にその光線を受けながらハーツのいる方へとぶっ飛ばされていった。
「ディード!」
(おいこれまずくねえか?このままだと2人ともやられるんじゃないか?)
「く・・そ!・はぁ・・はぁ」
痛みに耐え、息を切らしながらもディードはなんとか立ち上がる。すると鎧の攻撃を受けた部分が壊れ、穴が開く。
「チッ、この鎧も買い替えか」
「この戦いに勝てたらの話だけどな」
「で?これどうすんだ?このままだと普通にやられるぞ」
「・・・仕方ないか。ディード、あれやるぞ」
「あれって・・・・!まあ今はそれに賭けるしかないから賛成だが、それでなんとかなるのか?」
「やってみねえとわかんねえが、たぶん無理だろ」
「そんな堂々と言うことかよ」
『なんだなんだ!?もう諦めちまったのか!?』
「んなわけねえだろ!今から俺たちの最高火力をお前にぶっ
込む!四天王らしく受け止めてくれよ!」
『!・・・ふ、面白い。ならさっさとその技を俺に放て』
「言われなくても!」
そう言うとハーツは弓矢を構え、『ドラゴントラスト』を打つ体勢に入る。一方ディードも自身の魔力を全て斧に注ぎ込んでいる。
(なんかすごいことしようとしてない!?俺離れた方がいいかな?)
「いくぞディード!」
「わかってる!」
「『ドラゴン・・」
「『グランド・・」
「「・・トラスト(ブレイク)!!』」」
2人の武技が同時に放たれ、グラドスへと一直線に向かっていく。すると2人の放った武技がお互いに引き寄せられ、そして1つになった。
「これが俺たちの!」
「最高火力!」
「「『ドラゴンブレイク』だ!」」
『・・・』
2人の放った『ドラゴンブレイク』はグラドスを完全に捉えている。するとグラドスは4本の剣に鎖を通じて魔力を込める。そこから紫色の光となった魔力が出てき、グラドスの前に集まり1つの光の球となる。
『そちらが本気言うのなら、俺もそれに応えよう』
そして2人が放った『ドラゴンブレイク』がグラドスの目の前まで来た瞬間・・
「『ヘルブレイク』!」
グラドスは両手で光の球を押し出す。すると光の球は光線となって『ドラゴンブレイク』を貫き、そして2人の方へと猛スピードで向かっていった。
(嘘だろ!?2人のスキルをあんな簡単に!)
「ぐっ!躱さねえと!ディード、動け・・」
「今ので魔力が切れて動けねえ!お前だけでも行け!」
「っ!?何言って・・」
「今となっては剣姫とあのガキが人類の希望なんだろ!?ならお前が生き残ってしっかりとあいつを守りやがれ!」
『2人まとめて死にやがれー!』
「・・・っ、くそおぉぉぉぉ!!」
ハーツは自身の弱さを悔やみ、声を上げながら『ヘルブレイク』の射線上から外れ、ディードだけがそこに残った。
「ふ、それでいい。それでこそハーツだ」
ディードがそう言った瞬間、ディードの体は『ヘルブレイク』に飲まれていった。
「ディードぉぉぉぉぉ!!!」
『はーっはっはっはっは!1人ダウン!あとはてめえらだけだ!』
(あんなに強い人をあっさり倒すなんて、これが四天王!)
「この野郎!『トラストレ・・・っ!」
攻撃を仕掛けようとしたハーツだったが、突然その場に膝をつく。
「ハーツさん!」
「なんで、体が!?」
『無理に魔力を使おうとしたからだ。てめえはさっきの攻撃で魔力が切れてるっていうのに、無理矢理魔力を使おうとしたんだ。当然体がそんなこと許すわけねえだろ』
「くそぉ・・」
『さて、てめえはそこで見とけ。お前らの希望が無くなる瞬間を』
(っ!こっちに来・・)
慎也が自身に殺意が向けられたのに気付いた頃にはグラドスはすでに慎也の目の前に移動していた。
『全てが遅い!』
「ぐはっ!」
グラドスは慎也が認識できないほどのスピードで慎也の腹部を2発殴る。そしてそれによって浮いた慎也の体を横から勢いよく蹴り飛ばす。
「げほっ・・げほっ・・」
(痛え、ガードする暇も無かった。こんなんどうすればいいんだよ!)
『やはりスキルが使えない奴は雑魚だな。それじゃあさっさと死んでもらうか』
そう言うとグラドスは倒れている慎也に容赦なく剣を勢いよく飛ばす。
『これで残り1人か』
(こんなところで終わるのか・・)
慎也の死を確信したグラドスは今度はハーツの方に体を向ける。そしてグラドスの放った剣が慎也の頭に突き刺さった。
・・・と、思われたが、剣は別のものに刺さってしまった。
『!?なんで魔物であるてめえが人間のそいつを庇う!』
「え?・・」
慎也はゆっくりと顔を上げて、剣に刺さったものを見る。その瞬間、慎也の中には驚きと悲しみ、そして得体の知らない何かが生まれた。
「イ・・ム・・?」
それは先日、慎也がこの辺りから追い出したスライムのイムであった。
『チッ、この裏切り者が。まあいい、もう一度やればどうせ殺せる』
「イムが・・・俺を庇って死んだ?」
『それにしても、まさかてめえが誰かに守られねえと生き残れないような奴だったとはな。魔王様が焦るほどのスキルを使う奴だからと期待していたんだが、残念だ』
(・・そうだ、俺は今回守られてばっかだ。さっきのオークとスカルマジシャンの時だって、ミリユさんがいなかったら死んでいたし。そして今も俺を守るために戦った人が1人やられた。あいつによって・・)
慎也の中にある"何かが"徐々に増幅していき、慎也の中からその何かが溢れ出してくる。
(そうだ。あいつが、あいつがみんなを!あいつさえしなければ!あいつがあいつがあいつがあいつがあいつがあいつがあいつが!!!)
『それじゃあ今度こそ死んで・・・っ!?』
再度トドメを刺そうとしたグラドスだが、僅かな慎也の変化に気付き攻撃を止める。
『なんだ!?急に魔力が!?』
「しん・・や・?」
「お前さえいなければぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
今の慎也の全てが吐き出されたような咆哮と共に、慎也の体は黒いオーラに包まれた。
「お前だけは、絶対に殺す!!」
その瞬間、周囲に慎也の膨大な魔力が伝わった。
そしてこれが慎也の、世界を救う物語の本当の始まりであった。




