時間稼ぎ
(うーわ残りハーツさんと知らない人か。時間稼ごうにも完全に俺足手まといになりそう。頼むから謎の声よ、俺に『ブーストアイ』を使わせてくれ!)
必死に懇願するが謎の声からの応答は無い。
(・・・ダメだこりゃ)
『なんだ雑魚が死にに来たか』
「いやんなわけあるか」
「おい慎也!お前がこいつと戦うにはまだ早い!今ならまだ間に合うからどっかの街に逃げるんだ!」
「おいハーツ、なんだよ急に慌てて?」
ハーツの慌て様に困惑するディード。するとグラドスがハーツの言葉に反応する。
『慎也?・・・!そうかてめえが慎也か!』
(あーそういえばあいつ俺のこと知ってるんだっけ?やっべなんか真っ先に殺しに来そうだな)
『魔王様にお前を優先的に殺せって言われてるからな。わざわざ殺されに来てくれてあんがとな』
「いや別に殺されに来たわけじゃ・・」
『それじゃあさっそく死ねえ!』
「っ!『ホーミングアロー』!」
物凄いスピードで慎也に斬りかかるグラドスをハーツの咄嗟に放った矢でなんとか阻止する。
(なんだ今のスピード!?全く反応出来なかった)
『チッ、邪魔すんなよ』
「邪魔するに決まってんだろ。エリシアが閉じ込められた以上そいつを殺させるわけにはいかねえ!」
「お、おい!なんであいつにそこまで言うんだよ!わかるように説明しやがれ!」
「あいつの持ってるチャントスキルがSランクなんだよ!わかったか!」
「あ、ああわかっ・・・あ!?」
状況が理解できていなかったディードもハーツの簡潔な説明である程度理解するが、驚きを隠せない様子。
(うわーハーツさんめっちゃ大声で言うじゃん・・・あれ?そういえばこの場って今上空から見てんだよな?しかも俺が見てる時ちゃんと音声も入ってたし・・・よし、もう考えるな俺!)
『やはりそうか。なら尚更こいつは殺さねえといけねえな』
(わーおグラドスの殺気が増していくぅ!・・・ちょっとそろそろふざけるのやめるか)
「んなことさせると思うなよ!『アロードール』、『トラストレイン』!」
ハーツは矢を上に放ち矢の雨を降らせる。そしてその矢たちを1つ1つ操りグラドスの周りを包囲する。
『なるほど。なかなかのスキルだな・・』
「おらくたばれ!」
『だがその程度では・・』
矢をグラドスに集中砲火するが、鎖と剣によって全て弾かれてしまう。
「くっ!」
『この通り少しもダメージを与えられずに終わっちまう』
「これならどうだ!『空裂斬』!」
(!やっば!)
ディードもすかさず大きな斬撃を放つ。慎也は咄嗟に躱そうとしゃがむが、グラドスはその場に立ったまま動かない。それどころかグラドスは迎え撃つ体勢をとっていた。
(こいつ何やって・・!)
『すぅー・・・はあ!』
その瞬間、グラドスが力強く剣を飛ばし、ディードの斬撃を貫き消滅させた。
「なに!?」
『その程度の攻撃、聖女のと比べたらゴブリンレベルだぜ』
(えぇ、どうすんのこれ?剣姫来るまで時間稼げるかな?俺ちょっと不安になって・・・いや今こいつ完全に俺のこと弱いと思って敵と見做してないから、今攻撃したらいけるんじゃないか?)
グラドスが油断している今がチャンスだと思い、慎也は右手に魔力を込める。
(俺が今出せる最高火力!『スラッシュストーム』は・・・使いたくない!)
『そしててめえは・・』
「『フレイムボム』!」
(剣はレベル差で弾かれるだろうが、魔法ならいくらかいけるだろ!)
グラドスが慎也の方に振り向こうとしたタイミングで慎也はオレンジ色の球を放つ。グラドスは特にガードもせず、そのまま魔法が当たり、その瞬間小規模の爆発がグラドスを襲った。
『・・論外だ!』
(え、嘘だろ!?)
爆煙を手で払い、そこから出てきたグラドスは一切の傷を負っておらず、そのままグラドスは慎也に向けて拳を放つ。
(まずい!)
慎也は反射的に両腕でガードして出来るだけダメージを減らすが、慎也の腕を襲ったダメージと衝撃は尋常ではなく、慎也は後方にぶっ飛ばされる。
「いっった!」
『おいおい今のはほんの4割の力だぜ?それなのに痛いとかどんだけ弱えんだよ』
「俺にとっちゃお前が何割出そうがバケモンには変わらねえんだよ!」
(今のガード出来てなかったら、こんなダメージじゃ済まなかったな)
「『グランドスラッシュ』!」
『おっと』
後ろからディードが放った斬撃が地面を斬るようにグラドスへ向かっていく。それをグラドスは易々と剣で2つに切断して消滅させる。
「チッ!」
『やはりお前ら人間は聖女や剣姫のような強力なスキルを持っている奴がいなければ無力だな』
(おいこれ時間稼ぎ以前に俺が弱すぎてなんか足引っ張ってる感じになってるんだけど)
「・・・仕方ないか」
(なんかハーツさんため息ついたんだけど。もしかして俺が悪い?)
「おいディード!」
「あ?んだよ・・」
「不本意だが、正直この状況を打破するにはお前と俺で連携を取るしかない!」
「ああ!?誰がお前なんかと!」
「だが今はそれしかない!」
「・・・チッ!あああもうしゃーねえな!今回だけだぞ!」
(てか今更だけどあの人って前にギルドでハーツさんに喧嘩腰だった人じゃん。やっぱり知り合いだったんだな)
「ハーツ!先に行かせてもらうぞ!」
そう言うとディードはグラドスに向かって走り出す。
「あいつ先走りやがって!『ホーミングアロー』!」
ハーツもディードに続くように3本の矢を放ち、ディードの後を追わせる。
「おらいっちょ!」
『そんな攻撃!』
ディードは斧を大きく振ってグラドスに攻撃するが、グラドスは易々と剣で弾き返し、そのまま鎧ごと胸部に剣を突き刺そうとする。
「させねえよ」
しかしそれを阻止しようとハーツの矢が一斉にグラドスに飛んでいく。仕方なくグラドスは剣を引っ込めて後ろに飛んで矢を躱す。
「ナイスだハーツ!」
それを追いかけるようにディードは斬りかかる。グラドスは咄嗟に左手の剣を鎖で飛距離を伸ばしながら横に振るがディードは上空に飛んで躱し、そのままグラドスに飛びかかり、斧を振りかぶる。
「重いの1発いくぜ!『岩壊斬』!」
『!』
武技が発動し、白く光り出した斧をディードは落下と同時に勢いよく振り下ろす。それに合わせてグラドスも右手の剣でガードし、2つの武器がぶつかり合い、それと同時にその衝撃が風となって周りに伝わる。その瞬間、グラドスの足下の地面を中心に周囲の地面が凹み、ひびが入った。
(おーマジか!あの人の攻撃力つよ!)
「なに!?」
『火力は良い。だが俺にはとどかん!』
そう言い放つとグラドスは斧を押し返し、すぐさまディードの脇腹に蹴りを入れる。
「ぐっ!」
ぶっ飛ばさせたディードはすぐに受け身を取り体勢を立て直す。
(うわー痛そうだなぁ。やっぱ戦いたくねえな)
「大丈夫かディード?」
「人の心配より今は自分を優先しろ!」
『次はてめえだ!』
「っ!『トラストレイン』!」
向かってくるグラドスに矢の雨をお見舞いするが、グラドスは俊敏な動きで矢を躱し、矢の雨の中を掻い潜っていく。
『おら1発目!』
「くっ!」
グラドスはハーツの顔面目掛けて剣を飛ばすが、ハーツに易々と躱される。
「そんな攻撃当たるかよ!」
『・・それはどうかな』
「なに?」
(!ハーツさんもしかして気付いてないのか!?)
「ハーツさん後ろ!」
「後ろ?・・うわマジか!?」
飛んでいった剣がUターンして向かってくるのを、慎也の指摘で気付いたハーツは咄嗟にしゃがんで躱す。
『チッ、あの小僧地味に邪魔だな』
「サンキュー慎也!『ホーミングアロー』!」
「俺もいくぜ!『空裂斬』!」
ハーツの放った3本の矢とディードの放った斬撃が同時にグラドスに向かっていく。
(決まったか!)
『そんな攻撃でやれると思うなよ!『暴風剣』!」
スキルが発動するとグラドスの右手に握られた剣が風を纏う。その剣をグラドスが大きく振ると、大きな竜巻が現れ、2人の攻撃を巻き込んでそのまま2人の方へと向かっていく。
「なに!?」
「あいつまだスキルを!?」
(おいおいマジかよ!)
なす術なく2人は竜巻に巻き込まれ、別々の場所に吹き飛ばされ、地面に勢いよく叩きつけられる。
「ぐはっ!」
「ぐっ!」
『さあどうするてめえら!まだやるか?』
「マジか、もうそんな時間経ったのかよ」
(なんであいつスキル使えたんだよ!?もう魔力はないんじゃなかったのか!?)
『・・・てめえその顔、どうやら俺がスキル使えたことを不思議に思ってんな』
「あ、ああ・・」
「このど素人が!なんで尚更ここに来たんだよ!」
(わぁ!あんま知らない人にめちゃくちゃ正論言われた!)
「慎也!この際だから説明しといてやる!」
「あ、はい!」
「魔力ってのは時間経過で回復するもんだ!俺たちが日常的な食事、睡眠、その他もろもろは全て回復の補助に過ぎない!さらに、レベルが高ければ高いほど魔力の回復は速くなる!エリシアやこいつレベルとなると10分もあれば3割近く回復するだろう!」
「へ、へぇ・・・ってあれ?てことは・・」
「ああ!こいつと戦い始めてもう5分以上は経っている思う!つまり今のこいつの魔力は、エリシアと戦う前となんら変わらない!」
(マ、マジか・・)
『ご名答!正解したお前には地獄を見せてやる!・・『リムマーダー』!』
そう唱えるとエリシアとの戦いの時のように背中から2本の剣が魔法陣を通して出てくる。
「チッ!今1番使ってほしくないもん使いやがった」
『さあ!あの聖女と互角に張り合ったこの力に、お前らはどう戦う!』
その瞬間、辺りにグラドスの邪悪な笑い声が響き渡った。




