冒険者たちの意思
翌日、それは突然の出来事だった。街にいる冒険者たちがギルドに緊急招集され、エリシアはもちろんのこと、慎也やライル、リアも呼ばれ、現在はハーツの登場を待っているところだ。
「急に冒険者を全員集めるって、何かあったのかな?」
「ほんとだよな。それにエリシアさんまで呼び出すんだから、相当なことだろ」
(ハーツさん、一体何があったんですか)
「あ!ハーツさん来ましたよ!」
リア声で、周りにいた冒険者たちの視線が階段を降りてくるハーツに向けられる。そしてハーツは冒険者たちが揃っていることを確認すると、ここに招集した理由を話し始める。
「みんな、急に呼んですまない!実はな、この街の未来が左右するほどの緊急事態が発生した!」
その一言でギルド内の冒険者たちがどよめく。
「未来が左右する?」
「一体何が・・」
「おい!早くその緊急事態ってのを話せよ!」
「慌てなくても話してやるから静かにしろ!」
冒険者たちが静かになったのを確認すると、ハーツは懐から昨夜見つけた立方体の魔道具を取り出す。
「とりあえず今から流すのを聞け」
そう言うとハーツは昨夜と同じように魔道具のスイッチを入れる。すると魔道具から音声が流れ出す。
『よお冒険者の諸君。俺の名前はグラドス。魔王軍四天王、肢裂のグラドスだ。この前はよくも俺の部下のデビルウルフを殺ってくれたな?そのせいで俺の軍の戦力がかなり落ちちまったじゃねーか。たしか殺ったのは聖女だったよな。お前は絶対に許さねえからな!・・・・っと、話は変わるが、実はそのこと魔王様に話したらな、ある2つのことを理由に軍を動かす許可をもらったんだ。だから今現在、俺は軍をお前らのいる街に進行させてるんだ。どういうことかわかるか?戦争だよ戦争!6日後、俺たちの軍がお前らの街に到着する。それまでにどうするか考えるんだな!・・・・・・・あ、そうそう。魔王様が許可してくれた理由だがな、1つは聖女を殺し、人類側の戦力ダウン。そしてもう1つは・・・・慎也という冒険者が持っている『ブーストアイ』というスキルだ。なぜか分からんが、そのスキルのことを言ったら魔王様が急に焦り始めてな、正直その時は俺も内心パニックになったぜ。そんじゃあ6日後に会おうぜ、冒険者の諸君」
そこで音声は止まった。今の話を聞いた冒険者たちは騒ぎ始める。もちろん慎也も、予想以上の事態に頭がパニックになってしまう。
「どうしようライル!6日後この街に魔物の大群が攻めたくるんだって!」
「どうするったって、俺ら程度がどうにかできる問題じゃねえだろ」
(やばいな、異世界に来たんだから多少のトラブルはあると思ってたが、まさか戦争が起こるなんて。それにこの戦争の原因が俺の『ブーストアイ』?こいつがまだSランクのスキルとはあっちにはわかってないはずだ。てことは他になんかあるのか?あーもう次から次へと頭がパンクするわ!)
皆が皆、騒ぎ立ててる中、1人の冒険者がみんなに聞こえるようにハーツに質問する。
「ハーツさん、大変な事態なのはわかりました。それで私たちをここに呼んだ理由はなんですか?」
その冒険者とはエリシアである。内心、この状況で騒がないとはさすが聖女、と感心しつつも、ハーツはようやく本題を話し出す。
「みんな、今のを聞いた通り魔物の軍勢がこの街に迫ってきている!そこで、みんなには2つの選択肢がある!1つは、この街を見捨て、逃げること!もう1つは、この街に残り、魔物の軍勢を迎え撃つことだ!どうするかは自分たちで決めてくれ!」
「どうするか決めるって・・」
「そもそもそれが嘘っていう可能性はないのか!?」
「俺もそう思ったが、魔道具で確認すると街を出て北にかなり進んだところで大量の魔物が迫ってきてるのが見えた」
「見捨てたくねえけど、死にたくないしな」
「私はまだやりたいことがいっぱいあるのに」
冒険者たちの顔が一斉に暗くなる。中にはこの街で生まれ育った者や、家族や友人がいる者がいるだろう。そのことから見捨てたくないという気持ちが生まれるが、それは同時に自分の命を危険に晒すということでもあるのだ。そしてその中にはライルとリアも含まれている。
「この街のために戦いが、俺じゃすぐにやられちまうし、でもだからといって逃げるわけには・・」
「うーん・・」
(こいつら完全に迷ってるな。まあ俺はこの街に特に思いとかないからいいけど、こいつらにとってはこの街は大切なんだろうな)
「慎也さんはどうするんですか?」
「ん?俺か?俺は・・」
(正直なところ戦争とか面倒くさいから残りたくないんだけど、さすがにそれ言ったらこいつら落ち込むかな?どうするか・・)
皆決断が出来ず、ギルド内は重苦しい空気が漂う。しかしそんな中、エリシアの一言で皆の意思が1つになる。
「私は残りますよ」
それを聞いた冒険者たちの視線が一斉にエリシアのほうに向けられる。
「残ってくれるのか?正直今回はお前でもキツい1件だぞ?」
「そんなの分かっていますよ。四天王にやられた冒険者は数え切れないほどいるとも知っています。だからこそ、その方たちのために今回で仕留めておきたいんです。そうじゃないと、今まで死んでいった冒険者が報われません」
『・・・・』
ギルド内の冒険者たちがエリシアの言葉を黙って聞いていた。すると1人の冒険者が・・
「俺、残ります!この街を魔物ごときにめちゃくちゃにされたくないです!」
っと叫ぶ。するとそれを聞いた冒険者たちが、次々と「俺も!」「私も!」と残ることを宣言していく。
「そうだよな。今までにいろんな人が殺されてきたんだ、今ここで逃げたとしてもいずれ殺される。ならここで魔王軍の戦力を削いで、1人でも死人を減らしてやる!」
「そうだよね!私たちも残ろう!」
(うわ、もうこれ俺も意思関係無しに残る感じやん!どうしよう、今のうちに神にでも祈っとくか?どうか今回の戦いで死にませんように!ってフラグか)
冒険者たちの意思が1つになり、ギルド内は先程までの重苦しい空気は無くなり、今では熱気が支配している。
「てめえら・・・よし!なら今から、魔物の軍勢に備えて作戦会議を始める!」
『うおおおおおお!!!』
こうしてギルドは作戦会議の場となった。
(あーもういろいろとめんどくせえ。今からでも遅くない、別の街に逃げ・・)
「逃げれませんよ、慎也さん」
「エリシアさん、あなたはエスパーかなんかですか?心読まないでください」
「心なんて読んでいませんよ。ただ慎也の表情から読み取っただけです」
「そっすか。それでエリシアさん。真面目な話、こっちに向かってきてる軍勢の中には四天王ってやつもいるんでしょ?勝算はあるんですか?」
「・・・正直キツいですね。今までいろんな高ランク冒険者が挑み、その中にはSランク冒険者の方もいました。しかし今のところ全敗。魔王側の戦力を減らすどころか、逆にこちらの戦力が大幅に減少させられています。でも・・」
「でも?」
「なんかこの光景を見ると、そんな不安も吹き飛んでしまいます」
エリシアの視線の先には、笑いながら会議の準備をしている冒険者たちの姿があった。
「これから戦争だっていうのに、あの人たちには不安っていうものがないんですかね」
「私たちも行って手伝いましょうか」
「えーめんどくさ」
「つべこべ言わずに、さあ」
「わかりましたよ」
慎也は渋々エリシアについて行き、準備の手伝いをした。




