地獄の追跡者
・・・エリシア視点・・・
「この洞窟ですね」
「おそらくはな」
慎也とリアが眠りについて数時間後。辺りもすっかり暗くなった真夜中の森。ライルに話を聞き、急いでギルドを飛び出したエリシアとハーツは、オークたちが拠点として使っていて、慎也が潜入した洞窟の前に来ていた。
「それにしても、まさか見張りのオークがすでに殺されていたとは」
「まさか慎也か?たしかあいつはまだDランクだったはず、オークを相手にするにはまだ早い気がするが」
「慎也さんはこの前、無数のゴブリンとゴブリンウォーリアーを倒したのでしょう?でしたら、Cランク冒険者並みのレベルになっていておかしくありません」
「それもそうか」
「それより急ぎますよ。慎也さんとリアさんが心配です」
「りょーかい」
2人は駆け足で洞窟の中へと入って行った。
薄暗い洞窟の中、2人は壁に立てかけられている松明の光を頼りに、奥へと進んでいる。その道中では慎也が倒したオークたちの遺体が無数に転がっていた。
「うわ、あそこにも死体が。慎也の奴どんだけ暴れたんだよ」
(ここまで少なくとも30体はいたはず。それをたった1人倒すとは、もう慎也さんCランクどころか、Bランクにしてもいいくらいですね)
「お、エリシア。なんか開けた場所があんぞ。あそこで終わりじゃねえか?」
「行ってみましょう」
2人は走るスピードを上げ、開けた空間に入る。そこは、数時間前に慎也とオークキングが戦った空間である。
「見たところ慎也さんの姿はありませんね」
「いねえってことは、もうリアって奴と洞窟を出たんじゃねえか?」
「そうだといいんですが・・・あ、あれは!」
エリシアは隅に置いてあったリュックに近づき、中身を確認する。
「これは・・」
するとリュックのサイドポケットから慎也の冒険者カードが出てくる。
「ん?それって誰かリュックか?」
「おそらく慎也さんのでしょう。冒険者カードも入っていたので間違いないと思います」
「まったく慎也はバカだな。自分のリュックを忘れちまうなんて・・」
ハーツはやれやれと、呆れたように顔を横に振っているが、その傍らでエリシアは口に手を当て思考を巡らせていた。
(ほんとに忘れただけでしょうか?冒険者カードは冒険者をやっていく上でとても大切な物。それにこれは身分を証明する時にも使用できるので、そう簡単に手放さないはず。それにリュックには他にも着替えやお金も入っていたし、そんな大切な物が入ってるリュックを忘れるなんてあるんでしょうか?かなりの危機的状況に陥らない限りないと思いますし・・・というかそもそも洞窟にここまで侵入されている時点でおかしいですね。そんなことオークキングが黙って見てるわけがありません。そういえばここに来るまで、何か刃物のような物が引きずられた跡があったような・・)
エリシアは、今目の前にあるリュックとここに来る道中で見た刃物が引きずられて出来た跡、その2つを繋ぎ合わせ、1つの答えを出した。しかし、その答えはエリシアにとって最悪な答えだった。
(これはまずいかもしれません!!)
そう思ったエリシアはすぐに立ち上がり、洞窟の出口に向かって走りだした。
「え、お、おい!」
それ見たハーツは慌ててエリシアを追いかけた。
「おいエリシア!なんだよ急に走り出して!」
「このままだと慎也さんが危ないんです!ハーツさん急いで!」
「慎也が危ないってどういうことだよ!わかるように説明してくれ!」
「まず、あのリュックです。あの中には慎也さんの冒険者カードや着替え、お金が入ってました」
「それはさっき聞いたが、それがどうしたんだ?」
「おかしくはありませんか?中身は生活していく上で大切な物ばかり。そんな物を忘れるなんて、相当危険な状況じゃない限りはないと思います」
「たしかに、言われてみればそうだな」
「次に、先程から地面にある跡です」
「跡?たしかになんか引きずられた跡みたいなのがあるが・・」
「そこで思い出してほしいのは、オークキングが使用している基本の武器です」
「えーっと、たしか大剣だったはず・・」
「そうです。そしてこの亀裂は先程の空間で途切れている。つまりオークキングはすでに慎也さんと遭遇している可能性が高いです」
「いや、それだけじゃまだわかんねえだろ」
「それじゃあ1つ聞きますね。ハーツさんは自分より実力が遥かに上の相手が現れたらどうしますか?」
「ん?そりゃあ逃げ一択だろ」
「大抵の人はそうですね。では、逃げる際に自身の荷物が入っているリュックを背負っていたとします。それをハーツさんはどうしますか?」
「そりゃあ逃げるのに邪魔だから置いていくが・・・あ!」
「やっと気付きましたか。簡単にまとめると、慎也さんは自身より格上であるオークキングと遭遇してしまい、やむおえなくリュックを置いて逃げたんです。しかし、それをオークキングが許してくれるわけがありません」
「てことは・・」
「そうです。今慎也さんは・・
オークキングに追われているんです!」
・・・慎也視点・・・
「あ、そういえば・・」
リアが何かを思い出したかのように口を開く。
「ん?どしたリア?」
「昨日から聞こうと思ってたんですが、慎也がオークキングに使ったあの『スラッシュストーム』と『ブーストアイ』って、一体なんなんですか?一応スキルみたいだったみたいでしたけど、どちらも聞いたことがありません」
「あーそうか、うん。そりゃあ気になるよな」
慎也は少し考えたあと、別に話してもいいかな?と思い、リアに説明する。
「まず『ブーストアイ』な。これは俺のチャントスキルだ」
「へぇー。慎也さんも持ってたんですね」
「ん?も、ってことは」
「あ、私は違いますよ!持ってるのはライルです」
「ライル持ってたのか。ちなみに名前は?」
「『リメインスラッシュ』です」
「え、それって武技じゃないの?」
「間違われがちですがチャントスキルです。効果としては、魔力を込めた剣を振ると、その振ったところ斬撃が残るというものです。その斬撃に触れると実際に剣で斬られます」
「最後雑!?でもまあ一応言いたいことはわかった。でもそれって初見の相手には効くが、2回目以降は当たらなくないか?」
「それたぶん大丈夫です。ライルは2回目以降、敵の周りに斬撃を設置して、逃げ道を塞いで戦うので」
「まあそれなら大丈夫・・・なのか?」
「というより話が脱線してますよ」
「あーそうだった。で、俺の『ブーストアイ』はSランクのスキルでな、効果は・・」
「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
「あ?なんだよいきなり」
「慎也さん、今自分何を言ったのかわかってるんですか!?Sランクって・・」
「ああ、エリシアさんと同じランクだな」
「エリシアさん!?まさか聖女様と知り合いだったとは・・・ということは剣姫様とも?」
「剣姫?その人は知らないな。というかスキルの話に戻っていいか?いつまで経っても終わらん」
「まあ詳しくは帰ってから聞きます。戻っていいですよ」
「ああ。んで効果は、自分のレベルの値の、2倍の値を全ステータスに加算するってもんだ。まぁ最初はあんまり強くないが、努力の積み重ねによっていずれは最強になるスキルだ」
「慎也さんって今レベルはいくつなんですか?」
「あ、そういえば冒険者カードリュックに入れっぱなしだった!やべー、今あの洞窟に取りに戻るってのは無理だろうし、どうしよう」
「それなら大丈夫ですよ。ちゃんと理由があって、カードを紛失した場合、ギルドで再発行できるので」
「そうなのか、なら安心だな」
「それで、次は『スラッシュストーム』の説明を」
「そうだな。『スラッシュストーム』はな・・・てあれは!」
説明しようとしたところで、慎也は前方に草原が見え思わず声を上げる。
「よっしゃー!やっと帰れる!」
「本当に長かったですね。早くにライルに会いに行かないと」
「そうだな。ほんじゃ急ぐぞ!」
「はい!」
駆け足で2人は草原へと向かった。
「っ!?」
しかし、その瞬間慎也はものすごい殺気を感じ、思わず立ち止まる。
(なんだこの感じ。さっきまで感じなかったのに・・って!)
「リア!」
「え?」
慎也はリアをすぐさま抱え、横に飛ぶ。その直後、2人が立っていた場所を3つの斬撃が通り過ぎた。
(今のは!)
慎也はすぐさま立ち上がり、斬撃が飛んできた方向を向いて身構える。
「慎也さん急に何を・・・っ!?」
慎也の視線の先にいる者を見てリアは驚きのあまり言葉を失った。しかしそれも無理ないだろう。なにせいたのは・・
『へえ、今のを避けるか。不意打ちには自信あったんだけどな』
昨夜、2人の前に現れたオークキングなのだから




