『スラッシュストーム』
(なんだあのゴブリン?どうしてこんなタイミングでここに?)
突然現れた敵に慎也は困惑している。そんな中、慎也の中に1つの疑問が浮かぶ。なぜここに?しかし、そんな疑問も数分前のことを思い出してなくなる
(・・・!ああそうだ思い出した!あいつはたしか俺が最初にこいつらを見つけた時に一緒にいたゴブリンだ!戦闘中に全然攻撃してこなかったから忘れてたよ・・・・ってこれ今挟み撃ちに遭ってない!?そういえばあいつは・・・!)
慎也は慌てて振り返る。すると、弓を持つゴブリンが慎也に向かって矢を放つ。その矢を慎也は慌てて盾で防ぐ。
(危な!あとちょっと気づかなかったらお陀仏だったな)
「グギャアア!」
杖を持ったゴブリンが慎也に木の杖を向けながら、奇声をあげた瞬間、木の杖から氷の刃が慎也に向かって放たれる。
(こっちも対処しねえといけねえんだった!)
慎也は杖を持ったゴブリンが奇声をあげた瞬間、そのゴブリンの方へ出来るだけ体を向ける。そしてゴブリンが放った魔法を弾こうと、剣を構える。
(いや、ここで剣が空振ったら俺死ぬし魔法で防ぐか)
そう思い、慎也は右手から剣を離す。しかし、その考えがいけなかった。
「『ウィングウォール』!」
慎也は右手を開き、魔法に向かって突き出し、魔法を唱える。すると風でできた緑色の壁が慎也と魔法の間に現れる。そしてゴブリンが放った氷の刃が風の壁に衝突する。
(よし、これで安し・・・・あれ?)
壁を出したことで慎也は一瞬安堵したが、それとは裏腹に、氷の刃が風の壁に当たっても微動だにしない。先程、慎也が『ウィングウォール』を使った時はゴブリンの体を吹き飛ばしたり、ゴブリンの放った矢を静止させることができたが、今回はまるで氷の刃が風の壁を突き破ろうといているように見える。
(・・・・おいなんか嫌な予感がするんだけど)
そしてその慎也の予感は見事に的中。風の壁に、氷の刃が衝突している部分を中心に、ひびが入る。そしてそのひびは時間が経つにつれ、徐々に広がり、そして・・・
砕け散った。
壁が無くなった氷の刃は、多少勢いがなくなったものの、それでも慎也に届く前に落下、というほどではない。
(嘘だろおい!?)
慎也は予想外の出来事に戸惑いつつ、慌てて盾で防ごうとする。しかし、その瞬間にゴブリンが矢を放ってきたら慎也は最低でも致命傷は免れないだろう。その考えが頭の中に生まれ、すぐさま盾を引っ込める。そして先程、魔法を使うために落とした剣を拾う暇もない。ならば、残された手段は、右手を犠牲にすること。
(クソッ!少しくらい我慢してやる!)
慎也は意を決して氷の刃に向かって右手を突き出す。そして氷の刃は、慎也の右手を貫いた。
「ぐああ・・っ!」
慎也は一瞬大声をあげそうになるが、なんとか声を押し殺す。
(痛い・・・凄く痛い。だが、ここで痛がってもこいつらが攻撃をやめてくれるわけじゃない。それよりも、まずはこの状況を変えないといけない)
放たれた矢を盾で防ぎ、向かってくる魔法をなんとか避ける。そうしながら慎也は状況を変えるべく、策を考える。しかし、時期に杖を持ったゴブリンは、氷で固定された左足に狙いを定め、氷の刃を放ち始める。そして、その内の1つが慎也の左足の太ももに刺さった。
「ぐっ!」
(まずはこの足の氷をなんとかしねえとマジでやばいな。この氷は火属性の魔法で溶かそうと思ってるが、その溶かす時間がないんだよなあ。なんか隙を作れる魔法なかったっけか?うーん・・・・あ!この魔法ならいけるか?)
慎也はゴブリンが弓を放ってきた瞬間を狙う。そしてゴブリンは慎也に向かって矢を放つ。それを慎也は容易に防ぐ。そしてその瞬間慎也は、杖を持ったゴブリンと自分との間に左手を向け、魔法を唱える。
「『ソイルボム』!」
「「グギャ!?」」
慎也がそう言うと、周りの風が茶色に変色し、慎也の左手の前に球を作るように集まり、放たれた。そして、その球が地面に触れた瞬間、辺り一帯を土煙が覆う。慎也が今使った魔法は、昨晩習得した土属性の魔法、『ソイルボム』である。これは基本的に目眩しに使うことが多く、慎也の今の状況にはうってつけの魔法なのだ。
(よし、この氷を溶かすなら今だな)
「『スプレッドフレイム』!」
慎也は凍った足に左手を向け、炎を放つ。そしてほんの数秒で氷は溶け、左足が自由になる。
(あとはこいつらを倒すだけだな)
「グギャア!」
しかし、そう思ったのも束の間、土煙がゴブリンの魔法によって吹き飛ぶ。
(こいつ風魔法も使えんのかよ!?ゴブリンとは思えねえ強さだな)
「グギャッ!」
「うおっ!?」
煙が完全に晴れた瞬間、弓を持ったゴブリンが慎也に向かって矢を放つ。慎也は咄嗟に横に躱し、頬に掠る程度で済む。
(打開策を考えてる間に少し観察してたが、あいつは矢を放った瞬間大きな隙が出来る。仕留めるなら今だ!)
慎也は弓を持ったゴブリンに向けて左手を突き出す。
「くらえ!『アイスブレード』!」
慎也の左手から氷の刃が勢いよく放たれる。そしてその刃は、ゴブリンの頭を貫いた。
(あとはこの魔法使いか)
「グーギャア!グキャア!グギャア!グギャァア!」
(っ!?マジかよ!)
残ったゴブリンが慎也に向けて、仲間の仇!と言わんばかりに、慎也に氷の刃や水の球をがむしゃらに放つ。慎也はその魔法を盾でなんとか防ぐ。状況はまさに防戦一方である。
(クソッ!このままだと埒が明かないな)
何か打開策を考える慎也。それとは裏腹に、徐々に冷静さを取り戻してきたゴブリンが、また新たに魔法を放つ。その魔法は氷の刃や水の球ではなく、『ウィングショット』のように、周りの風を集め、白い球を生成する。そして慎也に向かって勢いよく放った。
(あれはたしか、『スノウボール』だっけか?効果とかド忘れしたけど、盾で防げば問題ないか)
慎也はその魔法に対して盾を構える。そしてゴブリンが放った魔法は盾に当たった瞬間、破裂するように無くなった。
(?え、『スノウボール』ってダメージ与える系じゃないの?)
慎也は不思議に思い、盾を見る。
(え、ちょ、なんで凍ってんの!?)
慎也の盾の表面は、魔法が当たったところから侵食するように凍っていた。そしてそれに追い討ちをかけるようにゴブリンは氷の刃を連発する。
(結局こいつは何がやりたいんだ?)
ゴブリンの行動に疑問を浮かべながらも慎也はゴブリンの魔法を盾で防いでいく。しかし、5発目の刃を防ぐと盾から、ピキッ、と不穏な音が鳴る。
(あれ、なんか今盾から音が・・・・まさか!?)
慎也は気付いたが、時すでに遅し。6発目、7発目とゴブリンは容赦なく氷の刃を放つ。そして10発目の刃が盾に衝突する。その瞬間、慎也の盾は、パリン!と音を立てて砕け散った。
(マジかよ!?)
盾の消失に慎也は困惑する。しかし、ゴブリンは容赦なく魔法を放ち続ける。慎也はその攻撃を近くの木の後ろに隠れ、なんとかやり過ごす。
(あ、あぶねー!しかしまさか盾が壊れるとは思わなかったな。このまま避け続けてあいつの魔力が切れるのを待つのもいいが、万が一の場合があるからなー。これ以上の怪我は出来るだけしたくないし、ここで勝負を決めに行くか?)
慎也はこの戦いに勝利するためにも思考をフル回転させる。すると、慎也の頭の中に1つの魔法がよぎる。
(『スラッシュストーム』・・・・正直これは使いたくないんだけどな。だってほら、習得条件がクソって言うほど怪しいんだもん。だがそれとは別に、どんな魔法か気になる自分もいる・・・・チッ、仕方ねえ。やってやんよ!)
慎也は覚悟を決めて、木の後ろから姿を現し、ゴブリンのいる方向に左手を突き出し、魔法を唱える
「『スラッシュストーム』!」
慎也がそう言い放った瞬間、慎也の左手の前に、風で緑色の球が生成され、放たれる。それに対してゴブリンは、迎え撃とうと氷の刃を放つ。
(あれ、見た感じ『ウィングショット』と変わんねえな。もしかして大したことない?)
慎也は内心少しがっかりしながらも次の策を考える。しかし、慎也はこの『スラッシュストーム』という魔法を甘く見ていた。慎也の放った緑色の球とゴブリンの放った氷の刃が衝突する。すると氷の刃がその場で勢いを無くし、地面に落ちる。
(うん、やっぱり大したこと・・)
慎也がそう思った瞬間だった。
なんと、衝突した場所を中心に、そこから周りに風で出来た斬撃が無数に放たれた。
(マジかよ!)
放たれた斬撃のスピードが速く、慎也は木の後ろに隠れる暇が無く、斬撃を喰らってしまう。慎也の腕や足、胴体に無数の切り傷ができる。そしてその斬撃が慎也の目に命中する。
「ぐああああああ!!!」
(クソ、甘く見てた!『スラッシュストーム』がここまで危険な魔法だなんて・・!)
そしてとうとう斬撃は止んだ。慎也の体は、防御力のおかげもあってか、浅い傷で済んだが、腕だけでも傷の数は10個近くあった。しかし、そんな傷の中でも慎也が辛いと思うのは、左目の傷だろう。
(・・・・・止んだ、のか。あの魔法のせいで俺の体すごい有様だな。それに傷が痛むせいで左目が開けれねえし、クエストの討伐証明のためにゴブリンの首を持って帰るとか言ってたけど、首を切り取るほどの力が出るわけねえし、クエストはキャンセルかな。『ヒール』は・・・使えないか。『スラッシュストーム』で魔力を一気に消耗し過ぎたんだな)
慎也は危うい足取りで、落ちている剣のところまで歩く。
(鞘は・・・・さっきの魔法のせいで切れてるか。まああれって布で出来てたからな、切れても仕方ないか。そうなってくると剣は引きずって行くしかないのか・・)
そう思い、剣を手に取って今度は茂みの中に置いておいたリュックのところに行く。
(回復ポーションは・・・・ってねえか。クソ、買わなかった過去の自分を恨むぜ。しかし、どうするか。正直に言うとリュックを背負って歩くほどの体力が今の俺には残ってない。それに右手は綺麗に穴が空いてるから、あまり刺激したくない。そうなるとリュックか剣をここに置いていかないといけない。いやまあ普通に考えてリュックだな。服とか金入ってるし)
慎也は剣を置き、リュックを引きずりながら、その場を後にする。
慎也は傷を負った足でなんとか歩いていき、気づけば草原が見えるところまで来ていた。
(あとちょっとで草原か。なのに俺の体は今にも倒れそうだよ)
今にも倒れそうな程、慎也の体は限界を迎えている。それでも慎也は歩き続ける。そしてとうとう森を脱出し、草原に出た。
(よし、あとは街まで歩けば・・!)
しかし、草原に出たことで気を抜いてしまい、足がもつれて、その場に倒れてしまう。
(ああクソ・・・やばい、めちゃくちゃ瞼が重い。ダメだ。ここで寝るな・・)
しかし、押し寄せてくる睡魔に抗えず、慎也の瞼は下がっていく。
(も・う・・だめ・・)
慎也は必死に抗うが、それでも瞼は下がっていく。そして、とうとう慎也は諦めてしまう。
(・あ・れ・・?)
薄れて意識の中、慎也の視界に一つの動く青い物体が入る。その物体は飛び跳ねながら慎也に近づいて行く。その光景を最後に、慎也の意識は闇の中へと落ちた。




