残った罪人
「ふぁ〜あ」
退院した翌朝。休日ということもあり、のんびり過ごそうと考えていた慎也だったが、朝食が切れていたので買い足しに近くのコンビニへ向かっていた。
「てかマジで寒いな」
(こうなるならちゃんと確認しとくべきだったわ。早くコンビニ行こ)
季節はもう冬。出来るだけ暖かい服で出た慎也だったが、それでも冬の寒さには敵わず、慎也は暖房の効いているコンビニへと急いだ。
「あ〜あったか」
(やっぱ四六時中開いてるコンビニって最高だな)
そしてコンビニについた慎也はパンのコーナーへと向かった。
(さーていつものジャムマーガリンを・・)
「・・ない、だと」
いつも食べているパンが無かった慎也は落胆するが、気を取り直して他のパンを覗き込む。
(チッ、しょうがねえ。今日はチョコパンで許してやるか)
そう思って慎也は今日の朝食を選抜する。そんな慎也だが、選ぶのに集中して他に人がいることに気が付かなかった。
トン
「ああ、すみません」
「いえ大じょ・・ひっ!」
(いや俺泣いちゃう。ぶつかっただけで悲鳴とかメンタルにクリティカルヒットだぞ)
ぶつかっただけで小さな悲鳴を上げられて心にダメージを負いながら、慎也はぶつかった人の顔を見た。
「・・あ」
("牧本"やん)
そこにいたのは、いつもと違いプライベートの格好だが、メガネをかけて陰の雰囲気を醸し出す牧本であった。ただのクラスメイトならすぐに忘れる慎也だが、球技大会で少しいざこざがあったこともあり、記憶に強く残っていた。そして慎也に対して恐怖を感じている牧本は、相手が慎也とわかった瞬間体を震わせ始めた。
「え、えっと、その・・」
(いや怯えすぎだろ。まあ自分でもあれはやりすぎたなとは思うけど。とりあえず適当になんか言うか)
「牧本か、きぐ・・」
「し、失礼しました!」
そう言って牧本は急いでレジへと向かい、会計を済ませると足早でコンビニを出て行った。
(・・なんだあいつ。ここまで怖がられるなんて初めてだぞ。でもまああれは自分でもやりすぎたって思ったし、あの反応はしょうがないのか?)
そう思いながら、慎也はパンを選び終わり会計を済ませるとコンビニの外へと出た。
ヴー!ヴー!
「ん?」
そのタイミングで、ポケットに入れていたスマホが振動し、それに気づき慎也はスマホを取り出す。その振動は着信を知らせるもので、画面には亮太の名前があった。慎也は不思議に思いながらボタンを押して電話に出た。
(なんだこんな朝っぱらから?)
「もしもし?」
『お、起きてんのか。てっきりまだ爆睡中かと思ったぜ』
「じゃあ電話して起こそうとすんなよ。で、用件はなんだ?」
『ああそうだ。今日暇か?』
「ゲームで忙しいわ」
『そうか!なら◯◯公園にサッカーしに行こうぜ!鈴川も誘うからさ』
(あれ俺の話聞いてた?普通にスルーされたんだけど)
「はぁ、わかったよ。何時だ?」
『10時で頼む』
「りょーかい」
そう言って慎也は電話を切った。
(・・まあ明日のんびりゲームすればいいか)
そんなこんなで、指定の時間になり2人と合流した慎也は亮太の言った通りサッカーをしていた。
「よーしまた俺の勝ち!」
(なんで身体能力格上の俺がボコボコなんだよ)
「いくら村上君でも、技術がある森塚君には勝てませんよ」
「圧倒的な能力差を埋める技術ってなんだよ・・・まあいいや、ちょっと疲れたから休憩する」
3人がサッカーを始めてすでに1時間ほど経っており、ぶっ通しでやっていたせいか疲労が溜まり慎也はベンチに座り込んだ。
「そんじゃ鈴川やるぞ!今度は負けねえからな!」
「私も手は抜きませんよ」
(亮太はまだしも、なんで鈴川は退院したばっかであんな元気なんだよ。普通は退院後も安静にしとくもんだろ・・・いやあいつに普通は通用しないんだった)
「・・それにしても、やっぱこの公園人気だな」
3人が来た公園はかなり大きな公園で、休日ということもあり周りには子供連れの家族や、3人のように友達と遊ぶ人達で賑わっていた。
(俺も将来家庭持ったらあんな風に出掛けたりすんのかな。いやでもまず相手が・・・いやいるわ。告白されて答えを待ってもらってるのが3人いるわ。でも付き合うからって結婚するわけじゃないしなぁ・・)
「ふぁ〜あ。眠いしちょっと寝るか」
そんなことを考えながら、寝よう目を閉じる慎也。するとそんな慎也に向けて・・
ズドン!
「ぐはっ!」
(え!?なになに!?)
綺麗な円弧を描きながらサッカーボールが飛んできて、慎也の腹にクリティカルヒットした。完全に意識を手放そうとしていた慎也は突然の痛み目が覚めて体を起こした。
(なんだサッカーボールか。てっきりリオンズの奇襲かと思ったぜ)
痛みの原因がわかって安心していると、ボールの持ち主であろう2人の少年が走って来た。
「ごめんなさーい!」
「健太蹴りすぎなんだよ!」
(こいつらのボール)
「1回目は許すが、次は許さんからなガキども」
「「はーい!」」
(・・てか保護者らしき人見当たらないけど、こいつらだけか?)
「おいお前ら、親はいないのか?」
「健太の姉ちゃんならいるぞ」
「ならその姉ちゃんに、ちゃんと見張れって言っとけ」
「わかりました!」
そう言うと健太という少年はボール持ち、友達を連れてどこかに行った。
(はぁ、やっと寝れる。全く、子供から目を離すなよな)
そう思いながら、慎也は再び目を閉じた。すると今度はボールではなく1つの足音が近づいて来た。
「すみませ〜ん。弟がボールを・・・ひっ!」
(おい謝罪の途中で悲鳴をあげるな。俺ってそんなに怖いか?)
足音の正体であろう人物は、最初は腑抜けた謝罪をしていたが、相手が慎也だとわかると小さく悲鳴をあげた。
(初対面の相手に悲鳴あげるとか、親の顔が見てみたいぜ全く)
そう思いながら、慎也は目を開けて声のする方を見た。
「・・は?」
するとそこには、なんと顔を青ざめながら慎也を見ている"牧本"であった。