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世界渡りの少年  作者: 憧れる妄想
第二世界 第五章 堕ちた王と氷狼
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氷人




『それにしても、人間の感情のエネルギーを吸収したからとはいえ、まさかこんなになるとはな』

「っ・・」


突然変異を遂げ人間となった白狼。引き締まった体に、首からは自身の元の体の体毛で出来た毛皮のマフラーが掛けられており、髪は一切の汚れなき白髪。その姿を見て白狼自身、少しがっかりしているようだった。


『・・まあいいか。むしろこっちの方がお前相手には戦いやすそうだしな』

(こいつ、姿だけじゃなくて持ってるエネルギーみたいなのもめっちゃ増えやがった。さっきみたいにいけるかこれ?)


余裕をかまして準備運動している白狼とは対照的に、慎也は白狼の変化に驚きながらも警戒していた。そして怜の回復を終えると、立ち上がって剣を構える。


「ありがとうございます、村上君」

「鈴川、離れとけ。こいつはお前の力が通用するほど甘くなさそうだ」

「わかりました。ご武運を」


そう言って怜は2人からかなり離れたところまで移動する。それを見た白狼は準備運動を止めて慎也の方に向く。


『話は終わったようだな』

「なんだ?待っててくれてたのか」

『俺は優しいからな。お前とあの女の最後の会話くらいさせてやるよ』

「姿が変わったからって俺は倒せるってか?」

『ああ。『エペグラス・プラン』』


白狼は無数の氷の剣を自身の周りに生成する。


『んじゃ始めるか』

(正直こいつから感じるパワーだけじゃ、さっきとの差は正確にはわかんねえ。ここは一旦様子を見・・











グサッ!

「・・・は?」


突然の肩への激痛。それを慎也が認識して目を向ける時には、氷の剣は深く突き刺さっていた。


「ぐああああああ!!!」

「村上君!」

『あーすまない。喉ぶっ刺して喋れないようにしようとしたら少し横にズレてしまった。まだこの体には慣れてないもんでな。っと、剣も壊れちまった。氷の操作もまだ完全じゃねえか』

(なんだ今のスピード!?さっきまでより格段に速えぞ!こりゃ出し惜しみしてる場合じゃねえ!)

「『ブースト・・」

『させねえよ?』


慎也が『ブーストアイ』を発動する前に、白狼は慎也の懐に潜り込み腹部に拳を打ち込んだ。


「がはっ!?」

『まだまだぁ!』


慎也に怯む隙も与えず、白狼は慎也の体に連続で拳を打ち込む。そして最後は顔面に勢いよく蹴りを入れてフィニッシュした。


「ぐ・・あ・!」

『氷の操作が出来ていたら、今ので終わったんだけどな。まあこのまま殴り殺せばいいか』

(くっそ!マジで強え!隙作らないと本気出させてもらえないとかどんなクソゲーだよ!)

「『ブースト・・」

『だからさせねえって』


またもや慎也が『ブーストアイ』を発動する前に白狼が近づき腹部に拳を突く。しかし、今度は慎也も反応して拳を剣でガードした。


『お、誘ったな?』

「次はこっちの番だ!」


剣に魔力を込めた慎也は白狼に連続で斬りかかる。しかし白狼にはそれを余裕そうな表情で全て躱されてしまう。


(一撃でも入れて隙作ってそこから逆転しねえと!)

『遅いぞ村上慎也!俺も慣れてきちまった』

「!」


そう言って白狼は体を横にスライドさせると、地面から氷の棘を慎也の顔面目掛けて放った。


「っ!あっぶ・・ぐはっ!?」

『甘えよ!』


頭を傾けて棘を躱した慎也だったが、白狼の顔面への膝蹴りは躱すことが出来ず蹴り飛ばされてしまった。


『まだまだぁ!『エペグラス・プラン』!』

「っ!『ウィングウォール』!」


降り注がれる無数の氷の剣。それを慎也は風の壁で防ぐが、1本1本当たるたびに風の壁にヒビが入る。


「くっ!」

(なんちゅう火力に数だ!こういうのって数だけで火力はそこそこなんじゃねえのかよ!)

『そうだ頑張って防げ!全身穴だらけになりたくなかったらなぁ!』

(やべぇ、そろそろ割れる!)


壁に限界が来て、ついに慎也を守る物は無くなった。それを見た慎也は全て受け流そうと剣を構えた。しかし・・


「は?」


その瞬間、氷の剣は慎也の方を向きながら停止した。


(なんでこいつら止まって・・・っ!?)

「がはっ!?」

『剣に集中しすぎだ!』


困惑している慎也の腹部に突然衝撃が襲う。氷の剣に気を取られてしまっていた慎也はそれを躱すことが出来ず殴り飛ばされてしまう。


『おまけだ、受け取れ』

「っ!?」


飛んでいく慎也に、白狼は停止させていた氷の剣を慎也の方に向け、再び放った。


(やばい!全部防げな・・!)

「がああああああああ!!」

『ふははははははははは!!』


氷の剣を防げなかった慎也は、心臓は避けたものの体中を氷の剣が貫き、悲痛の叫びを上げる。


『あーダメだな。この姿になってから他人の苦しむ姿が面白く感じてしまう。さっきまではそうでもなかったんだけどな』

「ぐ・う・・ああ・!」

『やはり人間の感情のエネルギーを吸収した影響か。だが気分はいいし、良しとするか』

「はぁ・ぐ・・はぁ・はぁ・・」

『・・ではそろそろ終わらせるか』


そう言うと白狼は片手を上に挙げた。


『『エペグラス・アルム』』


その瞬間、白狼の挙げた手の上に周りの空気が冷気となって集まっていく。そして集まった冷気が突然晴れると、中から"上身が水色に輝く剣"が現れ、白狼はそれを掴んだ。


『ふ、悪くない』

「っ!んだよそれ・・」

『それじゃ、これで最後だ』


白狼がそう言うと、先程のように周りの空気が水色の冷気へと変化しながら、白狼の剣の上身部分に竜巻を作るように集まっていく。


(っ!やべえ!避けねえと・・!)

「ぐっ!」

(傷のせいで体が思うように動かねえ!)

『死ね!『グラスタンペット』!!』


剣を覆う竜巻が巨大化し、そしてその竜巻を剣と共に白狼は慎也へと振り下ろした。











・・・怜視点・・・


「村・・上・君」


目の前に広がる惨状に、離れたところから見ていた怜は絶望した。


「嘘、ですよね?こんなことって・・」


竜巻が振り下ろされた直線上、そして慎也がいたところには、無数の巨大な氷の棘が生えていた。


『声を上げる暇もなく死んだか。だが、これで俺たちの敵はいなくなったな』


戦場には笑みを浮かべながら白狼が立ち、慎也は竜巻に飲み込まれ氷の棘の中。そしてその慎也からは一切反応がない。これはつまり・・


「あなたが、負けるなんて・・!」


         "慎也の敗北"


その言葉が、怜の脳内を駆け巡った。慎也から返してもらった竹刀を持つ手の力が自然と無くなり、地面に落とすと共に、怜自身も膝から崩れ落ちた。


(・・ああ、思えばあっという間の数ヶ月でしたね。夏休み明けに村上君がここにやってきて、私が村上君の秘密を知り、私の生活もかなり変わりました。関わることのなかった森塚君や伊村さんと友人になり、いじめの件で一悶着ありながらも、無事に解決して原田さん達とも一緒にいる時間が増えて、波瀾万丈な数ヶ月でした)


敗北と共に決まった慎也の死。それを受けてか、慎也と出会ってからの出来事を思い出す怜。








・・するとそんな怜の"視界が歪み始めた"。


「・・え?」


驚いて怜は自身の目元に手を当てる。そこからは頬を伝って涙が下へと落ちていた。


(・・そうですか。私は村上君の死を悲しんでいるのですね。前の私ならありえなかったでしょう。それほど私は変わったんですね)


声を押し殺して慎也の敗北を悲しむ怜。すると、そんな怜の脳裏に"亮太や花乃、原田達の顔がよぎった"。


(・・もし、村上君が私の立場なら、ここで立つんでしょうね)


そう思って口角を上げると、怜は落とした竹刀を拾い上げると涙を拭って立ち上がった。


(私は村上君にはなれない。でも・・!)


勝ち誇っている白狼を視界にとらえ、覚悟を決めて怜は歩き出す。


(村上君が残してくれたものは守れる!)


そう意を決して、怜は白狼へと走り出した。


『さて、このあとはめんどくさそうな警察を皆殺しにして、そのあとは・・』

(油断してる今なら!)

『・・おいマジか』


後ろから不意をついて竹刀を振った怜だったが、白狼はそれを容易に躱し、逆に怜の腹部を蹴り飛ばした。


「がはっ!」

『お前正気か?ただでさえ村上慎也がやられたというのに、それより弱いお前が勝てると思ってんのか?』

「思ってるわけないでしょう」

『なら大人しく世界の終わりを・・』

「しかし!それが村上君の、そして私の友人を見捨てる理由にはなりません!!!」

『・・絆というやつか。村上慎也も、それで前の世界を救ったと聞いたな』


そう言うと白狼はニヤッと笑みを浮かべると剣を構えた。


『お前が絆を掲げて俺に立ち向かうなら、その絆の力を俺に見せてみろ!』

「望むところ!」


そう言い放ち、怜は白狼へと走り出した。




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