氷剣と鉄剣
『ふん!』
(魔力注入、竹刀強化!)
慎也は強化した竹刀を振り、向かってくる氷の刃たちを全て斬り落とす。
『・・なるほど。先程の発言はハッタリではなかったというわけか』
「はぁ・・はぁ・・」
(この野郎、ずっと澄ました顔しやがって!この様子じゃまだ本気出してねえ感じか)
『さて、少しは真面目に相手してやるか』
「は?」
そう言って白狼は足の爪全てに氷を纏い、さらに尻尾にも氷を纏った。そして・・
『『ラムグラス』』
「っ!?」
そう唱えると、白狼は一瞬で慎也との距離を詰めて氷の尻尾を慎也の顔面目掛けて振った。
(はっや!?)
「ぐっ!」
咄嗟に慎也は間に竹刀を挟んで防御したが、衝撃に耐えきれずぶっ飛ばされて校舎の壁に激突してしまう。
(チッ!早いくせに威力高いとか反則だろ。もう少し様子見ようかと思ったが、『ブーストアイ』を解放した方がいいか?)
『どうした?お前の本気はこんなものか?』
「勝ってるからって調子乗りやがって!」
慎也は竹刀に魔力を込めて強化し、白狼に斬りかかる。しかし突然生えてきた複数の氷の棘に阻まれてしまった。
「あー邪魔!」
『近接戦闘は諦めたらどうだ?』
「ならお言葉に甘えて、『ドラゴンフレイム』!」
そう唱えると慎也の手から大きな炎の竜が白狼に向けて放たれる。それに合わせて白狼も同じ大きさの氷塊を放った。そして炎の竜と氷塊がぶつかり相殺され、それによって爆煙が2人の間の壁となる。
「『アクアファイヤ』」
それを利用し、慎也は白狼に聞こえないように小声で魔法を唱え、死角から無数の水の弾丸で攻撃する。
『くっ』
(お、何発かは当たってるな)
『この程度!』
そう言うと白狼は向かってくる水の弾丸を氷の刃で打ち消しながら慎也へと駆け出す。
(こっち来んのかよ!?)
『ふん!』
ある程度接近すると、白狼は氷を纏った爪と尻尾で慎也に連続で攻撃する。それを慎也は躱したり竹刀で防ぎ、ダメージを抑える。
(くそ!速くて防御で精一杯だな)
『あまり考えずに防御してると、こうなるぞ!』
「!」
白狼が上から氷の爪を振り下ろす。それを慎也は竹刀を横にして防ぐと、白狼は氷の尻尾でサマーソルトを決めて慎也の竹刀を上に弾いた。そしてそれと同時に無数の小さな氷塊を生成して慎也の体に向ける。
(やべ、ガード出来な・・!)
『戦闘中は常に思考を巡らせとけ』
白狼が呟いた瞬間、生成された氷塊たちが放たれる。そして氷塊たちは、竹刀を弾かれてガラ空きになった慎也の体に直撃した。
「ぐはっ!」
『もういっちょ!』
「っ!『ソイルボム』!」
白狼の追撃を阻止しようと、慎也は茶色の風で出来た球を白狼に向けて放った。その球を慎也は白狼に当たる直前に爆発させる。するとそこから大量の土煙が爆散して、辺りを覆って行った。
『2度も喰らうか!』
すると白狼は先程の反省を活かし、すぐさま体を回転させ尻尾で土煙を斬り払う。しかし煙が晴れると、そこに慎也の姿はなかった。
『!どこに・・!』
「『岩壊斬』!」
白狼が慎也を見つけるよりも先に、なんと慎也が上から降ってきて竹刀を振り下ろしていた。それに反応出来なかった白狼は頭に強烈な一撃をもろに受けてよろめいた。
『貴様・・!』
「お、やっと顔がマジになったな。調子に乗ってるからこうなるんだよ!」
『・・貴様も』
そう白狼が呟いた瞬間、氷の棘が慎也目掛けて地面から勢いよく生えてくる。咄嗟に慎也は竹刀でガードしたが、その棘は長く伸び続け、慎也を上空へと連れて行き消滅する。
『調子に乗るなよ!』
「っ!?嘘だろおい!?」
するとさらに上空から巨大な氷塊が隕石のごとく慎也目掛けて降って来る。空中で身動きが取れない慎也は竹刀で氷塊をガードするが、そのまま押されるように校庭へと飛ばされ、地面に押し潰されそうになる。
(あっぶね!押し潰されるとこだった!)
「おっら!」
慎也は足に魔力を込めて、目一杯の力で氷塊を蹴り飛ばした。すると氷塊は消滅し、それと同時に白狼も校庭にやって来る。
『今のを耐えるか』
「伊達に世界救ってないんでな」
『ではこれはどうかな?『エペグラス・プラン』』
そう言うと白狼は、自身の周りに無数の氷で出来た剣を生成して慎也に刃先を向ける。
「殺す気満々じゃん」
『当たり前だ』
そう言って白狼は氷の剣をマシンガンのように慎也に放つ。それらを慎也は魔力で強化した竹刀で次々と斬り落としていく。
(!これだんだんスピード上がってきてるな。ずっと守りに徹してたらいつか押し切られそうだし、攻めるか!)
攻めに転じようと、慎也は氷の剣を捌きながら白狼へと駆けて行く。
『そのまま守ってれば楽に死ねたのにな』
「そもそも死ぬ気ねえし!『ソイルボム』!」
『またそれか』
慎也の放った魔法が氷の剣に当たり、辺りに土煙が爆散して両者の視界を遮る。
(さっきは上から行ったからな。ここは真っ正面から・・)
「『グランド・・」
『『エペグラス・エノルム』』
その瞬間、白狼の目の前に巨大な氷の剣が現れ、土煙ごと慎也を薙ぎ払った。
「ぐはっ!?」
防御が間に合わなかった慎也は腹部を斬られながら横へとぶっ飛ばされ、吐血する。
「ごほっ!ごほっ!」
(なんだ今の!あいつの氷自由自在すぎるだろ!)
『2度も受けたんだ、対策はするさ。『エペグラス・プラン』』
「っ!」
『その体でどこまで捌けるかな?』
腹の傷を押さえながら痛みに苦しむ慎也に対して、白狼は容赦なく無数の氷の剣を放った。慎也は迎え撃とうと竹刀に魔力を込めるが、その瞬間竹刀にヒビが入る。
(さすがにそろそろ竹刀が限界か。なら!)
「『ブースト・・」
「村上君!」
「!」
自分を呼ぶ聞き慣れた声。それを聞いた慎也は氷の剣を躱しながら声のした方を見る。するとその方向から鞘に収められた慎也の剣が飛んできた。
(俺の剣!ナイスタイミングすぎんだろ!)
「サンキュー!"鈴川"!」
慎也は竹刀を捨てて飛んできた剣をキャッチし、鞘から剣を抜いて向かってくる氷の剣を全て捌く。
「勝ってくださいよ村上君!」
「当たり前だ!」
『余計な真似を・・・だが武器が変わった程度で戦況は変わらんぞ』
「やってみなきゃわかんねえだろ」
そう言って慎也は剣に魔力を込めて走り出す。それに合わせて白狼も氷の剣を無数に生成し、慎也に放った。
(こいつに何発も攻撃を入れれる隙なんてない。なら一撃で仕留める!)
「どんとこい!」
向かってくる氷の剣を受け流し、斬り落としながら進んで行く慎也。するとさらに氷の剣に加えて氷の棘が地面から飛び出してきた。
「は!?攻撃は1度に1つってのが常識だろ!」
『貴様の常識を押し付けるな。それにどんとこいと言ったのは貴様だろ』
「この野郎!」
文句は言いながらも、慎也は氷の棘と剣を紙一重で躱しながら進めている。
「・・ここぐらいか」
『?』
「『ソイルボム』!」
ある程度近づいたところで、慎也はこの日3度目の『ソイルボム』を放った。白狼が攻撃中だったため、すぐに辺りに土煙が爆散し、両者の視界を遮る。
『無駄だ、それはさっきで攻略済みだ。『エペグラス・エノルム』』
(上に飛んだら氷の剣で集中砲火喰らうだけだ。なら一か八か・・!)
『死ね』
そう言うと、白狼は巨大な氷の剣を横に振り土煙を薙ぎ払った。しかしそこに"慎也の姿はなかった"。
『上か。『エペグラス・プラ・・・っ!?』
正面にいないのであれば上しかない。そう思って白狼は上を見上げたが、"そこにも慎也の姿はなかった"。
『なに!?どこに!?』
「てめえには下って発想はないのか」
『!?』
白狼が声がした方を見ると、慎也が白狼の出した巨大な氷の剣の下から現れた。
(マジで危なかったけど成功だぜ!)
慎也の作戦、それは白狼の剣の下に隠れること。文字だけでは簡単に見えるが、なんと慎也は"白狼が剣を振る速度に合わせて自分の体を隠した"のだ。それも先ほど見た時に速度を覚え、今回もその速度であることに賭けた、かなり危険な作戦であった。しかしこれにより両者の距離はかなり縮まり、"お互い攻撃回避はほぼ不可能な距離になった"。
「もう何もかも間に合わねえぞ!」
『くっ!『エペグラス・プラ・・』
「先に準備してた俺の勝ちだ」
そう言う慎也の剣にはすでにかなりの魔力が込められていた。それを感じ取った白狼の表情は見るからに焦り出す。
『そのエネルギーは!?まず・・』
「終わりだ!『グランドブレイク』!」
白狼が自身を氷で覆うよりも先に、慎也は白狼に向けて剣を振った。するとその瞬間、剣から巨大な光線が放たれ、白狼を包み込んだ。
『ぐああああああああ!!!!』
白狼を包んだ光線はそのまま直進し、校庭の柵にぶつかり大爆発を起こした。
「はぁ・・はぁ・・」
(マジ強かったこいつ!でもなんとか『ブーストアイ』無しで勝てたわ)
「村上君!」
戦いを終え、疲れ果て座り込んでいる慎也のもとに怜が駆け寄って来る。
「鈴川ぁ!おんぶしてー!疲れたー!」
「あなたが皆さんに見られながらおんぶされたいと言うならいいですよ」
「・・やっぱいいや」
「素直でよろしい」
そう言うと鈴川は慎也に手を差し伸べる。それに甘えて慎也は手を掴んで立ち上がる。
「皆さんが待ってるでしょうし、行きましょうか」
「へーい。どう説明したもんかなぁ」
「まずは私みたいに受け入れてくれるか心配したらどうですか?」
「うっ!それもそうだな。はぁ、拒絶されたら俺1週間は寝込みそう」
「そうなったら私が慰めてあげます」
「え、なにそれ好きになりそう」
「冗談言ってないで急ぎますよ」
「へい」
そんな他愛もない話をしながら2人は皆の待つ学校へと歩いて行った。
『『エペグラス・プラン』』
グサッ!
「・・・え?」
その瞬間、前を歩いていた怜の横腹を氷の剣が貫いた。
「っ!?鈴川っ!!!」
「村・・上・君」
倒れる怜を慎也はすぐさま支えると、氷の剣を抜いて傷口に回復魔法をかけ始める。
『なに勝手に終わってんだ村上慎也。あの一撃で俺を倒せると本気で思ったのか?まあ、かなり効いたのはたしかだけどな』
(くそっ!浅はかだった!まだあいつ生きてるなんて!すぐに傷治して倒さな・・・・え?)
白狼のいるはずの爆煙の方に目線を向けた慎也は困惑した。なんとその爆煙には影が浮かび上がっていたが、浮かび上がってきたのは"人影"であった。
『それにしても、実力は確実に俺の方が上だったのに、まさかその差を思考と技術で埋めるとはな』
(こいつ、ほんとにあの狼か?)
『でも、この差はそんなんじゃ埋められないだろう?』
その瞬間、白狼を覆っていた爆煙が晴れた。しかしそこにいたは白狼ではなく、"白髪の男"であった。