明かされてしまった秘密
(・・マジか)
背後からの突然の威圧。慎也は冷や汗をかきながらゆっくりと後ろを振り返った。
「!」
するとその瞬間、なんと地面から氷の棘が慎也の顔目掛けて飛び出してきた。慎也は咄嗟に飛んでなんとか躱したが、棘は頬を擦り、それで出来た傷から出た血が顔の輪郭をなぞる。
『今のを躱すか。さすがは救世主といったところか』
「・・そう言うお前は、ショッピングモール振りだな」
突然の威圧の正体である者の姿が慎也の視界に完全に入る。そこには高さ5mほどの大きさを持つ、白色の毛で身を包んだ大きな白狼であった。
「お前喋れるようになったんだな」
『力が完全に戻ったんでな。そう言うお前は帽子ではなくなったのだな』
「帽子だといつか絶対バレるからな」
『たしかにな。それにそのサングラスには特殊な術がかけられているな。お前が村上慎也とわかっていても、第6感全てがそれを否定してくる』
(あ、そういう感覚なん?意外と恐ろし)
「神お手製の道具だからな」
『神の産物なら納得だな』
「だろ?」
『・・・無駄話はここまでだ』
「!」
その瞬間、白狼の殺気がその場を支配する。慎也は白狼から今まで戦って来たリオンズの兵隊たちより格段に強い力を感じ取り、身構える。
(剣は・・・取ってる暇ねえか)
「おい狼!なに俺を無視してんだよ!」
『まだいたのか』
「お前言ったよな!?この力があれば村上殺せるって!」
『俺はあくまで普通の人間なら殺せると言ったのだ。村上慎也が普通じゃなかっただけのこと』
(他の奴らからしたら俺普通じゃなかったのか)
「そんな屁理屈が通用すると思って・・」
『あ、それと力は返してもらうぞ』
そう言って白狼が大きく口で空気を吸い込むと、篠宮の体から冷気が出て来て、その冷気は白狼の口から体内へと入っていった。
「俺になにを・・」
『これで本当の完全復活だ。それじゃあお前は用済みだ』
「や、やめ・・!」
篠宮の声を無視して白狼は篠宮に向けて氷の刃を放った。
「黙って聞いてたけど、これは見過ごせねえな」
『・・お人好しだな村上慎也』
しかし慎也がすばやく篠宮を回収して氷の刃をを躱したため、篠宮は無事で済んだ。
「なんで俺を助けて・・」
「勘違いすんな。俺は自分を殺そうとした奴を助けるほど心は広くねえよ。でも、お前には聞きたいことがあるからな」
『それじゃ、お前を殺してからそのガキを殺すか』
「俺を殺す?やれるもんならやってみろ」
慎也は篠宮をその場から離れさせると、学校の荷物を隅に置いて手に魔力を込める。それと同時に白狼は自身の周りに無数の氷の刃を生成する。
『ふん!』
「『アクアファイヤ』!」
そして2人の攻撃が同時に発動し、水の弾丸と氷の刃がぶつかり合った。
・・・怜視点・・・
(この問題は・・・これですね)
場所が変わり学校の教室。今日はテストの日ということもあり、怜とクラスメイトたちは静かな教室の中でテストを受けていた。
(それにしても、どうしてこういう大切な日に寝坊するんでしょうか。何回か電話したのに出ませんし、いっそのこと起こしに行った方がいい気がしてきましたね)
「はぁ・・」
テストの問題を解きながら、慎也のなまけた態度に対して呆れてため息をこぼす怜。
そして数分後・・・
(あ、ここ間違えてますね。こっちは・・大丈夫ですね。次のページは・・)
超人の怜は制限時間を半分ほど残して問題を解き終わり、他の人より先に解き直しへとうつっていた。
(このページも大丈夫。次で最後・・)
ドカーン!
「・・え?」
突然の轟音。それと共に窓ガラスが震えるほどの衝撃波が飛んできて、クラス内がざわつき始める。
「え、なに今の?」
「爆発?」
「もしかしてまた怪物が出たんじゃないか?」
「じゃあ逃げねえと!」
「皆さん落ち着いてください!」
(・・村上君戦ってますね。こうなればテストどころじゃありませんし、私も加勢しに・・)
「!みなさん窓から離れてください!」
怜の咄嗟の声かけを聞いたクラスメイトたちはすぐさま窓から離れて行く。するとその直後・・
バリーン!ガッシャーン!
「がはっ!」
巨大な氷の棘に突き飛ばされて来た慎也が勢いよく窓ガラスを割って教室に入って来た。
「むらか・・!」
(危なかったです。危うく村上君のことを皆さんにバラすところでした・・・って、あれ?)
「村上君!あの"サングラス"は!?」
「え?・・・あ」
慎也に駆け寄りながら怜は指摘する。怜に言われて慎也は顔に手を当てた。しかしそこには"あるはずのサングラス"が無くなっていた。そしてそれは、慎也が"今まで秘密にしてきたことがこの場にいる者にバレた"ということである。
「たぶん戦ってる時に落ちたんだろ。でも今はそんなのどうでもいい」
「・・それほど今回の相手は強いんですか?」
「ああ。今までの奴らより格段に・・・っ!鈴川!」
「え?」
「『ウィングウォール』!」
慎也は慌てて怜を抱き寄せると、魔法で風の壁を生み出した。するとその瞬間、慎也が入って来た壁の方向から無数の氷の刃が入って来て慎也の風の壁にぶつかった。
「ぐっ!」
(!あれが今回の相手・・)
風の壁で攻撃を耐え続ける慎也の横で、怜は壁の穴から、氷の柱の上で慎也を見つめる大きな白い狼を視認する。
「・・鈴川。俺の家の2階、その奥の部屋に剣が置いてある」
「!・・わかりました」
「頼んだぞ」
そう言って慎也が怜に自身の家の鍵を渡す。
「村上君これを」
そう言って怜も慎也に自身の竹刀を渡した。
「なんで持ってんだよ。でも助かる」
「では頑張ってください村上君。終わったらお祝いでもしましょうか?」
「気が向いたらな」
そう言って2人はハイタッチを交わすと、怜は全速力で走り出した。
(私が来るまで持ち堪えててください村上君!)
・・・慎也視点・・・
※発言者の頭文字が入ります。
白『逃すか』
教室を出て行った怜の動きを先読みし、標的を慎也から怜に変えて氷の刃を準備する白狼。
慎「『スプレッドフレイム』!」
そうはさせまいと、攻撃が止んだことをいいことに慎也は風の壁を消して炎を白狼に向けて放った。すると白狼は氷の刃を消して、氷の柱を飛び降りて炎を躱した。
白『チッ』
慎「よそ見すんなバーカ!」
慎(・・さて、行くか)
?「し、慎也?」
慎「・・亮太」
慎也は自分の名前を呼ばれて後ろを振り返る。そこには状況が出来ていなくて困惑した表情の亮太と花乃、そして原田と瀬屈、岸井がいた。
原「あんたがあのサングラスの男だったなんてね」
花「今すぐ説明・・・ってのは無理かしら?」
慎「ああ。悪いけど状況が状況だ。これが終わったら
絶対に話はする」
亮「・・わかった」
瀬「待ってるからね」
岸「うん」
そう言って5人は避難すべく他のクラスメイトと共に教室を出て行った。
慎(・・さて、大切な友達のために行きますか)
慎「おい狼!俺は剣を持ってから本気なんだ。覚悟し
ろよ」
白『ほう、それは楽しみだな』
慎「んじゃ行くぞ!」
そう言って慎也は壁の穴から飛び出して、白狼に向かって竹刀を振った。