氷刃の殺意
(・・やべー寝坊した)
ある日の平日。起きるのが遅れた慎也はすぐさまベッドから出ると、制服に着替え始める。
(急がねえと。たしか遅刻しても途中から受けれたはずだし)
この日は慎也が友人たちと数日前から対策していたテスト日。そういうこともあって、慎也はいつもの遅刻より数倍焦りながら準備をしていた。
(げっ、鈴川からすげえ連絡来てる。学校ついたら起こられるんだろうな)
「行きたくねえ・・」
(でも行かねえともっと面倒なことになりそうだからなぁ)
着替え終わった慎也は昨日のうちに準備していた荷物を持って1階に降り、コンビニのパンを食べて朝食を済ませる。
(やっぱコンビニのパンうまいな。とくにこのジャム&マーガリンのパン、甘党の俺大歓喜)
一瞬で完食した慎也はパンのゴミを捨てて洗面所へ。そして顔を洗って歯磨きをして、ついに準備が完了した。
「よし、行くか」
洗面所を出た慎也は玄関に一直線で向かう。
(天気予報は・・・大丈夫だな。んじゃ学校にレッツゴー)
慎也は靴を履いて玄関の扉を勢いよく開いた。
「やっと出て来やがったな、村上」
「・・なんでお前がここにいるんだ?篠宮」
扉を開けた瞬間、外では制服姿の篠宮が待ち構えていた。
「お前に用があってきたんだよ」
(こいつ雰囲気変わったか?呼び方も地味に変わってるし)
「それなら学校でもいいだろ。わざわざテストサボってまで俺の家に来る必要は・・」
「人目につくと少々面倒だからな」
「・・というと?」
「お前には悪いが・・」
篠宮は何もないところにいくつもの氷の刃を生み出し、慎也へと向けた。
(!?こいつ・・!)
「ここで死ねえ!」
そして篠宮はその氷の刃たちを慎也へと放った。慎也はそれを咄嗟に篠宮を大きく飛び越えて躱し、開けて戦いやすい歩道に出た。
「チッ、どういう身体能力してんだ」
「まあ一応鈴川並だからな。そんなことよりも・・」
常人が持ち得ることが出来ない力を持った篠宮を警戒し、慎也は戦闘体制に入る。
「どうやってその力を手に入れたのか、吐いてもらおうか」
「お前が死ぬ直前に冥土の土産にでも教えてやるよ!」
そう言って篠宮は慎也に向けて再び氷の刃を放つ。しかし慎也はそれを容易く打ち砕いた。
「なっ!?ガラスも砕ける氷だぞ!?」
(マジ?そんなやばいのこれ)
「・・次はこっちから行かせてもらう」
そう言うと、慎也は足に魔力を込めて篠宮との間合いを一瞬で詰め、篠宮の腹に拳を打ち込んだ。
「がはっ!?」
あまりの痛みに篠宮はその場にお腹を押さえてうずくまると地面に嘔吐する。
「どうだ?言う気になったか?」
「ぐっ!舐めるな!」
自身を見下ろす慎也にキレた篠宮は慎也に向けてがむしゃらに氷の刃を放つ。慎也はそれを後ろに飛んで躱した。
「当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ!!!!」
(もうヤケクソになってるやん)
「何かしら?」
「なんかの撮影?」
(あ、やべ)
慎也はすっかり忘れていたが、時刻はまだ午前中。それにプラスで2人が戦っているのは住宅街のど真ん中である。そのため家の中にいた住人たちが戦いの音を聞きつけて外に出て来た。
「ええとたしかポケットに・・・あった!」
面倒事を避けるため、慎也は顔が見られる前にサングラスを身につける。するとその瞬間、篠宮の攻撃が止んだ。
「な、なんでお前がここに!?村上慎也をどこにやった!」
「え?いや、俺がし・・」
(あ、待ってそっか!外すところさえ見られなかったら正体はわかんないから、篠宮視点だとサングラスつけた俺といつもの俺が入れ替わった感じなのか。なら・・)
「・・村上慎也は安全な場所に俺が送った」
「なに!?勝手なことしやがって・・」
「それよりいいのか?周りの奴らに見られてるが」
「チッ。村上慎也がさっさと死ねばバレずに済んだのによ!」
そう言うと篠宮は慎也にだけでなく、見に来た住人たちに向けて氷の刃を放った。
「きゃああああああ!!」
「うわああああああ!!」
「おい!お前の相手は俺だ!」
「邪魔なんだからしょうがねえだろ」
「チッ!『ウィングウォール』!」
自身に向かってくる氷の刃を躱しながら、逃げる人々の後ろに風の壁を出して氷の刃を防ぐ。
「器用な奴め!」
「そりゃどうも!」
全員が逃げたことを確認した慎也は篠宮に向けて走り出す。
「っ!来るなこのバケモン!」
「え、お前も同じだろ」
慎也を近づけさせまいと、篠宮は無数の氷の刃で慎也に攻撃する。
(躱すのめんどくさいし撃ち落とすか)
「『アクアファイヤ』!」
慎也は無数の水の弾丸を放ち、向かってくる氷の刃を全て撃ち壊した。
「なっ!?」
「終わりだ」
攻撃が全て防がれた篠宮は動揺して隙を晒してしまう。その隙を見逃さず慎也は距離を詰め、篠宮の体に拳を数発打ち込み、最後に頭に蹴りを入れて篠宮を地面に倒した。
「ぐぁ!」
「お前じゃ俺には勝てねえよ」
(ちょっとやり過ぎたか?)
「くそくそくそくそくそくそくそぉ!!!村上慎也が最初のあれで大人しく死んでたら終わりだったのによ!」
(まああれで死ぬほど馬鹿じゃねえし)
「・・というかそうだよ。そもそも話が違えじゃねえか!この力があれば村上慎也を殺せるっつってたのに!」
「あ、そうだよ。お前その力どうやって手に入れた?」
「そ、それは・・」
「言わないならもう1発・・
『その必要はない』
その瞬間、慎也の背後からその場を凍てつかせるほどの威圧が放たれた。