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世界渡りの少年  作者: 憧れる妄想
第二世界 第五章 堕ちた王と氷狼
185/211

小さなヒーロー 3




ザシュ!


体を斬りつけられた結城はその場に仰向けに倒れた。そこに母親が慌てて近づく。


「結城!!」

「うわあああああん!痛いよー!」


母親を守るためとはいえ、まだまだ子供である結城は痛みに耐えきれず、母親の腕の中で泣いてしまった。そして結城を勝った白い饅頭はまたも剣に変化して2人に追い討ちをかけようとしていた。


「・・『アクアファイヤ』」


それを2度も許すほど慎也は甘くない。自分を取り囲む白い饅頭共々、2人に襲いかかる白い饅頭を水の弾丸で仕留めて、2人に駆け寄る。


「痛いよママー!」

「お願いします!結城を治してください!」

「『ヒール』!」

(出力全開だ!)


慎也は出来るだけ魔力込めて効力を上げた魔法で結城の傷を治す。すると傷はすぐ治っていき、痛みが引いたのか結城も泣き止んだ。


「大丈夫か?」

「うん。ありがとうお兄ちゃん」

「ありがとうございます!」

「いえ、これは俺の油断のせいでもありますから」

(ここじゃ戦いにくいし場所変えるか)

「それはそうと、この近くに開けた場所ってありますか?」

「それなら駅前が1番近いかと」

「方角は?」

「あっちです」

「分かりました」


そう言うと慎也は立ち上がり、倒れた分身を吸収している本体の白い饅頭を見上げる。


「ふぅ・・・結城、少し待ってろ」

「え?」

「ちょっと世界、救ってくるわ」


そう言って慎也は結城に笑いかけると、白い饅頭へ向けて駆け出す。


『ブボォォォォォォォ!!!』

「もう聞き飽きたわそれ」


白い饅頭は自身の体から武器に変化した分身を慎也に放つが、慎也はそれを容易く躱し、一瞬で本体の目の前にたどり着く。


『ブボ!?』

「場所変えるぞクソ饅頭」


そう言うと慎也は拳に魔力を込め、斜め下から打ち上げるように拳を打ち込んだ。しかし相手は一軒家ほどの大きさの体、それに比例して重さもあるため思うように動かない。


(重いなこのデブ!)

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

『ブボォォォォ!!』


慎也は諦めずに、拳に込める魔力を増やし続ける。しかしそれでも白い饅頭は動かず、慎也はやり方を変えた。


「これならどうだ!!」

『ブボォォォォォォォ!?』


慎也は一瞬込める魔力を急激に上げ、魔力を爆発させた。すると魔力の込もった拳による力に、魔力の爆発の衝撃が上乗せされ、とうとう白い饅頭は空高くに勢いよくぶっ飛んで行った。


「はぁ・・はぁ・・よし、行くか」


そう呟き、慎也は飛んで行った白い饅頭を追いかけた。











『ブボォォォォォォォォォォ!!!』

ズドーン!!


大きな体を持った白い饅頭の落下の衝撃により、駅前に地響きが起きる。


「な、なに!?」

「怪物だ!」

「きゃあああああ!」

「うわあああああ!」


駅前にいた人々は白い饅頭の姿を見て悲鳴を上げながら駅から離れて行く。そんな逃げる人々の掻き分けて、慎也は白い饅頭に近づき、立ち止まると睨みながら白い饅頭を見上げた。


(・・俺はいつもは不意の急襲を警戒して使う魔力は抑えて戦ってる。いわば手加減だ)

「でも、簡単に人を傷つけるお前に、そんなのする必要ねえよなぁ!?」

『ブボォォォォォォォォ!!!』

「『アクアファイヤ』!」


白い饅頭の分裂の咆哮と同時に、慎也は無数の水の弾丸を生み出して走り出した。本体の分裂によって生み出された小さな白い饅頭は小さなナイフとなって慎也に襲いかかる。


(コスト最低限にして自分の体の消費を抑えやがったな。体小さくなったらコアに攻撃しやすくなると思ったんだけどな)


向かってくる無数の白いナイフを水の弾丸で撃ち落とし、漏れたナイフは躱しながら慎也は白い饅頭に近づいて行く。すると白い饅頭は再び大きな咆哮をした。


『ブボォォォォォォォォォ!!!』

(!そういうこともできるわけね)


白い饅頭が咆哮すると、体から何本もの触手が生えて慎也に襲いかかる。


(量多いだけでそこまで速くないな)


慎也は向かってくる触手たちを楽々と躱していく。そしてある程度近づいたところで白い饅頭に飛び掛かる。


「『ドラゴン・・」

『ブボォォォォォォォォ!!!』

「っ!チッ!」


慎也が魔法を発動しようとしたところで、白い饅頭から触手が突き出て来る。慎也は腕でそれを防ぐが、高く突き飛ばされてしまう。


「『ウィングウォール』!」


突き飛ばされた慎也は軌道上に風の壁を作り、それを足場に見立てて着地する。そして足に魔力を込めて、白い饅頭目掛けて再度近づく。それを迎え撃つように白い饅頭も触手を放った。


「ふっ!ほっ!せいっ!」

(甘いぞ!)


慎也は向かってくる触手たちを殴る蹴るして弾き飛ばし、白い饅頭の体の上に着地する。そして片手に魔力を込めて手刀を作り、それを白い饅頭に突き刺した。


『ブボォォ!?』

「これで終わらせてやる!『ドラゴンフレイム』!」


慎也は内部にあるコア目掛けて魔法で生み出した炎の竜を放った。しかし炎の竜はコアに到達する前に溶けてしまった。


(マジか!こいつの中胃みたいな感じか・・・ん?ちょっと待てよ、てことは・・)


慎也は何かを察して突き刺した手を抜くと、その手の皮膚は溶けており、その瞬間、焼かれたような激痛が慎也を襲った。


「いったああああああああああ!!!」

(そりゃあそうだよな!胃液に手ぇ突っ込んだようなもんだもん!)

「『ヒール!ヒール!』」


慌てて白い饅頭から距離を取り、後ろに下がりながら手に回復魔法をかける。慎也の手の溶けた皮膚が回復していくと同時に、白い饅頭の方も分裂して小さくなった体を回復させる。


(ま〜た回復したよあの野郎。もう"あれ"で体ごとコアふっ飛ばしたほうがいい気がしてきた)


そう考えた慎也は片手の手のひらを白い饅頭に向けて突き出した。そしてその手に魔力を集中させる。


(相手のボスがどこで見てるかわかんないから、手の内はあんま見せたくないんだけどな。今回はしょうがない!)

『ブボォォォォォォォォ!!!』

「ふぅ・・『エク」

「村上君!」

「え!?あ、鈴・・ブファ!?」


魔法を発動しようとしていた慎也は、突然の怜の登場に気を取られて白い饅頭の触手にぶっ飛ばされた。


「生きてますか?」

「これぐらいじゃ死なねえよ。くそ、終わりそうだったのに」

「それはすみません」

「てか、お前よくここがわかったな」

「今の時代、リアルタイムでいろいろとわかるんですよ」


そう言って怜はスマホの画面を見せる。そこには『〇〇市に巨大怪獣出現!?』というタイトルで白い饅頭の様子が映されていた。


「へぇ〜。じゃあ帰りは案内頼むわ」

「まあしばらく付近の電車は止まってるようですしね」

(ということはこいつ走って来たのか、すごいな)

「それはそうと、私たちと戦った時よりもかなり大きくなりましたね」

「いや、たぶん俺らが戦ったのはあいつの一部だったんだろ。あいつと違ってコアがなかったしな」

「なるほど。ちなみに攻撃方法は変わってませんか?」

「分裂可能で、分裂した小さいやつは武器に変われる。あと触手出せる」

「把握です。あ、これどうぞ」

「お、サンキュー」


怜から竹刀を受け取り、慎也は竹刀に魔力を込め始める。


「では行きましょうか」

「いや、今回は見てていいぞ?」

「そうですか。なら離れておきますね」

「おう。一撃で終わらせてくる」


そう言って慎也は白い饅頭に向かって走り出す。それと同時に白い饅頭は咆哮して触手を慎也に伸ばす。


『ブボォォォォォォォォ!!!』

(さあ、ほんとにこれで終わりにしよう!)


向かって来る触手を次々と捌いて行く慎也。それを見た白い饅頭は触手だけでなく、武器に変化した自身の小さな分裂体を慎也に放つ。


(どんなに数増やしても無駄だ!)

『ブ、ブボォォ!ブボォォォォ!!』

(それに、分裂量を増やすのは悪手だぜ!)


武器と触手の間を容易に潜り抜け、とうとう慎也と白い饅頭の距離は数mまで縮まっていた。その頃には白い饅頭の体は、過剰な分裂によってかなり小さくなってしまっていた。


『ブ、ブボォォ・・』

(能力は厄介でも、その使用者がバカだったら弱いな)

『ブボォ・・!』

「もう遅えよ!『岩壊斬』!」


吸収の咆哮をされる前に、慎也は白い饅頭の体ごとコアを真っ二つに斬った。


「・・ふぅ」

「お疲れ様でした」

「ああ疲れたよ。さっさと帰りたい」

「そうですね。それじゃあ帰りましょうか」

「・・いや待て。寄るとこあるわ」

「?わかりました」

「ここで待ってろ。すぐ終わらせて来る」


そう言って慎也は怜を置いてあるところへと向かった。











「おーい!」

「あ、お兄ちゃん!」


慎也が来たのは結城とその母親のところ。慎也を見た結城は慎也の元に駆け寄って行った。


「あの怪獣倒したの!?」

「おう。しっかり倒してきたぞ」

「それじゃあ僕に魔法教えてよ!」

「すぐそれだな。ったく・・」


ため息をつき頭を掻きながら、慎也は地に膝をついて結城と目線を合わせる。


「悪いけど、魔法は教えてやれない」

「えー!なんでー!」

「だって"教える必要ないんだもん"」

「?僕魔法使えないよ?」

「お前、魔法教えてもらって母親を守りたいんだろ?」

「うん!どんな悪者からもママを守るヒーローになるんだ!」

「それにもうなってるじゃんお前」

「え?」

「いいか?ヒーローになるために必要なものってなんだ?」

「お兄ちゃんみたいな強い力?」

「違う。ヒーローになるのに必要なのは、"勇気"だ」

「・・僕?」

「違うそっちじゃない。たしかに力は必要なのかもしれない。でもな、どんなに強い力を持ってても、悪に立ち向かう勇気がなかったら意味ないんだ。そしてお前はその勇気を持ってる」

「?」

「さっきお前は、力がないのにも関わらず、母親を身を挺して守ったよな。それは勇気が無かったら出来ないことだ。つまりお前は、もう俺と同じヒーローなんだよ」


そう言うと慎也は立ち上がり、結城に笑いかけた。


「ま、そういうことだから、ヒーローであるお前に魔法を教える必要はない」

「お兄ちゃん・・」

「結城、これからも母親を守るヒーローでいろよ」

「うん!僕頑張る!」

「おう。それじゃあ俺は帰るから」

「お兄ちゃんバイバイ!」

「今日はありがとうございました!」

「どいたましてー」


2人に見送られながら、慎也は怜の元へと戻るのであった。




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