小さなヒーロー 2
(なんだこのガキ)
「魔法教えてよ〜!」
突然現れた男の子に揺さぶられる慎也。対応が面倒くさいのか慎也は無視を決め込んで空を見てるが、男の子は駄々をやめないどころかさらにヒートアップさせる。
「魔法魔法魔法魔法魔法魔法!!!」
(しつこいなこいつ。てかそもそもなんで俺が魔法使えるって知ってんだよ。サングラスは外してるはず・・)
カチャ
(・・・つけっぱなしだったわ。どうしよ〜。少ないけど人いるから外せねえし、かと言ってサングラス付けてるから言い逃れできねえし)
「教えて教えて教えて教えて教えて教えて!!!」
(・・このまま無視して行くか)
そう思って慎也は立ち上がってその場を去ろうとした。すると今度は男の子は慎也の体をよじ登って頭を揺さぶり始めた。
(猿かこいつは)
「お願いお願いお願いお願いお願いお願い!!!」
「はぁ、しょうがねえな」
「魔法教えてくれる!?
「教えるつもりはない。けどまあ、話は聞いてやるよ」
そう言うと慎也は男の子をベンチに座らせて自身も隣に座る。
「で、なんで魔法を教えてほしいんだ?」
「悪者を倒したいから!」
「それは俺がいつも戦ってる怪物のことか?」
「違う!ママをいつもいじめる悪者!」
「・・ちなみにお父さんとかではないよな?」
「ううん。パパはいつもママに優しいよ」
(てことはDVではないのか。となると誰だ?んー・・)
「あ!ママ!」
慎也がいろいろと推測を立てていると、男の子はそう言ってどこかへと走り出して行った。
「あ、おい・・って」
(なるほどそういうことね)
男の子が向かう先を見て慎也は全てを察した。男の子が向かった先には4人の女性がいて、そのうちの3人はいくつもの高級そうなアクセサリーを付けており、残りの1人の女性を囲むように嘲笑っていた。
「ママをいじめるな!」
「ちょ、ちょっと結城!」
(あいつ結城って言うんだ)
結城はその1人の女性を守るように間に割って入り、3人の女性を睨みつけた。
「あらあら!情けないわねぇw」
「自分の子供に守られるなんてそれでも母親かしら?w」
「・・・」
「あ、もうこんな時間じゃない。そろそろ行きましょ」
「そうね。それじゃあ私たちこのあと、海外から取り寄せた高級な紅茶でお茶するから」
「あなたが一生飲めないような紅茶、でね。ではさようなら」
女性たちは勝ち誇ったゲスい笑みを結城と女性に向けながらその場を去っていった。
(うわきっしょ。あれは俺も魔法ぶっ放したくなるわ。なんなら今ここでぶっ放してやろうかな)
「ママ大丈夫?」
「大丈夫よ、ありがとうね。それより公園は楽しかった?」
「うん!
「それはよかった。じゃあ買い物して帰りましょうか」
「あ、ちょっと待ってて!」
そう言うと結城は物陰から様子を見ていた慎也の元へ戻ってきた。
「ねえお兄ちゃん見てたでしょ!?僕あの人たちをママのために倒したいんだ!」
「正直俺もめちゃくちゃぶっ飛ばしたくなったわ」
(でも魔法取得のための本がないから教えられねえんだよな)
「悪いけど・・」
「息子すみません!」
慎也が断ろうとしたところで結城の母親が慌てて結城を慎也から引き離して何度も頭を下げる。
(あ〜母親の方は俺を怖がってる派ね。まあ別にいいけど)
「いや別にいいっすよ。いい暇つぶしになったんで」
「俺は真面目なんだぞ!」
「こら結城!すみませんほんとに。ほら帰るよ!」
「やーだー!俺は魔法を教えてもらうんだー!
(しつけえー。小学生のうちは母親の言うこと素直に聞いとけよ)
「いい加減にしな・・!」
ドーン!ドーン!
「「っ!?」」
「えーだる」
突然の地響き。それがした方に慎也たちだけでなく、公園にいた他の人たちの視線も向く。
「きゃあああ!!」
「助けてー!」
「潰さられるー!」
『ブボォォォォォォ!!!』
地響きのした方から、先ほど母親を馬鹿にしていた3人の女性が走ってくる。そしてその背後には、慎也がこの知らない地にいる原因である"白い饅頭"がいた。
(・・いや待て。待て待て待て待て!!デカすぎんだろ!!)
しかし大きさは先ほどよりも何倍も大きくなっており、そこら辺にある2階建ての一軒家と同じ、もしくはそれ以上の大きさになっていた。
(さっきは俺よりちょっと大きいくらいだったじゃん。何があったよ)
「逃げるよ結城!」
「大丈夫だよママ!お兄ちゃんが倒してくれるよ!ね、お兄ちゃん!」
(やめろ結城。そんな期待の眼差しで俺を見るな。帰りづらくなる)
「・・はぁ、まあ任せろ。俺は一応ヒーローだからな」
「これが終わったら魔法教えてね!」
「それは無理。あと逃げた方がいいぞ」
「え、なんで?お兄ちゃんが守るんでしょ?」
「いやだってあいつ、分裂するんだもん」
『ブボォォォォォォォ!!』
慎也がそう言ったそばから、白い饅頭は自分の体から小さい白い饅頭を慎也に向かって放った。その瞬間本体の大きい白い饅頭の体がほんの少し小さくなった。
(なるほど、分裂すれば手数は増えるけど、その分自分の身を削るってわけか)
「ならゆっくりやっていくか。離れとけガキ」
「う、うん」
放たれた小さな白い饅頭たちは、体を剣や斧、槍に体を変えて慎也に襲いかかった。
(こいつ鈴川で頭突きが効かないの学んだか。まあ動きは遅いから大して変わらんけど!)
向かってくる攻撃を全て華麗に躱し、逆に慎也は武器に変化した白い饅頭たちを適当に殴り飛ばしていく。
「『アクアファイヤ』!」
そして魔法によって生み出したいくつもの水の弾丸で飛ばした白い饅頭の体を貫いていく。すると攻撃を受けた白い饅頭たちは体が崩れて白い液体となった。
「すごいよお兄ちゃん!」
「どうも」
(やっぱこいつら弱いな。数が多い分、ステータスが低い感じか)
『ブボォォォォ!!』
突然の本体の白い饅頭の咆哮。するとそれに合わせて白い饅頭の中心部が光ると、白い液体が本体に吸い込まれていき、本体の体は元の大きさになった。
(・・だる。今あいつの体の中心で何か光ったし、あれがコアみたいなもんか)
「ならさっさとぶっ叩く!」
足に魔力を込めて、慎也は勢いよく飛び出す。白い饅頭はそれを迎え撃つように武器へと変化させた小さな白い饅頭を慎也に放つが、慎也はそれらを全て躱し、本体の目の前に飛びかかった。
「コアごとぶっ壊してやる!」
拳に魔力を込め、慎也は全力でコアに向けて拳を白い饅頭の体に打ち込んだ。しかし体がへこむだけで、白い饅頭にはノーダメージであった。
(打撃無効かこいつ!何から何までだるいな!)
『ブボォォォォォォォ!!!』
白い饅頭の体が咆哮と共に小さくなる。それは分裂の合図であり、本体の体からいくつもの小さい白い饅頭が出てきて、慎也に・・・ではなく、なんと周りにいる人々に向かって行った。そしてもちろんその中には結城とその母親も含まれている。
(しまった!人がいる分、こっちが不利なの忘れてた!すぐ助けてねえと!)
『ブボォォォォ!!』
「うっそ!?」
ズドーン!!
助けに行こうとした慎也だったが、その瞬間本体の咆哮と共に体から生えてきた大きなハンマーによって、地面に叩きつけられてしまう。
「ぐっ!」
(痛いなくそ!)
「結城!逃げるわよ!」
「ママ危ない!」
「きゃっ!」
結城を連れて逃げようとした母親に、ハンマーに変化した白い饅頭が襲いかかる。躱すことが出来なかった母親は体を打ち飛ばされて地面に倒れてしまう。とっさにカバンでガードしたおかげで軽傷で済んだが、これによって結城と離れてしまう。
「ママ!」
「ママは大丈夫だから。あんたは逃げなさい!」
「でも・・」
(くそ!今すぐそっちに・・!)
「っ!邪魔だてめえら!」
行く手を阻んできた白い饅頭たちを慎也は次々に殴り飛ばしていく。しかしその間にも母親はハンマーとなった白い饅頭に襲われていた。
「マ、マ・・」
「逃げ、なさい!結城!」
攻撃をカバンでなんとか耐えながら母親は結城に逃げるよう促す。すると白い饅頭はハンマーでは無理だと考えたのか、体を剣に変えた。そして・・
「ぐっ!あっ!」
「ママ!」
カバンごと白い饅頭は母親の体を斬りつけていった。
(チッ!マジ邪魔なんだよこいつら!)
「『アクアファイヤ』!」
邪魔する白い饅頭たちを一掃し、慎也は母親を助けに向かう。しかし剣となった白い饅頭は、体を大きく振りかぶらせ、トドメを刺そうとしていた。
(くそっ!この距離じゃ間に合わねえ!なら一か八か!)
「『エアブラ・・
「ママをいじめるなああああああ!!!」
慎也の魔法発動よりも先に、結城がそう叫びながら走り出して母親を守るように白い饅頭の前に立ち塞がった。そして・・
ザシュッ!
斬りつけられたのは母親の体ではなく、結城の体であった。