昇格して聖女と鉢合わせ
「あー・・・疲れた」
ギルドを出た慎也はEランクを卒業するため、街の外とギルドを何度も往復し、クエストを達成していき、最後のクエストを達成した今、ギルドへ戻っている。
(だがこれで俺もDランクだな。これで金に関してはたぶん大丈夫だろ・・・・・っと、もうギルドか。さっさと報告済ませて宿に行こっと)
慎也はギルドの扉を開け、すぐさま受付に向かう。
「クエストの報告に来ました」
「それでは冒険者カードと達成証明になるものをお出しください」
「わかりました」
「・・・・・・・確認が済みました。これであなたが達成したクエストが10に達しレベルも10以上なので、これでDランクに昇格です。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「それではカードを再発行してくるので、少々お待ちください」
そういうと職員の男性は受付の奥へと向かった。その後ろ姿を見ながら慎也は今後について考えていた。
(さて、これからどうしようかな。これからはゴブリンよりも強い魔物たちと戦っていくわけだが・・・とりあえず明日は最低限準備して、試しに一つクエストを受けるか・・・あれ?ちょっと待てよ。俺がDランクになるということはライルたちと一緒に挑めるということだ。よし、せっかくだから誘うか)
それから数分後。受付の奥から男性が慎也の元に帰ってくる。
「お待たせしました。こちらがあなたの新しい冒険者カードになります」
「ありがとうございます」
慎也は男性からカードを受け取り、記載されている内容を見る。
「むらかみ しんや
レベル21 Dランク Dランク
・筋力 71
・魔力 64
・防御 40
・素早さ 45
パッシブスキル・??? 」
「それではDランクになったあなたには、Cランクに昇格するための条件を教えます」
「お願いします」
「Cランクに昇格する条件はDランクの昇格条件となんら変わりません。レベル20以上になることと、クエストを10個達成、これらが条件となっております」
(本当に全然変わんねえな)
「クエストに関してですが、達成しないといけないクエストはEランクではなくDランクなのでご注意ください」
「わかりました」
「説明は以上です。何か質問はありますか?」
「大丈夫です」
「そうですか。ではクエストの報酬をお渡しします」
(あっぶね、普通に忘れてた)
慎也は男性職員からクエストの報酬を貰い、背負っているリュックのポケットに入れる。
「それじゃあ僕はこれで」
そう言うと慎也は受付を離れ、出口へ向かう。すると後ろから声をかけられる。
「あ、慎也さん」
慎也は声のした方へ振り向くと、視界に近づいてくるリアが入る。
「おおリアか。あれ、ライルは?」
「なんでそこでライルが出てくるんですか」
「いやあ俺とお前が会う時は必ずライルも一緒にいるからさあ、2人はいつも一緒っていうイメージがあったんだよ」
「たしかに夕方までは一緒にクエストを受けてましたがライルが、このあと用事あると言って先程別れましたよ」
「そうなのか・・・・そうだ。この際お前にだけでも話すか」
「何ですか?」
「俺実はさっき、冒険者ランクがDに上がったんだよ」
「おお!それはおめでとうございます!」
「これでお前らと一緒にクエストに挑戦できるようになったぞ」
「じゃあ明日からでも!」
「安心しろ、そのつもりだ」
「きっとライルも喜ぶと思いますよ」
「まああいつ初めて会った日に弟子してくれだの、パーティーに組もうだの言ってきたからな」
「ああ・・・その節は急な申し込みですみませんでした」
「いや別にいいよ。それよりも外が結構暗くなってきてるが帰り大丈夫なのか?」
「え?」
リアは慎也に指摘され、外を見る。するとリアはポケットからコンパスのようなものを取り出す。
「なんだそれ?」
「慎也さん知らないんですか?これは時間を把握するための魔道具ですよ」
「え、マジで?そんなものあんの?」
「どうやら本当に知らないようですね。私今まで生きてきて、この魔道具を知らない人に初めて会いましたよ」
「な、なぁ?その魔道具ってどこで手に入れられるんだ?」
「それならこの近くにある魔道具店で売ってますよ」
「頼むリア、俺この街に来たばかりでどこに何があるのかわかんねえんだよ。だからその魔道具店まで案内してくれないか?」
「別にこのあと用事とかはないのでいいですよ」
「ほんとか!いやーやっぱり持つべきものは優しい友達だな」
「はいはい。それじゃあ行きましょうか」
そう言うとリアは慎也を連れて、ギルドを出るのであった。
(リアたちまだかー、暇すぎる)
翌日、慎也はリアとライルと共にクエストを受けるため、昨夜買った魔道具で時間を決め、待ち合わせをした。そして現在、慎也は待ち合わせ場所であるギルドの中で2人が来るのを待っていた。
(そういえば俺ってポーション系を切らせてたな。最近はゴブリンとかスライムが弱すぎてそういう準備を忘れちゃうな、今日あたりに買いに行くか・・・ん?誰かこっちに向かって来るな)
考えごとをしているうちに足音が近づいてきていることに気付く。慎也はその足音の方へ体を向けると見覚えのある女性が慎也の前で止まる。
(この人はたしか・・・・聖女だったっけ?俺の前で止まるということは俺に用がある感じだけど・・)
「あなたが慎也という方でよろしいでしょうか?」
「はい。俺が慎也です。何か用ですか?」
「少しお話しがしたのですが、ここじゃなんですので場所を移してよろしいでしょうか?」
「すみませんが俺、知人と待ち合わせをしているんですよ」
「そうですか・・」
「ここじゃ話したくないんですか?」
「別に私はいいんですが、あなた的にはまずいと思いますよ」
「それじゃあ俺の耳の近くで小声で用件をお話しください」
「わかりました」
慎也に言われた通り、女性は口を慎也の耳に近づけて小さな声で囁いた。
「あなた、Sランクのチャントスキルを持ってますね?」
「!」
それを聞いた瞬間、慎也はすぐさま女性から離れ、警戒の体制に入る。
「その情報、どこ手に入れたんですか?」
「ここのギルドマスターから聞きました」
(よしとりあえずハーツさんは一発ぶん殴っとこう)
「反応を見る限り、あなたで間違いないようですね」
「まぁ今更誤魔化そうとしても無理か。そうです、あなたが探している人は俺で間違い無いですよ」
「ふぅ・・・やっと出会えましたよ」
「それで、あなたは俺にどうして欲しいんですか?まさか確認のためだけに来た、ってわけじゃないでしょう?」
「もちろんです」
そう言うと女性はポケットから慎也が見たことない紙を取り出す。その紙には"パーティー結成書"と書かれていた。
(あ・・)
「ま、まさか・・」
「そのまさかです。慎也さん、私と・・・・・・パーティーを組みませんか?」
(やっぱりかー。ここはなんとかして諦めてもらおうか)
「どうでしょうか?」
「い、いや、あの、俺ってまだDランクの冒険者なのであなたの足を引っ張っちゃうと思うので俺と組むのはやめた方が・・」
「心配はいりません。あなたが私のペースについていけるように、ちゃんと配慮しますから」
(やべー、俺バカだからこれ以外思いつかねぇ・・・・そうだ!)
「聖女さん。あなたが配慮したってきっと無駄ですよ」
「?」
「なぜなら俺は・・・・・チャントスキルを自由自在に扱えないし、ましてやパッシブスキルもないんです」
「・・・・」
「これでも俺をパーティーに入れたいですか?」
慎也の問いに女性は黙する。そして慎也がこの話を終えようと口を開こうとした時、女性が口を開く。すると慎也は女性が発言したことに驚きと疑問を抱く。
「やはり、最初からは使えませんか」
「・・・・・え?」
(やはりって、一体どういうことだ?)
「私が何を言っているのかわからないようですね」
「は、はい。やはりって、あなたは俺がスキルを使えない理由を知って・・」
その時、2人の話を遮るように慎也を呼びかける声がする。
「リアとライルか」
「お知り合いですか?なら私はこれで」
「ええちょっと・・」
「最後に名前くらい名乗っておきましょうか。私の名前はエリシア。よろしくお願いしますね、慎也さん」
そう言うとエリシアはそそくさとその場を去っていった。