予兆
ピピピピピピ
「・・・」
『目が覚めたようだね』
目覚まし時計の音で目覚めた慎也。それと同時に眠らせた張本人であるルキエスが慎也に話しかける。
『それで、何か作戦は思いついたかい?』
「そうですね。とりあえずは"過去の自分に頼りますよ"」
『というと、同じ方法で止めると?』
「ええ、他に思いつきませんし。やりすぎてしまったらすみません」
『いや、僕は世界を救ってもらう立場だからね。特に君が何をしよう文句はないよ』
「そうですか」
『そそ。だから君は僕のことは気にせず、全力で友人を救いたまえ』
その言葉を最後にルキエスの声は止んだ。
(・・さて、やるか)
慎也は起き上がると、制服を手に取り着替える。
(伊村をあそこまで追い詰めたあいつら絶対に許さない)
着替え終わると慎也は寝室の扉を開ける。
(あいつらに、伊村が味わった苦しみを味あわせてやる!)
そう決心する慎也の瞳は黒いオーラのようなものに包まれていた。
・・・怜視点・・・
「・・ん」
いつも通りの朝。怜は窓から差し込む日差しに照らされて目を覚ます。
(・・まだ7時ですか)
重たい体を起こし、洗面所へと向かう。そこには先に怜の父親らしき男がいた。
「お、今日は早いな怜」
「おはようございます」
「おう、おはよう。使うなら使っていいぞ」
そう言って父親は洗面所を出て行く。怜も軽く顔を洗い、歯磨きをして洗面所を出てリビングに向かう。食卓にはすでに父親がおり、キッチンでは母親が料理をしていた。
「あれ、今日は早いのね怜」
「おはようございます。日差しに起こされてしまい、そのせいでまだ眠いですよ」
「おいおい、授業中に寝たりするんじゃないぞ?」
「もうあなた。怜がそんなことするわけないでしょ」
(村上君なら遠慮なく寝そうですけどね)
「まだご飯かかりそうだから、先に着替えてきちゃって」
「わかりました」
怜は自室に行き、制服に着替えて再度リビングに戻って席につき用意された朝食を食べる。
「そういえば、最近は化け物のニュースも見てないな」
「そうねぇ。前までは頻繁に化け物が出て外に出るのも怖かったけど、最近は平和ですね」
「まあ平和ならいいんじゃないですか?」
(むしろ化け物の親玉を倒してないのに出てこなくなったのは少し不穏ですが)
「ところで怜。最近はその・・・えーっと、む、むら・・」
「村上慎也君でしょ?」
「そうそう!その子とはどうなんだ?」
「どうとは?」
「いやほら、関係が進展したとか・・」
「今もこれからもただの友人ですよ」
「な、なんだと・・」
そう言って父親はがっくりと肩を落とし、母親はそれを見て笑っていた。
「もうあなたったら」
「なあ怜よ。人生長いように思えて、実際はあっという間なんだ。中学のうちに恋愛の1つや2つやっても・・」
「興味ないですね」
「母さんやぁ。俺たちは孫の顔は見れるかねぇ」
「気が早いわよ」
「ごちそうさまでした」
「ちょ、怜!1回でいいから村上君をこの家に呼んで・・」
(さて、それじゃあ行きますか)
父親の言葉を無視して怜は一旦戻り、学校に持って行く荷物を持つと玄関に行き靴を履く。
「れ〜い〜!頼むよ〜!」
「もうあなたったら、しつこいですよ」
「・・はぁ。気が向いたら連れてきますよ」
「ほ、ほんとか!?」
「気が向いたらですよ」
そう言って怜は玄関の扉を開けて外に出ようと始まりの一歩を踏み出した。
「ではいってきま・・」
しかしその瞬間だった・・
ブワッ!
「っ!?」
突如として背筋が凍るほどの"何か"を怜は感じ取り、その一歩を踏み出したまま動きを止めた。
(・・なんですか、今の?私に対しての何か、ではなさそうですね。むしろこれは・・・町全体に対して?)
怜はすぐさま臨戦態勢に入り、辺りを見渡す。しかし感じたその"何か"の正体はわかるはずもなく、正体のわからないものに警戒する怜の顔を汗が伝う。しかしその"何か"も一瞬で、すぐに無くなって怜は首を傾げた。
(?・・気のせいだったのでしょうか?)
「ん?どうした怜?」
「何か忘れ物?」
(・・2人は気づいてなさそうですね。むしろ私だから気づけた?・・一応持っていきますか)
「1つ忘れ物をしました」
「おいおい気をつけろよ?」
「わかってますよ」
怜は一旦部屋に戻り、自分の"竹刀"を持って家を出た。
(・・結局何もなかったですね)
先程感じた"何か"の正体を探るために町を歩き回った怜だが、結局何も成果が得られずいつも通り時間ギリギリの登校になった。
「はぁ・・」
(ほんと時間の無駄でしたね。これならまだランニングした方が有意義でしたよ)
「・・村上君はまだ来てませんか」
(まあ彼のことですから遅刻でしょうけど)
怜の席は窓際で、さらにその窓から正門の様子が見れるため、怜は遅刻してくる慎也を見ようと正門の方に目を向ける。
『キーンコーンカーンコーン』
(あ、来ましたね)
チャイムが鳴ると同時に正門へと歩く慎也の姿を捉える怜。
(どうせ遅刻するからと諦めましたね。まあ彼らしいですが)
「おら〜お前ら席つけ〜」
平島が教室に入ってきたことにより静まる教室。怜も視線を前に向ける。そしていつものHRが始まった・・・はずだった。
「起立!気をつけ!礼!」
『おはようございます!』
「おはようござ・・」
その瞬間であった・・
ブワッ!
「っ!?」
(また!?)
先程感じた"何か"。しかし今回はその"何か"の発生源を察知出来た怜は・・"正門"を見た。
「・・え?」
しかし正門には何もなく、"誰もいなかった"。
(あの歩行速度ならまだ村上君がいるはずですが・・)
「それじゃあ出席確認するぞー」
(まさかさっきのは村上君が?)
「"伊村は休み"で、それ以外は村上が遅刻かなんかか」
(伊村さんが休み?村上君のことを考えると、ただの休みじゃなそうですね。まさか彼が何か・・)
「んじゃこれでHRは・・」
ガラッ
終わりと平島が言いかけた瞬間、教室の扉が勢いよく開く。
(・・ほんとにあれが村上君なんですか?)
「・・・」
そこには目のハイライトが消えた慎也が立っていた。