慎也の過去 中編
事件が起こったのは皆が学校に登校する早朝の時だった。いつも通り登校する慎也は、偶然会った夏菜と一緒に学校に向かっていた。
「ねえ慎也!今日は休み時間何して遊ぶ?」
「今日は読書するわ」
「それは今日も、でしょ!たまには外で遊ぼうよ!」
「嫌ですー。めんどいんですー」
「も〜!」
そんな会話をしながら、昇降口についた2人はそれぞれ上履きを取り出そうと下駄箱の前に行った。
「・・あれ?」
すると夏菜が自分の下駄箱を見た途端、首傾げてそんな声を漏らした。その声を慎也は聞き逃さず、夏菜の元に向かう。
「どした?」
「いや、なんか上履きが"無くなってて"」
「は?お前が持って帰ったんじゃないのか?」
「持って帰ってないよ!それに今日金曜日なのになんで昨日持って帰るの!」
「それもそうだな。でもそうなると、誰かが間違って持って行ったんじゃないか?」
「そうかも。靴どうしよ〜」
「職員室に行ってスリッパ借りたら?」
「え!?借りられるの!?」
「ああ。俺も月曜に上履き忘れて借りたからな」
「俺もって何!?私は忘れてないから!」
「はいはい。早く行こうぜ」
そう言って慎也は夏菜を連れて職員室に向かった。その時の2人はこのことを軽く思っていた。
そして、その日から夏菜の私物が無くなることが頻繁に起こった。時には休み時間で・・
「ねえ慎也」
「なんだよ?」
「なんか帰ってきたら消しゴムが筆箱から無くなってたんだよね。慎也2つ持ってたでしょ?1つ貸して?」
「なんだよ無くなったって。忘れたんじゃないのか?ほれ」
「ありがとー!んー1時間目と2時間目はあったはずなんだけどなぁ」
時には体育終わりの教室にて・・
「ねえ慎也!」
「なんだー?」
「髪留め知らない?どっかいっちゃったんだよね」
「机の周りに落ちてんじゃねえの?」
「さっき探して無かったから違うと思う」
「じゃあロッカーとかは?」
「無いと思うけど、一応見てみる!」
それ以外の時でもさまざまな物が無くなっていた。筆箱や教科書、ノートや髪留め。そしてついには超えてはいけない一線を超えたものも・・
・・・下校中・・・
「ん〜・・」
「?」
(なんでこいつ股押さえてもじもじしてんだ?トイレか?)
「なあ夏菜」
「え!?な、なに!?」
「い、いや、なんかもじもじしてるからトイレなのかなって」
「ち、違うよ!」
「じゃあなんでもじもじしてんだよ」
「・・・ないの」
「あ?」
「だから!履いてないの!」
「・・は!?」
顔を赤くして慎也に答える夏菜。察しのいい慎也は、本来夏菜の腰あたりにある布製の物が無いことに驚きの声をあげる。
「しー!声が大きい!」
「いや大きくもなるわ!なんで履いてねえんだよ!」
「ほら、今日プールあったでしょ?それで着替えようってなった時に無くなってたの」
「そ、そうだったのか」
「う〜!恥ずかしい!」
そう言う夏菜は赤面しながらまたもじもじと歩いていた。その様子を見た慎也はさすがに楽観的にいられず・・
「夏菜、明日先生に相談しよう」
「え?」
「さすがのお前でも、物を無くしすぎだ。誰かが意図的に盗ってるとしか思えない」
「だ、誰かって誰?」
「それはわからんが、少なくともパン・・」
「言わないで!」
「・・少なくともそれまで盗まれたら、黙って我慢とかはダメだろ。だから大人の先生に相談しよう。というか親にも言おうぜ」
「お、お母さんとお父さんにも?」
「当たり前だろ。それに誰かに相談すれば少しは気が楽になるだろ」
「う〜・・わ、わかった」
「よし。じゃあ行くぞ!」
「えー!ちょ、ちょっと待って!」
夏菜が履いていないのを忘れ、慎也は夏菜を連れて駆け足で夏菜の家へと向かった。
その後、夏菜の両親に相談し学校と話してもらえることになった。そして翌日、慎也と夏菜は担任の先生に相談した2人だったのだが・・
「それ鈴木さんが家に忘れただけじゃないの?」
(あーこの人やばい人だ)
2人の担任の先生は、夏菜へのいたずらを被害妄想として片付けようとしたのだ。
「いや筆記用具とかはそれで説明つきますが、さすがに下着を忘れるほど夏菜は抜けてませんよ」
「でも鈴木さんの普段の言動を見ると有り得ると思うんだけどね〜」
「先生も夏菜のテストの点数とか知ってるでしょ?普段は喋り方とかバカですが・・」
「ちょっと?」
「一応は頭いいんですよ」
「・・でも証拠とかないんでしょ?」
「そ、それはたしかに無いですが・・」
「証拠もないのに盗まれたとか騒いでもうるさいだけよ。そんな無駄なこと調べるほど暇じゃないので」
そう言って先生はパソコンに向き直って仕事を始めた。
「慎也・・」
「いいよ夏菜。もう行こう」
(この人面倒だから相手にしたくねえだけだろ)
「だから結婚できねえだよ」
「なんか言った!?」
「何も言ってませーん。失礼しやしたー」
そう言って慎也は夏菜を連れて職員室を出た。
「あんな人だったのか先生は」
「ど、どうする慎也?先生何もしてくれなさそうだよ?」
「んー・・・お前の親に期待するしか無さそうだな」
「そっか・・」
「・・安心しろ。昨日話した時あんなに盗んだ奴に怒ってたんだ。きっと頑張ってくれるだろ」
「そ、そうだよね!お母さんとお父さんがさっきの先生にガツンと言ってくれるよね!」
(・・ちょっと元気になったなこいつ)
いつもの夏菜に戻ったのを見て顔を綻ばせる慎也であった。
しかしこれはそう簡単に解決するものではなかった。