慎也の過去 前編
「・・明日かー」
花乃と和解した夜。寝室のベッドに寝っ転がりながら慎也は明日のことを考えていた。
(伊村の言う通り証拠もなんもない。たとえ公開処刑しようとしても、信じるのはせいぜい鈴川と亮太、あとは平島先生くらいか)
「・・どぉしよ〜!」
花乃に明日解決させると約束した手前、慎也はとくに方法を考えていなかったため頭を抱えた。
(ここは一旦鈴川に協力を・・・いや、これは俺の償いだからな、出来るだけ誰の力も借りずに終わらせたい。でもなぁ!)
そう頭を抱えながらベッドをゴロゴロと転がる慎也。するとそんな慎也の脳内に突然"謎の声"が語りかけた。
『なんか困ってるみたいだね〜』
(ルキエスさ・・!?)ガタッ
「いった!」
この世界の神であるルキエスに突然話しかけられた慎也は驚いてベッドから転げ落ちた。
『だいじょぶー?』
「大丈夫ですよ。それでどうしたんですか?」
『いやなに、君が困っていたからなんか助けになることがあればなと思ってね』
「そうですか」
『で、なにをそんなに悩んでるの〜?』
「あなた神なんですから見てたんでしょ?」
『いやいや、僕もずっと君を見てるわけにはいかないからね。君が普段どう過ごしてるとかは知らないんだよ』
「へーそうなんすか。そんじゃ教えますよ」
慎也はここまでの出来事をルキエスに話した。
『・・それで君は明日、その伊村花乃って女子を助けることになったんだね』
「そうです。けどその助ける方法が思いつかないんですよ」
『・・・』
「マジどうすっかな〜これ」
『・・君そんなことで悩んでいたのか』
「いやそんなことて・・」
『君はもう"知っている"じゃないか』
「え?」
『この状況を解決する方法をさ。忘れたなら思い出させてあげる』
そのルキエスの言葉を最後に、慎也は突然の眠気に襲われ眠りについた。
・・・数年前・・・
これはまだ慎也が小学4年生と幼かった頃のお話。
「ねえ!今日何して遊ぶ!?」
「読書」
そう言って慎也は、幼馴染である鈴木夏菜を置いて1人本を読んでいた。
「もう慎也はいっつも本ばっかり!せっかくの中休みなんだから外で遊ぼうよ!」
「外に出んのめんどいし、体動かすのめんどいからやだ」
「めんどいばっかり言ってるとナマケモノさんになっちゃうよ慎也!」
「別にいいじゃん。それに俺が遊ばなくても、お前と遊んでくれる奴はいっぱいいるぜ」
慎也がそう言うと、数人の男子が夏菜を取り囲んだ。この時点から既に夏菜はかなりの美少女で、クラスだけでなく学年中の注目の的になっていた。
「なあ鈴木!俺らとドッチボールしようぜ!」
「うんいいよ!あ、でもそれなら慎也も・・」
「俺は行かんぞ」
「でも・・」
「そんなナマケモノほっとこうぜ鈴木!」
「じゃあな!ナーマケモノ!」
「はいわかったから」
まだ何か言いたそうにしていた夏菜を、無理やり男子たちは連れて行き教室を出て行った。
(やっとこれで本に集中できるわ)
そう思いながら慎也は本に目線を向けると、近くからヒソヒソ話が聞こえてきた。
「なんか夏菜ちゃんムカつかない?」
「わかるわかる。あいつ自分が可愛いからって調子に乗ってるでしょ」
「ほんと男子にチヤホヤされてるからってさぁ」
「ねー」
(・・なんだただの嫉妬か)
慎也が声のした方を見ると、そこでは複数人の女子が夏菜の陰口を言っていた。しかし慎也は少しその女子たちを見ると、興味なさげに目線を本に戻した。
(あいつらが夏菜のことをどう思おうが、俺には関係ないからいいや)
そう思って慎也は読書を楽しんだ。
「・・明日やっちゃわない?」
女子たちの不穏な会話に気づかないまま。
そして時間は進み放課後。
「起立!礼!」
『さようなら!』
「なあ鈴木!俺らと・・!」
「いやいや俺たちと・・!」
「慎也ー!帰ろー!」
帰りの挨拶終了直後に群がってきた男子たちを無視して、夏菜は慎也のところにダッシュで向かった。
「・・なぜに俺なんだ」
「え?だめ?」
「ダメではないんだが・・」
(まあ休み時間は断ったし、帰宅くらいは付き合ってやるか)
「わかった、一緒に帰ろう」
「やたー!じゃあ早く行こう!」
そう言って夏菜は慎也の手を引いて歩き出した。
「・・手を繋ぐのはやめてくれ」
「えーなんでー?」
「俺の生死に関わるので」
「?」
(許してくれ男子諸君)
ありとあらゆるところから向けられる男子たちの殺気まじりの嫉妬の視線から逃げるように慎也は足早に夏菜と教室を出た。
↓↓↓↓数分後↓↓↓↓
「慎也ー!」
「んー?」
「今日のテスト何点だったー?」
「70点」
「・・なんとも言えないね」
「うるせえ。そういうお前は?」
「100点だったよー!」
「オーケーそのケンカ買おうじゃないか。基本暴力は振らないが、その分他の方法でお前に絶望を見せてやろう」
「あはは!なにそれー!」
(なんでこいつ喋り方バカっぽいのに無駄に頭いいんだよ)
そんな会話をしながら下校する2人。
「やっぱ慎也は面白いね!」
「あ?どした急に?」
「別に〜!そう思っただけ!」
「おーそうかー」
(保育園からの付き合いだけどこいつの考えよくわからん)
「ねー慎也!」
「なんだよ?」
「慎也って保育園の時からのんびりしてるよね?なんで?」
「なんでって、ただ単にめんどいからだ」
「めんどい?」
「ああ。勉強するのがめんどい。外で体動かすのがめんどい。今こうして歩いて帰ろうとしてるのもめんどい」
「めんどいばっかだね」
「うるせえ。てかほとんどの人が自分の好きなこと以外はめんどいって思ってるだろ」
「そうかな〜?」
「まあ頭花畑のお前にはわかんねえよ」
「ん〜?」
唸りながら首を傾げる夏菜。その様子を見て慎也も夏菜に問いかけた。
「そういや、お前はなんで俺と一緒にいんだよ」
「え〜?友達だからだよ〜?」
「・・俺らって友達だったの?」
「えー!?違った!?」
「まあ少なくとも俺はなった覚えないな」
「えーじゃあ今からなろうよ!」
「まあ別にいいよ。てかいつから友達だって思ってたんだよお前?」
「んー?たしか〜、幼稚園で私が無くした大好きなぬいぐるみを慎也が見つけてくれた時かな?」
「そんなことあったか?」
「あったよ!どんなに探しても見つかんなかったクマさんのぬいぐるみを慎也が持ってて、それで・・」
「・・ああ、そういえばそんなことあったな」
(でもあれたしかゴミ箱に入ってて、俺がゴミ捨てたくて邪魔だったからどけようと一旦取り出したところをタイミングよくこいつが来ただけなんよな)
「それでそれで!慎也は優しいなって、友達になりたいなって思ったんだ!」
「だからお前、あれ以来俺にしつこく絡んできたのか」
「そう!・・・ってしつこくは余計!」
「はいはい」
「もー!」
口をプクっと膨らませながら慎也を睨む夏菜。そんな夏菜を見て慎也は口を綻ばせた。
(こいつからかって遊ぶのもいいかもな)
「あ、俺が優しいのは間違いな」
「え!?慎也は優しいじゃん!」
「いや、そのぬいぐるみのやつはたまたまだから」
「たまたまって?」
「俺がたまたまゴミ箱使おうとして見つけて、そこにたまたまお前が来たんだから。別に俺は探す気とかなかったぞ」
「たまたまが2つあったらそれはたまたまじゃないの!」
「それっぽいこと言うな」
「それに慎也が見つけたことには変わらないんだから慎也は優しいの!」
「なんでちょっとお前怒ってんの?」
「怒ってない!」
「いや怒ってるやん」
「怒ってない!」
「いやだからおこ・・」
「怒ってないったら怒って・・」
(あ!)
「きゃっ!」
まともに前を見てなかった夏菜は地面の凹みに気づかず、つまづき転びそうになってしまう。
「・・あれ?痛くない?」
「当たり前だろ。支えてんだから」
間一髪で慎也が夏菜のことを支えて転倒を防いだのだ。
「大丈夫か?」
「・・・」
「おーい?」
「・・・!」
慎也の呼びかけを無視して、夏菜は立ち直すと目を輝かせて慎也を見てこう言った。
「慎也はやっぱり優しいね!」
「っ!」
そう言って夏菜は慎也に満面の笑みを向ける。それを見た慎也は照れくさそうに頬を掻くと、顔を背けて先に歩き出した。
「い、いいからさっさと帰るぞ」
「はーい!」
こうして2人は再び歩き出した。
そして翌日、事件は起こった。