大切な友達
(あっぶねー!あとちょっと遅かったら死んでたわ)
「・・何よ、今さら」
「文句ならあとでいくらでも聞いてやる!」
(とりあえずこの体勢からどう上に上がろうか)
今慎也は片手で花乃の上着の襟腰、もう片手で柵の柱を掴んでぶら下がってる状態だ。
(仕方ない、ちょっと痛いと思うが・・)
「伊村すまん!」
「え?・・きゃっ!」
慎也は襟腰を持つ腕に力を入れると、花乃を屋上へと投げ戻した。
「いった・・」
「悪い、これしかなかった」
そう言って慎也ものぼり屋上に戻り、尻餅をついている花乃に手を差し伸べる。しかしその手を花乃は自身の手で弾いた。
「・・なんでよ」
「・・・」
「なんで今更助けたのよ!あんたさっき私が楽になるなら止めないって言ったじゃない!なのになんで!」
「・・さっきまでの俺はどうかしてたんだ。お前を見捨てるようなことを言って悪かった」
「・・遅い。遅い遅い遅い遅い遅い遅い!!何が悪かったよ!?むしろ見捨ててよ!!私はもう限界なの!!あの世に行かせてよ!!私を楽にさせてよ!!!」
花乃の心からの叫びが屋上に響き渡り、花乃の表情には怒りが込もっていた。しかし、それでも慎也は止まらない、友のために。
「・・無理だ」
「なんでよ!!別に私はあんたの・・」
「友達だからだ!」
「・・は?」
「さっき気づいた。俺にとって、お前は大切な友達なんだ。今までお前とはいろんなことをやった。一緒に森塚のいじめを止めたり、篠宮と鈴川、そしてお前の4人で遊園地に行った。そんでもって、お前がいじめられてた期間は放課後になると、一緒に買い物とか行ったよな。ここまでのことをして、友達だって思わない方が難しいわ」
「でもさっき聞いたらあんたは何も・・!」
「・・そのあとに、友達に言われたんだ。俺は鈍感なんだって。無意識にお前を友達だと思ってたんだって。全くもってその通りだった。俺にとってお前は知らないうちに大切な友達になってたんだ」
「・・・」
「都合がいいのはわかってる。今更遅いってのもわかってる。でも言わせてくれ!」
そう言って慎也は頭を下げるとこう言った。
「俺にお前を!!大切な友達であるお前を助けさせてくれ!!」
・・・花乃視点・・・
(・・ほんと、都合が良すぎる)
頭を下げている慎也を見ながら花乃はそう思った。
(何が友達に言われただ。ここには私と村上しかいなかった、心にでも住ませてるのか。何が大切な友達だ、遅すぎるんだよもう・・)
花乃はゆっくり立ち上がると、慎也に歩み寄る。
「・・顔上げて」
「わかっ」
「ふん!」
「!?」
その瞬間、顔を上げさせた花乃はなんと慎也の顔面に全力ストレートをかましたのだ。それを受けて慎也は少しよろめく。
「ちょ、お前・・」
「まさかこれで許されるとか思ってないよね?」
「・・・」
「私はあんたを許さない!」
「・・まあそうだよな」
「今まで賢斗や他の人みたいに傍観してたあんたを許さない!今更友達だからって都合のいい言葉を並べて私を助けようとするあんたを許さない!」
「っ・・」
「・・でも!」
「?」
(・・ねぇ神様)
「もしあんたがそれでも私を大切に思ってるなら!」
(今日まで私がんばったんだからさ)
「"私を助けて、償って"」
(わがまま言っても、バチは当たらないよね?)
そう言う花乃の目には涙が浮かんでいた。それを聞いた慎也の答えは決まっている。
「そんなん、当たり前だ!」
そう慎也は花乃に笑って言った。
・・・慎也視点・・・
「・・ほんとに助けてくれるの?」
「助けるよ。てかこのやりとりもう5回目」
先程のやりとりから数分後。2人は屋上の壁に並んで座り込んで同じやりとりを繰り返していた。
「だって、心配なんだもん」
(もんやめろ可愛いから)
「もう篠宮のことは忘れろ。あいつと違って俺はちゃんと助けるから」
「それはわかってるけど・・」
(・・仕方ないな)
「よーしわかった!じゃあ約束してやる!"明日"お前をいじめから解放してやるよ!」
「え、明日!?でも犯人やら証拠探さないといけないんでしょ!?」
「いや犯人はわかってる。原田と岸井、そんで瀬屈だ」
「それってあんたたちの会話を私に聞かせてきた・・ってなんでその3人が犯人だってわかんのよ!」
「いやそれは前に3人の会話を聞いたから・・・あ」
慎也は勢いのあまりとんでもない失言をしてしまう。それにすぐ気づいたが、時すでに遅し。慎也が花乃の顔を見ると花乃はジト目で慎也のことを見ていた。
「・・あんた犯人知ってたんだ」
「いや、その・・・はい」
「じゃあなに?あんたは犯人を知っていながら、見て見ぬふりをしてたわけ?」
「・・はい」
「ふ〜ん・・」
「あのー伊村さん?もしかしなくても怒ってます?」
「別に〜?私はそんなつもりないけど〜?村上がそう感じたならそうなんじゃな〜い?」
「・・・すみませんなんでもするので許してはくれないでしょうか伊村様」
「え、今なんでもするって言った?」
「あ、いや、そのまんまの意味じゃなくて、それくらい反省してるって意味で・・」
「男に二言は?」
「・・ありません」
「よし!じゃあこれからよろしくね〜!」
「はぁ・・」
笑顔で言う花乃に慎也は空を見上げてため息をついた。
(これからは奴隷生活まっしぐらかもなぁ・・・でもまあ)
自身に笑顔を向ける花乃を見ながら、慎也も顔を綻ばせた。
(こいつが笑ってるならいいか)