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世界渡りの少年  作者: 憧れる妄想
第二世界 第四章 正義の憎しみ
170/211

希望を持った少女




(・・伊村?)


屋上に入ってきたのは伊村であった。しかしその顔は生気を失っており、足取りも不安定で今にも倒れそうであった。


(こいつ大丈夫か?)

「おい伊村」

「?・・あれ、村上じゃん」


声をかけられ、慎也に気づいた花乃はいつも通りの口調で応じる。しかし声にはいつもの元気は込もっていなかった。


「あんたずっとここでサボってたの?」

「ああ、いろいろあってな」

「ふ〜ん。まあいっか、"今の"私には関係ないし」

「てかお前は何しに来たんだ?」

「あんたならわかんじゃないの?いじめられっ子が屋上ですることと言ったら1つでしょ」


そう言うと花乃は屋上の柵の方へと歩いて行くと、柵に手をかけた。


「!お前・・!」

「"原田"から聞いたんだー。賢斗は私を助けようと微塵も思ってないこと」

(原田が!?まさか昼休みの会話を聞かれてたのか?でも扉から気配は何も・・・いやそれよりも)

「そんな他人から聞いた情報を信じてんのか?」

「・・私も信じたくなかったよ。でもさ、聞かされちゃったんだよ、あんたたちの会話」

「!?」

「録音した会話をそのまま聞かされちゃってさ、正直辛かったよ。賢斗が何もしてくれてなかったなんて」

「伊村・・」

「・・話は変わるんだけどさ」

「ん?」

「村上にとって私って何なの?」

「!」


花乃の突然の問いに言葉が詰まる慎也。


(俺にとっての、伊村・・)

「・・はぁーあ!私もまっすぐ友達って言ってくれる人が欲しかったなぁ!」

「・・悪かったな」

「別に、あんたが私をどう思おうが自由だからいいよ。今のは私の独り言ってことで」

(・・友達か。俺と伊村は友達なんだろうか)

「・・ねえ村上?」

「なんだ?」

「あんたはこれ、止めるの?」


伊村の言うこれとは、これから行う行動のことだ。それを慎也ももちろん承知している。その上でこう答えた。


「・・お前がそれで楽になるなら俺は止めねえよ」

「!・・そっか」


そう呟く花乃は、悲しそうな表情をして柵を握る手に力を入れる。しかしすぐに首を横に振ると、慎也に笑って見せた。


「それじゃ、バイバイ村上!来世があったらまた会おうね」


そう言って花乃は足を上げて柵を乗り越えようとした。


(・・・これでいいんだ。あいつがこれで楽になるならそれでいい。それに俺は何もしないって決めたんだ)


そう慎也の心の中で呟き、慎也は目を瞑った。









『ほんとに、これでいいの?』

(!?)


その瞬間、突然慎也の脳内に謎の声が語りかける。


(・・イム、なのか?)

『そうだよ、慎也』


声の正体は、1つ目の世界で友となり、現在は慎也の力となっているスライムのイムであった。


『慎也は、これでいいの?』

(・・ああこれでいい。これであいつが楽になるならいいじゃねえか)

『本当にそれが本心?』

(ああ・・そうだ)

『そっか・・・ねえ慎也?』

(なんだよ?)

『慎也はさ、いじめ嫌い?』

(嫌いだよ)

『なんで?』

(なんでってそりゃあ、いじめは俺の大切なもんを傷つけてきた行為だからだ)

『大切なものって?』

(・・・仲間とか友達だよ!言わせんな恥ずかしい)

『だから森塚亮太君の時はあんなに怒ってたんだね』

(ああ。亮太は俺の大切な友達だからな)

『伊村花乃さんは違うの?』

(あいつは・・・そんなんじゃねえ)

『・・じゃあなんで、慎也は"止めようとしてるの?"』

(・・え?)


イムにそう言われて慎也は初めて気づく。自分の体が立ち、伊村を止めようと走りだそうとしてることに。


(なんで俺は・・)

『慎也はさ、鈍感なんだよ』

(鈍感?)

『うん。慎也は無意識のうちに伊村花乃さんのことを大切な友達だって思ってたんだよ』

(伊村が友達・・)


慎也は今までの花乃を思い出す。共に亮太へのいじめを止めたこと。恩返しに篠宮を連れ出し、4人で出かけたこと。そして今日まで花乃と過ごした放課後のこと。


(・・でもあいつに友達になってくれって頼んでない頼まれてもないぞ)

『友達って頼まないとならないものなの?』

(・・ふ、いや違うなそれは)

『うん。慎也は今までお願いとかは無しで、自然と友達や仲間を作ってきたよね』

(ああそうだよ。まあ唯一俺の提案で友達になったお前が言うのもあれだけどな)

『ちょっと僕だけ仲間外れみたいに言わないで〜!』

(はは、悪い悪い!)

『まったく・・・ねえ慎也』

(なんだ?)

『慎也にとって、伊村花乃さんは何?』

(そんなもん決まってる!)

「大切な友達だ!」


そうイムに放ち、慎也は花乃の方へと走り出した。









・・・花乃視点・・・


『ねえ伊村〜!これ聞いてよ〜!』

『・・何?』


これは昼休みでの記憶。窓からの景色を見て茫然としている伊村のところに、原田と岸井、そして瀬屈がやってくる。


『今篠宮君と村上の会話なんだけどさぁ』

『!?』


慎也と篠宮の会話と聞いて、花乃は耳を傾ける。そして花乃の耳に入ったのは・・


『お前伊村にはああ言ったが、元から探す気ないだろ?』

『・・ふ、それが何か問題でも?』

(・・え?)


それは慎也の質問への篠宮の肯定。最もして欲しくなかった肯定であった。


『篠宮君、あんたのこと助ける気ないんだってさ〜!』

『哀れ〜w』

『そんな、嘘よ!どうせ捏造なんでしょ!?』

『捏造じゃないわよ。今現在進行形で屋上で話してることよ』

『信じたくないなら行ってみれば〜?』

(う、嘘だ!賢斗がそんな!)


花乃の目にはすでに涙浮かんでいた。しかし現実とは無慈悲なもので、さらに追い討ちをかけられる。


『たまに伊村さんみたいに諦めずにアタックしてくる女子もいるんだよね。そんな女子を相手にするのはめどくさくてね、そういう女子との関係は捨てようと決めたんだ』

『・・つまり伊村は捨てると?』

『ああ。彼女ほど可愛い女子は怜さんくらいしかいないけど、この学校の女子は全体的にレベルが高いから別にいいかなって』

(・・・賢斗?)


篠宮の花乃を捨てる宣言。それを聞いた花乃は涙を流して俯いた。一方原田たち3人はそんな花乃の様子を見てゲラゲラと笑っていた。


『あははははは!かーわいそー!w』

『まさかほんとに捨てられてたなんてね!w』

『同情するわ〜w』

『・・・っ!』


耐えられなくなった花乃は席を立つと、走って教室を出てトイレの個室へと入った。


(・・なんでよ賢斗。私が何したっていうの?なんで、なんで・・!)


そう心の中で叫びながら、花乃はトイレでひたすら泣いた。









そして・・


「・・・」


時間は進み、屋上の扉の前。


(・・もう無理だな)


そう思って花乃は屋上の扉を開けて屋上に入った。


「おい伊村」

「?・・あれ村上じゃん」

(なんでここにこいつが・・)


まさかの慎也の出現に花乃は内心かなり驚く。しかしそれと同時に花乃は少しの希望を抱いていた。そして会話は続き、あの花乃の質問にいく。


「録音した会話をそのまま聞かされちゃってさ、正直辛かったよ。賢斗が何もしてくれてなかったなんて」

「伊村・・」

(・・なんで今更そんな顔すんのよ)


この時、慎也は気づいていなかったが、慎也は花乃に対して心配そうな表情していた。だからこそ、花乃は希望を持ってしまった。


(・・村上なら森塚の時みたいに助けてくれるのかな)

「・・話は変わるんだけどさ」

「ん?」

「村上にとって私って何なの?」

「!」


慎也にとっては答えに詰まる質問。しかし花乃にとっては、最後の希望を得るための質問であった。そして案の定慎也は答えに詰まり、その様子を見て花乃はため息をついた。


(・・やっぱ村上でもダメか。でも最後くらい欲張ってもいいよね)

「・・ねえ村上?」

「なんだ?」

「あんたはこれ、止めるの?」

「・・お前がそれで楽になるなら俺は止めねえよ」

「!・・そっか」

(やっぱ友達でもない人を助けようとは思わないんだね慎也。いや、むしろ死なせてくれてありがとうなのかな?)


そう思いながら花乃は柵の方に歩く。そんな中で、花乃は今までの人生で楽しかったことを思い出す。


(最後くらい、楽しい気分で死にたいな)


親と過ごした時間。篠宮と一緒にいた時間。そして・・


(・・村上との、放課後デート?なのかな。あれも案外楽しかったな。だから・・)

「それじゃ、バイバイ村上!来世があったらまた会おうね」

(その時には、友達になろうね"慎也")


そう心の中で呟き、花乃は柵を跨いで柵の外に出て、そこから見える町を見渡す。


(この13年間を過ごしてきた私、お疲れ様!こんな不甲斐ない娘になってごめんね、お父さんお母さん!来世ではあんたを超えてやるから、鈴川!)


そうして、花乃は屋上から飛び降りた。









その直後だった。


ガシッ!


「・・え?」

「逝かせねえぞこの野郎!」


なんと慎也が片手で柵を掴み、もう一方の手で花乃の上着の襟腰を掴んで落下を防いだのだった。


(・・遅いよ、もう!)




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