ギルドマスターとの対談
「ハーツさん、慎也さんを連れてきました」
「入れ、鍵は開いてる」
エテラが慎也を連れて二階に上がり、一番奥にある扉の前に来て、扉をノックすると中から返事が返ってくる。
「失礼します」
「し、失礼します」
「とりあえずそこのソファに座ってくれ。今からお茶入れるから」
「わかりました」
中に入ると、朝に慎也とエテラの話の途中に来た白髪の男性が出迎える。慎也は言われた通り、部屋の真ん中の机を挟むように置いてある二つのソファのうちの片方に腰を下ろす。エテラも、慎也の向かい側にあるソファに腰を下ろす。そして白髪の男性がティーポット一つとティーカップを人数分トレーに乗せて、慎也の向かい側に腰を下ろし、慎也達の前にお茶の入ったカップを置く。
「わざわざありがとうございます」
「そっちから来てもらったんだ、茶くらいだすよ」
(いやこれに関しては無理やり連れてこられたんだけど)
「じゃあまずは、本題に入る前に自己紹介しとくか。俺の名前は"ハーツ"。ここのギルドマスターをやっている、よろしくな」
「慎也です。よろしくお願いします」
「さて、じゃあ早速本題に入ろう。お前に来てもらったのは聞きたいことがあるからだ」
「聞きたいこと?」
「率直に聞こう。お前が朝、エテラに言ったことは本当か?」
「俺がエテラさんに言ったこと・・・・なんでしたっけ?」
「慎也さんがゴブリンウォーリアー倒したことです」
「ああそれか。はい、本当です」
「なら次の質問だ。あいつは個体によってはCランク冒険者のパーティーを壊滅させるほどの魔物だ。エテラに聞いたところ、珍しいことにお前はパッシブスキルを持っていないようじゃないか。さらにお前はまだランクはE。そんなお前がどうやってゴブリンウォーリアーを倒した?」
「・・・・その質問に答える前に一ついいですか?」
「答えてくれるならいいだろう」
「ハーツさんの知り合いにパッシブスキルとは他に、もう一つスキルを持っている人っていますか?」
「チャントスキルのことか。それなら俺と確かディードも持ってたな。それがどうかしたか?」
「そうそうそれ。実は俺そのチャントスキルを持ってるんですよ」
「・・・・そうなのか」
「あれ?意外と反応薄い」
「慎也さん。チャントスキルは10人に1人は持ってるので、そこまで珍しくはないんですよ」
「そうなんですか。じゃあ俺が持ってるチャントスキルがSランクっていうことも驚きそうもありませんね」
慎也がそう言った瞬間、ハーツとエテラが目を見開く。
「あのう・・どうかしましたか?」
「お前、チャントスキルがなんだって?」
「え?だから俺が持ってるチャントスキルがSランクって・・」
「ハーツさんどうしましょう!?」
「エテラ落ち着け。このことは俺たちが秘密にしておけば騒ぎにはならん」
「俺って騒ぎになるようなこと言ったんですか!?」
「ああ。下手したら世界が騒ぎになるぞ」
「そんなに!?」
「慎也、お前はSランクのチャントスキルを持っている人は全人類で何人だと思う?」
「え?10人に1人の割合でチャントスキルを持つ人が生まれるんでしょ。となると・・・・17人くらい?」
「大はずれ。俺が知る限りだと正解は、お前を入れて 3人だ」
「え!?ちょっと待ってください!それは流石に少なすぎません!?」
「いいか慎也?Sランクっていうのはとても希少なんだ。例えば冒険者。人々に知られているSランクの冒険者だけでも、たったの5人だ。さっき俺が言ったお前以外にSランクのスキルを持ってるのは2人ともSランク冒険者だ。しかもその2人はどっちともパーティーは組まず、個人の力でSランクに上り詰めるほどの実力者だ」
「たった1人で!?それは凄いな・・・Sランクになるのがどれだけ難しいか知らないけど」
「そういえば慎也さんのチャントスキルってどんな効果なんですか?」
「えっとたしか『ブーストアイ』っていう名前です。効果は、発動者のレベルに応じてステータスを上昇させるらしいです」
「らしい、ってことは誰かに聞いたのか?」
「はい。なんか夢の中で精霊と名乗った少女が教えてくれたんですよ」
「精霊?ハーツさん、精霊ってなんですか?」
「俺もよくは知らん。そういうのは科学者たちに聞け」
「そんなことより!もう俺への質問は以上ですか?」
「あ、ああ。もう大丈夫だ」
「なら、俺はもう行きますね」
「あ、ちょっと待ってくれ」
そう言うと、ハーツは立ち上がり、部屋の隅にある大きな本棚から一冊の本を取り出し、慎也のところに持っていく。
「よかったら持ってってくれ」
「なんですかこれ?」
「それは、全レベルの魔法と武技の載った本だ」
「え?そんなもの持っていっていいんですか?」
「さっきも言ったが、お前が持っているSランクスキルはとても希少なんだ。まあそれ故に、効果は他のスキルとは比べ物にならないほど強い。だからお前は俺たち人類側の大事な戦力。そんなお前がいざって時にまともな魔法と武技を使えなかったら困るからな」
「確かにそうですね」
「だろ?だから遠慮せずに持ってけ」
「わかりました」
慎也は言われた通り、ハーツから本を受け取り、リュックの中に入れる。
「それじゃあ俺はこれで」
「あ、そういえば慎也さん」
「ん?どうかしましたかエテラさん?」
「私、慎也さんに聞きたいことがあったのを思い出しました」
「なんですか?」
「あなたが言っていたリアって人のことです。でも流石にハーツさんも仕事があると思いますし、邪魔してはいけないと思うので、別の部屋に移動・・・・・てあれ?慎也さんがいない」
「あいつなら慌てて部屋を出てったぞ」
「えっちょ慎也さん!待ってください!」
慎也が出てった事を聞いたエテラは、勢いよく部屋を出る。その様子見たハーツは苦笑いしながら部屋の扉を閉めるのであった。
(そういえばライルたちとの約束破っちゃったな。どうしよう)
翌日。慎也はギルドを目指して街中を歩いていると、ふと昨日ライルとリアとクエストに挑むという約束を破ってしまったことを思い出す。
(ガチでどうしよう。あいつらきっと怒ってるだろうなあ。なんかお詫びの品でも買ってくか?でも俺、金全然持ってねえし。やっぱりリアの言う通りさっさとランク上げた方がいいかな・・)
どうしようか考えている慎也。気づけばギルドの前に着いていた。
(まあ考えてても仕方ない。とりあえずクエストに行けなかった理由を話して謝るか)
慎也はギルドの中に入り、ライルとリアを探す。すると慎也は、あることに気づく。
(なんか他の冒険者達が騒がしいな)
慎也の周りの冒険者達がある場所に、視線を向けながら小声で何かを話していた。何を話しているのか気になり、慎也は耳をすます。
「なあ、あれって」
「ああ間違いねえ。あの服にあの髪・・・・聖女だ」
「どうしてこんなところに・・」
「ここら辺は特に強い魔物なんていねえのに」
「おい誰か聞いてこいよ」
「無理よそんなの。緊張しすぎて何も話せないわよ」
いろいろなところからそんな話が聞こえて来る。
(なるほど。つまりその聖女と呼ばれている人がこのギルドに来て、こんなに騒がしいと・・・・・いや騒ぐ必要なくね?よく小説とかで聖女って呼ばれてる人は大体強いけどさあ、どうせクエスト受けに来たとかそんな理由だろ、ああ馬鹿馬鹿しい。周り見渡したけどライルとリアいなかったし、何かクエスト受けて帰ってきた時にまた探すか)
そう思い、慎也は掲示板に向かい、クエストの紙を取る。そして慎也が受付の方へ向かおうとした時、慎也の後ろから誰かが近づいて来る。
「あのうすみません」
「ぴゃん!」
「・・・・意外と可愛い驚き方するんですね」
(いきなり声かけられたから変な声出ちゃったよ。てか可愛いって言うな。てか誰だよ一体?)
慎也は声のした方へ振り向く。そこには、白と黄色の縦じまのローブを着ていて、両手には、先端に黄色の水晶が埋め込ませている金属で出来た杖を持つ、金髪の女性がいた。
「ど、どうかしましたか?」
「一つ聞きたいことがあるんですけど・・・」
「答えられることは答えますよ」
「じゃあ、ここのギルドにSランクのチャントスキルを持つ人がいるって聞いて来たんですけど、誰か知りませんか?」
(・・・・・・・え?)
「どうかしましたか?」
「あー・・・・ちょっと待ってください」
「わかりました」
慎也は女性の質問に少し困惑したが、すぐに持ち直し頭の中を整理する。
(えーっと?この女性は、俺を探しに来たのか?でもこの様子だと自分の目当てが俺とはまだ知らないようだし・・・・嘘言って隠すか。俺の勘がこの人に、俺がその人ですって言ったらめんどくさいことになると言っている)
「すみません。そろそろいいですか?」
「あ、はい、大丈夫ですよ。それでSランクのスキルを持ってる人でしたよね?すみません。僕はそんな人知りません」
「そうですか・・」
「お役に立てなくてすみません」
「いえいえ。こちらこそ時間をとらせてしまって申し訳ございません」
(ああ、俺はこんな良い人に嘘をついてしまったのか。やべ、心痛んできた)
「しかしそうなると、残るはギルドマスターだけですか。お時間いただけるでしょうか・・」
(え?ちょっと待って?この人今からハーツさんのところに行くの?これは止めるべきか、それともあの人が俺だって言わないこと信じるか・・・・ここはハーツさんを信じよう。きっと俺のことを思って言わないはず・・・・多分!)
「それじゃあ私はこれで」
「あ、はい。あなたが探してる人、見つかるといいですね」
「ありがとうございます」
そう言うと女性は、そそくさと二階へ上がって行った。
(そういえばあの人、なんで俺を探してたんだろう?何か用でもあったのか?・・・いや、もうあの人のことは忘れよう。きっとあの人は、関わるとめんどくさいことになるランキング上位に君臨する人だ。俺の面倒センサーがそう言っている。てことで、さっさとクエスト受けて忘れよう)
そう思い、慎也は再度掲示板に向き直る・・
「あれ?慎也じゃないか」
「こんにちは慎也さん」
っとそこにライルとリアが近づいて来る。
「あ、ライルとリアか。あ、そうだ。昨日はすみませんでした」
約束を破ったことを思い出し、慎也は2人に土下座をする勢いで頭を下げ、なんとか許してもらえるのであった。