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世界渡りの少年  作者: 憧れる妄想
第二世界 第四章 正義の憎しみ
169/211

偽善者




(・・・おかしい)


2人の放課後の買い物から1週間ほど経った朝。慎也は珍しく朝早くに学校に来て机に突っ伏しながら、現状に疑問を抱いていた。


(篠宮は何やってんだ?むしろ酷くなってるぞ)


その理由は、篠宮が犯人を探すと言っていたにも関わらず、ここ数日で花乃へのいじめが無くなるどころかエスカレートしているからだ。


「おい慎也。なんか伊村明らかに元気なくなってんぞ」

「わかってるよ」

(もう取り繕えないくらい弱ってんのか、伊村)


そう思って慎也は花乃に視線を向ける。花乃は今までの様子とはガラッと変わり篠宮の方には行かず、光のない目で窓の外をずっと見ていた。その表情も虚無で、さすがの慎也もまずいと感じていた。


(そんで篠宮は・・)


一方篠宮はというと、花乃の状態などお構い無しにいつも通り複数人の女子と話していた。


「くそー!犯人の足取り掴めねえし、このままじゃ伊村が不登校になっちまうぞ。どうすんだ慎也」

「どうするって言われてもなぁ・・」

(これに関しては俺がどうこうより、篠宮の調査の進み具合なんだよな)

「・・昼休みに行ってみるか」


そう呟き、慎也は机にうつ伏せになり目を閉じた。









そして時間は進み昼休み。


「おい篠宮」

「ん?村上君?」


昼食を食べ終えた慎也は女子と楽しそうに話している篠宮に話しかける。


「ちょっと何あんた?」

「今篠宮君は私たちと話してんだけど」

「まあまあ。で、僕に何の用だい?」

「いや実はな、鈴川がお前に話したいことがあるって呼んでるんだよ」

「怜さんが?」

「ああ。ただここじゃ話せないようなことだから、代わりに俺が呼びに来たんだ」

「そ、そうなんだ」

「行くの篠宮君?」

「ああ。行かないのも申し訳ないし」

(計画通りだな)

「じゃあついてこい、案内する」


怜を餌に篠宮を釣れた慎也は、そのまま篠宮を連れて教室を出て行った。


↓↓↓↓移動中↓↓↓↓


「・・・」

「ついたぞ」


そう言って慎也は立ち止まる。慎也が篠宮を連れてきたのは人気のない体育館裏。


「・・まあ薄々そんな気はしていたよ」

「お?嘘ばれちった?」

「最初こそ浮かれたけど、よくよく考えたら怜さんが僕に用なんてあるわけないしね。で、怜さんを使ってまで僕を呼んだ理由は何かな?」

「わかってるくせに。伊村のことだよ」

「・・へぇ」


慎也が花乃の名前を出した瞬間、一瞬驚いた表情をした篠宮だが、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「伊村から聞いたぞ。お前犯人探ししてるらしいじゃねえか」

「ああそうだね」

「でもこの1週間、まるで変化がないんだがどういうことだ?」

「いや〜なかなか犯人が手がかりを残してくれなくてね。かなり苦戦して・・」

「嘘つけ。お前が周りの女子にお願いすれば1発じゃねえか」

「・・・」

「鈴川を除くこの学校の女子はみんなお前の言いなりみたいなもんだからな、お前が少し頼んだら血眼になって犯人探して、2日か3日すれば簡単に見つかるだろ」

「・・何が言いたいんだい?」

「そうだな、もうまわりくどい言い方はやめよう。お前伊村にはああ言ったが、"元から探す気ないだろ"?」

「・・ふ」


慎也の発言に、焦りも動揺もせず篠宮は鼻で笑ってこう言った。


「それが何か問題でも?」

「!・・・なるほど、お前はそういう奴か」

(女には優しい聖人かと思ってたが違うみたいだな)

「花乃さんがいないから言うけど、僕は別に何でもお願いを聞く聖人じゃない。自分にメリットのないことはいないタイプなんだ」

「じゃあなんで伊村にあんな希望与えるような言葉を言ったんだ?」

「僕からの"最後の"優しさみたいなもんだよ」

「最後だと?」

「ああ。ほら、僕ってイケメンだし家が金持ちだから、小学生の時もかなりモテたんだよね。それで告白もしょっちゅうされてた。でまあ、告白を断った女子は大体気まずくなったのか、距離を置かれたんだけどね。たまに伊村さんみたいに諦めずにアタックしてくる女子もいるんだよね。そんな女子を相手にするのはめんどくさくてね、そういう女子との関係は捨てようと決めたんだ」

「・・つまり伊村は捨てると?」

「ああ。彼女ほど可愛い女子は怜さんくらいしかいないけど、この学校の女子は全体的にレベルが高いから別にいいかなって」

「・・じゃあなんで」

「ん?」

「なんで伊村にあんな希望を持たせるようなことを言ったんだよ」

「・・・」

「伊村はお前に助けるって言われたから、ずっとお前に希望を抱いて今日まで耐えてんだぞ。なのに実際お前は何もしないとか、そんなの"偽善者"のやることだ」

「偽善者、ね。たしかに僕にお似合いの言葉だ。でもそれを言うなら・・









         君も"同類"だけどね」

「っ!?」


篠宮の思わぬ反撃に、喰らった慎也。しかしすぐさま否定しようと口を開く。


「いや俺は・・!」

「違うって?でも君最近、花乃さんと仲良くしてるみたいじゃないか。この前なんて放課後2人で買い物までしてたらしいし」

「なんでそれを・・」

「女子の情報網はすごいからね。彼女を蹴落とそうと他の女子がすぐに僕に言ってくれたよ・・・いや今はそんなことは関係ないか」

「そうだよ。俺は別に偽善者なんかじゃ・・」

「いいや君は偽善者だ。だって村上君、花乃さんと仲良くするだけで、一切助けようとしてないじゃないか」

「っ!それは・・」

「前の、森塚君だっけ?あの男のいじめもおそらく君が収めたんだろ?それを知ってる花乃さんだからこそ、君が仲良くしてくれてたから、僕にだけじゃなくて君にも無意識に希望を持ってたんでしょ。でも君は実際は犯人も探さず、ただ花乃さんと仲良くして無駄に希望を持たせる。これのどこが偽善者じゃないのか教えてほしいんだけど」

「・・・っ」

「言い返せないのがいい証拠だよ」


そう言うと篠宮は立ち尽くす慎也の横を通り過ぎて、ドアノブに手をかける。


「それじゃあ僕は行くよ。バイバイ、ヒーロー気取りの同類さん」


そう不敵な笑みを浮かべながら言うと、篠宮は屋上を出て行った。









キーンコーンカーンコーン

(・・・)


あれから2時間経ち、最後の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。


「・・はぁ」


あれから慎也は屋上からは動かず、扉付近の壁を背に座り込んでいた。


『バイバイ、ヒーロー気取りの同類さん』

(・・・)


先程篠宮が言い残した言葉が、慎也の脳内でリピートされる。


(・・そうだよな。あいつの言う通り、俺も立派な偽善者だ。それに俺は、あいつと絡むことで「何もしないお前らとは違う」って自分を正当化しようとしてたのかもな)

「・・・はぁ」


改めて自身のこれまでの行動を振り返り、自分自身に呆れてため息をつく慎也。


(もういっそのこと、"何もしない"方が、あいつにとっていいのかもな)


そう慎也が思った瞬間であった。


ガチャッ

(・・ん?)


屋上の扉がゆっくり開き、1人の生徒が入ってきた。


(・・伊村?)




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