本音
「失礼しやーす」
「あー村上こっちー」
花乃に頼まれてジャージを持って保健室に来た慎也。花乃に呼ばれて慎也はヒーターの前にしゃがんでいる花乃の元に行く。
「先生いねえの?」
「なんか仕事あるんだってー。それよりジャージちょーだい」
「借りる奴の態度かよそれ。ほれっ」
「ありがとー。それじゃあ着替えるから覗かないでね」
「覗くわけねえだろ」
「まあ村上はそうだよねー」
そう言って花乃はジャージを持ってベッドのカーテンを閉めて着替え始めた。
「じゃあ俺は教室に・・」
「あ、私をいじめてる奴が来るかもしれないから見張っといてね」
「えぇ・・」
(さすがに原田も直接はして来ないだろ)
「そういや村上ー?」
「なんだよ」
「賢斗とくっくつための作戦なんか考えてくれたー?」
「考えてねえよ。というかお前一旦篠宮から離れたらどうだ?お前もいじめられてる原因わかってるんだろ?」
「わかってるけど、それで賢斗から離れたら負けた気がして嫌なのよ」
「勝つ負けるの話じゃないだろこれ・・」
「それにいじめのこと賢斗に相談したらさ、『僕の方でも犯人探して止めるよう言っておくよ』、って言ってくれたのよ。私のためにそこまでやってくれるなんて脈ありなんじゃないかしら」
「へぇ〜」
(篠宮がなぁ。まああいつが動くなら尚更俺らが動く必要は無さそうだな)
「ていうか着替え終わった?俺教室戻りたいんだけど」
「ちょっと待ってあと少しだから」
「早くぅ〜」
「・・・はい着替え終わったわよ」
そう言って花乃はベッドのカーテンを開け、濡れた自身の服をジャージの入っていた袋に入れた。
「おい濡れたもん入れんな」
「どうせ洗濯して返すんだからいいでしょ。それより教科書と荷物の安全確認したいから早く行こ」
そうして花乃は慎也を連れて保健室を出て行った。
「気をつけ!礼!」
『さようなら!』
「気をつけて帰れよー」
時間は進み放課後。各々が部活や帰宅のために教室を出て行ってる中、慎也は亮太と怜に捕まっていた。
「おっし行くぞ慎也!」
「いや帰らせてくれよ」
「ダメですよ。私の言うことを聞く約束でしょう?」
「いやだーおうち帰ってゲームしたいー」
「そんな子供みたいに駄々をこねないでください」
「まだバリバリ子供なんですが」
そんな会話をしていると、不機嫌そうに花乃が3人に近づいてくる。
「村上ー」
「今度はなんだよ?」
「買い物付き合ってくれない?」
「は?」
「賢斗に頼んだら用事あるって断られてさー。だからあんたが代わりに来てくんない?」
「いや絶対・・」
(・・待てよ?これは逃げるチャンスなのでは?それに買い物というとたぶん近くのショッピングモールだから犯人探しと違って俺が暇することもない、というかちょうど最近イヤホン壊れたから新しいの欲しいし・・・ありだな)
「伊村さん。実は私たちはこれから・・」
「いいな買い物!ぜひお供させてもらうわ!てことで行こうさっさと行こう!」
そう言って慎也は花乃を連れて教室を猛スピードで教室を出て行った。
「逃げたな」
「逃げましたね」
そして時間は進み夕方。辺りが暗くなってきた中、2人は買い物袋を持って帰路についていた。
「いやー買った買った!」
「お前セールだったからって買いすぎだろ」
「だってお得なうちに買っといた方が後々損しないでしょ。それにあんただってなんか買ったんでしょ?」
「ああ。壊れてから新しいイヤホン買った。でもお前の買った量に比べたらすずめの涙だろ」
「それはさすがに言いすぎ」
「じゃあ何買ったんだよ」
「えーっと、服を上下5着ずつでしょ。あとシャンプーとボディーソープの詰め替えのやつを2つずつ。あ、あと最近寒くなってきたから可愛い湯たんぽを3つ。あとは・・」
「いやもういいわ」
(学校帰りに買う量じゃないわ。それに湯たんぽ3ついらねえだろ)
「ていうかそんなに買って金は大丈夫なのか?」
「その点は大丈夫!賢斗ほどじゃないけど、うちって結構お金持ちだから。毎月10万は貰ってるわ」
「貰いすぎだろ。俺なんてもらえても5千だぞ」
「それはあんたの金遣いが荒いせいじゃない?」
(お前に言われたくない」
「心の声漏れてるわよ」
「おっとこれはすまん」
そんな他愛もない話をする2人。すると突然花乃がため息をつく。
「はぁ・・・学校行きたくないな」
「口では『負けた気がしていや』とか強気なこと言ってたのに、お前でも案外効いてるんだな」
「当たり前でしょ。私も人間なんだから傷ついたりするわよ」
「まあそりゃあそっか。でもまあ、お前の場合は篠宮がなんとかしてくれるじゃねえか」
「そうそう、ほんと賢斗って頼りになるわ!」
「でも篠宮だけに任せず、ちゃんと自分でも動けよ。丸投げが1番ダメだからな」
「わかってる!だから明日も犯人探すわよ!」
「そうか、頑張れよ」
「言われなくても!」
そう言って笑う花乃を見て、慎也も安心したように口元を綻ばせる。
(この調子なら大丈夫そうだな)
「あ、じゃあ私こっちだから」
「おう、気をつけて帰れよー」
「・・え、送ってくれないの?」
「むしろなぜ俺がそんなことすると思った」
「えー!荷物重いから持って欲しいんだけど!」
「えー!歩き疲れたから帰らせて欲しいんだけど!」
「マネしない!ほら荷物持って家まで送って!」
「はぁ・・・仕方ねえな」
そうして慎也は嫌々花乃の荷物を持って花乃を家まで送ることになった。