密告
サボりすぎたぜー!
「・・・で、お前はその生徒との約束破って俺に報告しに来たと」
「そゆことです」
翌日。慎也はいじめっ子の約束を守るはずもなく朝早くから学校に来て平島に報告していた。
「その生徒らの名前は?」
「3人ともフルは知りませんが、リーダー的な奴が由美と呼ばれてました」
「俺のクラスで由美っていうと・・・たぶんそれ原田だな」
「原田由美・・」
「ああ。あいつはいつも岸井と瀬屈っつう女子2人といるからね。あとは顔がお前の記憶と一致するかどうかだが」
「まあ同じクラスなら見たほうが早いでしょう。てことで俺はこれで・・・あ、そうだ。俺が密告したこと秘密にしてくださいね。女は怖いですから」
「あいよ。それならあいつら呼び出さないほうが良さそうだね」
「そうしてくれると助かります」
そう言って慎也は職員室を出た。
「あ、村上」
「・・おはよう、伊村」
すると出たところで慎也は靴の入った袋を持った花乃と鉢合わせる。
「こんな早くに来るなんて珍しいな」
「靴を回収するためよ。2度も同じことされたらたまったもんじゃないわ」
「まあそりゃあそうか」
「あんたは?あんたもいつも来るのギリギリでしょ」
「あー・・」
(ここで下手なこと言って伊村が原田に行ったら面倒だしなぁ・・)
「鈴川との朝ランから逃げるためだよ」
「大丈夫なのそれ?」
「大丈夫だろ、知らんけど」
「まああんたがどうなろうがどうでもいいけど。それよりさっさと教室行きましょ」
そう言って花乃は歩き出し、それに慎也もついていく。
「そういや村上。次はどうする?」
「は?なんだよ次って」
「私と賢斗をくっつける作戦!まさか私が1回で終わるとでも思った?」
「いやフラれたんだから諦めろよ」
「そんな1回フラれた程度で・・・ちょっと待って、なんであんたが知ってんの?」
「鈴川から聞いた」
「あんの女ぁ!あいつのことだから誰にも言わないと思ったのにぃ!」
「まあ別に俺も言うつもりないし、そもそも話す相手いないから安心しろ」
「ふーん・・・まあそうよね」
「それで納得されるとちょっと悲しいな」
そんなこんなで2人は他愛もない話をしながら教室に到着した。
「今日はなんかやられてんのかな」
「知らないけど、別にやられても無反応だったらいつか飽きるでしょ」
ガラッ
「あ・・」
(・・やられてんな)
教室の扉開けて自身の机を見た花乃の表情が明らかに暗くなる。しかしすぐに花乃は表情を明るくし、何事もないかのように教室のロッカーから雑巾を持ってきた。
「あーめんどくさ。拭くのだるいし、いっそのこと森塚みたいに彫刻刀でざくっていってほしかったわ」
「そしたら取り替えてもらえて楽だしな」
「そうそう・・・って見てないであんたも手伝いなさいよ」
「仕方ねえな」
花乃に言われ慎也も雑巾を濡らして持ってくる。
(それにしても、この言葉的に原田は篠宮が伊村をふったのを知ってんのか)
そう思いながら、慎也は『捨てられた女は学校くんなw』とぺんで落書きされた花乃の机を拭いた。
そして時間は進み昼休み。慎也は昼食を取るべく怜と亮太と共に食堂に来ていた。
「なあ慎也ー?」
「なんだー?」
「今日の放課後暇ー?」
「ゲームで忙しいー」
「つまり暇だなー・・・伊村をいじめるやつ探すの手伝え」
「急なマジトーンでえぐい提案してくるやん」
「口調的に提案じゃなくて命令ですけどね」
「そんでどうなんだ?」
「どうと言われても、急にどうした犯人探しなんて?もしかして伊村のこと好きなのか?」
「そういうわけじゃねえよ。ほら、球技大会のあれ、伊村のおかげで犯人捕まえれたんだろ?その恩返しだ」
「へぇー」
「まあ立派ですね。どっかの誰かさんと違って」
「・・俺のこと?」
「さあどうでしょう」
(この野郎・・)
「とりあえずまずは、伊村がいじめられている理由を考えようと思う」
「いやそれはたぶん篠宮にふら・・」
「村上君?」
(あ、そういやこれ秘密なんだっけ)
「・・イヤーオレモワカンナイナー」
「だよな〜。ここはお前らみたいにいじめっ子の書いた言葉を頼りに・・」
「ごちそうさん。そんじゃせいぜい頑張れよー」
「え、手伝えよ慎也ー!」
「放課後暇だったらなー」
そう言って慎也は2人を置いて食堂を出て行った。
食堂を出た慎也は教室に向かうべく廊下を歩いていた。
「ふぁ〜あ」
(飯食ったおかげでねみぃ。教室戻って寝るか)
そう思って慎也は歩く足を早めようとした。
「ちょっと村上〜」
(伊村か)
しかし後ろから声かけられ足を止める。声から慎也は声の主が花乃だとわかってか気だるそうに後ろに振り返った。
(眠いしさっさと要件聞いて教室いこ)
「なんだ伊む・・」
(・・は?)
早めに済ませようと思っていた慎也だったが、視界に入った花乃の姿を見て言葉を失い眠気が吹っ飛んだ。
「あんたジャージ持ってない?貸してほしいんだけど」
なんと花乃は言葉通り"全身びしょ濡れ"であった。時期的に冷えてきていたこともあり、花乃は若干体を震わせていた。
「一応持ってるが・・」
「なら私保健室にいるから、持ってきてね」
「いやせめて説明を・・」
慎也の言葉を聞かずに花乃はびしょ濡れのままその場を去って行った。
「・・まあ借りにしとけばいいか」
そう呟いて慎也はジャージを取るべく教室へと向かった。