傍観者
始まりというのはいつも唐突である。
「あ〜疲れたー!」
慎也たち4人が遊園地に行った日の週明け。慎也はいつも通り学校に来て自身の席にへたり込んでいた。
「なんで朝っぱらからそんな疲れてんだよ慎也」
「はよーう亮太。いやな、鈴川に10キロランニングに付き合わされてよー」
「10キロ!?よく走れたなそんなに」
「おかげで朝ごはん口から出かけたからな」
(そんでその鈴川はあれだしな)
慎也と違って怜は疲れた様子はなく、平然と自身の席で読書をしていた。
「あの野郎・・」
「まあ鈴川は体力お化けだからな」
(俺も体力つけるかなー。これからのリオンズとの戦いで長期戦になることとかないとは言えないし)
「はーいお前ら席につけー」
平島の入室でガヤガヤと話していた生徒たちも静まり自分の席へ座った。
「それじゃあ日直頼むー」
「はーい」
そこからはいつもの流れで朝の挨拶、先生からの知らせと特に問題もなく朝のHRは進んで行った。
「それじゃあこれで・・」
ガラッ!
そう平島が朝のHRを終わらせようとした瞬間、教室の扉が勢いよく開き、スリッパを履いた花乃が息を切らして入ってきた。
「おい伊村、お前ちこ・・」
「そんなことはどうでもいいのよ!」
「そんなことってお前なぁ」
(なんであんなキレてんだよあいつ?)
そんな慎也の素朴な疑問も花乃の次の行動によってすぐに消えた。
「誰よ私の上履きにこんなことしたの!!!」
そう言って花乃は、『捨てられた女w』と落書きされた自身の上履きを皆の前に出した。
その後、花乃は事情聴取のために一旦職員室に連れてかれ、残された慎也たち生徒は次の授業の準備をさせられていた。
「・・・」
「・・やっぱ慎也、さっきの気になるか?」
「ん?まあそうだな。まさか同じ学校でいじめが2回も起こるなんて思わなかったぜ」
「それで村上君。今回も犯人探しするんですか?」
「んー・・」
怜の問いかけに、慎也は少し考える素振りをすると、こう答えた。
「・・今回は別にいいや」
「え!?なんでだよ!?」
「いやまあいじめは嫌いだし、許されることじゃないけど、無関係の俺がとやかく言う資格はないからな」
「・・いじめられているのが伊村さんでも?」
「ああ。別にあいつと俺は友達じゃないしな」
「え!?友達じゃなかったのか!?」
「あっちが勝手に近づいてきただけだ。俺は友達と思っちゃねえよ」
「そうですか・・・ちなみに私がここで犯人探しを手伝えって言ったら従いますか?」
「なんだ鈴川、お前伊村助けたいのか?」
「一応一緒に出かけた仲ですから」
「・・お前は優しいな。でも俺らがそんなことしなくても、伊村にはあいつがいるだろ」
そう言って慎也は自身の机を囲む女子たちと楽しそうに話す篠宮を指した。
「彼が彼女を助けると思ってるんですか?」
「まああいつは友達だし助けるだろ」
(あいつの中で友達がどういう存在なのかは知らんが)
「あの篠宮がそんなことすんのかねぇ・・」
「おーいお前ら席つけー!授業始めんぞー!」
(とりま伊村は篠宮に任せて俺は・・・睡眠学習しよ)
そう決め慎也は授業開始と同時に机に突っ伏した。
その後は何事もなく時間は進み、放課後になった。
「それでは先に失礼します」
「おーう」
剣道部の練習を終え、怜を先に帰らせた慎也は自販機を求めて人の少なくなった学校を歩いていた。
(なんか今日は鈴川の攻撃いつもより弱かったな。もしかして伊村のこと気にしてんのかな?でもあいつ伊村とそんな仲良くないはずなんだけどなぁ・・)
そんなことを考えながら慎也は自販機に到着し、飲み物を買おうと財布を取り出した。
『それにしても朝の伊村のあの顔!めちゃくちゃウケたよねー!』
(!)
そんな声を聞き、慎也は咄嗟に自販機の影に隠れて声の主を探す。
『マジそれ!』
『もう笑い堪えるのに必死だったよ!』
(なんだあいつら?)
『ね。しかもやったの誰かなんて聞いて私たちが、はい私たちがやりました、なんて言うわけないのにね!』
そう言って女子ABCの高笑いが慎也以外人がいない廊下に響く。その3人の会話を聞いて慎也は、朝の伊村の件の原因がこの女子たちだと察する。
(なんか聞いちゃいけないもん聞いちゃったな。ここは静かに退散して・・)
ポロッ
慎也が忍び足でその場を去ろうとした時だった。慎也の手にある財布から1枚の小銭が床に落ち、廊下に金属音が響き渡った。
「あ?」
「なに?」
「あ、あいつ!」
(あ、やべ)
「あー財布開けっぱなしだったー拾わないとー(棒)」
咄嗟の演技で慎也は小銭を拾い足早にその場を去ろうとした。が、後ろから肩を掴まれ、後ろに振り向かえらせられると、そのまま女子Aに胸ぐらを掴まれて壁に叩きつけられる。
「・・なんだよ」
「あんたたしか同じクラスの村上だよね?」
「そうだが?あ、もしかして今の会話聞かれたから口止めのために脅そうってか?」
「当たり前でしょ」
「ちょ、由美こわ〜w」
「やっちゃえやっちゃえ〜!」
(・・・だる)
「あのなぁ、別に今の会話を俺が先生に告発しようが、証拠も無しに信じてくれるわけないだろ」
「は?」
「良くてお前らが呼び出されて事実確認されるだけだ。そんでお前らがしらばっくれればそれで終わり」
「へ、へぇー。それじゃああんたは何もしないって言いたいの?」
「ああ。というか証拠があったとしても、俺には関係ないから何もしないけどな」
「うそマジ〜?」
「人の心無さすぎでしょ〜!」
(お前らに言われたくねえよ)
「・・・」
「わかったらその手を離してくれ」
「・・チッ」
由美と呼ばれた女子Aは訝しげに慎也を見ながらも、渋々手を離す。
「・・ほんとに話さないのね?」
「ああ。"友達でもない"伊村を助ける義理はない」
「ふーん、あっそ。ならいいわ、行こう2人とも」
「うん」
「りょーかい」
そうして由美という女子は女子BCを連れてその場を去って行った。
「・・さて、帰るか」
そして慎也も本来の目的である飲み物を買ってその場を後にした。