洞窟探検
「・・とまあ、俺は自分の時間を犠牲に鈴川を今日連れ出したわけだ」
「なるほどね。でも借りを返すために借りを作るって意味わからないんだけど」
「まあそれは俺も思う」
そんなこんなで歩くこと数分後、4人はバス停に到着した。
「バスはいつぐらいに来るんですか?」
「もうすぐ来ると思うわ」
「それにしても、こうやって友達と出かけるなんて初めてだよ」
「へぇ〜、篠宮なら女子と毎日のように遊んでると思ってたわ」
「いやいや、結構家のことで忙しくて遊んでる暇全然なんてないよ」
「まあ賢斗は御曹司だしね!」
(御曹司=忙しいという考えはあっているのだろうか)
「でもそんな篠宮君も、今日は来れたんですね」
「ああ。親がたまにはって許してくれたんだよ」
「ふぅ〜ん」
「ん?どうしたの村上?」
「・・いや、何でもない」
(親かぁ・・・そういや父さんと母さん元気にしてるかな?俺がいないことによって何か苦労・・・してるわけねえか。むしろ俺が苦労させてるまである)
「3人とも、バスが来ましたよ」
怜がそう言うと、ちょうど4人の乗る予定であるバスがやってくる。怜、篠宮、花乃、慎也の順で入ろうとすると、何かを思いついたのか怜はカバンを探る。
「すみません。カードが奥にいってしまったので先に乗ってください」
「わかったよ」
怜を置いて篠宮と花乃は乗り込み、奥の席に篠宮が座りその隣に花乃が座った。
(・・なるほど。あのままだと篠宮の隣が自分になってたから、カードを探すフリをして先にあの2人を行かせて伊村に隣を譲ったわけだ)
「お前やっぱ天才だわ」
「・・なんですか急に?」
「いいや何も」
そう言って慎也もバスに乗り込んだ。
「着いたー!」
バスに乗ること数分後。4人がやってきたのは最寄りの遊園地である。
(やっば、ちょっとバス酔いしたわ)
「思ったより大きいですね」
「まあここは結構人気の遊園地だからね!」
「それに今日は休日だから人もたくさんいるね」
「はぐれないようにしないとな」
「それじゃあレッツゴー!」
花乃を先頭に、4人は遊園地入園する。慎也はその際に受け取った園内マップを広げる。
「とりあえずどこに行く?」
「ジェットコースター!」
「バスで少し酔ったから却下」
「家族へのお土産を買いに・・」
「それ普通最後の方にやることだろ」
「ならこの洞窟を探検する乗り物はどうだい?説明文読んだ感じ、ジェットコースターみたいに速くは無さそうだし、ちょうど4人で乗るアトラクションだよ」
「よし、それにするか」
篠宮の提案に頷き、慎也は3人を連れて目的地に向かおうとする。
「あ、ちょっと待って!」
「ん?」
花乃は3人置いてどこかに行くと、数分経ってポップコーンの入った箱を持って戻ってきた。
「おまたせー」
「こういうのって外に店が出てるもんなのか?」
「まああるところにはあるんでしょう」
「いいねポップコーン」
「でしょー!あ、賢斗も食べる?」
「・・まあ普段はそういうのは食べないし、せっかくだから貰おうかな」
「ほんと!?じゃあはい、あーん」
「え、いや自分で食べるよ」
「いいからいいから!あーん」
「じゃ、じゃあ・・・あーん」
そんな2人のやりとり(イチャイチャ)を見ながら怜が一言。
「これ私たちいります?」
「正直思った。俺らが手助けしなくてもなんとかなりそうだな」
「ちょっと2人で何こそこそ話してんの?」
「いや何でも。それじゃあ行こうぜ」
こうして4人は目的地へと向かった。
「次の方どうぞー」
「ほらいくぞ」
「うえ〜ん!」
「そろそろ泣き止んだらどうですか」
あれから4人は、道中ちょっとしたトラブル(花乃のポップコーンぶち撒け事件)があったものの、無事に目的地にやってきた。
「私の300えーん!」
「・・300円のポップコーンってどうなの?」
「あまり買わないのでわかりませんね」
「僕も同じく」
そんな会話をしながら4人はトロッコのようなものに乗った。
「それでは行ってらっしゃーい!」
その従業員の声と共に、4人を乗せたトロッコはゆっくりと、暗い洞窟の中へと入っていった。
「お、思ったより暗いわね」
「まあ洞窟だからね」
先が見えず、かろうじて薄っすら左右の洞窟の壁が見えるくらいの暗さに、伊村を泣くのを忘れて隣の篠宮の腕を掴んでいた。
「・・・」
「村上君?どうかしましたか?」
「いや何でもない」
(この程よい暗さ、オークたちと戦ったのを思い出させるな)
慎也はというと、前の世界で仲間を助けるために入った洞窟でのことを思い出していた。
(あそこほど俺のトラウマになったところは・・・いやあるわ。そのあと魔王軍の幹部に味方が血祭りにあげられたり、バルシムにボコボコにされたりしたわ)
「きゃあああ!」
『!?』
慎也が最悪な思い出にふけっていると、花乃が悲鳴をあげて首裏を押さえていた。
「い、今なんか冷たいのが落ちてきた!」
「はあ?」
「きっとあれでしょう」
そう言って怜が指した方では、天井から水滴が一定の間隔で落ちていた。
「あれがちょうどあなたの首に落ちたんでしょうね。私の脚にも落ちてきましたから」
「な、なーんだ!もうびっくりしたじゃない」
「もしかして花乃さんってこういうの苦手なのかい?」
「え、いやいや全然!ちょっと急だったからびっくりしただけだから!」
(あー伊村よ。そこは怖いの苦手ー!とか言って篠宮に抱きつくチャンスだったのにな)
「はぁ・・」
「な、なによ?」
「いや何でも無いでーす」
その後はコウモリで出たり、トロッコがガタガタと揺れ出したりと、いろいろなギミックがあったものの、アトラクションはとうとう終盤に差し掛かっていた。
「はぁ・・はぁ・・」
「疲れすぎだろ」
「まああれだけリアクションしてればそうなりますよ」
「あ、なんか先が光ってるよ」
「出口!?」
「・・じゃなさそうだな」
次に4人を待ち受けていたのは出口ではなく、暗い洞窟を唯一光で照らす鉱石たちであった。
「わぁ〜綺麗!」
「作り物にしては中々ですね」
鉱石たちに見惚れていると、4人を乗せたトロッコは突然動きを止めた。
「え、ちょ、なに!?」
(・・なんか来るな)
慎也がそう察した瞬間であった。
ハァァ・・・
『ん?』
背後から生暖かい風を受け、4人は後ろに振り返った。そこにはなんと作り物の大きなムカデが4人を光る目で見ていた。
「ひっ!」
「あーこれは・・・どっかにつかまっといた方がいいよな?」
「そうですね」
「僕もそう思うよ」
「え、何よ!なにあんた達だけ・・」
「伊村さん」
「な、なに?」
「来ますよ」
その怜の言葉と共にトロッコが急発進し、ものすごいスピードで洞窟の中を進んで行く。
「きゃああああああ!!!」
(やべ、また酔いが・・!)
その時、洞窟内には花乃の大きな悲鳴が鳴り響いた。