借りたもの
「ふぁ〜あ」
(くそねみぃ・・)
波乱の球技大会も終えて月日は経ち、現在は11月中旬。慎也は気だるそうにいつも通りの登校ルートを歩いていた。
(それにしても寒くなってきたな。そろそろ俺も衣替えした方がいいかな)
腕をさすりながらそんなことを考えているうちに、慎也は校門に着いた。
(・・・あいつ何やってんの?)
校門に着いたところで、慎也は昇降口前で顔馴染みが仁王立ちをしてる姿を見つける。
「あ!やっと来たわね!」
「・・何の用だ伊村」
慎也の前に立ったのは、球技大会の一件で知り合った伊村花乃であった。
「何の用って、大体察しつくでしょ」
(なんかあったっけ?球技大会以来こいつとあんま話してないから、ないと思うんだけど・・)
「全くわからんのだが」
「・・はぁ」
慎也の発言にため息をつくと、花乃は呆れたように言った。
「あんたまさか忘れたの?」
「マジでわからんわ。なんかあったっけ?」
「はぁ・・・恩知らずにもほどがあるでしょ」
「恩?俺お前になんか助けられたっけ?」
「はぁ!?もういい教えてあげるわ!」
そう言って花乃は怒気の込もった声で言い放った。
「球技大会での借り返しなさいよ!」
「・・・あー!」
そんなことがあった日の週末。
(なーんでこんなことになったかな)
私服を身に纏った慎也は、最寄りの駅の前でスマホをいじりながら突っ立っていた。
(貴重な休日をまさかこんなことに費やすとはな。もう今後はあいつに借り作らんとこ・・・お、こいつかなり金落とすじゃん。こいつで金貯めよ)
心の中でそう誓い、ゲームをしながら待つこと数分後。この状況の原因である人物が来た。
「あれ早くないあんた?」
「気配りの出来る人なんで」
「恩知らずのあんたが何言ってんだか」
「うぐっ」
「それじゃあ今日は頼むわよ」
「へいへい」
「あれ、2人とも早いね」
2人で話してると、2人の元に学校1の人気者(女子のみ)の篠宮賢斗がやってきた。
「もしかして待たせちゃったかな?」
「ううん、今来たところだよ!」
(篠宮来てから露骨にテンション上がったな)
「まあ"あいつ"がまだ来てないからセーフだな」
「そういえば彼女の姿がないね」
(まあわざと遅めに来てんだろうな)
本来篠宮賢斗は女子以外に興味はない。そんでもって落とした女子には適当にあしらう。そのことから学校中の男子から嫌われていた。そんな篠宮が慎也と花乃と共に出かけるはずがない。ある人がいれば話は別だが・・
「・・私を置いてってもよかったんですがね」
「出来るわけねえだろそんなこと」
3人の元にめんどくさそうに現れたのは、篠宮に唯一落とされていない女、怜であった。
「それじゃあ行きましょ!」
「そうだね」
花乃の声で4人は出発した。するとすぐさま篠宮は怜の横に並び、怜に話しかけ始めた。
(こいつもこいつで鈴川来た瞬間露骨すぎんだろ)
「ねえ村上」
「なんだよ」
「どうやって鈴川を連れてきたのよ」
「ああそれな。実は・・」
話は花乃の借り返せ発言の直後まで遡る。
『で、お前はどう借り返して欲しいわけ?』
『そんなの、私と賢斗をくっつけるのを手伝ってもらうに決まってるじゃない』
『具体的には?』
『私と賢斗の2人っきりの状況を作るのよ!』
『無理』
『なんでよ!?』
『いや学校は篠宮を狙ってる女子がわんさかいるだろ。そんな中でどうやって2人っきりにするんだよ』
『簡単よ。あんたと私と賢斗で出かけて、途中であんたが帰れば自然と2人になるじゃない』
『それこそ無理だな』
『だからなんでよ!?』
『あの篠宮が俺とお前と一緒に出かけるわけねえだろ。逆にお前は今まで篠宮とデートの1回でもしたことあんのか?』
『・・・ない』
『だろ?』
『じゃああんたはどうすればいいのよ!』
『そうだな・・』
(無理とは言ったが、借りを返せないとこれからもいろいろと言われそうだしな。どうにか篠宮と出かける方法は・・)
そこで慎也の頭に怜の顔が浮かび上がった。
『・・いや1つだけ方法があるぞ』
『ほんと!?』
『鈴川を使う』
『・・マジ?』
『マジだ。これ以外の方法が思いつかない』
『でもあの鈴川よ!?誘いに乗るわけ・・』
『まあなんとかするから!』
そう言って慎也は怜の元に向かった。
『鈴川!』
『なんですか?』
『お前に頼みがある!』
『・・聞くだけ聞きましょう』
『俺と花乃と篠宮と一緒に出かけてくれねえか?』
『いやです』
『だよな!そうだよな!でも俺もここで引くわけにはいかねえんだ!』
『・・なんかあったんですか?』
『実は・・』
慎也は先程までのことを怜に話した。
『・・なるほど。つまり伊村さんへの借りを返すため、篠宮君と2人っきりの状況を作りたい。そのために私に協力してほしいと』
『そうです!』
『・・報酬は?』
『え、報酬?』
『まさか見返り無しで協力してもらえるとでも?』
『マジか・・』
『マジです。それで報酬は?』
『・・仕方ねえ!
1週間お前の言うことを何でも聞く!』