救出作戦(後編)
『私の体は、このビルそのものだ』
その言葉と共に、床や壁から触手が生えてきて2人に向かって放たれる。
「チッ!」
慎也は瞬時に剣を抜き、向かってくる触手を次々と捌いていく。しかし2人は今化け物の体内にいるようなもので、攻撃は正面からだけではない。
「お、お兄ちゃん後ろ!」
「っ!『ウィングウォール』!」
突然後ろから来た触手たちに向けて風の壁を出し、間一髪でそれらを防ぐ。
(キリがないなこれ。仕方ない、ここは一旦逃げよう)
「悪い由梨ちゃん!」
「きゃっ!」
分が悪いと思った慎也は由梨を肩に担ぎ、ある壁の方に向かって走り出した。それを化け物が見逃すはずもなく先回りをするように2人の前の壁から触手を生やし行手を阻む。
『逃すか!』
(そんなもんで止めれると思うなよ!)
「『フレイムボム』!」
前方の触手目掛けてオレンジ色の球を放つ慎也。その魔法が触手に触れた瞬間、魔法が触手もろとも爆散する。
「もういっちょ!『フレイムボム』!」
慎也は前方の壁に同じ魔法を再度放った。その魔法が爆発し、壁に大きな穴が空き外への道ができる。
「行くぞ由梨ちゃん!」
「え!?」
足に魔力を込めて加速し、穴から勢いよく飛び出す。すぐさま慎也は下を確認すると、下には由梨の母親がいた。
「由梨!」
「お母さん!」
(よしドンピシャ!あとは由梨ちゃんをあの人に・・)
「っ!?マジか!?
降りようとした慎也の腰に突然後ろから来た触手が巻きつき、2人をビル内に戻そうと引き始めた。慎也は咄嗟に足を壁にかけて踏ん張るが、徐々に体がビル内に入ってしまう。
(あーもうこれダメだ。仕方ねえ!)
「すみませんお母さん!由梨ちゃんお願いします!」
そう言って慎也は由梨を母親に向かって投げた。
「きゃあああああ!!」
「由梨!」
(ごめん由梨ちゃーん!でもこれしかなかっ・・)
『お前はこっちだ』
「ぎゃああああ!!」
由梨の安全を確認する前に、慎也はビル内へと引き戻されてしまった。
「いてっ!」
慎也は触手に引っ張られ勢いよく壁に打ち付けられる。
『お前だけでも死んでもらうぞ』
「やれるもんならやってみな」
(といっても、こいつの倒し方わからんしな。マジでどうしよ)
『さあ死んでもらうぞ!』
四方八方から無限に来る触手たちを捌きながら打開策を考える慎也。
『どうした?仕掛けてこないのか?』
「ちょっと黙ってろお前」
『ふん、いつまでその威勢が続くかな?』
(この感じだと触手は無限か。というかまあこいつの体内だから無限なのは当たり前か・・・てか体内なら、このビルのどっかに心臓があるはずだよな?それ探すか)
向かってくる触手を剣で捌き、移動を開始する。1階は由梨を探すときに探索していたため、慎也は3階に上がった。
『なんだ鬼ごっこか?』
「うるせえな。お前は黙って触手でも出しとけばいいんだよ」
『そうか。ならこういうのはどうかな?』
そう言うと壁から再び数本の触手が飛び出してくる。それに応えて慎也も剣を振った。
「っ!?かった!?」
なんと慎也が剣を振った触手に、口が今まで付いてなかった口がついており、その口の歯に剣が当たり弾かれてしまった。
(こいつ自分の体の中だからって何でもありかよ!)
『もらった!』
「っ!」
剣を弾かれたことにより気を抜いてしまった慎也は、向かって来た触手たちに勢いよくぶっ飛ばされる。
「ぐっ!」
(あーーくそ!これだから触手系はめんどくせえんだよくそが!)
『さあどんどんいくぞ!』
(・・よし、そっちがめちゃくちゃにやるんだったら、こっちもやってやるよ!)
「『アクアファイヤ』」
向かってくる触手に対し、慎也は無数の小さな水の球を出す。その水の球を・・
「容赦しねえぞクソ野郎!」
『っ!?』
向かってくる触手たちだけでなく、そこらじゅうの壁や床についている目と口にも放つ。水の球は見事に全てを撃ち抜き、床が大量の化け物の血だまりで埋まった。
『な、何をした!』
「お前と俺の実力の差を見せてやっただけだ」
(さて、こうなったら律儀に心臓探す必要ねえな。このビルごとこいつの心臓をぶち壊してやるよ!)
「『フレイムボム』!」
慎也は天井に向けて魔法を放つと、その魔法の爆発によって出来た穴を通って上の階に行く。
『逃すか!』
「もうお前の攻撃は見飽きた!『フレイムボム』!」
邪魔に入った触手たちを巻き込みながら天井に穴を開けて、とうとう慎也は最上階に到達する。
(こっからさらに屋上に行くぜ!)
「『フレイムボム』!」
ついに屋上への穴まで開け、慎也はその穴を通って外に出て屋上に降り立とうとした。しかしその瞬間・・
『甘いわ!』
「っ!?」
なんと足が乗るはずであった屋上の床が全て無くなっていたのだ。しかも屋上の床だけでなく、2階、3階と、1階以外の床も全て消えていたのだ。
(ビルの物だったらなんでもありかよ!)
『さあ1階でリスタートするんだな!』
(・・・ちょっと我慢するか)
そう思った慎也は、手に魔力を込めて自身の腹部に当てる。そして・・
「『エアブラスト』!」
自身に風の球を放ち、自身の体を1階に着く前に空高く真上に勢いよく吹き飛ばした。
「ぐはっ!」
(くそいってえ!だがこれで被害は最小限だ!)
腹部の痛みに耐えながら、慎也は剣に大量の魔力を込めて剣を後ろに引いて逆の手を前に突き出す。そう、慎也は『トルネードトラスト』の体勢に入ったのだ。
『っ!させるかー!』
『トルネードトラスト』の膨大な魔力を感じた化け物は慎也に向けて大量の触手を伸ばした。
「遅えよ!『トルネードトラスト』!」
そう唱えて慎也は緑に光り風を纏う剣を化け物へと突き出した。その瞬間、剣から風を纏った光線が化け物へと放たれ、向かってくる触手もろともビル、もとい化け物の体を光線は飲み込んだ。
『くそぉぉぉぉぉぉ!!!』
飲み込まれた化け物は、断末魔を上げながら再生することも出来ずに灰となって消滅した。
「いてて・・」
「お兄ちゃーん!」
「ん?ああ由梨ちゃん」
慎也が落下して倒れてるところに、由梨とその母親が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫です。それより由梨投げちゃってすみません。お怪我はありませんか?」
「私も由梨も大丈夫ですよ。だから気にしないでください」
「そうですか。よかった・・」
「わーすごい大きな穴!」
「こら由梨危ないわよ!」
母親と慎也が話してる横で、由梨は慎也の『トルネードトラスト』によって出来た大穴を見てはしゃいでいた。
(こりゃあ結構なニュースになるぞ。まあこのサングラスがある限りは大丈夫だけどな)
『おいこっちででかい音がしたぞ!」
『なんか光の柱も見えたぞ!』
「人が集まってきちゃいますね」
「まあ集まらない方がおかしいですよ。それじゃあ僕はそろそろ帰ります」
「え、せめて何かお礼を・・」
「いいですよお礼なんて。お礼を求めて化け物と戦ってるわけじゃないので」
「でも・・」
「お兄ちゃんこれあげる!」
そう言って由梨は一輪の小さな花を慎也に差し出した。
「花?」
「そこで見つけたの!助けてくれてありがとう!」
(・・花とかには興味ないが、さすがにこいつの気持ちを無碍にすることは出来ねえな)
「ありがとう。家に飾らせてもらうよ」
慎也は由梨から花を受け取るとポケットに入れて2人に背を向ける。
「それじゃあこれで」
「今日は本当にありがとうございました!」
「ばいばーいお兄ちゃん!」
「もう怪物に拐われんじゃねえぞー!」
そう言って慎也は親子を尻目に、その場を後にした。