先生の助言
情報が揃い、牧本星子を追い詰める準備が整った慎也。そんな慎也は自チームの試合の時間になりそうだったためグラウンドに来ていた。
(牧本が犯人だって証明できるようになったし、あとは亮太だな。まあ犯人見つかったって言ったら1発だろ)
そう高を括り、慎也はすぐさま亮太の元へ向かった。
「おい亮太!」
「・・なんだ慎也?あと5分でしあ・・」
「犯人が見つかったんだよ!」
「・・・」
「だからお前はもう無理して篠宮にパスしなくていいんだよ!」
「そうか・・」
意気揚々と報告する慎也。しかし亮太の次の言葉に慎也は困惑することになる。
「・・で、それがなんだって言うんだよ」
「は?いやいや、何言って・・」
「犯人が見つかった?でもな、考えてみろよ?この学校には篠宮が好きな女子がわんさかいる。たとえ今回の犯人見つけて解決しても、今回みたいなことは高確率でまたいつか起こるんだよ。だから頑張ってもらったところ悪いが、無駄なことはもう・・」
「っ!お前・・!」
完全に諦めモードになってる亮太の言葉にイラつき、慎也は無意識に亮太の胸ぐらを掴んだ。しかし慎也はあるものを見て、胸ぐらから手を離してしまった。
「どうした?殴らねえのか?」
「お前、その目・・」
慎也が目にしたのは、全てを諦め切ったこと示すように完全に光を無くした亮太の目であった。それを見た慎也は「遅かった」と悟った。
「なあ慎也。もういいんだ、俺のために動かなくて」
「亮太・・」
「お前も鈴川もよく頑張った。ありがとう。でもこれは俺の問題だ。負担を請け負うのは俺だけで充分だ」
「いやそんなことは・・!」
「それに俺、今のままでも充分楽しいから、サッカー」
(亮太・・)
「おーい亮太!そろそろ試合だぞー!」
「・・それじゃあ、お互い頑張ろうぜ」
無表情でそう言い残すと亮太は自身のポジションへと向かった。
「・・チッ、くそ」
去っていく亮太の背中を見ながら慎也も自身のポジションへ向かった。
『ピピー!』
試合終了を知らせるホイッスルの音が鳴る。結果はやはり慎也たちのクラスの勝利であった。
「ナイスだお前らー!」
「さっすがは森塚だな!」
皆、得点源である亮太と篠宮のところへと駆け寄る。その様子を離れたところで慎也は見ていた。
(・・・)
「それにしても森塚?お前全然シュート打たないけど、調子でも悪いのか?」
「それとも、やっぱあれのこと気にしてんのか?」
「・・んなわけねえだろ〜!あの程度のことで俺がビビるとでも思ってんのか?」
「はは!やっぱそうだよな!」
「よっしゃ!この調子で明日は優勝だ!」
『おー!』
みんなが盛り上がってる中、慎也だけは亮太の様子が変なことに気づいていた。
(・・なぁ亮太。お前サッカー好きなんだろ?ならよ、なんでそんな辛そうなんだよ!)
そう心の中で呟きながら、慎也は表情"だけ"笑っている亮太を見ていた。
そしてあの後は何事もなく翌日、つまり決勝当日となった。
「・・で、森塚君は立ち直るどころかむしろ悪化してると」
「どうすんのこれ?」
「・・・」
慎也と怜、そして花乃はグラウンドの隅っこに集まっていた。
「私も正直何も思いつきませんね」
「でも森塚自身がもういいって言ってるなら、私たちは何もしなくていいんじゃないの?」
「それだといずれ森塚の心が不安定になって、最悪の場合自殺してしまう可能性があります」
「自殺ねぇ〜。それなら森塚の考えを変えさせないといけないけど・・・てか村上はなんかないわけ?」
「・・あったらもう言ってる」
「だよねー」
そう言うと深いため息をつく花乃。昨日亮太から突き放されたこともあって、慎也も意気消沈していた。
「・・仕方ありませんね。借りは作りたくなかったんですが・・」
そんな2人の様子を見た怜はそう言いながら立ち上がった。
「あなたの意見も聞かせていただけませんか?先生」
「え?僕の?」
「「!?」」
いつのまにか3人の隣にいた平島に2人は驚く。
「盗み聞いたんですから、そのままスルーしてさよならは許しませんよ」
「そんなつもりはなかったんだけどなぁ」
「え、先生いつからそこにいたの!?」
「鈴川の『森塚君立ち直るどころか悪化してる』ってところから」
(結構序盤じゃん)
「で、平島先生は何か思いつきましたか?」
「んーそうだねぇ・・」
平島は顎に手を当てて考える素振りをする。
「状況から察する、森塚は今回のことを1人で背負い込もうとしてるんでしょ?」
「まあそうですね」
「そんなのは"自己犠牲"だ。「俺が我慢すれば」、なんて森塚は思ってるんだろうけど、それについてはお前たち、というより村上はどう思ってるんだ?」
「俺は・・・亮太には1人で背負わず、俺をもっと頼って、信じてほしいです」
「・・なんだ、答え出てるじゃん。ならさ・・
その気持ち、ちゃんと森塚に伝えなよ」
「!」
「森塚は神でもなければエスパーでもない。お前が森塚に対してそう思ってんなら、ちゃんと言葉にして伝えないとダメだよ」
「・・そう、ですよね。よし!」
そう言うと慎也は勢いよく立ち上がり、自身の頬を両手で叩いて気合いを入れる。
「ありがとうございます先生!助かりました!」
「おう。あ、それともうすぐ試合だから早く行った方がいいよ」
「え!?うわマジかよ!それじゃ行ってきます!」
そう言って慎也は慌てて自チームの元へ向かった。
「「・・・」」
「ん?どしたの2人とも?」
「・・なんか、先生が初めて先生っぽく見えたので」
「うんうん!」
「それひどくない?え、じゃあ鈴川は日頃から俺の先生と思ってなかったってこと?」
「少なくとも9割くらいは」
「それほぼ思ってないと一緒じゃん!」
「まあ日頃の行いのせいだよ先生!」
「はぁ・・・まあいいや、僕たちも行こうか」
「そうですね」
そうして3人も慎也の後を追って歩き出した。
おまけ
「あ、それと鈴川!これで俺に借り1つな!」
「はぁ、そうでしたね」
「そういえばあんた先生に借り作りたくないとか言ってたけど、それってなんで?」
「・・だってこの人、自分で運ぶはずの授業の書類とかの荷物を私に押し付けてくるんですよ」
「人聞きの悪いことを言わないでくれよ。それに教師を手伝って好印象を与えることで、その教科の内申に影響するかもしれないんだから」
「では今期の先生の教科は5でいいですね」
「・・それはそれ、これはこれだよ」
「はぁ・・」
「あはは・・」