大きな一歩
「・・と、今はそんな感じで行き詰まってる。はぁ」
「なるほどねぇ」
慎也は花乃に現状を話し終えると、もう何回目になるかもわからないため息を吐く。
「んで、あんたは何も思いつかないからここで呑気にジュースを飲んでると」
「うるせぇ。てかお前、なんか鈴川の次に頭良いらしいじゃん。その知恵を貸してくれよ」
「え〜なんでよ」
「最初は犯人探しだけだったのに、お前のせいで亮太が変わっちまったからこうなってんだよ。少しは力を貸してくれ」
「あの時はただ良いと思った案を提示しただけ。実際にその案を実行したのは森塚自身でしょ?私は言わば銃の引き金ってだけ」
「まあたしかに言ってることは正しいんだけどな・・」
「何よ?なんか文句?」
「いいや何も」
「そ。でもそうね・・」
花乃は少し考えるような仕草をすると、「よし!」っと言って自身のジュースを飲み干して慎也へ目と体を向ける。
「仕方ないから私も手伝ってあげる!」
「え、急になんで?」
「だって犯人女なんでしょ?ならそいつを晒しあげれば賢斗を狙う奴が1人減るし、あんたにも借りを作れるしで一石二鳥じゃん!」
「待って待って、借り作るってなに?それなら別に手伝いはいらな・・」
「じゃあ何?あんたは私という希望を捨てて、森塚が落ち込んでいく姿をただ見てるだけになるけど、それでいいってわけ?」
(こいつ自分のこと希望とか言っちゃってるやん。でもまあ仕方ねえ、背に腹は変えられないか)
「わかったよ。そのかわりちゃんと役に立てよ?」
「任せなさい!それじゃとりあえず、あんたらが手に入れた情報を話してくれない?」
「へいへい」
そうして慎也は自身と怜が集めた情報を全て花乃に話した。
「・・ふーん。なるほどね〜」
「どうだ?今話した情報でなんかわかったか?」
「んー・・1つちょっと気になることがあるのよね」
「なんだよ?」
「あんたが先生に事実確認行った時の先生の発言。『特に問題はなかった』、これがちょっとね」
「問題がないのは良いことだろ。それがどした?」
「ちょっと待って今考えるから」
そう言うと花乃は頭に手を当てて脳をフル回転させて平島の発言について考えた。
「・・まさか、でもたしかにそれなら・・・ふーん、そういうことね、面白いじゃない!」
「え、ちょ、俺にも教えろよ!」
慎也をよそに、1人で何かを考えついて熱くなる花乃。
「まあまあ。そのまま教えちゃってもいいけど、それじゃあ私がつまらないから、ヒントをあげるから自分で考えなさい!」
「はぁ〜!?んなめんどくせえしないで・・」
「じゃあ教えてあげないわよ?」
「ぐっ!わかったよ」
慎也は渋々、花乃の提案に乗ると花乃はさっそくそのヒントとやらを話し出した。
「ヒントはさっき話した先生の発言よ」
「てかそれ最終的に何がわかるわけ?」
「お楽しみよ」
「えぇ〜めんど」
(先生の発言か。『特に問題はなかった』、だよな。問題がないのは良いことだ。それ以外に何がある?)
「・・もう1つヒントをあげるわ。その先生の発言は、目線によって意味が変わるわ」
「目線?」
「そう。たとえば・・・教師目線、とかね?」
「教師目線・・」
そう呟くと、慎也は無意識に職員室外での教師との会話を思い出した。
『ちょ、君きみ!』
『え、あ、俺?』
『"廊下に荷物は置いちゃダメだぞ"』
『え、そうなんですか?』
『そこの壁に入室時の注意が書かれてるだろ』
『あ、本当だ』
(!・・そういうことか!)
花乃の考えがわかり、慎也は嬉しかったのか笑みを浮かべる。
「その様子だとわかったみたいね」
「ああ!牧本は俺と違って4月からちゃんと学校に来てただろうから入室時の決まりは知ってるはず。そうなると牧本は職員室に来た時"手ぶら"だったんだ!それなら先生も問題ないって言うのに納得がいく!」
「そう。教師目線、決まりを守ってる生徒に問題はないわね。でもそれじゃあ、牧本はどこに荷物を置いたんだろうね?」
「トイレはないだろうし、その日に退部する美術部の部室を使えるわけない。そうなると残るのは・・」
「教室ね」
「ああ。あいつは8時より前に教室に来て荷物を置き、職員室に行ったことなる」
「それにたしか先生は、牧本が来たのは『8時より前』って言ってたのよね?それなら牧本の言ったアリバイって・・」
「そうだ、あいつ自身の首を絞めることになる事実だ」
牧本星子が実際に学校に来たのは8時より少し前。そうなると牧本星子が言ったアリバイは『牧本星子がその時間に学校に来た』ことではなく、『牧本星子がそれより前に学校に来た』ことを証明するアリバイになった。
「そしてそして?」
「牧本が犯人となると、鈴川が言っていた『7時45分に来た男子』が教室で牧本のリュックを見ているはずだ!」
「そうね。それじゃあ善は急げよ!もうすぐ鈴川の試合が終わるだろうし、さっさと行ってらっしゃい!」
「え、お前は行かねえのか?」
「私もちょっと調べたいことがあるからねー。それじゃあ頑張ってー!」
そう言って花乃はどこかへと走り去って行った。
(なんだよ調べたいことって?まあいいや。俺も行くか!)
花乃の助力によって動き出した状況。それを無駄にしまいと慎也は怜のところへと向かった。
慎也がやってきたのはグラウンド。そこではちょうど女子サッカーの試合が終わったところであった。
「怜さんお疲れ様。よかったらこれ・・」
「自分のを持ってるので大丈夫です」
篠宮から送られた労いの言葉と水を軽く流して、水筒で水分補給している怜を見て苦笑しながら、慎也は怜に駆け寄る。
「おい鈴川!」
「なんですかそんな急いで?」
「お前が言ってた45分に来た男子って誰だ?ついでに選択した種目も」
「北原君ですよ。種目はバスケだったはずです」
「そうかわかった!ありがとな!」
「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだよ?急いでんだが」
「いやむしろなんでそんなに急いでるんですか?もしかして何か進展が・・」
「悪い!情報共有はまた後でさせてくれ!」
そう言って慎也は困惑している怜を残してその場を去った。
「・・なんなんですか全く」
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次に慎也が来たのは体育館。そこでは女子のバレーと男子のバスケが行われていた。そしてバスケの方は慎也のクラスが試合をしている。
(たしかこの時間ならちょうど試合が・・)
『ピー!』
慎也が来たタイミングで試合終了の音が鳴る。結果は慎也のクラスの勝利。終了した瞬間慎也のクラスの男子達は勝利の喜びを分かち合っていた。
(おー勝ったのか。俺もこんなことになってなかったら純粋に喜べたんだけどな)
そう思いながら慎也は北原という男子に用があるため、試合に出てた男子たちのところへと向かう。
「喜んでるところ悪いんだがいいか?」
「村上?」
「珍しいな、お前から話しかけてくるなんて」
「ちょっと北原に用事があってな」
そう言うと1人の男子が慎也の前に出る。
「俺に用事ってなんだよ?」
「お前先週の水曜のこと覚えてるか?」
「水曜?それってたしか亮太か初めてやられた日だったよな。ちゃんと覚えてるぜ」
「ならその日の朝、お前教室で他の奴かばんとか見なかったか?」
「あー見た見た!たしか赤のリュックだったな」
「それ以外は?」
「いやそれだけだったな」
「そうかわかった!ありがと!」
(よっしゃきたー!やっと牧本を追い詰められる!)
心の中でガッツポーズをする慎也。すると北原がそんな慎也に話しかける。
「お前、亮太にあんなことした犯人探してんだろ?」
「え、ああ」
「なら頑張れよ。最近亮太が見るからに元気が無くなってるからさ」
「・・ああ、任せろ!」
そう頷きながら慎也は言った。