協力の提案
あれから3人は、怜と亮太が交代しながら慎也と1on1をして練習していた。
「・・そういやさ」
「なんですか?」
「今って亮太と鈴川どっちがサッカー強いの?」
「いやそりゃあ鈴川だろ」
「それ夏休み前の結果なんだろ?時間経ってんだから今はわかんねえだろ」
「・・まあ確かに、森塚君が夏休み中も練習に没頭していたのならそうですね」
「そりゃあしてるに決まってるだろ。こちとら人生の半分をサッカーに費やしてると言っても過言じゃないくらい好きだからな」
(そこまでか)
「さて、雑談はそこまでにして、練習に戻りますよ」
そう呼びかけて怜はボールを持って慎也を自身の前に立たせる。
「では行きますよ」
「あいよ」
慎也が身構えると同時に、怜はボールを軽く前に蹴るとそのボールを内側から外側へと跨ぐように足を高速で動かし始めた。
(え、ちょ、どっち!?)
「さてどっちでしょうね?」
(・・・!右だ!)
怜の右足のアウトサイドがボールに触れたのを見た慎也はすぐさま合わせて動く。
「残念、左です」
「っ!」
(いや、まだいける!)
怜が右足のインサイドで左に持って行ったボールを、慎也はすぐさま進行方向を変えてボールを追いかけようとした。
「・・閉じが甘いですね」
「っ!?」
ボールを追いかけるのに集中していた慎也は、足元を見ておらず自然と股が空いており、それを見た怜は左へ動かしていたボールをさらに右足のアウトサイドで慎也の股に通して、自身は慎也の横を通って慎也の後ろに行ったボールを保持する。
「おまっ・・!」
「私の勝ちです」
そのまま怜はフリーになった鉄棒にボールを入れた。
「「・・・」」
「・・どうかしましたか?」
「いや、お前手加減って言葉知ってる?一応慎也は初心者だからな?」
「知っていても実行するとは限りませんよ。それに村上君にはこれぐらいがいいと思いますから」
(こいつ俺のこの知ってるからって容赦ねえな)
\「さてと、時間も時間だし今日はこの辺で終わろうぜ」
「それもそうですね」
「それじゃあまた来週な!」
そう言って亮太はボールを持って公園を出て行った。
「んじゃ俺も帰るか」
「ではまた来週に」
「おう」
そうして2人もそれぞれ帰路についた。
それから数日後。
「それじゃあ5分経ったら、クラス対抗の練習試合するから!それまで各々練習しろー!」
『はい!』
体育の時間、球技大会に向けて慎也たちのクラスは他クラスと合同で練習をしていた。
(あ〜だり〜!適当に壁当てしとこ)
皆がそれぞれ練習に励んでいる中、慎也は端っこでひっそりとボールを壁に当てて過ごしていた。
(みんな頑張って練習してんなぁ〜。あ、俺としては勝ち負けとかどうでもいいから適当に頑張るけどね)
そんなこんなで時間を潰していると、黒髪ツインテールの美少女が1人、慎也に近づいて行った。
「ねえあんた」
(そういや今日の夜ご飯どうしようかな)
「ねえってば」
(最近スパゲティばっかで飽きてきたし、別のもん食いたいんだよなぁ)
「ちょっと!」
(あ、今日はたこ焼きにするか。たしか近くのコンビニに冷凍のたこ焼きが・・)
「村上慎也!」
「え、あ、なに!?」
「無視するんじゃないわよ」
「いや俺に話しかけてるとは思わなくてな」
「あんた以外いないでしょ」
(・・たしかに俺の周り誰もいないわ)
「てかお前誰?」
「は?伊村花乃よ!知らないの!?」
「いや一応俺転校生なんだから、知るわけねえだろ」
「・・そういえばそうだったわね」
「はぁ・・・で、その伊村さんがなんの用だ?」
「あ、そうそう。あんたあの鈴川と仲良いんでしょ?」
「・・まあたぶん、他の男子よりは交流あるな」
「今女子の中であんたが1番鈴川と付き合える男って言われてるのよ」
「ふぅ〜んそうなんだ」
「それでさ、提案なんだけど・・」
「提案?」
「私があんたと鈴川をくっつけてあげるから、あんたが私と賢斗をくっつけてくれない?」
「・・は?」
花乃からの提案に対して脳内に?を浮かべる慎也。しかしそんなこと構わず花乃は話を進める。
「最近・・・というより、ずっと賢斗は鈴川に夢中で困ってるのよ。だからあんたが鈴川とくっついてくれれば賢斗も諦めがつくと思うのよ」
「はぁ」
「ということで、私があんたらくっつけるから、あんたも私と賢斗くっつけてね」
「・・いや普通にめんどいから嫌だけど」
「は?」
(うわ怖っ!)
「い、いや俺、鈴川にそういう気とかねえし、そもそもそれやって俺にメリットねえじゃん」
「あるじゃない、鈴川と付き合えるっていう」
「いや俺にとってはメリットじゃねえよ」
「え、見た目も良くて頭脳明晰、さらには家事も完璧のあいつと付き合えるのよ?」
(家事出来るのか。たしかに完璧なあいつが作った料理とか食ってみてえし、ありっちゃあ・・・いやいやダメだダメだ!そんな気持ちで彼女にしたら、前の世界で待ってるエテラさんとリアに合わせる顔がねえ!)
「いや、それでも悪いが・・」
「はーいみんな集合!」
断ろうとした慎也だったが、それを遮るように教師から集合がかかる。
「あ、もう時間か。それじゃあ次の体育の時にまた聞きにくるから」
そう言うと花乃は女子の集団へと向かって行った。
「・・めんどくせえ」
そう呟きながらため息をついて、慎也も男子の集団へと向かった。