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世界渡りの少年  作者: 憧れる妄想
第一世界 第二章 一時的な平穏
14/211

恩人への涙




「ん・・・ここは?」


慎也がレフィの言われた通りに夢の中で眠りつき、再び起きたのはベットの上だ。慎也は上半身を起こし、周りを見渡す。部屋の天井にはギルドの床と同じ木の板が使われており、壁はレンガできていて、所々に窓がついていて外からの日差しが部屋に入ってくる。部屋の中にはベットが複数あり、慎也が起きたのは扉に一番近いベットだ。慎也が部屋の内装を見ていると扉が開き、男性が1人部屋に入ってくる。


「失礼しまーす・・・あ、お目覚めになられたんですね」

「はい。すみません、ここってどこなんですか?」

「ここはギルドの救護室です。一昨日の夜、あなたがエテラさんを背負ってギルドの入り口で倒れたのでこの部屋へ運びました」

「そうでしたか、ありがとうございます・・・・ん?一昨日?」

「はい、あなたは倒れたあと、今日あわせて2日寝ておりました」

「マジかよ・・・ちなみにエテラさんは?たしかあの人も怪我してた気がしたんですけど」

「エテラさんは頭部に怪我をして気を失っていたようなのであなたと共にこの部屋に運び、昨日の朝には目を覚まして今は仕事に復帰しています」

「そうですか」

「身体の方は大丈夫ですか?」

「はい。あの怪我の痛みが嘘のようになくなってます」

「それはよかったです。あなたさえ良ければ今日からでも冒険者としての活動に復帰していただいてもよろしいですが・・」

「身体は大丈夫なので復帰はしますよ」

「わかりました。ではこの部屋を使用者としてあちらの利用者名簿に自分の名前とランクの記載をお願いします」

「わかりました」


慎也は男性の言う通りに、利用者名簿のところまで歩き、自分の冒険者カードをポケットから取り出して紙の横に打ち付けてある入れ物からペンを取り、紙に名前などを書き始める。


「そういえばレベル、めちゃくちゃ上がったな」


書き終わった慎也は、自分の冒険者カードに目を向ける。


「むらかみ しんや

 レベル19 Eランク   Eランク 

・筋力 64       ☆☆

・魔力 53       ☆

・防御 37

・俊敏性 42

 パッシブスキル・???       」


(やっぱりスキルはないんだな・・・あれ?そういえば)


慎也は気になることがあり、先ほどの男性に話しかける。


「あのう、俺の荷物がどこにあるか知ってますか?」

「あ、荷物でしたら今持ってきますね」


そう言うと男性は部屋を出て行く。そして数分後、再び男性がリュックを持って部屋に戻ってくる。


「こちらでよろしいですか?」

「たぶんあってます。それじゃ、俺は行きますね」

「お大事に」


慎也は男性からリュックを受け取り、部屋を出た。







(さて。さっきは冒険者の活動に復帰するって言ったけど、活動は明日からにして今日は街の中を歩きながら壊れた剣の代わりをバルグさんのところで買うか)


救護室を出た慎也は、ギルドの廊下を歩き、出入り口を探しながら今日の予定を立てていた。


(おっ!普通に階段見つかってよかった。ギルドって結構広いから迷うかと思った)


慎也は前方に1階へつづく階段を見つけ、内心安心しながら階段を降りる。そして1階に着いた慎也はそのままギルドを出ようとする。するとギルド全体に響き渡るほどの声があがる。


「慎也さん!!!」

「ん!?ちょ、エテラさん!?」


慎也が声の方へ振り向こうとすると、エテラが慎也に勢いよく抱き付く。その瞬間ギルドにいる人、特に男性の視線が慎也達に向き、ギルド内が騒がしくなる。


(え〜何この状況。俺エテラさんになんかした?てか男性の皆さん、顔怖いっす)

「・・なんで」

「エテラさん?」

「なんで・・・あんなに怪我を負ってまで戦ったんですか!!私、すごく心配したんですよ!」


そう言ったエテラの目には涙が浮かんでいた。


「エテラさん、少し落ち着いてください」

「落ち着けませんよ!!だってあなたは下手したら死んでいたかもしれなかったですよ!!それなのに命懸けで戦って、私を助けてくれたあなたが!もし死んだら私は・・・私は・・・」

「・・・」


エテラの悲痛の叫びに、先ほどまで騒がしかったギルドも、静まり返る。今にも崩れ落ちそうなほどに、エテラの体から力が抜けていく。それを支えながら慎也はどうするべきか思考を巡らせる。そこで、慎也は今のエテラの立場になって考えてみた。相手は命の恩人だ。それも、自身の命をかけてまで守ってくれた命の恩人だ。その人はこれからもいろいろな魔物を倒していく。だけど、その過程で死んでしまうかもしれない。それだけは嫌だ・・


(・・・これは、俺がエテラさんの立場だったら欲しい言葉だ。それも、確証もない言葉であれば、嘘になる可能性がある言葉だ。でも、今の俺にはこれしか思いつかないな)


人生では、常に問題が出される。正しい答えがある問題。それとは逆に、正解の答えがなく、また不正解もない曖昧な問題。種類は様々である。


(・・・このエテラさんとの問題は正解の答えがある問題なのか、はたまた、曖昧な問題なのか俺にはわからない。でも、俺はこの問題に答えることができる。だから俺は、ここで答えを出さないといけない。その答えが・・・この言葉だ)









「エテラさん。俺は死にません」


その言葉に、エテラがピクッと反応する。今の言葉は、誰もが無責任だと思う言葉。不死身でもない限り、その言葉が現実になることはない。


「俺は、死にませんよ」


それでも、慎也の目は真剣そのものだった。エテラはゆっくりと顔を上げる。未だに涙を流しているが、その目は見開いていた。


「何、言ってるんですか。そんなの、無理に決まってるじゃないですか・・」

「たしかに人間には寿命があって、死を免れることはできないでしょう。それでも、俺は生きますよ。エテラさんがそれで安心してくれるなら」

「む、無理ですよ!そんな無責任な言葉で、安心できるわけないじゃないですか・・」

「たしかに、俺のこの言葉は無責任です。こんな虚言、誰にでも簡単に言うことができる。でも・・」

「でも?」

「俺は、信じて欲しいんです。この虚言を!この無責任な言葉を!あの森の時のように!」

「!」


エテラの頭に、あの森での会話が蘇る。


『それに俺、ここで死ぬ気は全くありませんし、あなたをこいつらに渡すつもりもありません』


一見、こんな善意にまみれた言葉も、状況によって虚言になる。周りには見えるだけでも20体以上いるゴブリンたち。さらに、茂みで隠れている分でもおそらく30体以上はいただろう。そして、そんな数のゴブリンと戦うのは新米の中の新米、Eランク冒険者だ。そんな状況でのあの言葉、普通は信じることなんてできないだろう。


『わかりました。あなたを信じます』


だが、エテラはそんな言葉をあの状況で信じたのだ。ではなぜ、あの時信じたのか。あんな状況だったから仕方なく?今は信じるしかないと思ったから?どれも違う。エテラは慎也が本気だったから信じたのだ。エテラに向けられた慎也の目から本気だというのが伝わってきたからである。そして今現在、エテラに向けられた慎也の目は、その時と同様の目をしていた。


「私は・・・慎也さんを・・信じていいんですか?」

「それは僕に聞くことじゃないと思います。ただ、強いて言うなら・・








        信じてください」

「!・・・・わかり・・ました・・・慎也を・・信じます・・!」

「そうですか。よかったです」


そう言いながら、自然と優しく微笑む慎也。その顔を見た瞬間、エテラは顔を真っ赤にして目を逸らす。


「・・・今のは反則です」

「?」


その光景を見た者はニヤニヤと口端を上げて面白がったり、はたまた親のように微笑ましい笑顔でその光景を見ていたり、血涙を流しながら泣き叫んでいた。


「慎也さん」

「何ですか?」

「ありがとうございます」

「俺なんかしました?」

「私を、安心させてくれました」


そう言うとエテラは、慎也から離れ、涙を拭く。


「では私は仕事に戻りますね」

「はい。仕事頑張ってください・・・・あっ、そうそう」

「どうかしましたか?」

「今回みたいに自分で行くんじゃなく、冒険者に頼んでくださいね」

「はい。"慎也さんに"頼みますね」

「ん?そうですか」

(なんか言い方引っかかったけど・・・まあいいか)

「ふふ、それじゃあ私は仕事に戻りますね」


エテラは満面の笑みを慎也に返し、受付の奥へと戻って行った。


(・・・・はぁ、これからまた面倒なことになりそうだ)


慎也はギルドを出ようと、再び扉へ向かう。すると数人の冒険者が慎也に歩み寄ってきた。そのことに、慎也はすぐに何のことか理解し、足に力を入れる。


「おいお前。少し俺達に付き合ってもらうぞ」

(あー予想通り。ここは・・・)

「あ!あいつ逃げたぞ!」

(逃走あるのみ!)

「追えー!」

「俺達のエテラさんを泣かしやがって!」

「しかも抱きつかれるとか羨ま・・・けしからん!生きて帰れると思うなよ!」


その日慎也は、一日中他の冒険者達から逃げるのであった。










(あー・・・昨日はマジで大変だった)


男性の冒険者達から逃げた翌日。慎也はゴブリンたちとの戦いで剣を失ってしまったこともあり、バルグがやっている武具屋に向かっている。そして数十分後歩き、武具屋の前に着いた慎也はゆっくりと扉を開ける。


「バールグさーん!」

「朝から騒がしいなぁ・・・らっしゃい慎也」

「なんか眠そうですね」

「武器の作ってくれと注文があってな。徹夜で作ってたんだ」

「それはお疲れ様でした」

「それより今日は何の用だ?」

「実は・・・」


慎也は森での出来事をバルグに話す。


「なるほど。それで剣が壊れてちまったから、新しい剣を買いに来たと・・」

「そうです」

「それにしても不幸だなお前」

「ほんとですよマジで!おかげで死にかけましたよ」

「でも考え方を変えると、お前はそんな戦いを生き抜くほどの実力者っていうわけだ」

「確かにそう考えれば少し気分が良いかも」

「それはよかった。お前が最初来た時に買ったやつと同じ物がいいならあそこの樽にあるから好きに取れ」

「わかりました」


慎也は前と同じように、樽に入っている剣を丁寧に触りながら選び、バルグの方へ持っていく。


「お前物は大切にする方か?」

「まあそこそこ・・・どうしたんですか急に?」

「いや、何でもない。こっちとしても、商品を大切に扱ってくれるならありがたい・・・この剣なら金貨1枚で十分だ」

「わかりました」


慎也は袋から金貨を一枚取り出して、バルグから鞘を受け取り、武具屋の出入り口へ向かう。


「今回みたいなことがあったらまた来ますね」

「いやそんなことそうそうねえから」

「はは、それもそうですね」


慎也は苦笑いをしながら、武具屋を出てギルドへと向かった。








(視線がすーごい!)


ギルドに着き、慎也は掲示板で今日受けるクエストを選んでいる。そんな中、昨日の光景を見た冒険者や職員が慎也へと視線を送っている。


(てか職員が俺を見るのはなんとなくわかるぞ。ここ仕事場だから、きっと昨日ことを悪く思ってる人もいるんだろ。俺だって職員の立場であんなの見せられたらきっと、ここは仕事をする場所であって、イチャイチャする場所ではない!って怒るもん。でも冒険者達の視線はなんだ?男性の冒険者の人たちが俺をくそ睨んでくるんだけど・・・・そういえば昨日俺を追っていた奴の誰かが、よくも俺達のエテラさんをーとかなんとか言ってたな。エテラさんて人気なのかな?まぁ美人であの性格だからな、人気なのもわかるけど)


そう思いながら、慎也は掲示板からゴブリン討伐と書かれた紙を取り、受付へ向かう。


「クエストを受けたいんですけど・・」

「し、慎也さん!?ここここんにちは!」

「エテラさん少し落ち着いて」

(どうしたんだ?そんなあからさまに動揺して)

「す、すみません。クエストでしたよね、紙と冒険者カードをお見せください」

「わかりました」


慎也は言われた通り、エテラにクエストの紙と冒険者カードを渡す。すると紙を見た瞬間エテラの動きが止まる。


「エテラさん?どうしたんですか?」

「・・・ダメです」

「え?」

「このクエストを受けてはいけません!」

「森でのことを気にしてるなら大丈夫ですよ」

「で、でも・・」

(やっぱりこの人は優しいな。やっぱりこういうところが人気あるんだろうな)

「エテラさん。心配してくれるのは嬉しいですが、今の俺は前の俺より格段に強いです。ゴブリン如きにやられませんよ。だから心配無用です。それとも、俺の昨日の言葉が信用できませんか?」

「そんなことは・・」

「なら、いいですよね?」

「・・・わかりました」

(わーおなんか脅迫した気分だよ!罪悪感しかない)


渋々承諾したエテラは受付の上に貼られている紙に慎也の名前やクエスト内容を書く。


「気をつけてくださいね」

「当然です」


そして慎也は再び、ゴブリンの森へと向かった。







(お!いたいた・・・ってなんでだよ!)


街を出て森の中に入った慎也は、前とは違いすぐにゴブリンを見つけることができたのだが・・


(なんであいつら3体で行動してるわけ!?普通団体行動といったら5か6が基本だろ!せっかく見つけたのにまた探さないといけないわけ!?・・・・はぁ、面倒だが仕方ねえか)


ゴブリンが3体しかおらず、慎也の目標討伐数は5体のため、また森を彷徨う羽目になった。慎也はそのことを少しめんどくさがりながらも、剣を構えてゴブリンたちの方へ走り出す。その慎也の足音に1体のゴブリンが気付く。


「グギャグギャ!」

「「グギャ!?」」

「今気付いてもおせーよっ!」

「グギャアア!」


気付いたゴブリンはすぐに他の2体に知らせるが、すぐ近くまで来ていた慎也に剣を頭に刺され、奇声をあげながらその場に倒れる。


「逃さねえよ!」

「グギャ!」

「お前もだ!『ファイヤーボール』!」

「グギャア!」


逃げようとしたゴブリン2体のうち1体を慎也は追い後ろから頭に剣を刺す。そしてもう1体には火の球を放つ。魔法を命中したゴブリンの身体は燃え、ゴブリンは奇声をあげながらその場でのたうちまわる。それを見た慎也は倒したゴブリンの右耳を剣で切り落とし、袋の中へ入れる。数秒後、魔法で燃えたゴブリンも動かなくなり、慎也はそのゴブリンの耳も切り落とし袋に入れる。


(さて、行くか)


そして慎也が新たなゴブリン探しに立ち上がったその瞬間。


「きゃあああああああっ!!」

(またかよちくしょー!)


森全体に女性の悲鳴が響き渡る。慎也は悲鳴のした方へ全速力で向かった。




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