地獄の雨
(またガイコツかよ。しかも杖持ってるってことは魔法かなんか使ってくんのか?)
「鈴川、俺はいくがお前はどうする?逃げてもいいぞ」
「敵を前にして逃げるわけがないでしょう。あなたにだけ負担はかけさせられませんから」
そう言うと怜はリュックを下ろすと、中から可愛らしい猫のお面を取り出し身につけた。
「・・何それ?」
「私も身バレしないように買ったんですよ。あなたのサングラスみたいな特別な力はありませんが、無いよりはマシです」
「そ、そうか」
(いつも無表情の鈴川が猫のお面ってギャップがすごいな。それじゃあ俺も装着するかな)
怜同様に慎也もリュックからサングラスを取り出すと、そのまま身につけて、先ほど買った竹刀に魔力を込めて骨の魔術師に向かって走り出す。
(先手必勝!)
慎也は足に魔力を込めて骨の魔術師の上に飛び上がると、ガイコツ目掛けてその竹刀を勢いよく振り下ろした。
『・・不意打ちとは卑怯だな』
「!」
しかし慎也の攻撃を骨の魔術師は容易く杖で防いだ。
(こいつ喋んのかよ!)
『しかし、不意打ちとはいえ空中に来るとは馬鹿だな。『ヴァンショック』』
骨の魔術師がそう唱えると、杖から風が放たれて慎也を地面にふっ飛ばした。咄嗟に慎也は受け身を取ってなんとか無事着地する。
「あっぶね」
「村上君、大丈夫ですか?」
「ああなんとか」
(予想通り魔法使ってきやがったあいつ)
『貴様が村上慎也か?』
「そうだよ。初対面で俺のこと知ってるってことはお前もリオンズか」
『ああいかにも。これからの"計画"のために貴様は排除する』
「計画?」
「やれるもんならやってみろ!」
『ならお望み通りに。『オスインベイション』』
骨の魔術師がそう唱えると、杖が紫に光出すと同時に地面に紫色の魔法陣が無数に現れ、そこから剣を持ったガイコツが出現した。
「・・マジか」
『こいつらは私が生きている限り永遠に出てくるぞ。さあどうする?』
「・・村上君。雑魚は私に任せてあなたはあの魔法使いをお願いします」
「さすがにお前でもあの数は無理だろ」
「では村上君が永遠に雑魚の相手をしますか?」
「・・相手お願いします」
「よろしい。危険と感じたら退きますから安心してください」
「へいへい」
雑魚のガイコツを怜に任せて慎也は骨の魔術師へと走り出す。もちろんガイコツたちはそれを阻止しようと慎也に襲いかかるが、慎也はそれらを躱し、さらにガイコツの頭を足場にして骨の魔術師へと飛び上がる。
「1発もらっとけ!『ハードスラッシュ』!」
『学ばないな貴様は。『カトルフラム』!』
「!」
骨の魔術師は魔法を唱えると、杖から4つの炎の球を慎也に放つ。慎也は1発しか捌けず、残りの炎の球をもろに喰らい近くの建物の壁にぶっ飛ばされる。
「ぐっ!」
(やっぱ剣はキツイか。ならこっちも魔法でいくぜ)
攻撃手段を変えたところで、着地を狙って2体のガイコツが慎也に斬りかかった。
『オォォォ』
「お前らは楽勝!」
慎也はガイコツたちの攻撃を魔力を込めた竹刀で弾き返し、そのまま横振りでガイコツたちの頭ごとコアである宝石を破壊する。
「そんじゃ、『アクアファイヤ』!」
慎也は魔法で自身の周りに無数の水の球を出すと、その水の球を雑魚のガイコツたちを巻き込みながら骨の魔術師に放つ。
『その程度の魔法なんぞ、『ミュール』!』
骨の魔術師が魔法を唱えると、骨の魔術師の前に紫色の半透明な壁が現れる。水の球はその壁に次々とぶつかっていき、壁に球が当たるたびにその箇所に小さなひびが入る。
『な、なに!?私の『ミュール』にひびだと!?』
(・・もしかしてこいつ)
「お前強キャラ感出しときながら大したことないだろ?」
『っ!なんだと・・!』
「だって剣メイン戦ってきた俺に魔法で負けるって結構やばいぞ」
『貴様・・・ふ、なら見せてやろう!私の真の力を!』
そう言うと、骨の魔術師は何かに集中するかのように目を閉じる。そして目をばっと開けると同時に、慎也の見覚えのある黒いオーラを骨の魔術師の杖が纏った。
(あれは!忘れもしねえ、バルシムが使ってたやつだ)
『このオーラを知っているか?これは強い憎しみを持つ者しか使えない力だ。基本はヘイトキングズたちのような世界を破壊したいほどの強い憎しみを持った方たちしか使えないが、我々リオンズの兵隊の極少数も、このオーラを使うことができるのだ』
「・・・それほどこの世界が憎いってことか?」
『ああ。私は・・・いや、我々は元々この世界住民だからな』
(やっぱそういう感じか)
『私はこの世界で虐げられてきた人間たちの骨から生まれたのだ。そんじょそこらの憎しみとはわけが違う。貴様が倒した巨花だってそうだ!』
(!あいつにもそういうのあったんだ)
『あの巨花は、お前ら人間が未だやめない環境破壊に対し、植物たちが抱いた憎しみから生まれた怪物だからな!』
「・・あーはい、理解しましたよ。でもな、俺からも1つ言わせてもらうぜ」
『あ?』
「ここ半月程度で思ったが、今のところこの世界に破壊しないといけない要素なんかねえよ」
『・・何を言うかと思えば、要素がない?そんなのはこの世界のごく一部しか見ていないから言えるんだ。この世界を全てを知った時には・・』
「いや別に全てを知る必要なんてねえだろ」
『・・なんだと?』
「俺は全てなんてどうでもいい。俺と、その周りが良ければそれでいいんだよ。他人がなんだ?知ったこっちゃねえよ。お前がどんなに憎もうが自由だが、少なくとも俺の周りはお前が言うほどこの世界は汚れてない、これが俺の考えだ』
そう言って慎也は手に魔力を込めて、その手を骨の魔術師に向けた。
『・・憎しみが1つ生まれれば、そこから連鎖するように憎しみは増えていく。ならば、この私がその連鎖を断ち切るため、この世界を破壊する。貴様のその甘ったれた考えと共にな!』
「憎しみの連鎖があるなら、それと反対の幸せの連鎖もあるんだ!その連鎖を断ち切らせないために、お前にはやられてもらうぜ!」
そうして両者は互いに向けて魔法を放とうとした。
「村上君!警察が来ましたよ!」
「あ!?今かよ!」
鈴川の声に続くように周りに数十台のパトカーがサイレンと共に現れ、その中から何人もの警察官が出てくる。
「化け物との遭遇時の発砲は許可されている!構わず撃て!」
「死ねぇ化け物!」
同じようなことを口々に言って警察官たちは骨の魔術師や雑魚のガイコツたちに次々と銃を発砲していく。
(おいそれこっちに当たりそうで怖いんだが)
『・・ちょうどいい。村上慎也とあの変な女相手なら使う必要がないと思ったが、その2人ごとこいつらも一掃するか』
(!あいつ何かを・・!)
「鈴川!」
『『ボンブイルプルゥ』』
そう骨の魔術師が魔法が唱えた瞬間、骨の魔術師の周りに円を作るように赤い魔法陣が何個も現れる。そしてその瞬間・・
『さあ、地獄の雨だ』
その魔法陣たちからいくつもの赤い光の球が敵味方関係なく放たれ、辺り一帯にいくつもの爆発が起こった。
「うわああああ!!」
「ぐあああああ!!」
『オォォォ!』
(ぐっ、数が多すぎる!)
『ハーッハッハッハッハ!苦しめ人間ども!この世界を破壊するのはこの私だ!』
骨の魔術師の高笑いが響く中、魔法による爆発は収まらない。そしてその攻撃はもちろん、慎也と怜にも来ていた。
「鈴川!」
「村上君!」
(間に合え・・!)
その瞬間、魔法陣から1つの赤い光の球が2人に向かって放たれた。