悪目立ちの始まり
日曜日のガイコツ騒ぎの翌日。月曜日ということもあって慎也は憂鬱な気分になりながらも学校に登校していた。
「あ〜帰りたーい!」
「と言いつつ、仮病とか使わずにしっかりと来てるあたり、さては慎也ツンデレだな?」
「どこにデレ要素があったんだよ」
亮太とそんなたわいもない話をしていると、教室に竹刀入りのリュックを背負った怜が入ってくる。
「今日も綺麗だな鈴川は」
(前の世界で美女に慣れたせいか鈴川を普通と思ってしまう自分がいる)
「・・なあ?なんかこっちに来てねえか?鈴川の席は反対側なのに」
(・・めんどくせ)
慎也はこの後の展開が予想できたのかめんどくさそうにため息をつく。そして怜は案の定2人、というより慎也の前で止まり慎也に話しかける。
「村上君、入部届は書いて来ましたか?」
「あったりめえだろ」
「なら記入ミスがないかチェックしますね」
「お前は俺の世話係かよ」
「もしかして忘れたとか言いませんよね?」
「ちゃんと持って来てるよ。ほれ」
そう言って慎也は入部届の紙を怜に渡すと、さっそく怜は記入された内容を見る。そして満足した怜は慎也に入部届を慎也に返した。
「問題ありませんね」
「そりゃよかった」
「では後で平島先生に出しといてくださいね」
「りょー。ちなみに道具はいつ買いに行くんだ?」
「今日の放課後にでも行きましょうか。今日は剣道部の活動はありませんから」
「へーい」
「では失礼します」
そう言うと怜はそそくさと自分の席へと戻って行った。
(はぁ、今日の放課後はのんびりできねえのか・・・ん?)
慎也は亮太の方に向き直ると、周りから向けられた視線に気づく。
(え、なになに?どしたのみんな?)
亮太はもちろんのこと、クラス内にいる男子、そして篠宮と周りにいる女子たちまでもが慎也を見て呆然としていた。
「お、おーい亮太?」
「・・・は!」
「ど、どした急に?固まって?」
「ど、どうしたもこうしたもねえよ!し、慎也、お前あの鈴川と何があったんだよ!」
「え、特に何もないけど」
「んなわけあるか!あの自分からは滅多に接してこない鈴川が自ら話しかけたんだぞ!しかも男に!」
(そんなに驚くか?ま、まああいつの学校での立ち位置なら納得・・か?)
「言い逃れは出来ねえぞ慎・・」
『村上慎也ぁぁぁ!!!』
「!?」
亮太が問い詰めようとした瞬間、冷静になったクラスの男子生徒たちが一斉に慎也に掴みかかった。
「ちょ!お前ら急になんだよ!?」
「うるせー!」
「よくも俺たちの鈴川さんを!」
「転校生で普メンだから気にしてなかったが、お前も敵だったか!」
「お前に鈴川さんは渡さねえからな!」
「はぁ〜?」
男子生徒たちは嫉妬の炎を燃やし、亮太同様に慎也を問い詰め始めた。
「・・・」
そしてそんな慎也を、嫉妬とはまた別の感情を持って睨む篠宮がいた。
「あの鈴川が珍しいわね。っと、それよりも賢斗!ニュースになってた昨日のモールでのことだけど・・」
「・・・」
「け、賢斗?」
「・・ん?ああごめん花乃さん。どうしたの?」
「な、なんかあの村上って人を怖い顔で見てたけど・・?」
「え?気のせいじゃないか?それよりもそろそろホームルームだよ」
「あ!席に座らなきゃ!」
そう言って伊村花乃は自身の席へと向かって行った。それと同時に、気だるそうに教室に平島が入ってきた。
「お前らー席につけ・・・なんで朝っぱらからこんな騒がしいんだ?」
結局その後は平島の一声で男子生徒たちは大人しくなり、ホームルームは無事に始まった。
「・・まさか、あんな奴に邪魔をされるとはな」
そして時間は進み昼休みになった。
「やっと昼休みかー。亮太ー食堂行こうぜ」
「あー悪い!俺部活の友達と食う約束してるんだ。だから昼は1人で頼む!」
そう言うと亮太は慎也を置いて数人の友達らしき人たちと食堂へと向かって行った。
(・・はっ、いいですよ。1人寂しく食べることになっても俺は大丈夫なんで!)
「村上君」
「うおっ!?」
なぜか心の中で強がっている慎也の元に突然怜がやってくる。そしてもちろんその間も男子生徒たちの視線は自然と2人の方に向いていた。
「急に話しかけんなよ。で、なんだ?」
(周りの視線が痛いから手短にね)
「今後のことでちょっと話したいことがあるので、一緒にお昼をと思いまして」
『はぁぁぁぁぁぁ!?』
「うわうるさ」
怜が慎也を誘ったことにより盛大に驚きの声をあげる周りの男子たち。思わず慎也は耳を塞ぐが怜はお構いなし話を続ける。
「もちろん、断ったりとかはしませんよね?」
「え、普通にい・・」
「バラしますよ」
「さっさと食堂行かねえと席無くなっちまうぞー」
「切り替えがすごいですね」
食堂に向かおうと2人は教室を出ようとした。するとある男がそんな2人の前にやってきた。
「ねえ2人とも。よかったら僕もご一緒してもいいかな?」
「は?」
「・・はぁ」
やってきたのは誰もが認める超絶イケメンの篠宮賢斗である。篠宮は表面上は爽やかスマイルで2人に絡んだが、一方で2人は別々の意味で「めんどくさい相手に絡まれた」とため息をついた。
「ね、どうかな?」
「いや、ただでさえ鈴川といることで目立ってるのに、さらにお前のようなイケメンと一緒といたくないんだが」
「そう言わずに・・・ね、ねえ怜さんは?」
「私との勝負に一度でも勝ってから言ってください」
「で、でも彼だって先週負けて・・」
「ええ、たしかに負けましたね」
「きっぱり言うやん」
「ですが、彼は先週の腕相撲で私にかなり善戦したので、私から剣道部へお誘いしたのです。なのでこれから剣道部の活動について話したいので、あなたのような部外者がいてもはっきり言って邪魔です」
「・・・」
(・・篠宮可哀想すぎだろ。俺が篠宮の立場なら泣いてる)
「ご理解いただけたならこれで失礼します。では行きましょう村上君」
「あ、ああ」
篠宮を憐れみの目で見ながら慎也は怜と食堂へと向かった。