鈴川怜
巨花との戦いを終えてその翌日。慎也は何事もなかったかのように学校に登校していた。
「お、おはよう慎也」
「ああおはよーさん亮太」
「・・なんか顔色悪くねえか?」
昨日の巨花の戦いの疲れが取れてなかったのか、それが出ていて亮太に心配される慎也。慌てて慎也は笑顔を取り繕う。
「そ、そうか?あーまあたぶん慣れない地でいろいろと知らんうちに疲れてんだろうな」
「ふぅ〜ん。まあ今日が終われば明日と明後日は休みなんだし頑張ろうぜ」
(そういや今日金曜日か。そんじゃ最低限で頑張るか)
「そういえばニュース見たか慎也?まーた怪物が出たみたいだな!」
「あーそんなことやってたな」
(ニュース自体見てねえけど。適当に合わせとこ)
「いやぁ、2日連続で出るとなんか出かけづらくなるよな」
「まあたしかにそうだな。出かけた先で遭遇したくないし」
「だろ?・・・っと、見ろ慎也。みんなの希望、鈴川怜のご登校だぜ」
亮太の指した方向を見る慎也。その先にはこの学校で唯一、篠宮賢斗という男に落ちなかった美女、鈴川怜がいた。その背中のリュックにはなぜか竹刀が入っている。そして教室に入ってきたばかりの怜に3人の男子生徒が近づく。
「なあ鈴川!」
「・・なんでしょう?」
「昼休み俺たちと将棋で勝負しろ!」
「いいですよ。それじゃあまたお昼休みに」
そう言って怜は自分の席にそそくさとついた。そして取り残された男子生徒たちは昼休みの勝負に燃え上がっていた。
「今日こそは勝って俺の彼女にしてやるぜー!」
「いーや!鈴川を彼女にするのは俺だ!」
(よくもまあこんな朝っぱらから騒げんなあいつら。てか鈴川の奴、竹刀とか常備してんのかよ。こわっ)
「なあ慎也。昼食い終わったらあいつらと鈴川の勝負観戦しようぜ!」
「まあやることもないしいいぞ」
「うっし!いや〜今日こそあの鈴川が負けるところが見れんのかなぁ!」
「おーいお前ら席につけー!」
先生の呼びかけで皆席に座り、朝のホームルームが始まるのであった。
そして時間は進みお昼休みに入った。昼食を食べ終えた慎也と亮太は、怜の将棋勝負を観戦しようと、教室に集まったギャラリーたちを掻き分けて1番前へと出た。
「ギャラリーが凄いな」
「まあ鈴川はみんなの彼女候補だからな。そりゃあ気になるよな」
(それにしてもい過ぎだろ!他クラスの男たちも来てるぞ!)
「っと、そろそろ始まるみたいだぜ」
両者準備が整い、先行後攻を決めるジャンケンを始める。
「私の勝ちですね。それでは先行をもらいます」
「くそー後攻か。でもまあ大丈夫だろ!」
そうして2人の将棋が始まった。
↓↓↓↓10分後↓↓↓↓
「王手」
「・・詰みだ」
(・・嘘だろマジか)
僅か3分で怜に勝負を挑んだ3人の男子生徒がボロ負けした光景に、慎也は驚いていた。しかし周りの生徒たちは驚きもせず「またか」や「やっぱり」など、この光景に慣れているかのような発言をしていた。
「まあこうなるよな」
「こういうのしょっちゅうなのか?」
「ああ。夏休み前なんて毎日勝負挑まれては圧勝するのが定番みたいな感じだったな」
(何その定番。てかよくもまあ勝負受けるな鈴川。退屈とかしねえのかな?)
「それでは私はこれで」
そう言って怜はその場にへこんでる男子生徒たちを置いて、自身の席へ戻ろうと立ち上がる。
「勝者のお帰りだぜ」
(あ、こっち来るな)
「すみませんそこ通させて・・・!」
(ん?)
慎也たちの横を通ろうした怜が、慎也と目があった瞬間足を止めてその場で顎に手を当てて考える仕草をする。
(え、なに。目があった瞬間足止めるとか怖いんだけど。俺知らずのうちになんかした?)
「・・一応見ておきますか」
そう呟くと怜は先程座っていた席に戻り腰を下ろすと、向かい側の席を指差しながら慎也に話しかける。
「あなた、私と腕相撲をしませんか?」
『・・・ええ!?』
「は?」
怜の言葉にその場にいた全員が驚く。一方慎也はあからさまに嫌そうな顔で怜を見ていた。
「お、おい!鈴川になんかやったのか慎也!?」
「いや何もしてねえよ」
「まさかあの鈴川が自分から仕掛けてくるとはな・・」
「何?鈴川から勝負を挑むのがそんな珍しいのか?」
「珍しいどころじゃねえよ!むしろ今まで一度もこんなことなかったんだよ!」
「へぇ〜」
「それで、どうするんですか?やるんですか?それともやらないんですか?」
「え、普通にい・・」
「おい慎也!」
怜の誘いを断ろうとしたところを亮太が遮り、小声で慎也に話す。
「なんだよ?」
「今お前断ろうとしたろ?」
「だってめんどくさいし」
「ここで鈴川の誘いを断ってみろ!鈴川の熱烈なファンが黙ってねえぞ!」
「えぇ・・」
(まあたしかにここで断ったら面倒なことになりそうだなぁ)
「はぁ・・亮太、審判頼んだ」
「オッケ任せろ!」
ため息を吐きながら慎也は怜の向かい側に座り、机に肘を置いて右手を出す。
「受けてたつよ」
「ありがとうございます」
感謝を述べた怜は同様に肘をおいて慎也の手を握る。2人が手を握り合ったのを確認した亮太が2人の手の上に手を置く。
「それじゃあいくぞー?」
「おう」
「いつでも」
「んじゃ、レディー・・・ファイト!」
(とりあえず適当にやって負け・・)
「ふん!」
「っ!?」
勝負が始まった瞬間、女から出る力とは考えられないほどの力が慎也の右手に加わり、慎也は驚き反射的に力を入れてしまい手の甲が机に当たる直前で制止する。
『おおおお!!』
(なんだ今の力!?これ相手が俺じゃなかったら反応する暇もなかったぞ!)
「・・やっぱりお強いですね」
「あ?やっぱり?」
「さすがは"怪物たちを倒して街を救った"だけはありますね」
「お前、なんでそれを・・!」
「隙ありです」
そう言って怜は動揺した慎也の隙をついて一気に力を入れて慎也の手の甲を机に打ち付けて勝負に勝利した。
「しょ、勝負あり・・」
「それでは私はこれで」
「あ、ちょっと!」
「・・放課後、ここに来てくださいね」
そう小声で慎也に言うと、怜は慎也の右手に小さな紙を握らせて自身の席へと戻って行った。
(・・・体育館裏か。放課後の予定がちょっと埋まったな)
「いや〜凄いな慎也!今まで腕相撲挑んだ奴は鈴川に瞬殺されるのに!」
「だろうな。俺も奇跡的に反応できたからよかったものの、大抵の奴勝てねえだろあれ」
「やっぱり鈴川には誰も勝てねえのかなぁ・・・って、もうすぐ授業始まっちまうぞ!」
「準備するかぁ」
こうして慎也たちも自身の席へと戻っていった。
『さようなら!』
「寄り道せず帰れよー」
時間は進み、午後の授業が終わり放課後に突入した。
「ねえ怜さん。よかったら一緒に帰ら・・」
「少し学校に残るので無理です。では失礼します」
篠宮賢斗の誘いをあっさりと断わり、怜は教室を出て行った。その光景を苦笑いを浮かべながら慎也もリュックを背負う。
「今日は部活もねえし、慎也帰ろうぜ!」
「いや、俺ちょっと学校に用あるからさ。悪いが先に帰ってくれ」
「おうそうか」
亮太に断りをいれて慎也も怜の後を追うように教室を出て行った。
↓↓↓↓移動中↓↓↓↓
そして場所は変わり、怜が昼休みに指定した体育館裏へと慎也はやってきた。そこは人気が一切なく、慎也が来た時には壁に寄りかかって待っている怜以外の気配を感じられなかった。
「・・来ましたね」
「ああ。それじゃあ昼休みのあれ、説明してもらおうか」
「そうですね。ではまずこちらは見てもらいましょうか」
そう言って怜は1つのカメラを取り出し、慎也にある動画を見せる。
「っ!」
(うっわマジかー)
その動画は数秒だったが、そこには路地裏でサングラスを外して傷を魔法で回復している慎也が映っていた。
「一応これは昨日撮ったものから切り取ったところですが、ご覧のとおり、私は昨日の花の怪物を倒した張本人だという証拠を持っています」
(・・ワンチャンここでカメラぶっ壊したら証拠隠滅出来ねえかな)
「あ、ちなみに家のパソコンにすでにバックアップは取ってありますので、カメラを壊しても無駄ですよ」
(わぁお見透かされてるー)
「はぁ。それで?そんな脅しみたいなことして何がお望みなんだ?」
「とりあえず、あなたが何者なのかを説明してもらうましょうか」
「へいへい」
慎也は弱みを握られている以上逆らうことが出来ず、自身が他の世界から来たこと、そしてこの世界にリオンズという組織が攻めて来ていること、その他諸々を怜に包み隠さず話した。
「・・なるほど。にわかには信じがたいですが、昨日と一昨日の怪物騒ぎ、そしてあなたという存在がある以上、本当みたいですね」
「ああ。そんでまあ、俺は元の世界にいる友達と家族、そして1つ目に救った世界の仲間たちのためにこの世界を救いに来たってわけだ」
「ご立派な志ですね」
「どうも。それで一応全部話したが、他はないのか?」
「そうですね・・あなたそういえば部活は決めたのですか?」
「いーやまだだな。それがどうし・・・まさか?」
「察しがいいですね」
そう言って怜は自身の持っている竹刀を慎也に向ける。
「来週からあなたには剣道部に入ってもらいます」
「え、いや・・」
「バラしますよ」
「すみません喜んで入らせていただきます!」
「よろしい。では来週平島先生に入部届を出してくださいね」
「でも剣道部って色々と自分で道具とか揃えないといけないんだろ?俺剣道に関して知識皆無だからわからないんだけど」
「それなら日曜日に一緒に買いに行きましょう。ちょっと待ってくださいね」
そう言うと怜はリュックから紙とペンを取り出し、何かの番号を書くとその紙を慎也に渡す。
「これ、私のスマホの電話番号です。帰ったら1度連絡をくださいね」
「あ、ああ」
(こんな形で女子の連絡先がもらえるなんてな)
「では今日はこれで失礼します」
一礼して怜は体育館裏から去って行った。
(・・はぁ、なんかめんどくさいことになったな)
今後にかなり不安を感じながら、慎也も体育館裏を出て帰路へとついた。