第13話 帰還し、精霊と出会う
「はぁ・・はあ・・なんとか・・・なったな」
突如現れた大柄のゴブリンに苦戦しながらもなんとか倒した慎也は、怪我などでとっくに限界を迎えている身体を無理矢理立たせながら息を切らせていた。そしてゴブリンコマンダーたちはというと、自分たちより強い同類を倒した慎也に恐怖を覚え、その場から逃げるように去っていった。
(こんなところで油を売っているわけにはいけなかった、早くエテラさんを背負って街に戻ろう。この森にはゴブリン以外にも魔物はいると思うし、夜の森は危ないしな)
慎也はゴブリンの攻撃で気絶して倒れているエテラを背中に乗せ、歩き出す。
(やばい。そろそろ本当マジで身体が限界で意識とびそう。もう少し頑張れ俺・・)
そして慎也は、時間が経ち徐々に暗くなってきた森の中を歩き出した。
(エテラさん。あと少しですよ・・)
森を出発してから数時間後。空はすっかり暗くなり、
人々が夜食を食べている時刻、人の出歩きが全くなく飲食店からは食事や酒を飲み、楽しむ大人たちの声が外にまで漏れている街中を慎也は失いそうになっている意識をなんとか保ちながらエテラを背負いながら冒険者ギルドへ向かっていた。
(ギルドに行けばエテラさんの知り合いが居るかもしれないし、もしいたらエテラさんを預けて宿に泊まろう。それで今日一日は終わりにして、明日からは力をつけながら普通に冒険者ライフを楽しもう)
エテラの知り合いがいることを願いつつ、慎也は冒険者ギルドへ足を進める。すると数m先に慎也は見覚えのある建物を見つける。
(あった、ギルドだ!)
慎也は自然と笑みをこぼしながらギルドへまっすぐ歩く。そしてとうとう慎也はギルドの前まで到着した。
そして慎也は扉を自分の身体でゆっくりと押し開ける。中では相変わらず受付の向こうで仕事をしている職員の人や、ギルドの奥の方で酒を飲みながら馬鹿騒ぎをしている冒険者が数十人もいた。慎也はその光景を少し見ていたがすぐに目線を外し、受付の方へ歩き出す。しかしここでギルドに着いたことで少し気持ちが緩んだのか、慎也は転んでしまう。慎也は起き上がろとするが、転んだ衝撃で全身の怪我の痛みが慎也を襲い、意識が遠のいていく。
(くそっ!あとは声をかけるだけなんだ!がんばれ俺!)
しかし慎也の意思とは逆に、意識がどんどん遠のく。
すると受付の方から声があがる。
「そこの君!大じょ・・・・・ってエテラさん!?」
「「「「「!?」」」」」
(よかっ・・た・・・)
男性の職員の声にギルドにいる人全員がそちらに目を向ける。そして慎也は気付いてもらったことで安心し、そのまま意識を失った。
『おーい』
「・・・ん?あれ、ここは・・」
『聞こえてるー?聞こえてるなら返事してほしいんだけど・・』
「あー聞こえてますよ」
『ほっ、よかった』
「あれ?ここどこ?」
不思議な声に呼ばれ、慎也は周りが黒で覆われた空間で目を覚ます。すると慎也の目の前に緑色のドレスを着て、背中から羽が生えた20cmほどの少女が飛びながら現れる。
「ここってどこですか?ついでにどちら様?」
『なんで私ついで!?まぁいいや。ここは私があなたの中に作った夢の世界よ』
「夢の世界?あんた俺の中に何作ってんの?」
『あなたとあの森の出来事について話すためにはこうするしかなかったのよ』
「あの森ってゴブリンの森のことか?」
『人間たち皆そう呼んでるの?まぁいいわ。そう、あなたがゴブリンたち命懸けで戦ったところよ』
「そこの出来事か・・・って、そういえばあんた何者なんだ」
『おっと、私も忘れるところだったわ。私はあの森の管理を任されている精霊、レフィよ』
「精霊か」
(まあこのザ・ファンタジーみたいな世界ならいるよな)
『精霊についての話は省くわ。さて、話を戻すわよ』
「森での出来事だったよな」
慎也は今日の森で体験したことを思い出す。
「ええっと・・・エテラさんがゴブリンコマンダーの力がおかしいみたいなこと言ってたな。あとは・・・あっ!あとでかいゴブリンと戦ってる時に声がして、その声の言う通りにしたらそのゴブリンを倒せる力を手に入れたな」
『そう、その2つよ。まぁ私的にはゴブリンのことなんてどうでもいいんだけど』
「いやどうでもよく・・・・・いや、俺もなんかどうでもいいなそれ。それよりもスキルのことが聞きたい」
『まぁ話さなくちゃいけないから話すんだけど。じゃあ楽しみはあとでということで、まずはゴブリンから。まずは、あなたはゴブリンコマンダーの率いれるゴブリンの数を知ってるかしら?』
「えーっと、たしか最高で20体、最低で10体でしたっけ?」
『まあそれが普通ね。でも今日の出会ったゴブリンコマンダーはおかしいところなかった?」
「ええ、率いてる数が異常でしたね。あの数を相手に生きて帰ってきている自分が正直怖いです」
『まあ無理もないわ、だってあれ明らかに異常だったもの。ざっと80体はいたわね』
「いやいすぎじゃね!?てことは俺ってかなりの数のゴブリンを倒したのか」
『あれは普通にすごいと思ったわ。次に突然現れた大きいゴブリンについて』
「あいつの攻撃受けた時は死ぬかと思ったわ。それで、あいつがどうしたんですか?」
『あの大きいゴブリンの名はゴブリンウォーリアーといってゴブリンの中ではゴブリンコマンダーより一つ下の階級に属するゴブリンよ。ここで問題になってくるのがゴブリンコマンダーが率いれるゴブリンの階級ね。ゴブリンたちにはそれぞれ属する階級があるわ。階級は1から6分けられていて、たとえばあなたが大量に倒したゴブリンは階級1に属するわ。そして本題のゴブリンコマンダーは階級5に、ゴブリンウォーリアーは階級4に属しているわ。さて、ここで問題よ』
(なんか始まった)
『ゴブリンコマンダーはゴブリンウォーリアーに率いることは出来るでしょうか?』
「出来るんじゃないのか?階級はウォーリアーよりコマンダーの方が上なんだし」
『答えは無理よ!』
「え?なんで!?」
『たしかにあなたの考え方は間違いではないわ。でもゴブリンコマンダーが自分より階級が下のゴブリンならなんでも率いれる、ていうのは人間達の勘違いよ』
「勘違い?」
『そう、勘違い。ゴブリンの階級には上位と下位があるの。そしてゴブリンコマンダーとウォーリアーは上位のゴブリンでね、コマンダーは自分より下の階級のゴブリンとはいえ自分と同じ上位のゴブリンは率いることは出来ないの』
「え?じゃあなんであいつあの場に来たの?」
『私の推測だけどおそらく魔王、もしくは四天王や四天王に近い力を持った者がそいつの力を増幅させたんだと思う』
「力を増幅させることって出来るのか?」
『上位の魔族の少数が出来るわ』
「あの森って、たしか今俺がいる街が一番近いんだっけ?てことは魔王は俺のいる街の戦力を削ごうとしたってことか!」
『いやあくまで推測だから。でも可能性としてはないとは言いきれないわね』
「うーむ・・・・・まあゴブリンのことはわかりました。次に『ブーストアイ』?だったっけか、それについて教えてくれ」
『りょーかい。その前にあなた、スキルランクって知ってる?』
「ランク?魔法にレベルとかがあるのは知ってるけど・・」
『他にも武技というものがあるわ』
「武技?なんだそれ?」
『武器に魔力を込めて放つ技のことよ。例をあげると『ツインスラッシュ』や『マジックシールド』ね。他にもいろいろあって全部で軽く50は越えてるわ』
「結構あるんだな・・・っとたしかスキルのランクだったな。でもそういうのはわからんな」
『そっ、ならついでに教えてあげるわ。スキルランクっていうのは、人間達が作った冒険者だっけ?それと同じでSからEまであるわ。あっ、一応言っておくけどランクがつくスキルっていうのはパッシブスキルのことを言うわ』
「そのランクってどうやってわかるんだ?」
『真実の水晶で分かるはずよ。てか、人間達ってギルドっていう場所で管理してなかった?』
「あーなんかあった覚えがあるわ。でもスキルのランクなんて分かんなかったぞ?」
『はあ?そんなわけないでしょ?あなたスキルはなんていうのよ?』
「わからん」
『なんで?』
「そんなの俺にも分かんねえよ」
『はぁ・・・少しじっとしといて』
「?わかった」
慎也は言われた通りに動かないでいるとレフィが慎也に近づき、慎也の胸に右手当てる。そして数秒経つとレフィが慎也から離れ、再び口を開く。
『スキルが無い・・・・とは違うわねこれ』
「え?」
『何か鎖のような物で縛られてるのよ、あなたのスキル』
「鎖?なんでそんなもの・・」
『私にも分からないわよ。何かの条件を達成したら外れるのかしら?しかもこれ、パッシブスキルとは何か違うような・・』
「どうなんかねぇ・・・って、今は『ブーストアイ』のことだよ!」
『ああそういえばそうだったわね。それであなたの持っている『ブーストアイ』なんだけど、実はSランクのスキルなのよ」
「そうですか」
『あれ、反応薄くない?』
「だっていきなり、Sランクって言われてもどんだけすごいのかがわかんねえもん」
『うーん・・・・例えるなら、スライムがEランクだとすれば今回あなたが戦ったゴブリンウォーリアーがAランクね。そしてSランクはさらにその上。今ので分かる?』
「あ、そんなに違うんだ。Eランクより遥かにすごいことはわかった」
『そういう認識で問題ないわ。次に『ブーストアイ』の効果だけど・・・・これはあなた次第で強くなるわ。そういえばあなたってこのスキルの効果はなんだと思ってるの?』
「魔力回復と痛みの感覚をなくす、と思ってる」
『魔力回復はある意味正解よ。痛みの感覚をなくすは全然違うわね』
「違うのか?」
『詳しく説明するからちゃんと聞いときなさい。まずは基本的な効果よ。この効果はさっきも言った通りあなた次第で強くなるわ。『ブーストアイ』わね、あなたのレベルの2倍の値、全ステータスがアップするの、例えばあなたがレベル20の状態で『ブーストアイ』を発動すると、全ステータスが40上がるのよ』
「聞くだけだとめっちゃ優秀なスキルだけど、どうせメリットだけじゃないでしょ。そういうのは大体、デメリットがあるんだよ」
『それがなんとこのスキル、発動者にはメリットしかないんです!』
「とかなんとか言って〜。本当はあるんだろ?スキルを解除したら全身に激痛が走るとか」
『特にないわ。強いて言うなら、体力次第では発動できない時があるから注意ね』
「・・・それだけ?」
『そうだけど?』
「・・・・『ブーストアイ』ってもしかして最強?」
『レベルが上がれば時期に最強になるわよ』
(なるほど。そうなるとこの世界にいるうちに強くなればこの世界や他の世界で戦う侵略者たちとの戦いが楽になるのか・・・・・まあそもそもその侵略者が何をしに来るか、此方は分かってないんだけども)
『さて、私は用事が終わったから帰るけど、何か他に質問とかある?』
「あっ、そういえば俺って一応今パッシブスキルが無い状態なんだよな?なのになんで『ブーストアイ』をもってるんだ?もし俺がパッシブスキルを持ってたらスキルを2つ持つことになってたよな?」
『ああそれね。人間や魔族問わずたまにいるのよ、パッシブスキルとは別にもう一つスキルを持っている人。しかも不思議なことにパッシブみたいに常に発動ではなく、声に出さないと発動しない。だからね、みんなこう呼んでいるわ、"チャントスキル"って』
「チャントスキル・・」
『もういいかしら?』
「そうだな。いろいろ教えていただきありがとうございます」
『私礼儀正しい人は好きよ。それじゃあ帰る方法についてだけど、ここで寝て次起きた時にはもう現実よ』
「わかった。それじゃ」
『じゃあね〜・・・あ、そうそう。『ブーストアイ』が発動した時って瞳が赤くなるから、発動してるかどうか確認したかったら鏡で自分の目を確認すればいいよ』
「?わかった」
そう言うとレフィは光に包まれながら姿を消した。
(精霊か・・・やっぱり他にも種族があるのか。まぁバルグさんって人間とドワーフのハーフだもんな。精霊がいても不思議じゃねーな)
そう思いながら慎也は眠りについた。