突然の襲撃
「起立!気をつけ!礼!」
『さようなら!』
「はーいお前らさっさと帰れー」
帰りのホームルームを終え、生徒は皆続々と教室を出て行く。
(俺も帰るか)
「あ、村上ー!お前に渡すもんあるから来い!」
(うわめんど)
平島に呼ばれて慎也は少々気だるそうに教壇向かう。そして平島は慎也が来ると"入部届"と書かれた1枚の紙を教壇に置く。
「とりあえず1週間で入る部活決めといてね。たぶん大体の部活は明日から活動が始まると思うから、見学に行くなりなんなりして、入りたい部活を記入して僕に出して。そしたら顧問の先生に出しとくから」
「りょーかいです」
(どっか楽な部活ねえかな)
「それじゃあ僕はこれで。ふぁ〜あ、職員室でもう一眠りしようかな」
「いや仕事してくださいよ」
「村上も早く帰りな。親御さんが心配するよ〜」
そう言って平島は自身の荷物を持って教室を出て行った。
(親うちにいないんだわ先生。たぶんルキエスさんの情報操作かなんかでうちに親がいないこと伝わってねえんだな)
慎也は入部届の紙をリュックにしまい、教室を後にした。
場所は打って変わって近所のショッピングモール。慎也は切れそうになっていたシャンプーとスマホ用のイヤホンを買いに来ていた。
(やっぱ広いなぁここ。1階は食材中心だし、生活用品は2階行くか)
被っていた帽子を外して慎也はエスカレーターに乗って2階に上がり、お目当ての品がある店まで行く。
「ありがとうございましたー」
(シャンプーはこれでいいかな。さーてイヤホンは・・・スマホの店に行けばあるだろ)
慎也は店を出てイヤホンを買うために新たに店を探し始める。するとその瞬間だった・・
「きゃああああ!!」
「うわああああ!!」
(なんだなんだ?)
1階からの突然の悲鳴に驚き慎也は2階から1階を覗き込む。なんと1階には高さ1mほどの青色の毛に身を包んだ狼が5匹、見境なく1階の人々を襲っていた。
『ガァウ!』
(なんだあれ!?この世界は普通じゃねえのかよ!)
『ワンワン!ガァウ!』
「っ!」
慎也が下を覗き込んでいると横から1階にいる狼と同じ見た目の狼が1匹襲ってくる。慎也は慌てて後ろに飛んで躱すが、すぐさま狼はUターンして慎也に飛びかかる。
(仕方ねえ、少し面倒だがやるか!)
「くらえ魔力の鉄拳!」
『っ!?』
飛びかかってきた狼の顎を慎也は魔力の込もった拳でアッパーし、上に打ち上がった狼の胸部を空中で殴り飛ばす。すると狼は後ろの壁までぶっ飛ばされ、絶命したのか体が灰となって消滅した。
(今の消え方ってバルシムと同じだな。まさか"リオンズ"か?いや、とりまそれはあとで考えよう。この感じだと3階も見たほうがいい気がするが・・)
「きゃあ!」
「ゆみ!」
(マジかよ!)
1階で逃げるのに集中して転んでしまった少女とそこに駆け寄る母親らしき女性。その人たちに1匹の狼が容赦なく向かって行っていた。
(帽子持ってきてよかったわ!)
慎也は帽子を深く被り、自分の顔が見えづらくしてから2階から1階に飛び降りる。
『ガァウ!』
「させるかよ!」
少女に飛びかかって行った狼に慎也は飛び蹴りをかまし、狼は勢いよくどこかのお店へと蹴り飛ばされる。
「大丈夫かお前?」
「う、うん」
「ゆみ!」
「お母さーん!」
「助けてくださってありがとうございます!」
「お礼はいいです。それより早く娘さん連れて逃げてください。こいつら以外にまだいるかもしれませんから」
「わかりました!ほらゆみ行くよ!」
「うん。ありがとうお兄ちゃん!」
そう言って親子はその場を離れて行った。そして他の人間がいなくなったことにより、狼たちのヘイトが慎也に向き、慎也を取り囲むように4匹の狼が現れる。
(・・さてと、さっさとこいつら片付けねえとな。ちんたらしてると警察とか来てめんどくさいことになりそうだし)
『グルルル!』
「さあ来いよ。軽く遊んでやるぜ」
『ガァウ!』
「っ!?っぶね!」
目の前の狼たちに集中していると、先程蹴り飛ばした狼が爪を突き立て、慎也に顔目掛けて飛び掛かると同時にその爪を振り下ろす。咄嗟に慎也は体を傾けて躱すが爪が慎也の頬を擦り傷ができる。
(チッ、反応が遅れたか。やっぱ油断はダメだな)
『『『『ワオーン!』』』』
(容赦なくて草)
今の狼の攻撃に鼓舞され、4匹の狼も慎也に襲い掛かる。
『ガァウ!』
「あらよっと!」
慎也は前から飛びかかってきた狼の顎をアッパーし、前脚を掴んで後ろから来ていた狼にぶつけて2匹まとめてどこかへきと投げ飛ばす。
『ガァウ!』
「甘い甘い!」
飛びかかってきた狼をしゃがんで躱し、Uターンして再度飛びかかって来た狼に対して、慎也は床に手をついて足を上に突き出し狼の首に蹴りを入れる。
「もういっちょ!」
『っ!?』
続けて慎也は後ろに高く飛び、空中で体を横にして後ろにいた狼の脳天目掛けて回し蹴りを決める。
『ガァウ!』
「チッ、『ウィングウォール』!」
先程慎也に傷をつけた狼がまたも爪を突き立てて慎也に襲ってくるが、慎也は魔法によって生み出した風の壁で狼を吹っ飛ばす。
(この世界で初めて魔法使ったな。まあもうこの際拳にこだわらずに魔法でちゃちゃっと使うか)
「『アクアファイヤ』!」
今度は自身の周りに無数の水の小さな球を生み出し、慎也はそれを5匹の狼たちに放つ。慎也にやられて弱っていた狼たちはそれに反応出来ず水の球に体を貫かれ、灰となって消滅した。
(1階はこんなもんか。あとは3階だが・・)
「警察だ!そこの者動くな!」
(!?マジかもう来んのか)
狼を倒し終えて棒立ちだった慎也に、数人の警察官が銃口を向ける。
(とりあえず顔は見られないようにするか)
「署にご同行願おうか」
「普通にいやです」
「なら拘束させてもらう!」
(うそん。まだ3階にいるかもしんねえんだけど)
「さあ大人しく・・」
『ワオオオオオオオオン!』
「っ!?なんだ!?」
(っ!?マジか!)
警察官が慎也に近づいた瞬間、遠吠えと共に3階から高さ5mくらいの白色の毛に身を包んだ巨大な狼が慎也たちの前に降りてくる。
「な、なんだこいつ!?」
「ひ、ひるむなお前ら!」
(なんだこのデカさ。さすがに通常の状態じゃ勝てそうにねえな)
「う、動くな!動いたら撃つぞ!」
『グゥ!』
銃口を慎也から白色の狼へと向ける警察官たち。その警察官たちの声に反応して白色の狼が尻尾で警察官全てを薙ぎ飛ばし、警察官たちは意識を失った。
(わぁおエグ)
『・・・』
「あ、なんだ今度は俺か?剣無い状態であんま戦いたくないんだけどな」
『・・・グルゥ!』
白色の狼は慎也を一瞥すると、襲いかかると思いきや、出入り口の方に走っていき尻尾で出入り口を破壊してショッピングモールを出て行った。
(なんだ逃げんのか。いや戦略的撤退的な感じか?まあどっちでもいいんだけど)
「・・っと、警察の応援が来る前に俺も逃げるか!」
そして慎也も白色の狼の後に続くようにショッピングモールを後にした。