新たな拠点
(・・無事飛ばされたのはいいんだけどさ)
「どこだここ?」
ルキエスによって世界へと飛ばされた慎也が放った第一声がこれだ。
(どうしようかなこれから)
初めての世界のため、助けになってくれる者がいないのはもちろん、周りには知らない光景が広がっており慎也は内心、不安を抱いていた。しかし1つだけ、慎也にとって唯一の希望となる物があった。
(・・・ここかな?ルキエスさんが言ってた準備した家って)
玄関の扉の横に"村上"と書かれたネームプレートが貼られた二階建ての一軒家。慎也がこの世界に飛ばされて初めに目に入ったのはこの家であった。
(ルキエスさんが意図的にここに飛ばしたのか?)
その可能性を視野に入れた慎也だが、むしろそう思うしかないのが現状だ。
(てか俺の家だったとして、鍵持ってねえんだよな。なんかルキエスさんが気を利かせてポケットとかに入れてるとかねえかな)
そう思って慎也はいつの間にか身につけていた茶色の半ズボンのポケットを漁る。すると右ポケットに何か冷たい小さな物の感触があり、慎也はすぐさまその正体を取り出す。
(いやほんと用意周到すぎだろ)
ポケットから出てきたのは1本の小さな鍵であった。物は試しということで慎也はその鍵を持って目の前の一軒家まで行き、扉の鍵穴にその鍵を挿した。すると鍵ピッタリ穴に入り、そのまま鍵を捻ると扉からガチャッと音が鳴った。
(よかった、これで違ったらどうしようかと思ったわ)
安心した慎也は迷うことなく扉を開けて中へと入って行った。
(見た感じ広そうだなこの家)
家に入って最初に目に入ったのは、玄関から入ってそのまま真っ直ぐと上に続く階段に、その階段の左右に設置された3つの扉であった。
(とりま上は後でいいや。この扉からいこ)
2階を後回しにし、慎也は靴を脱いで家に上がると玄関に1番近い扉を開ける。
(・・・くそ広いんだけど)
扉の先にはキッチンとリビングがあり、キッチンには冷蔵庫や炊飯器、一般的にキッチンに置いてある道具やら食器が置いてある。そしてリビングの方にはテレビはもちろんのこと、テレビの前には大きな机とソファが置いてあり、その下にはカーペットが敷いてあった。そして何より慎也は1人で住むには勿体ないと思うほどの広さに驚いていた。
(今日からここに住むのか。俺1人でここに住むとなるとなんか寂しくなるな・・・あ?なんだこれ?)
中を見て回っていると、慎也はテレビ前の机に1枚の手紙が置いてあることに気づく。
(これあれか。ルキエスさんの家の説明かなんかだろ)
そう思い慎也は手紙を開き内容を見る。そして慎也の予想通り内容はルキエスからのこの家の説明であった。
村上慎也へ
これを読んでるということは無事に家に着いたみたいだね。この家の広さとかは気にしないでくれ、人間から家を取ったりするのは流石に無理だから空き家のここを使わせてもらったまでだから。
さて、まずこの家の設備についてなんだけど、この家の水とか電気、ガスは僕の力で無限だから、気にせず使っていいよ。でもだからといって無駄遣いはいけないよ。あ、それと家事とかは流石に僕は出来ないから自分でやってくれよ。
この手紙を読んでるってことは君はリビングにいるんだろう?残り2つの扉のはそれぞれトイレとお風呂だよ。あ、お風呂の方には洗濯機もあるからね。それじゃあ1階の説明はおしまい。2階の説明は2階の寝室に手紙で置いてあるから読んでおいてね。
(・・なんだ水電気ガス全部無限って、めっちゃ優遇されてんな。とりあえず2階見に行くか)
そう思い慎也は手紙を閉じ机の上に置くと、部屋を出て2階へと登って行った。2階にも1階と同様に3つの扉が置かれていた。
(寝室に置いてあるっつってたよな。しらみつぶしで行くか)
慎也は1番近くの扉を開けて部屋の中を覗く。その中には特に何もなく、ただの空き部屋のようだ。
(ここはご自由にお使いください的な部屋か。次行こ次)
慎也は空き部屋の扉を閉め、2つ目の部屋に入る。その部屋の中には2つのベッドにその間に机とその上にスタンドライト、そしてその反対側にタンスがあり、それらの横にベランダへと続く窓があった。
(絶対ここだな。手紙は・・・あれか)
スタンドライトの下に手紙を見つけ、慎也はすぐさま手に取り手紙を開く。
村上慎也へ
やあやあ寝室にようこそ村上慎也。2階の説明入るけど、まあそんな説明することないから手短にね。
ベッドについてだけど、2つあるのは置く物がないなぁと思って適当に置いただけだから、どってで寝ても構わないよ。それとタンスには君に合うサイズの服を数着入れといたから、出かける時はこの部屋で準備するといい・・・見た目は保証しないよ。ベランダは1階の洗濯機があるからそこで洗濯した物を干す用ね。
この部屋の説明は終わり。この部屋の扉の奥にもう1つ部屋があると思うけど、その中に君のこれからに必要不可欠な物があるから絶対に確認しておいてね。
(俺に必要不可欠な物?)
慎也はすぐに手紙を閉じて元あった場所に置くと、部屋を出てルキエスの言っていた部屋に入る。
(・・なるほどそういうことか)
その中には慎也が第一世界で使っていた剣と同じ物が鞘付きで5本と、1000万と書かれた紙が貼られた黒の大きなアタッシュケースが3つ置いてあった。
(まさかと思うがこのケースの中って・・)
考えるより先に体が動き、慎也は1つのアタッシュケースを開ける。すると予想通りと言うべきか、中には大量の1万円札が入っていた。
(紙の1000万ってたぶん金額のことだろ。それが3つってことは3000万円か・・・この世界にいる間豪遊しても余るだろこれ)
そう思いながら慎也はケースから1万円札を5枚ほど取りズボンのポケットに折って入れると、その部屋を出る。
(とりあえずこいつらで財布やらシャンプーやら生活用品買って小銭に崩すか。流石に全部1万円札は使いづらいしな)
慎也は階段を降りて玄関で靴を履くと扉を開け、自身の新たな拠点を後にした。