3日目 ハーツ編
「てことで今俺たちは森に来ています」
「何言ってんだお前?」
1日目、2日目を終え、とうとう最終日を迎えた慎也。そんな慎也はギルド直々に来た依頼を片付けるため、ハーツに連れられてどこかの森へと来ていた。
「で、依頼の内容ってなんでしたっけ?」
「お前ちゃんと覚えとけよ」
「さーせん」
「はぁ・・今日街でちょっとした祭りがあるんだが、その資材やらなんやらを違う街から送ってもらっていて、今日届く予定なんだ」
「へぇー」
「だがその荷車の進行経路に"ストーンゴーレム"が現れて進めなくなっちまったんだ。今回はそれを俺らで倒せって依頼だ」
「オーケーです完全に理解しました。でもそれってわざわざその道通らなくってもよくないですか?」
「それは俺も聞いた。だけどあっちが言うには、"1つ足りない物があるから進みながら集めるつもりで、ゴーレムが現れたところにちょうどその足りない物がある"らしい」
「その足りない物を俺らが手に入れるのは?」
「無理だ」
(わーお即答)
「それには特別な道具が必要でな。生憎俺のギルドでは取り扱ってないし、知り合いにそれを持ってる奴がいないしな」
「てことは結局俺らでゴーレムをぶっ倒すしかないってことですか」
「そうだな」
「はぁ・・」
めんどくさそうにため息をつく慎也。すると2人が奥へと進むにつれて、2人の耳にドスドスと地響きのような音が入ってくる。
「ゴーレムに近づいてきたな」
「すごい重量なんでしょうね。てかそのストーンゴーレムって強いんですか?」
「何言ってんだ?お前も会ったことあるからわかるだろ?」
「え、そうなんですか?」
「ほら、ドラゴンの山に行った時に森で戦った岩の塊だよ」
「あー・・そういえばそんなことありましたね。あれがそうなんですか」
「まあちょっと戦ったくらいだから忘れるのも無理な・・・慎也、武器構えろ」
「え?」
「なんか来てやがる」
ハーツの言う通り何かが木を薙ぎ倒し大きな音を立てながら真っ直ぐと2人に近づいて来ていた。それを聞いた慎也は剣を抜き、近づいてくる音の方向を聞き取る。
(・・・後ろか)
するとその瞬間、2人の後方から木を薙ぎ倒して球状の大岩が飛び出してくる。それを2人は冷静にそれぞれ左右に飛んで躱す。
(あいつ戦う前に転がらないと気が済まないのかな)
「来るぞ慎也!」
「!」
転がる大岩はUターンして上に飛び上がり、岩の顔と手足を生やす。そして勢いに任せて慎也に拳を振り下ろした。
(巨体のくせにすごいな)
ゴーレムの動きに感心しつつ、慎也は後ろに飛んでゴーレムの攻撃を躱して剣に魔力を込め、すぐさま斬りかかりゴーレムの腕を切断する。
「でかした!『トラストレイン』!」
そこにハーツは数十本の矢で追い打ちする。それによってゴーレムの体に数個の穴が空くが、それを見てハーツは舌打ちをする。
(普通の魔物だったらこれで終わりなんだけどなぁ)
ゴーレムのコア、いわゆる心臓を壊せなかったようで、ゴーレムの体はもちろん、切断された腕も元通りになる。
(地道に攻撃して場所を探ってもいいが、んなことめんどくせえ!)
「ハーツさん下がってください!コアごとこいつの体ぶっ壊します!」
そう言うと慎也は左手を突き出し、ゴーレムに剣先を向けながら剣を後ろに引き剣に魔力を注ぎ込む。それを見たハーツは慎也の意図を察して後ろに下がる。
「いくぜ。『トルネード・・」
目の前のゴーレムに向けて慎也は『トルネードトラスト』を花とうと、その名を唱えかける。しかしその瞬間・・
「慎也あぶない!」
「っ!?マジか!」
突如横から大岩が慎也目掛けて転がってき、慎也は慌てて『トルネードトラスト』を止めて剣でガードし、衝撃で後ろにぶっ飛ばされた。
(・・・まあたしかに、最初足音は俺たちの前から聞こえたのに、現れたのは後ろからってつまりそういうことだよな)
突如現れた1つの大岩。その大岩も顔と手足が生やし、もう1体のゴーレムと共に2人の前に立つ。
(はぁ、めんどくせえことになったな)
「ハーツさんどうします?」
「・・・慎也、1体頼めるか?」
「それ、1人1体ずつ倒すって解釈でいいですか?」
「当たり前だ。お前に2体やらせるわけねえだろ」
「冗談ですよ。もちろんいけます」
(今の俺ならあの巨体でも・・!)
「『エアブラスト』!」
慎也は左手にかなりの魔力を込めて風の球を放つ。そしてその球は新しく来たゴーレムを捉えており、それに当たったゴーレムは風で遠くへと吹っ飛ばされた。
「そんじゃ頼みましたよー」
そう言って慎也は飛ばしたゴーレムへと全速力で向かって行った。
「・・まさか慎也がそっち選ぶとはな。気が利くのかただ単に間違えたのかわからんが、サンキュー慎也。それじゃ、いっちょやるか」
慎也が離れて行くのを横目に、ハーツは目の前の敵へと弓矢を構えた。
(・・・間違えて新しい方やっちゃったな)
一方慎也は飛んで行ったゴーレムを追いながら先ほどの誤りを悔やんでいた。
(少しでも消耗してる方相手して楽しようとしたんだがな。それに自分で飛ばした矢先、「ハーツさん行ってきて」とはさすがに言えねえし、これが自業自得というやつか)
そうこうしてるうちに慎也は飛ばしたゴーレムに追いつき、剣を構える。
「さすがに通常状態で相手するには荷が重いか。『ブーストアイ』!よし来い!」
自身を強化してから慎也はゴーレムを挑発する。するとその挑発にのったゴーレムが慎也に殴りかかる。
「そんなんじゃあ・・」
振り下ろされた腕を上に飛んで躱し、その上に飛び乗ってその腕を肩から切断する。
「俺には当たらねえぞ」
煽りながらも慎也は的確にゴーレムの攻撃後の隙を狙って体の部位を切断していく。しかしそのたびにゴーレムもその部位を再生していきループに入っていた。
(さすがにこのままじゃまずいな。どっかのタイミングで決めにいかねえと)
躱して切断、躱して切断の繰り返しにさすがに疲れてきていた慎也。するとゴーレムも痺れを切らしたのか両手を横に広げて慎也に突進してきた。
(!しめた!)
慎也は足に魔力を込めてゴーレムの攻撃に備える。そしてゴーレムは慎也と近距離になるとその両手を勢いよく閉じて慎也を捕まえようとする。
(遅い!)
慎也はゴーレムが両手を閉じるタイミングでゴーレムの頭部に飛び乗り、さらに頭部を足場にさらに跳躍してゴーレムの上空へと移動する。
(決めるならここだ!)
そして慎也は剣に魔力を込めて剣を後ろに引き、『トルネードトラスト』の体勢に入った。
・・・ハーツ視点・・・
「それじゃ、いっちょやるか」
そう呟いてハーツは目の前ゴーレムに弓矢を構えた。
「まずはコア探しからだな。『トラストレイン』!」
ハーツはゴーレムに向けて数十本の矢の雨を放つ。しかしゴーレムは胴体に魔力を込めて矢の雨を凌いだ。
(・・おいこら見逃さなかったぞ今)
ゴーレムが胴体に魔力を込める瞬間、一部だけ他より少し多く魔力を込めたのをハーツは見逃さなかった。
(偶然かもしれんが、とりま試してみ・・)
ハーツが弓矢を構えかけた瞬間、ゴーレムは自身の右手を左手で砕き、数個の岩にしてハーツに勢いよくぶん投げる。
(マジか、文字通り身を削る攻撃じゃん)
飛んでくる岩をハーツは矢で的確に撃ち落としていく。するとその岩でハーツの視界が遮られたタイミングでゴーレムはすぐさま右手を再生し、ハーツに殴りかかる。
(こいつ随分と頭使うなぁ。もしかして慎也の方のゴーレムが当たりだったか?)
そんなことを考えながらもハーツはゴーレムの攻撃をひらりと躱す。しかしゴーレムは躱されても攻撃をやめずに連続で何度も仕掛ける。
(前言撤回、ただの脳筋だったわ。とりあえず躱しながらさっきのところ探ってみるか)
ゴーレムの攻撃を躱しながらもハーツは武技を巧みに使い、先程発見した怪しい箇所を攻撃していく。そして次第にそこへの疑いは確信へと変わっていった。
(分かりやすいなこいつ。攻撃するたびにめっちゃ魔力込めて守るやん、見つけるのが楽で助かったわ。それじゃああとは適当にちゃちゃっと武技で・・・ん?)
矢を取り出そうとした矢を取り出そうとした瞬間、何かに気づいたハーツは少々焦り気味でゴーレムから距離を取り、手で矢の本数を数える。
(やべ、もう4本しかないやん。そういえば今日は慎也が一緒にいるからっていつもより矢を少なめに持ってきたんだっけ。やっちまったなぁ)
「!やべ!」
ゴーレムの身を削った岩飛ばしを躱し、残り少ない矢の使い道を考えるハーツ。
(1本はまあ『ドラゴントラスト』に使うのは決まってるとして、残り3本は・・・あいつの動き封じるのに使うか。『ドラゴントラスト』は少し溜めの時間必要だからな)
矢の使い道が決まったところで、ハーツはゴーレムとの距離をさらに取り、3本の矢を同時に攻撃に使う。
「『アロードール』、『トラストレイン』!』
(さあ通常の3倍の矢の数だ!)
ハーツは2つの『トラストレイン』を操り、ゴーレムの周りを全方位囲み、逃げ場を無くす。案の定ゴーレムは守りに徹し、胴体に魔力を込めて矢を防いでいく。そしてゴーレムの注意が胴体に向いているところに、ハーツは残りの『トラストレイン』をゴーレムの足へと放つ。魔力が込もっていなかった足は簡単に壊れ、ゴーレムはその場に倒れた。
(よし今だ!)
その瞬間ハーツは膨大な魔力のオーラを身に纏い、そのオーラを構えた1本の矢に纏わせ、『ドラゴントラスト』の体勢に入った。
そして今、2人の攻撃がシンクロする。
(これで終わらせる!)
(この1発、絶対に外さねえ!)
「『トルネード・・」
「『ドラゴン・・」
「「・・トラスト』!!」」
勢いよく放たれた2人の突きは、2体のゴーレムのコアを同時に破壊した。